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2018年11月24日土曜日

The Bookmarcs:『BOOKMARC MELODY』(VSCF-1769/FRCD-061)リリース・インタビュー


 The Bookmarcs(ブックマークス)が、昨年10月の『BOOKMARC MUSIC』に続いてセカンド・アルバム『BOOKMARC MELODY』を11月28日にリリースする。
彼等は幅広いフィールドで活躍する作編曲家の洞澤徹と、WebVANDAの対談レビューでもお馴染みのSweet Onionsのヴォーカリスト近藤健太郎が2011年にタッグを組んだ男性2人のユニットだ。
 前作はそれまで配信で発表した既存曲のリアレンジ、リミックス・ヴァージョンと新曲3曲をコンプリートした変則的スタイルだったが、本作では全10曲が書き下ろしのオリジナル曲を収録ということで、そのハイペースな創作力に敬服するばかりだ。
前作以上に深化したソングライティングと演奏について、結成前から筆者と交流がある洞澤(作編曲、ギター、プログラミング他)と近藤(作詞、ヴォーカル)の2人に聞いてみた。


 

●『BOOKMARC MUSIC』から約一年で全曲書き下ろしによるセカンド・アルバムのリリースですが、どのようなペースで曲作りをしていました?  

近藤:洞澤さんから新曲のデモが送られてきてから、僕が歌詞をつけて仮歌を録るという流れはファーストから変わらずですが、今年の1月末に早速2曲程新曲が届きました。
ファーストは昨年10月リリースで、その後はプロモーションやイベントで忙しくしていたわけですが、洞澤さんの創作欲がとても高まっていて、新しい曲も瑞々しく新鮮でした。その後、月に2曲くらいのペースで送っていただき、歌詞のない段階で仮歌を録って雰囲気を掴んだり、ミーティングを重ねたりしながら制作していきました。

洞澤:曲作りという面では3月までに骨格となる数曲は書き終えていて(去年作ってあった曲も含め)、あとは、その中心となりうる曲とのバランスを見ながらバリエーションをつける感じでじっくり9月くらいまで曲作りを続けていました。

●ソングライティングが分業ということで曲先の場合、歌詞の世界観を共有するために大事にしていることはなんでしょうか? 

近藤:大事にしていることは、歌詞の内容や雰囲気とメロディが調和するように常に心掛けていますが、ちょっと格好良く言ってしまうと、洞澤さんの書くせつなくて綺麗なメロディに呼び起こされて、言葉や物語が浮かび歌詞が生まれているので、とにかく何度もメロディを聴いてイメージを膨らませています。

洞澤:近藤くんへのメロディの伝え方として、今までシンセメロで渡していたのですが今回僕がめちゃくちゃ英語で仮歌を歌って渡した曲が何曲かありました。そこで母音や子音みたいなものを意識して詞も当ててきてほしいなぁという期待も込めて。結果その通りになってうまくいきました。詞の内容に関してはいつも完全に近藤くんにお任せです。


●本作でも前作収録の「I Can Feel It」同様にこれまでのThe Bookmarcsからはイメージ出来なかった曲(「胸騒ぎのシーズン」等)が収録されていますが、ソングライティングやアレンジを多様化させた意図、またのアイディアの源を聞かせて下さい。

洞澤:「胸騒ぎのシーズン」は最初からアルバム1曲を意識して作った曲です。なのでイントロのインパクトには特にこだわりました。イントロの「Baby Love」と聴こえる近藤くんのコーラスがかっこよくハマってすごく満足しています。
ちょっと夏っぽすぎたかなとは思いましたが、秋でも冬でもドライビング・ミュージックとしても楽しんでもらえるんではないでしょうか。
「雲の柱」はThe Bookmarcsの新境地だと思っています。リズムが4つ打ちなのも初めてだし3連というリズムも初めてじゃないかな?
Ed MottaやMario Biondiなどのアルバムを聴きながら骨格が浮かんだのを覚えています。アレンジも今までと違い打ち込み主体です。
もちろんギターや印象深いサックスは生なので、その辺りでうまく打ち込み音楽っぽさを中和するようにはミックスしました。少しオーガニックな感じから離れたいという気持ちもあってのアレンジだと思います。アルバムに幅を持たせるという意味でも成功したと思っています。

●ブラス・セクションが効いた「胸騒ぎのシーズン」や3連シャッフルの「雲の柱」のサウンドは、それぞれスタイルは異なるけどソウル・ミュージックのエッセンスに通底している訳ですが、元々ギターポップ・バンドをやっていた近藤君が歌うと新たなニュアンスが生まれる面白さがありますよね。
コンポーザー兼アレンジャーとして、その辺りを引き出すコツはなんでしょうか?

