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2019年6月23日日曜日

ウワノソラ:『夜霧』(UWAN-004)リリース・インタビュー前編


 2017年のセカンド・アルバム『陽だまり』(UWAN-003)と翌年の同アナログ盤(Kissing Fish Records/KMKN13)が記憶に新しい、ウワノソラが待望のサード・アルバム『夜霧(よぎり)』を6月26日にリリースする。 
 17年8月以降ギターとソングライティング、プロデューサーでもある角谷博栄と、ヴォーカリストのいえもとめぐみの2人組となって本作で2作目になるが、14年のアルバム・デビュー以来、シティ・ポップからスタートし様々なジャンルのエッセンスを内包しながら成長してきたそのサウンドは、拘り派の音楽ファンにとって、特別な存在になったと言える。
ここでは本作の制作経緯について、メンバー二人におこなったインタビューを前編と後編に分けて掲載する。



●サード・アルバムのリリースおめでとうございます。 当初はセカンド・アルバム『陽だまり』と2枚組で発表する予定だったらしいですが、どういった経緯でそのようなリリースを計画し、また分割することになったのでしょうか? 

角谷:有難うございます。学生時代に作っていた曲が複数ありまして、それをリリース出来たらとずっと考えておりました。
曲数が多いため、それを詞の中の時間軸で分け、分割する事となりました。
2枚組ではなく『陽だまり』と『夜霧』という2部作になった事に関しましては、予算が作れないので全てをレコーディング出来なかった、という理由です。 

●成る程、歌詞の内容で時間軸を分けるという発想はいいアイディアですね。学生時代に作っていた曲のストック数が気になるので教えて下さい。

角谷:ストック数は、ウワノソラ’67、陽だまり、夜霧でほぼほぼ全てです。やっと学生時代の構想の縛りが終わりました。

●前作に比べて、70年代ニューソウルやブルーアイドソウル~AOR色が濃いですね。 アルバムのコンセプトやトータリティーを考えての判断でしょうか?

角谷:「夜霧」という漠然としたコンセプトの元、そのような雰囲気になったように感じております。AOR(特に80年代のAOR)とは別物で、強いて言えばプレAORでしょうか。
ただ、ニューソウルもブルーアイドソウルにもなっていない歪な物(過去にも現在にも属せない良くも悪くもウワノソラのサウンド) がまた出来てしまった、というのが完成した後の僕の印象です。

●「歪な物」って表現は、日本人ならではの解釈でオリジナルとは異なるテイストになってしまったということでしょうか?

角谷:演奏面では勿論そういった事もありますし、70’s、80’sはそれがメインカルチャーとしてあったので、売れるものをやる、というその資本主義的な音楽を作る動機や思想からも逸脱しているという話です。
勿論録音環境も違いますので、サウンド面でも大きく違う。
そして現在のポップスカルチャーともあまり交わっていないという、浮遊している感じで。ポップスっぽいとしか言えないといいますか。
精神構造でも、音響面でも理想としているものと比べた場合、歪ということです。
結局自分が表現したいことしか出来ないし、やる意味も感じないので、しょうがないのですけど。

●ソングライティングの時期について、ファースト・アルバム以前の学生時代に作った曲が含まれているとか。曲作りのエピソードを聞かせ下さい。 

 「Sweet Serenade」
角谷:この曲は僕が大学2年生の春。1か月ぐらい病気で入院することがありました。早稲田の国立国際医療センターの十何階。周りの友人達は大阪で映画とかを楽しそうに制作しているのに、自分は東京に帰り、何もできない。作れないことが悔しくて、ですね。
そしてその病室からの夜景が非日常的に美しくて。そんなものに感化されながら、真夜中に小さな中古のMIDIキーボードを、病院食を置く小さなテーブルに乗せて、点滴を腕からぶら下げたまま、メロを作っていき制作をしていました。デモではスネアは2拍目と4拍目についていましたが、2拍目だけにしたりと他にも諸々変更をしました。 

●昨年7月に某飲み会で仮ミックスを聴かせてもらいましたが、大学2年生の頃作った曲とは思えない完成度でしたよ。一聴してマーヴィン・ゲイがレオン・ウェアのプロデュースで作った「I Want You」へのオマージュと分かりましたが、演奏力、表現力が伴わないとこのグルーヴにならないからレコーディングでは苦労したんではないですか?

