2019年10月6日日曜日

鈴木恵TRIO:『come here my dear』(FLY HIGH RECORDS / VSCF-1773(FRCD-065))


パワーポップ・バンド、EXTENSION58のギター&ヴォーカルでソングライターの鈴木恵(すずきさとし)のソロ・プロジェクト“鈴木恵TRIO”が、ファースト・フルアルバムを10月9日にリリースする。
彼等は拠点の新潟の他、東京など全国でライブ活動をしており、メンバー全員による3声コーラスが特徴となっている。
メンバーはリーダーの鈴木(ヴォーカル兼ギター)、ドラム兼コーラスの青木宏美とギター、キーボード兼コーラスの田邉周平から構成され、これまでにマキシ・シングル『毎日が8ビート』(SONG CYCLE/KOSC-001)とミニアルバム『恋は水色』(同/KOSC-002)をリリースし、コンピレーション・アルバム1枚に楽曲提供している。


鈴木のソングライティングには、60、70年代のソフトロックやバブルガム・ポップ、モータウン・サウンドから80年代のネオアコやギター・ポップに強く影響を受けており、温故知新派の音楽ファンにも注目されている。
彼は弊サイトでも評価しているガール・グループRYUTistへの楽曲提供をはじめ、絵本の読み聞かせライブ、最近ではイラストレーター兼アート・ディレクターの大塚いちお氏とのコラボレーションなど多岐に渡る活動をしている。特にRYUTistへの提供楽曲「サンディー」では、古き良きブリルビルディング系の匂いを感じていたので以前から筆者も注目していた。
本作にはそのRYUTistをはじめ、秘密のミーニーズの渡辺たもつ、The Laundriesの遠山幸生、女性シンガーソングライターのやまねみわこ、ヴァイオリニストの越川歩(こしかわ あゆむ)などがゲスト参加しており、ジャケット・アートワークはサニーデイ・サービスやシャムキャッツなどを手掛ける小田島等氏が担当している。

9月初頭から本作の音源を聴き込んでいるが、鈴木の巧みなソングライティング・センスと、メンバーやゲスト・シンガーのコーラス・ワークに耳を奪われており、弊サイト読者にも強くお勧め出来るので筆者が気になった主要曲を紹介していこう。

California Love / 鈴木恵TRIO  

冒頭の「California Love」はアルバムのリード・トラックで、ピアノと弦楽四重奏による印象的なイントロから一転してシャッフルのリズムで展開され、まるでジェリー・ロス・サウンドのようなノーザン・ソウル寄りのソフトロック・ナンバーである。この曲だけで鈴木のソングライティング・センスの深みが理解出来ると思う。
ヴァイオリンがホーンライクなリード・リフを奏でるのも特徴で、アレンジのアイディアも面白い。ストリングス・アレンジは山根美和子、ホーン・アレンジは鈴木によるものだ。
続く「かなかも」は古き良きカントリー・タッチのフォーク・ポップで、鈴木とやまねみわこ(山根美和子)がデュエットで歌唱しているのが楽しい。バンジョーとペダルスチールは渡辺たもつのプレイ。
「Day By Day」も「California Love」と同様に越川歩のヴァイオリンがフューチャーしており、こちらは英国寄りでトニー・マコウレイのソングライティングに通じる。ヴァースの出だしがキャプテン・センシブルの「It's Hard To Believe I'm Not」(82年)を彷彿とさせてニュー・ウェイブ少年でもあった筆者は直ぐに反応してしまった。

 
鈴木恵TRIO New Album 「come here my dear」 Trailer

そして弊サイト読者のビーチボーイズ・ファンに最もアピールするのが、4曲目の「何もかも忘れたら」だろう。BB5マニアならこの曲のエレメントの曲群が直ぐに浮かぶと思う。筆者は音源をもらって一聴してこのイントロに胸を締めつけられた。単にフォロワーというだけでなく、ブライアン・ウィルソンへのオマージュの中に独自のセンスも忍ばせているのに好感が持てる。 ホーン・セクションにフリューゲルホルンやファゴットを加えているのも効果的だ。
続く「花と恋情」はブルース・ジョンストン作の「Disney Girls (1957)」(71年)に通じる無垢なラヴ・ソングで、RYUTistのメンバー4名が参加しており抜群のコーラス・ワークを披露している。このコーラスを聴いていると、ヴォーカル・グループとして彼女達はもっと評価されるべきだと感じてしまう。マンドリンは渡辺たもつ、ウクレレは遠山幸生がプレイしている。


アルバム後半では「Brand New Morning」にも触れぬ訳にいかない。イントロからして60年代中後期ビーチボーイズの匂いがするサウンドをもった深いバラードであり、BB5マニアにも聴いて欲しい。美しいコーラス・ワークに絡むグングルやマリンバの響き、ペダルスチールが心地いい。
紹介しきれない曲も含め良曲が多く収録されている本作のラストとして、実に相応しいのが「夜行列車」である。
『Skylarking』(86年)時のXTCに通じるアレンジとサウンドは、本作の着地点として計算されていたかのようだ。 複数のエレキ・ギターの展開や各楽器の配置、コーラス・アレンジ、エフェクティブな空間処理やミックス処理まで含め、極めて完成度が高い1曲である。この曲でもRYUTistの4名がコーラスで参加している。
最後にアルバム全体を通して感じたのは、過去の音楽的遺産を独自に消化してよくプロデュースされた作品であるということだ。
このレビューを読んで気になった音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


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