洞澤:そこを言ってくれると嬉しいです。一つは先入観を持たずに曲を作ることですね。近藤君だからこんな曲が合うんじゃないかみたいな考えは、最初のうちはありましたが、それではすぐに行き詰まっちゃいますよね。あえて黒い感じの曲調を作ってみるとかして、後から近藤ナイズしていくみたいなのはアリだと思っていました。 
4曲目の「遠い光」は自分的キラーチューンです。デモを作っている段階で、サビは女性ボーカルをユニゾンで重ねたいなと思っていました。そこで誰に頼もうかと色々考えた末、以前映像系音楽の仕事でご一緒したジャズ・シンガーのRyu Mihoさんを思いつきコンタクトをとったところ快くOKしてくれて。見事にハマって曲のクオリティを何倍にも引き上げてくれました。アルバムの多様化に一躍かってくれたことはいうまでもありません。 

●確かに「遠い光」におけるRyu Mihoさんの存在は大きいですね。近藤君の声と女性ヴォーカリストの声がブレンドすると生まれるマジックがあるような気がします。
またこの曲は楽器編成も絶妙ですが、2本のアコースティック・ギターの音がよく録れていると思いましたが、どんな工夫をしましたか?

洞澤:アコギは2本重ねていますが両方マーティンD-28です。録り方はいつもと一緒ですがアレンジ的にうまく隙間にハマった感じがします。僕もこの録音は気に入っています。
その他「夏、ふわり 」は最初からブラスを聴かせたかったので後の音はわりとシンプルな編成です。この曲はリズムのレゲエビートを元にしているのですが、いわゆる「ズッチャ、ズッチャ」というわかりやすいレゲエ・アレンジにはしたくなかったので、少しヨーロピアンテイストを混ぜて一聴してレゲエ!という風にならないようにしました。
例えばスティングの「Englishman in New York」やドナルドフェイゲンの「I.G.Y」なんかもレゲエビートが根底にあるけれど、言われてみれば!というぐらいしか匂いませんよね。ああいうふうなのがやりたいなと思って。
『BOOKMARC MUSIC』は総括的アルバムで6、7年前の曲とかも入っているので良い悪いは別にしても今の自分の感覚とは多少違ってきている部分もあります。そこで、とにかく”今、感じていること”を表現したいと常に考えていました。しかしながら前作からの流れも大切にしているので新曲といえ、曲によっては違和感ないように曲調を考えたりはしました。
アイディアという面では、前述したEd MottaやMario Biondi、それにGiorgio Tuma、Erik Taggといった新旧含めたアーティストのアルバムを制作中によく聴いてインスピレーションを受けていたので、どこかに影響されているかもしれません。


●前作『BOOKMARC MUSIC』はそれまでの配信シングル曲の集大成的アルバムだったので、本作『BOOKMARC MELODY』とは明らかにアルバム・コンセプトが違いますね。
本作の方がトータル感があると感じました。例えば中間部にあるインストの「Bridge」で「胸騒ぎのシーズン」のコーラスが引用されていたりと、意図的にアルバムのカラーが浮き上がってくるというか。

洞澤:その通りですね。まず制作期間が10曲でだいたい10ヶ月くらいでしょうか。前作のように年を大きく跨いだ作品ではないので自ずと色は決まってきました。アルバム色を出したい思いもあって「Bridge」を作ったり、曲間にこだわったりもしました。

●レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。

近藤:特筆という程のことではないのですが、ボーカル録りに関して言うと、前回よりかなり時間をかけてレコーディングすることが出来ました。
基本的に一度録音したものを持ち帰り、自分なりに何度も聴き直し、より曲を理解した上で本録りに挑む。難しい曲もいくつかありましたが、妥協せずに何度もトライした歌もあります。

