ジム・ゴードンほど波瀾に満ちた人生を歩んだドラマーはいないだろう。
60年代半ばからThe Wrecking Crew(レッキングクルー)のレコーディング・セッションに参加し、先輩格のハル・ブレインと共にそのボトムを支えてきた。
70年代になると更にその活動範囲を広げ、ロサンゼルスのスワンプ・シーンに加わり、Delaney & Bonnie & Friendsのメンバーとしてイギリス・ツアーに参加する。そこではエリック・クラプトンとの出会いから稀代の名盤『Layla And Other Assorted Love』(70年)に参加し、Derek & The Dominosのメンバーとなる。
このクラプトンとの蜜月時期にはビートルズ解散後ソロに転じたジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass』(70年)やジョン・レノンの『Imagine』(71年)にも参加、その名はブリティッシュ・ミュージック・シーンでも高名な存在となり、アメリカ本国とイギリスを股に掛けた一流ドラマーとして活躍していくことになる。
しかしその後70年代後半に統合失調症による自殺未遂、83年には母親を殺害するという事件を起こし音楽業界から退いてしまった。2019年現在もその罪でカリフォルニアの医療刑務所にて服役中である。
ここではハル・ブレイン氏やジョー・オズボーン氏に続き、ジム・ゴードン氏を心より敬愛するミュージシャン達と、彼のベストプレイを挙げてその偉業を振り返り、いつの日か適うと信じて氏の復帰を心から願いたい。
また今回からサブスクリプションに登録された全楽曲をプレイリスト化し、試聴出来るようにしたので興味を持った方は是非フルレングスで聴きながら読んで頂きたい。
【ジム・ゴードンのベストプレイ5】
●曲目 / ミュージシャン名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント
【角谷博栄(ウワノソラ)】
今回はファースト・アルバム『ウワノソラ』やウワノソラ'67の『Portrait in Rock'n'Roll』に参加しているドラマーのナルハシタイチ君に一部選曲してもらいました。
https://uwanosora-official.themedia.jp/
●What Is Life / George Harrison
(7”『What Is Life』/ 71年)
◎Phillip Spectorのプロデュース。George Harrisonの大好きなアルバム『All Things Must Pass』にも収録。もう本当にかっこいいです。
こんなドラムの音、令和では聴けないのかなぁ。(角谷)
●Why Does Love Got To Be So Sad? / Derek & The Dominos
(『Derek & The Dominos – In Concert』 / 73年)
◎スタジオワークでのタイトさとは一線を画す、ライヴならではのパッション全開の一曲。 バンドの熱気と共にインプロで展開される約9分半の中、異様な執着を感じる程に叩きまくっているライドシンバルが癖になります。個人的に彼といえばこの曲。
オリジナル音源よりも断然ライヴです。(ナルハシ)
●Apache / Michael Viner's Incredible Bongo Band
(『Bongo Rock』/ 73)
◎レアグルーブでも有名な架空で作られたこのバンドでもゴードンがプレイしています。 パンクさもあってかっこいいです。(角谷)
●Apostrophe’ / Frank Zappa
(『Apostrophe’』/ 74年)
◎60’~70’のセッションマンの中でも、ゴリっとしたサウンドと肉厚なグルーヴが彼の持ち味(だと思っています)ですが、その真骨頂とも言えるプレイに満ちた一曲。小気味良いシンバルワーク、それでいて重厚なドラムサウンドが◎。ひたすらヘヴィに畳み掛けていくプレイがカッコいいです。(ナルハシ)
●Parker's Band / Steely Dan
(『Pretzel Logic』 / 74年)
◎ポーカロとゴードンのツインドラム。最高な組み合わせ。ツインドラムだけでも高揚してしまいますが、曲もカッコイイ!(角谷)
What Is Life / George Harrison
【西浦謙助(集団行動 / mezcolanza etc)】
集団行動HP https://www.syudan.com/
ツイッターアカウント @tikanakangana
●I Don't Want to Discuss It / Delaney & Bonnie & Friends
(『On Tour With Eric Clapton』/1970年)
後のデレク・アンド・ザ・ドミノスメンバーが全員参加のこの曲(というかこのアルバム)、ジムのドラムがパワフルでキレッキレです。
演奏陣を牽引しています。