角谷:あまり苦労はしていません。9割はプリプロで出来ていましたので。ただ上物が凄く多いので、リズム隊がシンプルになった分、スッキリ具合は出たかな、といった印象です。
この曲は2015年に実はMVを撮ってもらっていまして、一度だけ2016年に韓国の映像祭に招待され上映されているのです。
そのMVを公開できない事が監督へ申し訳ない気持ちです。

「ロキシーについて」
角谷:この曲は2014年、ファーストをリリースする前に作っていた曲です。スティーリー・ダン(以下SD)が好きで。その感情に任せ作った記憶があります。
僕の中でSDは特に鶴橋の飲み屋街にマッチしていて、飲み歩いた後に聴くと最高でした。2015年のライブでも演奏しています。
それを伊豆在住の頃に家に遊びに来てくれたブルーペパーズの福田君に聴いてもらいまして。彼はDoctor Wu!Doctor Wu !と言って、ニヤニヤと。 彼自身もSDの影響を感じられる楽曲がありまして。それから福田君ならどんなハーモ二―を付けるだろうか、という思いになりました。そして去年リハーモナイズをお願いし、今年コーラスでも参加してもらいました。
SAXソロは2014年のデモ録音をそのまま使用しております。 ドラマーの越智さんはレック後、ボソッと、“俺、パーディ・シャッフルを今年世界一練習した人だと思う”、と仰っておりました。


●今回のマスタリング音源を聴いて、そのスティーリー・ダン趣味に唸りました。イントロは「Doctor Wu」(『Katy Lied』収録 75年)だけど、本編は「Home At Last」(『Aja』収録 77年)へのオマージュという。
ドラマーの方のコメント通り、この曲ではバーナード・パーディが叩いていて、その貢献度から作曲クレジットまで要求したという。(笑)
アレンジした当初からこの重たいシャッフルのリズムで着想していた訳ですね? 

角谷:アレンジに関してはそうです。当時の想いのままです。こういう事はもうしない気がしています。

「夜霧の恋人たち-Interlude-」
角谷:かなり転調を繰り返し、調がずっと浮遊して定まらないような曲です。 去年18年の冬から19年の2月まで、2か月間。コーラス、弦管共同アレンジの深町君とアレンジ&レコーディング合宿をしておりました。
かなり音楽思考的に寄り添えていたつもりでおりました。しかし、コーラスレックの際“もう二度とこんな曲作ってこられてもコーラスしない”とまで言われてしまった曲です。キーが変動していくので、コーラスの際、譜面があれけど物凄く難しいのです。この和声を含めて表現したかったものだったので、すまなかった、という思いです。
おかげで良い感じになったと思っています。サックスの横山さんも最高なプレイをして下さいました。着想は、Lampの染谷さんが”これね、人生を変えてしまう俺のセレクト曲集(^^♪”と、曲を複数送って下さった事があり、その中に入っていたNivaldo Ornelasという人に感銘を受けまして。早速アルバムを購入したところ他にも沢山グッとくるものがあり、そこから着想を得ました。

●3分少しの曲だけど難解なコード・プログレッションが印象的ですね。キー・チェンジしているのに流れるようにコーラスするのは非常に難しいでしょう。
着想元のNivaldo Ornelas(ニヴァルド・オルネイラス)は、エルメート・パスコアルのバンド・メンバーとして知られ、ミナス派のサックス奏者でもありますね。僕は70年代中期のエドゥ・ロボやエグベルト・ジスモンチ、トニーニョ・オルタのセカンドでそのプレイは耳にしていましたが、ソロ作は聴いていないのでお勧めのアルバムを紹介して下さい。


角谷:『A tarde』(SY 33101/82年) 『Viagem atraves de um sonho』(LPVR 017/80年)です。
僕の持っているものは2イン1でした。