洞澤:リズム・レコーディングは6曲を結構な短時間で録り終えたのですが、その時のドラムの足立浩さんと、ベース北村規夫さんの集中力はすごかったです。普通に弾いていたようにみえた北村さんが終わった途端ヘロヘロになったのを見て、「あ、かなり集中していたんだな!」と思いました。
あと自宅で「遠い光」のRyu Mihoさんのユニゾン・コーラスを録音した時は、歌い始めて2秒くらいで「この曲は化けるな!」と思いました。そのくらい素晴らしかったです。

●歌入れで何度もトライしたという曲が気になります。支障がなければ教えて下さい。

近藤:「Flight!」です。完成形は非常にキャッチーで流麗なストリングスも印象的で聴き易いナンバーになりましたが、メロディは起伏に富んでいるのでなかなか苦戦しました。

●前作から参加しているドラムの足立浩さんとベースの北村規夫さんはサポート・ミュージシャンとして、The Bookmarcsには欠かせない存在となっていますが、お二人の最近の活動を教えて下さい。
またRyu Mihoさんについても教えて下さい。

洞澤:足立浩さんはシャンソン歌手のクミコさんや、ミュージカルで活躍されている井上芳雄さんのサポートなどもしています。
北村規夫さんは様々なアーティストサポート、ディナーショーやプロハワイアンバンドのベーシストとしても活躍中です。
Ryu Mihoさんは今までキングレコードから3枚のアルバムを出していますが、ジャズ・シンガーとして都内のジャズクラブで一流ミュージシャンとともに活躍中です。その声質から「TOKYOのため息」と呼ばれています。 



●リリースに合わせたライブ・イベントがあればお知らせ下さい。

近藤:12月15日(土)お昼に「ふるんの小部屋 vol.29」というイベントに出演します。 共演は“月の満ちかけ”さん、“Dinorah! Dinorah!”さんです。 The Bookmarcsは僕らの他、キーボード、コーラスのサポートを迎えお届けする予定です。
また来年になりますが、あらためてレコ発ワンマンライブが出来たらなと思っております。
http://www.strobe-cafe.com/kitasando/schedule/2018/12/201812150.html 

●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。

近藤:ファーストから約1年という短いインターバルでリリースする新作です。前作は配信でリリースしていた既存曲が中心のアルバムでしたので、自分達の中では、ある意味これがファーストアルバム!と言ってしまってもいいくらいの愛着を持っています。
全て書き下ろし、自分達の今のテンションや表現したいことが詰まった作品です。ジャンルに囚われず色んな方に聴いていただきたいので、是非お手にとっていただけたら嬉しいです。

洞澤:この1年で制作しきった渾身の10曲、リアルなThe Bookmarcsを感じてもらいたいです。是非聴いてください! 
(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ



 

2018年11月13日火曜日

『Merry Christmas From The Pen Friend Club』(Penpal Records/PPRD0004)The Pen Friend Clubリリース・インタビュー後編

 
 平川雄一率いるThe Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、本日ニュー・アルバム『Merry Christmas From The Pen Friend Club』をリリースする。 
ここでは平川雄一へのインタビューの前編に続き、後編では、平川以外のペンフレンドクラブ・メンバーへのアンケート形式のインタビューをおおくりする。


 ※写真前列左より→後列左より 
藤本有華(Main Vo,Cho)/ 中川ユミ(Glocken,Per)/ 
大谷英紗子(Sax,Cho) 
ヨーコ(Organ.Piano.Flute)/ 西岡利恵(Ba) 
 祥雲貴行(Dr,Bongo)  

●まずは本作『Merry Christmas From The Pen Friend Club』の前提無しに、各自がイメージしていたクリスマス・ソングを1曲挙げて下さい。


藤本有華:「All I Want For Christmas Is You」 とにかく大好きな曲で、車通勤していた頃は毎年車内で熱唱していました。笑  


中川ユミ:ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」 厳密にはクリスマスの曲ではないけれどこの曲です。

クリスマスの時期になると街やお店でこの曲が流れていることが多いので、小さい頃におもちゃ屋さんでクリスマスプレゼントをワクワクしながら選んでいたときの事を思い出します。

大谷英紗子:「All I Want For Christmas Is You(恋人たちのクリスマス)」ですね。


ヨーコ:「Saw Mommy Kissing Santa Claus(ママがサンタにキッスした)」 好きなクリスマス・ソングはこの曲で、私のiPodには色んなアレンジ、パターンのこの曲が数曲入っています。なので、クリスマス・アルバムを作るという話を聴いた時はこの曲が入ればいいなぁとぼんやり思っていました。  


