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2020年4月2日木曜日

WACK WACK RHYTHM BAND :『THE 'NOW' SOUNDS』(WWRB / WWRB004)


 傑作ファースト・アルバム『WEEKEND JACK』を2年前にリイシューしたのが記憶に新しいWACK WACK RHYTHM BAND(ワック・ワック・リズム・バンド)が、オリジナル・アルバムとしては、『SOUNDS OF FAR EAST』(05年)以来約15年振りとなるフォース・アルバム『THE 'NOW' SOUNDS』を4月4日にリリースする。

 彼等ワック・ワック・リズム・バンド(以下ワック)は、92年にフリーソウル・ムーヴメントの立役者の一人で東京モッズ・シーンの顔役である山下洋(ギター)の仲間達からリーダーを小池久美子(アルト・サックス)にして結成された。当時のクラブ・シーンを背景にイギリス経由のR&Bをベースとしたインスト・バンドだが、そのヴァーサタイルなスタイルは他に類を見ない唯一無二な存在と言えよう。

 本作には18年の10月と11月の7インチ・アナログ盤でリリースされた、『Easy Riding / I’ll Close My Eyes』と『Madras Express / Stay-Pressed』に収録された4曲をはじめ、エキゾチック・サウンドの大家マーティン・デニー(Martin Denny 1911年4月~2005年3月)、70年代からブルーアイドソウル~AOR界きってのシンガー・ソングライターであるボズ・スキャッグスのカバーまで全12曲を収録している。ここでは前回レビューした7インチ収録曲以外で筆者が気になった曲を解説したい。



 冒頭の「Everyday Shuffle」はキーボードの伊藤寛による作品で、イントロのジャングル・ビートに導かれたビッグバンド・サウンドをバックに伊藤のピアノがリードを取るシャッフル系のラウンジ・ナンバーだ。2コーラス目からは伊藤さおりのトロンボーン、仲本興一郎のソプラノ・サックスへとソロ楽器が受け継がれる。 
 続く「Flyaway on Friday」はベースの大橋伸行とトランペットの國見智子のソングライティングで、90年代UKジャズファンク経由のレアグルーヴなリズム・セクションに、ニューソウル系のムーディーなコード進行とヴォイシングが効いている。國見とパーカッションの福田恭子(仲本と共にVacation Threeのメンバーでもある)の女性2人のダブル・ヴォーカルが魅力的だ。


【wack wack rhythm band 
New Album THE 'NOW' SOUNDS trailer】 

 マーティン・デニーのカバーは「Something Latin」(『Latin Village』収録 64年)で、テナー・サックスとメイン・ソングライターでもある三橋俊哉の選曲らしい。オリジナルではアタックの強いアコースティック・ピアノとヴィブラフォン主体のエキゾチック・ラウンジだったが、ここでは鍵盤がウーリッツァーとなり、山下によるエレキシタールや福田によるスティールパンとクイーカが加わったことで豊かなアレンジになって新鮮に聴けた。
 一方ボズ・スキャッグスの方はサードアルバム『Moments』(71年)から冒頭の「We Were Always Sweethearts」を取り上げている。所謂「Tighten Up」(Archie Bell & The Drells 68年)に通じるシェイク系ファンクで、フリーソウルのルーツとしても面白い選曲だ。ここでは山下のヴォーカルもオリジナルを意識しているが、ベースの大橋とドラムの和田卓造のリズム隊の切れ味もあり、ワックの演奏に軍配が上がりそうだ。
 続く「Finish feat. Lemon」はタイトル通り、元ワックのメンバーで女性ヴォーカリストのLEMONがフィーチャーされたスカ風味の光速R&Bである。その圧倒的でソウルフルな歌唱はアルバムの中でも存在感を放っている。作曲は三橋で作詞は元ザ・ハッピーズで現中村ジョー&イーストウッズを率いる中村ジョーである。
 因みにこのイーストウッズにはワックから三橋、國見、福田の3名が参加している。蛇足だが弊サイト連載企画の「ベストプレイ・シリーズ」に参加した松木俊郎(ベース)と北山ゆう子(ドラム)はこのバンドの結成時からのメンバーである。 



 「Stay-Pressed」とラストの「Right and Bright」はいずれも三橋のソングライティングによるインスト・ナンバーで、前者はブッカー・T&ザ・MG'sよろしく古き良きスタックス・ソウル感漂うオルガン・ダンサーだ。後者は弊サイトではお馴染みのトニー・マコウレイが手掛けたファウンデーションズに通じる良質なノーザンソウルで、エレキとアコギを使い分けた山下のプレイが光る。 両曲ともフロアを熱くするに違いない。
 なおミキシングは大橋が10曲と、國見とマイクロスターの佐藤清喜が各1曲手掛けており、エンジニアリング面でもセルフ・プロダクションが行き渡っている。
 このレビューで興味を持った弊サイト読者や音楽マニアは是非入手して聴いて欲しい。
 (ウチタカヒデ)



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