2019年5月12日日曜日

ヨシンバ:『ツヨクヨハク』(Happiness Records/HRBR-014)


 喫茶ロック・シーンの流れからフォーキーなロック・バンドとしてデビューしたヨシンバが、5月15日に13年振りとなる5枚目のオリジナル・アルバム『ツヨクヨハク』をリリースする。
 彼等は武蔵野美術大学の学生だった吉井(b)、荘田(a.g)、中澤(e.g)が中心となり結成され、98 年8 月にテイチク・レコードよりファースト・シングル「これを恋と云えましょうか」(TECN-11385)でメジャーデビューする。この曲は某テレビ局の深夜アニメ番組のエンディング・テーマに抜擢されたことで、アニメ・ファンからも熱烈に支持されたという。
 同年11月にはマキシシングルの「くもの糸」(TECN-12470)と、翌99年4月にはファースト・アルバム『042』(TECN-28548)をリリースし、フォークやソウルからソフトロックに至るまで様々なエッセンスを内包したサウンドで高く評価された。
 一時活動を休止した後、2001年に新たに、佐治(ds) 、鈴木(b)そして西村(key)を加えて活動を再開しマグネットレコードに移籍する。同年9月には、著名イラストレーターの矢吹申彦氏がジャケットを手掛けたセカンド・アルバム『ハズムリズム』(MAGL-3004)をリリースした。
その直後佐治が脱退するも新たに朝倉をドラマーに迎え、02年10月にはサード・アルバム『足りないもの』(MAGL-3005)を発表する。
 しかしバンドの苦難は続き、翌03年9月今度はオリジナル・メンバーの荘田と中澤が脱退してしまう。残った吉井に西村、鈴木、朝倉の4 人で再始動することになりMIDI Creative へ移籍。06年6 月にフォース・アルバム『4』(CXCA-1187)をリリース後、マイペースに活動を続けてきた。
 現在のメンバーは、ヴォーカルとギターの吉井功に、キーボード兼コーラスの西村純とドラム兼コーラスの朝倉真司の3名となっている。 彼等の魅力はこの様なバンドの歴史が刻まれた、ペーソス溢れる吉井の個性的なヴォーカルではないだろうか。



 本作『ツヨクヨハク』には長年の交流で培ったゲスト・ミュージシャンも多く、09年からサポート・ベーシストを務めてきた隅倉弘至(初恋の嵐)は全曲参加し、ギタリストには、玉川裕高(元コモンビル~赤い夕陽)、鳥羽修(元カーネーション)、中森泰弘(HICSVILL、SOLEIL)が各曲で素晴らしいプレイを披露している。 レコーディングはスタジオ・ハピネスで録られており、エンジニアは同スタジオの主でヨシンバのメンバーとも旧知の平野栄二が担当している。
 では筆者が気になった主要曲を解説していこう。


   
 冒頭の「だんだん」はイントロのアコースティック・ギターの刻みと、サイケデリックなキーボードのフレーズから曲の魅力に引き込まれていく不思議なムードを持っており、シド・バレット参加時の初期ピンクフロイドやトラフィックのファンにもお勧めである。アコギは中森、クラリネットには佐藤綾音が参加している。
 続く「朝焼けの空に」はフォーク・ロック調のアレンジで、ロジャー・マッギンを思わせるフレーズのエレキ・ギターは玉川によるものだ。メンバー3名によるコーラスの重ね方も見事である。

朝焼けの空に

 「冬の果実」はサウンド的に異なるのだが、ヴァースのコード進行が80年代英のエレポップ・デュオであるネイキッド・アイズの「When The Lights Go Out」(『Burning Bridges』収録/83年)に通じて好きにならずにいられない。吉井の声質もピート・バーンのそれを彷彿とさせて非常にいい。印象的なエレキ・シタールは中森のプレイだ。


 そして先月初頭に音源入手後一聴して筆者がベストトラックと感じたのは、5曲目の「アイラブユーすら言えず」である。キーボード主体の空間が狭いサウンドではあるが、吉井の存在感のあるヴォーカルで音像が広がっていくのは見事である。佐藤による多重録音のクラリネットのフレーズもこの曲のキーデバイスとなっていて耳に残る。個人的にも今年のベストソング候補になるだろう。
 鳥羽のヘヴィーなスライドギターが利いている「東京も君もいつも」は、はっぴいえんどに影響を与えたことで知られるバッファロー・スプリングフィールド(66~68年)の匂いがして、東京に対するアイロニーな歌詞と相まって完成度が高い。「I Am the Walrus」(ビートルズ/67年)を彷彿とさせる展開を持ったチェロは上田晴子のプレイだ。
ラストの「君が僕」はイントロ無しで始まるシンプルなバラードで、サビのドラマチックな展開が非常に美しく、朝倉と隅倉のリズム隊のコンビネーションと表現力も随一で、アルバムの着地点として相応しい曲といえる。ストリングス・アレンジはメンバーの西村で、ヴァイオリンは秋久ともみのプレイである。

 アルバムを通して吉井のソングライティングとヴォーカルの個性が光り、それを支えるメンバーとゲスト・ミュージシャンが織りなす良質なサウンドは、従来のファンから弊誌読者の音楽通にも強くアピールするので、興味を持った方は是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)

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