西岡利恵: 元々は、クリスマス・ソングをあまり家で聴いたりしてなかったので特にはないんですけど、街中で流れる童謡のクリスマス・ソングは好きでした。題名も分からず聴いていました。


リカ:「All I Want For Christmas Is You(恋人たちのクリスマス)」 やっぱりマライアのこの曲でしょうか。

クリスマスの時期はテレビでもラジオでも街中でもとにかく当たり前のように流れるので、個人的には特別好きとか嫌いとかも感じないくらいなんとなく聴き流していました。
でも去年くらいにシャッフルのリズムを勉強しようと思ってネットをウロウロしていたら例題曲としてこの曲の動画が貼ってあるページがあって。初めてイヤホンを通して丸々一曲聴いたら、「なんていい曲なんだ!!」と衝撃が走って、今まで何を聴いていたんだろうって反省しました。(笑)今ではとても大好きな曲です。 なので、今回のアルバムにこの曲が入ると聞いてとっても嬉しかったです。

祥雲貴行:「We Wish You A Merry Christmas」です。




●クリスマス・アルバムを制作するという案が初めて出た時の率直な感想を。
 


藤本:初めて聞いた時はまだ4thアルバムの製作中だったと思うのですけど・・・。 「All I Want For Christmas Is You」も候補に入っていたので「わー!嬉しい~~!!」とかなり興奮したものの、「いや、まだ目の前のアルバムすら録ってないのよ落ち着け私…」とすぐに我に返っていたと思います。 

その後延期になり、5thを録っている頃に正式に決まったと記憶していますが、そのときは嬉しさ反面、次のレコーディングまで期間も無く、5thのレコーディングが終わっても休む時間はないなと、でも頑張ろうと腹をくくった感じでした。

中川:4年前に私がこのバンドに加入した頃からずっと、リーダーは「次はクリスマス・アルバムにする!」と言い続けていたものの、諸事情でなかなか実現できずにいたので正直あまり覚えていません。(笑) 

でも、絶対に楽しいアルバムになると思いました。

大谷:想像できずにただ頷いていた気がします。ただ私の中でクリスマス・アルバムのイメージはマライア・キャリーのアルバムをずっと聴いていて、そのイメージが強くあったので、完成形など想像できませんでした。


ヨーコ:初めて聞いた時はステキだな!と思いました。それ以降は常々クリスマス・アルバムを作りたいと言っていたので驚きませんでしたが思っていたより早く時期がきたな、とは思いました。

勝手にまだまだ先のことだろうなぁと思い込んでいたので。

西岡:初めて聞いたのは確か第1期の頃で、だいぶ前なのでよく覚えていないです。その頃から平川はいずれクリスマス・アルバムを作りたいという話を時々していて、作ったらどんな感じになるのかなって、まだ実感はなかったけど楽しみでした。


リカ:単純に、素敵だなぁ!と思いました。 初めてその事を聞いたのが、私がペンクラのリハに初めて参加した時でした。

まだ自分がバンドに加入するのかどうかも未確定だと思っていたので、そのアルバムにコーラスで参加して欲しいと言われた時はかなりビックリしました。CDの発売とかレコーディングとか、その時の自分にとっては別次元の話過ぎて…まだ夢の中のような、他人事のような気分だった気がします。
余談ですが…そのリハの時、有華さんがキー確認の為に「Last Christmas」を先生(平川,以下同じ)のアコギ伴奏で歌われていて。
なんて素敵な歌声なんだろう!って、つい目をつぶってウットリ聴き惚れてしまったのを覚えています。

祥雲:またレコーディングするのかよ(笑)と思いました。コンセプトは面白いなと思いましたけど。


 

●レコーディング中で最も印象に残っている曲を挙げ、その時のエピソードを語って下さい。 


藤本:一番は最後の最後に録った、「All I Want For Christmas Is You」の中間部の掛け合いコーラスの「ウ~」かな。

この一言だけ録り忘れてしまって、初めてレコーディングスタジオで後日録りました。いつもは練習スタジオで、メンバーや先生の顔が見えるところで録っているのですけど、レコーディングスタジオだと他の人たちの顔が見えなくて、歌いにくさを感じました。歌詞も無い「ウ~」だけだったのにです…。そしてそれが今回3度目の「レコーディング終了」でした。「4度目もあるかも」と内心思っていましたけどね。笑