● Power To The People / John Lennon
(7”『Power To The People』/1971年)
◎曲構成が超シンプルだからこそパワフルなドラムが光ります。「Power To The People」と歌っていない箇所のバスドラムのベタ打ちが、メッセージ性の強いこの曲の推進力を強調していてすんばらしいです。
●Charlie Freak / Steely Dan
(『Pretzel Logic』/1974年)
◎物憂げなピアノが印象的ですが、同じメロディのループなのに全く退屈しないのはジムの力強いシャッフルとセクションごとのスネアのゴーストの変化が効いているなと。シンプルですがえらい難しいと思います。
● Fallin' In Love / The Souther-Hillman-Furay Band
(『The Souther-Hillman-Furay Band』/1974年)
ウエストコーストの才能が集まったスーパーグループ。爽やかでポップなこの曲ではタムを絡めた多めの手数のジムのドラムが堪能できます。
●Rich Girl / Daryl Hall & John Oates
(『Bigger Than Both of Us』/1976年)
◎この曲大好きなのですが、ジムが叩いていたとはつゆ知らず。改めて聴くと付点のバスドラムの位置が本当絶妙でして、粘っこいドラミング内ですごく良いアクセントになっています。
Fallin' In Love / The Souther-Hillman-Furay Band
【平田 徳(shinowa)】
http://www.shinowaweb.com
●Smell Of Incense / The West Coast Pop Art Experimental Band
(『Volume 2』 / 67年)
◎サイケ好きにはよく知られる米西海岸の有名バンドで、後にプロデューサー諸々で大成功するマイケル・ロイドが在籍。Reprise からの67年のアルバム ”Volume 2” にゴードンが参加しており、サイケクラシックとして名高い ”Smell Of Incense”は Jim Gordon のプレイと思われます。
●Wasn't Born To Follow / The Byrds
(『The Notorious Byrd Brothers』/ 68年)
◎映画 ”イージーライダー” で二人が荒野をバイクが疾走する場面に流れる曲で、多くの人が憧れる名シーンだと思う。軽快なドラミングが心地よく、ドライブミュージックの最高峰のひとつ。なおアルバム自体も30年来愛聴しております。
●California Home / Mark Eric
(『A Midsummer's Day Dream』 / 69年)
◎鼻にかかった脱力ヴォーカルに完璧な演奏というギャップも見事なアルバム。オブスキュアに点で存在するかのようなソフトロックのアルバムも、プロダクトとしてはきちんと確かな一流ミュージシャンが参加していたという、線でつながることが理解できた一枚。
その中から冒頭を飾る一曲。
● I Looked away / Derek & Dominos
(『Layla And Other Assorted Love Songs』/ 70年) ◎高校生の頃、クリーム以降のクラプトンは親父が聴く音楽と思っていましたが、ちょっと大人になりかけた19才の冬に聴いたレイラの一曲目、ギターよりも歌よりも、音は素朴だけど異常にたくましく力強く、気持ち良すぎるエイトビートに心奪われました。いまだにレイラのアルバムは何よりもドラムを聴きたくて聴いています。
● The Incredible Bongo Band
(『Bongo Rock』/ 72年)
◎全編にボンゴがフィーチャーされるバックにて、ゴードンが出しゃばらず、まさに職人としてグルーヴの壁を作っています。それにしても上手いです。音の粒立ちがよく本当にビートが美しいんです。これこそがセッションドラマーとしてまさに求められた技だったんだろうな。あえてこれ1曲は選びませんが、ゴードンのプレイが堪能できる一枚。
California Home / Mark Eric
【The Bookmarcs(洞澤徹 & 近藤健太郎)】
https://www.thebookmarcs.net/
●Only You Know & I Know / Dave Mason
(『Alone Together』/70年)
◎トラフィックのメンバーだったデイブ・メイスンのファースト・ソロアルバム冒頭を飾るナンバー。軽快なアコースティックギターカッティングのイントロでは、シンバルを使わず、スネアのみのリズムキープが面白い。アウトロのドラミングも最高。(近藤)
●Midnight At The Oasis / Maria Muldaur
(『Maria Muldaur』/73年)
