今から21年前の2000年12月25日に発売された『Soft Rock In Japan(以下、In Jp.)』を憶えているだろうか。
この本は日本人によるソフトロック系アーティストの再考察をコンセプトにしたもので、長年リアルで日本のミュージシャンを聴き続けてきた私や松生さんが中心となって、VANDA周辺と私の友人の音楽愛好家仲間でまとめあげた本だった。
そこには故佐野邦彦さん同様に、これまで見過ごされてきたアーティストを一人(一組)でも多く伝えたいという強い信念があった。
そこでとりあげられていたPiper関連のCDが、この夏に復刻されることになった。またそれを記念してリーダーである山本圭右さんがPiperとして、1年ぶりのライヴを開催するというニュースが飛び込んできた。
まずはこの本が発売に至った経緯について触れておく。VANDAの単行本第1号『Soft Rock A to Z』が発売になったのは1996年だった。
この本は亡き佐野さんがそれまで「アニメ専門誌」だった「VANDA」を「音楽誌」へ脱皮をはかるべく、発表した特集記事<Soft Rock A to Z>を掲載した「VANDA 18」が始まりだった。この号は品切れが続出し、彼の手元にも数冊しか残らないという大反響を呼んだ。さらに探求を重ねてまとめたバイブル本だった。当然のようにこの本も大評判となり、重版を重ねるベストセラーとなった。そして2年後の1998年12月10日にはそれまで見逃されていた新たな才能を追加して28P増幅させ、改訂版が発売されている。
その後、次に彼が取り組んだものが、ビーチ・ボーズを筆頭にハーモニーを売りにしているミュージシャンを取り上げた『Harmony Pop(以下、H.P.)』だった。この本は2000年3月2日に発売されている。そしてこれに続く第3弾として佐野さんから発案されたものが、「日本人アーティストによるSoft Rock ガイド」だった。ただこの企画については佐野さん自身は一歩引いた立場をとり、『H.P.』で日本人アーティストを数多く取り上げ和物の扉コメントをまとめた経緯から私、それに松生さんを中心に委ねられることになった。
そこでアーティストをピック・アップする際、「山下達郎」「大瀧詠一」等ありきたりな名前があげられる中、私が絶対に掲載したかったのが「村田和人」と「Piper」だった。そして彼らについては、リアルの熱心なファンである後輩、音楽ライター/近藤正義氏に任せるつもりだった。それは昔から両者のライヴに何回もふれている彼が適任と思っていたからだ。ただ、「村田和人」については松生さんが強く希望していたため、村田さんは「Moon期」を除く「東芝~Victor時代」と「Piper」を彼にまかせることにした。
日本のポップスを語る上で絶対外せないアーティスト山下達郎さんが、所属のMoonから自信を持って送り出したのが村田和人さんだった。そして村田さんの活動を語る上で欠くことのできない存在だったのが、ギタリストの山本佳右さんである。そんな圭佑さんのデビューは村田さんよりも早く、1980年にスカンクとしてシングル・デビュー、1981年にはユピテルよりPiperとして、LP『I’m Not In Love』を発表している。
そんな圭右さんの存在は、1983年に村田バンドのギタリストとしてクローズ・アップされた。それはこの年に発表したギター・インストを前面に打ち出したリゾートBGM風の『Summer Breeze』が好評を博したからだった。そして半年後には同じコンセプトで、タモリ和義氏のジャケットで知られる『Gentle Breeze』をリリースしている。近藤氏はこの時期のPiperが最高だったと常々語っている。
また、二枚のアルバムで自信を付けたPiperでは、歌物アルバム『Sunshine Kiz』をリリース、タイトル曲は久々にシングル・リリースされた。なおこの曲は「サンデー・ソング・ブック」でも達郎さんの推薦コメント付きで紹介されている。ところが、この直後に所属するユピテルが不渡りを出し、会社はそのまま存続するも音楽部門はリストラ対象となり、バンドの先行きに暗雲が立ち込めてしまう。