中川:ダーレン・ラヴの「Christmas(Baby Please Come Home)」です。リーダーの「パンツまっ茶っ茶な感じで」という謎な要求にも的確に応えられる藤本さんの圧倒的な表現力に、横で聴いていてゾクゾクしました。


大谷:やはり自分の他のフィールドでの仲間をレコーディングに呼んで録った「Silent Night」が印象的です。

レコーディングの難しさと、自分の編曲のもどかしさと、サクソフォーンのよさがうまく伝わるか、ただただ不安の中でのレコーディングでした。でも、気の知れたクラシックでの仲間がペンクラ・メンバーと話していたりスタジオにいることが私にとっては不思議な空間でした。
私に関わってくれている人たちが音楽を通して繋がることに幸せを感じました。

ヨーコ:今回は特に無いな…と思っていましたが、ありました! 「Christmas (Please Baby Come Home)」です。実はこの曲、ラストの一番盛り上がる、一番大事なピアノのフレーズを録り忘れていて、最後の最後にレコーディングしました。

普段ペンクラでやるような曲は全く聴かない私ですが、この曲は毎年クリスマスの時期には必ず聴いています。それなのにこの大事なフレーズを忘れるなんて!改めて聴き込んで弾きましたが、弾いてみて素晴らしさを実感し、より一層好きになりました。弾いていてこんなにも楽しくテンションが上がり、高揚感を感じる曲はなかなかありません。

西岡:オリジナル曲の「Christmas Delights」は最初に聴いた時から徐々に印象が変わっていって、カンケさんに編曲して頂いたり、完成していくのが楽しかったです。

すごく難しかったですけど、弾いていても楽しい曲でした。  

リカ:私は結構みんなのレコーディング風景をたくさん見る事が出来たので、みんなの頑張っている姿全てが感激でした。

自分に関して言えば、今回はコーラスとして参加させてもらいましたが、人生初のレコーディングでかなり緊張してしまって、ライブより緊張してしまって、歌っている時もずっと動悸が止まらなくて…正直プチパニック状態でした(笑)。自分の不甲斐なさとか、上手く出来ない悔しさで、レコーディング終わってから数日はかなり凹んでいましたね。
1番大変だった曲が「Christmas(Baby Please Come Home)」です。最高音部のコーラス・パートがかなり高くて、全身の力を振り絞って息も絶えだえ歌っていました。 でも出来上がりを聴いてみたら、この曲の世界観を盛り立てることが出来たかなぁと自分でも思えたので、頑張ってよかったと1番思えた曲でもあります。

祥雲:「All I Want For Christmas Is You」。

ドラムのレコーディング初日、13曲目ぐらいに録った曲で肩を痛めながら頑張って録りました。



●リスナー目線で本作の収録曲中最も好きな曲を挙げて下さい。 

藤本:どれも好きだから難しい~~~! 強いて言うなら「All I Want For Christmas Is You」! とにかく好きな曲! 

あとは「Rockin' Around The Christmas Tree」。当初可愛らしい感じで準備していたんですが、レコーディング当日「ロックな感じで!」という先生のオーダーで急遽歌い方変えたんです。それが意外と良くて、はまっています♪ 

 中川:「Frosty The Snowman」が一番好きです。「Do I Love You」の印象的なフレーズが散りばめられていて、何度聴いてもニヤリとしてしまいます。


大谷:「Christmas Delights」ですね。

ヨーコ:「Saw Mommy Kissing Santa Claus(ママがサンタにキッスした)」をした、です。もともと大好きなクリスマス・ソングな上に、ペンクラではお気に入り曲の「How Does It Feel」のアレンジで、今後クリスマス・ソングとして欠かせないこと間違いなしだからです!


西岡:今回のアルバムは、この曲があってあの曲がより引き立つみたいな、全体で1つみたいなイメージがあるんですけど、しいて言えば、こういう曲がクリスマス・アルバムに入っているのっていいなあと思うのが「Silent Night」です。