◎マリア・マルダーのソロ・デビュー作収録のヒット曲。エイモス・ギャレットの名演が有名だが、安定のリズムと、ブラシをオーバー・ダヴィングしたと思われるプレイが心地よい、永遠の名曲。(近藤)
●Feelin' That Your Feelin's Right / Minnie Riperton
(『Adventures In paradise』75年)
◎ジャケの良さも含めてのミニーリパートンの傑作アルバム『Adventures In paradise』 からの1曲。官能的なまでのキープに絶妙なタイム感のフィルは、ドラムを聴いているだけでご飯何杯でもいけます。(洞澤)
●Rock And Roll Slave / Stephen Bishop
(『Careless』76年)
◎ Stephen Bishopの大好きなアルバムから。控えめながらも、曲の後半頻繁に出てくるタム回しは”泣きのギター”ならぬ”泣きのドラム”といったところでしょうか。 まさにドラムが歌っていますね。(洞澤)
●Lie To Me / Bill LaBounty
(『This Night Won't Last Forever』78年)
◎Bill LaBountyといえば「Livin' It Up」が有名ですが、このアルバムもAOR史の中でかなりの良曲揃いだと思います。特にこの曲はゴードンのハイハットの刻みの息遣いが、歌とうまく溶け合ってなんとも心地よいグルーヴを生み出しています。(洞澤)
Feelin' That Your Feelin's Right / Minnie Riperton
【増村和彦(GONNO × MASUMURA etc)】
http://www.ele-king.net/writters/masumura_kazuhiko/
●Now That Everything's Been Said / City
(『Now That Everything's Been Said』/ 68年)
◎ジム・ゴードンの推進力とタンバリン・シェイカーの絡みがナイス。 よくよく聴くとピアノのタイムがすごくよい。
●Marrakesh Express / Crosby,Stills&Nash (『Crosby,Stills&Nash』/ 69年)
◎お願いだからダラス・テイラーに叩いていて欲しかった名盤中の名曲。
●Some of Shelley's Blues / Nitty Gritty Dirt Band
(『Uncle Charlie & His Dog Teddy』/70年)
◎Michael Nesmithのカバー。 数多あるジム・ゴードンのプレイの中で最もリラックスしていて楽しそう。 その分所々少しだけおらついていて、それがまたかっこいい。
●Love Song / Lani Hall
(『Sun Down Lady』/72年)
◎ミッドナイト・ランブル・ショー(http://www.midnightrambleshow.com/)からの推薦。
ブラシ8ビートの最高峰!
●Do You Know / Joey Stec
(『Joey Stec』/76年)
◎MillenniumのメンバーでもあるJoey Stecのソロ。空間豊かなリズムの中で、低いチューニングのドラムと高いチューニングのコンガのアンサンブルが心地よい。ジム・ゴードンらしくベードラ、スネアでしっかりビートを進めながら、ハイハットとシェイカーの絡みも気持ちいいし、ハイハットのアクセントのダイナミクスがかっこいい。
Do You Know / Joey Stec
【松木MAKKIN俊郎(Makkin & the new music stuff / 流線形 etc)】
http://blog.livedoor.jp/soulbass77/
●Grazing In The Grass / The Friends Of Distinction
(『Grazin'』/ 69年)
◎アールパーマー、ポールハンフリーの系譜に位置する「ソウルドラマー」としてのジム・ゴードン。美しさと安定感では両者を凌ぐのだから超一流である。ドラムソロも嬉しい。
●Somebody Found Her (Before I Lost Her) / Dennis Lambert
(『Bags & Things』/ 72年)
プリAORとして究極の1曲。強拍でハットがオープンがちになるのがゴードンらしい。間奏以降の怒涛の流れにはただただ聴き惚れるのみ。
最高!
●Song For Paula / Bobby Whitlock
(『Bobby Whitlock』/ 72年)
◎圧倒的な実力で『レイラ』を支えた男の傑作ソロ。こんなに熱く激しく、長いフィルも多いのに、ゴードンの安定感たるや流石は職人!何度聴いても感動的。
●American City Suite-All Around The Town / Cashman & West
(『A Song Or Two』/ 72年)
◎アルバム全編がポップス歌伴ドラムの完成形。中でもこの曲のカッコよさは筆舌に尽くしがたい。本当にうまいなぁ…!