そんなPiperだったが、これまで圭右さんと共に活動を続けていた村田さんの繋がりでMoonに移籍。1985年には彼らの最高傑作『Lovers Logic』を発表する。ただその新譜はMoonからのプロモーションも得られず、ライヴ活動を行う機会も無かった。とはいえ、直後にアルバム未収録のシングル<あなたのとりこ>が発売されている。その後、1987年に企画ものとして村田さんと若手二人(平松愛理、西司)の4人で組んだユニットHoney & B-Boys『Back to Frisco』で話題を集めたが、Piperは自然消滅してしまった。
それ以後は、村田さんをはじめ多くのアーティストのレコーディングやライヴ活動のサポートで活躍している。とはいえ、Piperの人気は衰えることなく、中古レコード市場ではかなり高騰化していたようで、特にファースト『I’m Not In Love』に至っては万単位の価格で取引されていたらしい。 そんななか冒頭で紹介した『In Jp.』でPiperがとりあげられた。それを見たPiperのファンが出版社を通じ、近藤正義氏にコンタクトを取り、彼は憧れの山本圭右さんに面会する機会を持っている。そこでは、「本でのスペースの取り上げられ方が、あの達郎さんと同じ」ということで圭佑さんは感激されていたという。それがきっかけだったのかは不明だが、翌2001年8月25日に「@赤坂LOVE」で久々にPiperの復活ライヴが開催されている。そのパフォーマンスは、何回もPiperの生ステージを見ている近藤氏も大感激するほどの素晴らしいものだったと聞く。
そして2006年には、Moon時代の「村田和人・紙ジャケ+ボーナストラック」シリーズが発売された。そこにはPiperのラスト作『Lovers Logic』もボーナストラック付でリリースとなり、Piper信者近藤氏はじめファンを歓喜させた。その後、一向に進まないユピテル時代のアルバム復刻に向け、近藤正義氏は2016年にSNSの書き込みを始めた。そんな彼の意気込みに多くの人脈が合流するも、復刻にはかなり高いハードルがたちはだかっていた。何故なら、ユピテルの音楽部門消滅によりマスター・テープは不明、また権利関係も複雑ということだった。
その後、偶然にもユピテル音楽部門の関係者に繋がることができ、紆余曲折しながらも2018年3月21日、ついにユピテル4作品が待望の初CD化の運びとなった。この復刻は近藤正義氏の再発にかける情熱で実現したと言っても過言ではないと言えるだろう。その発売に併せ、「西荻窪Terra」にて久々のPiperライヴが開催され、復刻を祝う集いとなった。
そんな近藤氏はこれまで数多くのトリビュート・バンドを経験しているが、現在は村田さんの声を彷彿させるヴォーカルを擁する「村田和人トリビュート・バンド~Ready September」を率い、憧れの圭佑さんになりきりギターを奏でている。その想いが通じたのか、来る7月14日(日)には目黒のブルースアレイで開催されるPiper一年ぶりのライヴに、前座を受け持つことになった。圭右さんと近藤氏のツイン・ギター・バトルも予想されるこのライヴは、今から期待に胸が躍る。
なお今回のライヴは、2006年にリイシューされた『Lovers Logic』、1987年のユニットHoney & B-Boys『Back to Frisco』(待望のボートラ付き初再発!)に併せたものになっている。さらには圭右さんが参加(『Hello Again』のみ全面参加)した村田和人さんのVictor/Roux時代の初コピレーションも同時発売されることが決まっている。ちなみにこのコンピは、この時代のポジティヴな雰囲気を近藤氏がイメージしたセレクションで、(村田さんの)師匠達郎さん風のアカペラも加えた粋なものになっている。またジャケットは今回のために用意された初出スナップなどを織り交ぜた仕様と聞いている。今回発売となる3枚は、この夏の定番になること間違いなしのグッド・ミュージック集で、ファンならずともお求め逃がしの無いように願いたい。
この放送はアプリ「FMプラプラ」でも受信可能なので、是非彼らの夏サウンドを堪能いただきたい。
【FMおおつ公式アプリ】https://fmplapla.com/fmotsu/
(鈴木英之)
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