リカ:うーん、1番難しい質問ですね…。 本当にどの曲も魅力的なんです。日によって好きな曲が変わってくるんですよね。

今の気分だと…ライブで演奏する為に最近聴く回数が増えている「Little Saint Nick」がお気に入りです。跳ねたベースラインがとっても可愛いですよね。シンプルな中に所々アクセントが効いているコード進行も凄く好きです。優しいボーカルやグロッケンの音色もピッタリで何度も聴きたくなる曲です。最も好きな曲だから1曲なんでしょうけど、(挙げたらキリがないですが)「Jingle Bell Rock」も捨てがたくて…。 このアレンジ最高ですね。ロックンロールしていて、可愛げもあって、絶妙なバランスだなぁと。だんだんと疾走感がアップしていって伸びやかに駆け抜けていく感じが好きです。間奏のオルガンとギターでテンションが最高に上がります。

祥雲:「Christmas Delights」です。




●最後に本作『Merry Christmas From The Pen Friend Club』の魅力を挙げてアピールして下さい。

藤本:とにかくとにかく力作です!私も相当頑張りました!クリスマス・ソングの魅力がたっぷり詰まっています☆

そして何よりペンフレンドクラブの魅力が満載です☆ぜひぜひ、まずは1度でも聴いてみてください☆☆ 

中川:誰でも知っているクリスマス・ソングばかりが収録されているので、ペンクラを知らない人でも楽しめるアルバムだと思います。是非クリスマスパーティーのお供にどうぞ。


大谷:ただクリスマス曲を並べているだけに見えて、実はそうではないところ、だと思います。 聴いたときに「ペンクラの音だ!」とわかることが本当に魅力的だと思います。

見え隠れする今までのレパートリーとペンクラにしかできないクリスマス・アルバムになったと思います。だからこそ今まで聴いてくださっていた方々以外の皆様の耳にも届くようになるといいなと願っています!

ヨーコ:誰もが知っている、誰もが大好きなクリスマス・ソングを、先生の素晴らしいアイデアで新鮮な気持ちで聴くことができる、一曲一曲全てに魅力が詰まっているアルバムです。

一曲一曲プレゼントを開けるような気持ちで聴くも良し!アドベントカレンダーのようにクリスマスまで毎日1日一曲ずつ聴くも良し(笑)です。

西岡:クリスマス・ソングは日常的には聴かない人も結構いると思うんですけど、私もそうでしたが、今回出来上がったアルバムは、クリスマスらしい空気を楽しめる季節感と、ペンクラらしい音楽表現とが両立された聴きごたえのあるアルバムだと思うので、色々な聴き方をしていただけたらいいなと思います。


リカ:美しい音が沢山詰まったザ・ペンフレンドクラブらしいクリスマス・アルバムなんじゃないかなぁと思います。ペンクラを知って間もない私が言うのもアレですが。(笑)

私はこのアルバムを聴いていると心が温かくなって、キラキラして、つい笑顔になって、幸せを感じられます。 真冬の雪が降りしきる中、地面に積もった雪を踏みしめながら聴いてお散歩したらどんなに素敵だろうと想像して今から楽しみにしています。重厚に積み重なったメンバーそれぞれの一音一音を楽しんで欲しいので、ぜひイヤホンやヘッドホンでもじっくり聴いてみて欲しいです。聴くたびに新しい発見があるのではと思います。
ペンクラの音楽と一緒に楽しいクリスマスを過ごしてもらえたらとっても嬉しいですし、クリスマス以外でも楽しめると思うので末永く愛聴してもらえたら嬉しいです。 名曲揃いの誰が聴いても楽しめる1枚ですので、ぜひ沢山の方に聴いていただきたいです!

祥雲:伝統的なクリスマス曲がベースになっているけど、ペンフレンドクラブのエッセンスもふんだんにあるので、クリスマスが終わった後でも楽しめてお得だと思います。 

(インタビュー設問作成/編集:ウチタカヒデ)



2018年11月11日日曜日

『Merry Christmas From The Pen Friend Club』(Penpal Records/PPRD0004)The Pen Friend Clubリリース・インタビュー前編