「隕石のラブソング」 
角谷:この曲と、「蝶の刺青」、「マーヴィンかけて」が僕の中で去年制作した新作というような感覚です。
「ピクニックは嵐の中で」(『ウワノソラ』収録 2014年)のようなSFチックなものが好きで、これもそんな雰囲気の物をと制作しておりました。 作詞に関しまして、曲調はハッピーなのに詞は悲しい、という対比が好きで、これは黒沢明さん他、映画における対位法から影響を受けました。
一昨年から東京に戻り、東京で仕事をしていまして、そうするとやっぱりどうしても相いれない人には出会います。そういうのも含め仕事なんだ、と割り切れる一方で、思う事も多々ありまして。
そんな小さなことから、現在のネット社会で、傷つけあう様を多く目にしたり。毎日流れてくる悲惨なニュース。もちろん終わらない戦争も。どうすればいいのか分からないまま受け入れるしかないのですが。
そこで、地球に隕石を落としちゃえ、となりまして。自分の詞の中でだけでも、全人類が隕石を見つめる、一瞬でも平和な空間を作ってみたかったのです。
しかし、MV制作時、監督の菅野君に“隕石が降ってきてジョークをかます感覚は心に余裕がある人のみで、もっと醜い何かが起きるよ”と言われハッとさせられました。確かにそんな甘くもないなぁと。彼は僕なんかよりずっと大人で、ちゃんと世界を観ているんだなぁと感じさせられたりしておりました。

 ●歌詞を創作する上のエピソードが実に深いですね。 初めてラフミックス音源を聴かせてもらった時からこの曲がアルバム中で最も惹かれました。
“予報通り地球に衝突する 生き物はみんな消えてしまうらしい”という冒頭のいきなり衝撃的且つシュールなラインと、甘美な旋律のコントラストがなんとも言えないですよ。嘗ての「ピクニックは嵐の中で」を聴いた時も同じ様なイメージを受けましたが、このスタイルは元々角谷君も好んでいた着想だったんですね?

角谷:友人でこの類の詞が好きな人が何人かいまして。 他の詞の重苦しかったり、詞の中の2人の世界のストーリーテリング系では、ふーん、となってしまうのにSFだけ反応を示す数人の友人の影響が動機の一つかもしれません。 
「ピクニックは嵐の中で」もそうですが、最初インパクトはないものの、後々、よく聴く曲だなと思ったりしたことがありまして。何というか分かりませんがこの詞風の感じは好きです。無欲な感じがしまして。
詞の登場人物も奥のコンポーズの自分自身も。 それが同世代の感じなのかも、とも少し感じでおります。
しかし、「キールのグラスを頬に充てて、ホンキ?と笑ったマーメイド」のバブリーな感じだったりとか、ユーミンや隆(松本 隆)さんもそうですし、CMのキャッチコピーだと、オリンパス OM10「好きだと言うかわりに、シャッターを押した」的なものは相変わらずキュンキュンきてしまい、ずっと大好きです。
その感覚を同世代、上の世代でも分かり合えたことは残念ながらほぼ無いです。友達募集中です。 


隕石のラブソング


●本アルバム制作中に、イメージ作りで聴いていた曲をお二人各5曲選んで下さい。



角谷博栄 
○ I Want You / Marvin Gaye 
○ Do What Comes Natural / Gene Chandler 
○ ジェニーMy Love / 井上陽水 
 これは恋ではない / Pizzicato Five
○ Quiet Storm / Smokey Robinson

いえもとめぐみ
○ Wish Upon A Star / Franne Golde
○ Lord We Believe / Kristle Murden
○ Here We Go / Minnie Riperton
○ Blush / Mr Twin Sister
○ 影になって / 松任谷由実 



◎ウワノソラ・オンラインストア・リンク 
【オンラインストアでご購入の方で希望者にはサインをお入れします】
https://uwanosoraofficial.stores.jp/items/5ce79e9a0b9211098e15afaf


以下後編に続く。
(インタビュー設問作成/編集:ウチタカヒデ)




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