●American Lovers / Thomas Jefferson Kaye
(『First Grade』/ 74年)
◎フェイゲン&ベッカー作で知られるこの曲。あらゆる技を盛り込んでシンプルなメロディを盛り上げる。この素晴らしい構成力!
名演、名盤は枚挙に暇がないゴードン。どうしてももう一枚『The Souther-Hillman-Furay Band』(74年)を次点として挙げさせてください。
American Lovers / Thomas Jefferson Kaye
【Masked Flopper(BB5数寄者)】
●Dream Weaver/ Rick Nelson
(『Another Side Of Rick』/ 68年)
◎Everly Brothers同様にBritish Invasion後にセールス的に伸び悩み人気低迷時の ソフトロック風佳作。Rickの歌唱にうまくからむナチュラルなドラミング。
●California Dreamin'/ Brotherhood
(『Brotherhood』/ 69年)
◎Paul Rever & The Raiders脱退メンバーが結成したバンドで、Raiders時代から Jimはセッションで参加することが多かった。重厚なサウンドを支えるドラミングは秀逸。
●Hound Dog/ Anna Black
(『Thinking About My Man』/ 69年)
◎ブルージーな歌唱にからむ演奏を見事に支えるドラムにパーカッションの構成は見事。
●Marrakesh Express/ Crosby, Stills & Nash
(『Crosby, Stills & Nash』/ 69年)
◎The Holliesから却下され米国西海岸で日の目を見た、という喜びと軽快なJimのリズムと 異国情緒が重なる不思議な曲。
●Sandcastles at Sunset / The Surf Symphony
(『Song Of Summer』/ 69年)
◎インスト企画もので浜辺の情景にちなむ曲を集めた快作。いわゆるイージーリスニングの 範疇ではあるが時々聴きたくなる魅力がある。
Marrakesh Express/ Crosby, Stills & Nash
【ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)】
●Hurt So Bad / Bobby And I
(『Bobby And I』/ 68年)
◎マイナーからメジャーへのコード・チェンジが繰り返されるテディ・ランダッツォ作曲らしい陰影のあるバラードがオリジナルだが、この男女ヴォーカル・デュオのカバー・ヴァージョンではハイテンポなジャズ・アレンジで演奏される。ゴードンのドラミングがその原動力となっているのは言うまでも無い。
●Paxton Quigley's Had The Course / Chad And Jeremy
(『The Ark』 / 68年)
◎ゲイリー・アッシャーが手掛けた英フォークロック・デュオのラストアルバム収録でシングルカットもされたソフトサイケの隠れ名曲。時代的に早すぎたオペラ・プログレ・ポップであり、職人ゴードンは各パートに的確にその能力を駆使したプレイをしている。断末魔的なコーダをノリノリのシェイクで攻める様が極めてクールだ。
●Gimme Some Lovin' / Traffic
(『Welcome To The Canteen』/ 71年)
◎スティーヴ・ウィンウッド配するスペンサー・デイヴィス・グループ、66年のメンフィス・ソウル系譜のモッズ・アンセムがオリジナル。ウィンウッドが次に組んだトラフィックの71年のライヴ盤では、ゴードンが叩くスワンプ・リズム・パターンを核にして3倍の尺で演奏され、会場を興奮の坩堝と化す。
●Rikki Don't Lose That Number / Steely Dan
(『Pretzel Logic』/ 74年)
◎スティーリー・ダン史上最高位のシングル曲を取り上げるのは躊躇するが、業界屈指の一期一会セッション故に生まれた名作ではないだろうか。ハイハット・ワークの絶妙な揺れ、フェイゲンのヴォーカルに呼応するオブリガートのようなラテン・フィールのタム転がしなど聴き込むほどに、その非凡な技巧を思い知るのだ。
●Please Call Me, Baby / Tom Waits
(『The Heart Of Saturday Night』/ 74年)
◎酔いどれ詩人(実際は下戸)として日本にも信奉者が多いトム・ウェイツのセカンドは、プロデューサーのボーンズ・ハウのコネクションとしてゴードンが全面的に参加している。語るような独特なテンポで歌うウェイツの「世界観=タイム感」を崩さないプレイは、一流の職人ドラマーとしての真骨頂である。
Gimme Some Lovin' / Traffic
(企画 / 編集:ウチタカヒデ)
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