 平川雄一率いるThe Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、11月14日にニュー・アルバム『Merry Christmas From The Pen Friend Club』をリリースする。 
 今年3月の5thアルバム『Garden Of The Pen Friend Club』が記憶に新しく、そのリリース・ペースに驚かされるばかりだが、今回はクリスマス・アルバムというコンセプトで制作されているのが大きなポイントだ。古今東西このコンセプトで制作されたアルバムが数多あるが、その筆頭が『A Christmas Gift for You from Phil Spector』(Philles Records/63年)であることに異論はないだろう。ウォール・オブ・サウンドの創始者フィル・スペクターのフィレス・レコードにおける最高傑作アルバムと言っても過言ではなく、後年このサウンドに影響を受けたミュージシャンは多い筈だ。
 そしてこのペンフレンドクラブの本作もそのフォロワーに違いないが、彼等独自のアイディアを加味して平成最後のクリスマスに日本で制作してくれたことに音楽ファンとして純粋に感謝したい。
 筆者は8月末に平川がほぼ1人で制作したベーシック・トラックに藤本の仮ヴォーカルを入れたラフミックスを初めて聴かせてもらってから、そのアレンジ感覚に唸ってしまった。過去には大滝詠一が『多羅尾伴内楽團 Vol.1』(77年)でおこなった手法だが、昨今の音楽事情で分かり易く言えば「マッシュアップ」ということになるだろう。カバーするスタンダード曲をミュージシャンのセンスや趣向で、全く異なる既存曲のアレンジ・フォーマットでレコーディングするというものだが、当然そのアレンジ・センス次第で原曲を生かしも殺しもするので非常にシビアな手法といえる。全16中15曲がカバー曲で多くがこの手法が施されているので、熱心なポップ・マニアやVANDA読者はオマージュされた曲を探すのも楽しいだろう。

 ここでは前編と後編に分けて、ペンフレンドクラブへおこなったインタビューを掲載する。前編はプロデューサーでリーダーの平川へのインタビュー、後編では前作同様に平川以外のメンバーへのアンケート形式のインタビューとなるのでお楽しみに。



●これまでのペンフレンドクラブの活動スタイルからクリスマス・アルバムをリリースするということを想定出来なかった訳では無いですが、このアイディアはいつ頃から温めていましたか?


平川(以下H):ほぼ活動開始くらいから考えていました。クリスマス曲でもないのにスレイベルを延々打ち鳴らすバンドでしたので(笑)。 グロッケンも頻繁に使用していましたし、普通の曲でもクリスマスっぽい雰囲気はありましたね。なので、クリスマス・アルバム制作というのは自然な発想でした。


●カバー曲15曲を選考した意図を教えて下さい。またそこに至った個人的な思い入れを聞かせて下さい。

H:「クリスマス・アルバム制作は一生に一枚」と決めていたので、やりたい曲を全部入れました。今回は「往年のクリスマス曲とペンフレンドクラブがこれまでやってきたオリジナル曲やカバー曲とのマッシュアップ」というコンセプトなので、どの曲と、どの曲を混ぜるかを考えるのが非常に楽しかったですね。「ホワイトクリスマス」のアレンジはなかなかこんなことする人いないと思います。笑

ロックンロール・アプローチの「ジングルベル・ロック」や「ロッキン・アラウンド・ザ・クリスマスツリー」もいい仕上がりです。こういうことやらせるとうまいですね僕ら。「Let It Snow」は子供の時に観た映画「ダイハード」のエンディングテーマで当時からいい曲だなあと思っていました。
今回のマッシュアップで「Do I Love You」等、レコーディング時に現メンバーが参加していなかった曲をある意味「再録」できたのは、僕の中で大きなことです。




●初めてラフミックスを聴かせてもらった時から、この絶妙なマッシュアップ感覚には脱帽しました。確かに「ホワイトクリスマス」が最も意外なマッシュかも知れない。アレンジ側の原曲を作ったブライアン・ウィルソンもきっと驚くね。
「Frosty the Snowman(雪だるまのフロスティ)」もファーストでカバーされたザ・ロネッツの「Do I Love You」で料理されるとは予想だにできなかった。『A Christmas Gift for You from Phil Spector』(以下A Christmas Gift for You)では「Be My Baby」でやっているんだけど、平成下の日本でそのアイディアを実現させるっていのは、ペンクラの平川君と『THE夜もヒッパレ』のビジーフォー・スペシャルくらいだよ。笑

H:笑。ビジー・フォーといえばベースの西岡利恵は彼らの大ファンなんです。特にモト冬樹には熱い視線を送っているようです。
それはともかくマッシュアップではない曲「恋人たちのクリスマス」やダーレン・ラヴの「クリスマス」、「リトル・セイント・ニック」等は僕らのクリスマス・アルバムに必ず入っていなくてはいけない曲、と思っていましたし、ただただ好きな曲だったので取り上げました。
「恋人たちのクリスマス」は90年代に作られた曲の中で一番素晴らしいと思います。ただマライア・キャリーの原曲は60’sガールズポップ風だったのですが、編曲、演奏(打ち込み)面において不十分だと感じていました。なので、ペンフレンドクラブで本来こうあるべきだというアレンジ、演奏で制作した次第です。


●ニューウェイブ少年だった僕には敵だった笑、ワムの「ラストクリスマス」も意外だったけど、マライアの「恋人たちのクリスマス」まで!と。ラフミックスを聴いた時から驚きで、「ペンクラどこへ行くよ?!」って感じだった、本当に。笑

でもドストライクで直球な選曲でやってこそ、クリスマス・アルバムの醍醐味なのかも知れないと感じましたね。

H:ワム!やマライアはこういう機会でないと出来ないカバーですね。

ダーレン・ラヴの「クリスマス」に関してはペンフレンドクラブが制作してきたウォール・オブ・サウンド・アプローチの曲の中で一つの到達点になったのではないかと思っています。
僕の一人多重録音ではなくメンバーによる四声コーラス「オールド・ラング・ザイン」が非常に気に入っています。途中のデニス・ウィルソン...ではなく藤本有華による語りは最高です。藤本の完璧な英語発音力はこのアルバムの説得力になっていると思います。もちろん歌唱力も。
大谷英紗子による編曲で彼女が属するサックス・カルテット演奏の「サイレント・ナイト」で幕を閉じるわけですが、そのようにしてよかったと思っています。


●やはり『A Christmas Gift for you』がその後のクリスマス・アルバムの指標になっていたのは間違いないんだけど、そのハイライトがダーレンの「Christmas (Baby Please Come Home)」な訳ですよ。それに挑むってのはチャレンジだよね。

唯一のオリジナル曲「Christmas Delights」についても聞かせて下さい。実はこのアルバムで最も好きな曲です。スプリームスの「You Can't Hurry Love」(66年)とストロベリー・スウィッチブレイド の「Since Yesterday」(84年)のいいどこ取りというか、本当にいい曲だと思います。ソングライティングの着想を聞かせて下さい。

H:クリスマス・アルバムにオリジナル曲は1曲だけでよいと思っていました。2曲も3曲も聴き覚えの無い曲などクリスマス・アルバムに必要ありません。なので他の収録カバー曲のどれとも被らない感じにするべく「You Can't Hurry Loveパターン」のリズムを採用しました。元来、僕はこのリズムがそんなに好きではないのです。このリズムの曲で「You Can't Hurry Love」以外に優れた曲を聴いたことがないですし、見渡してみるとよく「レトロな感じ」をやるときに安易に採用されるリズムパターンでもあります。そんなマイナスのイメージを勝手に持っていたので今まで敬遠してきました。ただ「クリスマス・アルバム」という特別な機会でもないと、このリズムの曲を一生作らないだろうなと思い、今回限りのつもりで書きました。

この曲に更に自分の中に無いものを付与するために、そして他の収録曲との差別化を図るために編曲を謎の音楽家・カンケさんにお願いしました。仕上がりはお聴きの通り。功を奏したと思っています。



●リリースに合わせたライブ・イベントがあればお知らせ下さい。

H:2018年12月22日に青山・月見ル君想フでRYUTistを迎えクリスマス・ライブ・パーティーを開催します。

2018年12月22日(土)
@青山・月見ル君想フ
[Add Some Music To Your CHRISTMAS]
開場/午前11:00 
出演:The Pen Friend Club, RYUTist
OA:Quartet Ez
DJ:aco
★チケットぴあにて販売中
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=1849306



●最後に本作の魅力を挙げてアピールして下さい。

H:ジャケ、装丁が非常にいいです。まさにクリスマスプレゼントという感じ。実際にお手に取って見て頂きたいですね。あとTOMMYさんによるライナーノーツが凄いです。是非がんばって読んでください。笑
クリスマス・アルバムというのは王道でベタでなければいけないと思っています。
誰が聴いても楽しめる分かり易いもの、ライト級リスナーのBGMであるべきです。そしてヘビー級リスナーにとってはどこまでも聴き応えのある仕掛け、拘りもまた必要です。
クリスマス・アルバムの金字塔をつくりましたので是非、聴いてください。


以下後編に続く。
(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)



2018年11月7日水曜日

【ガレージバンドの探索・第三回】 『V/A - SIGH CRY DIE』

60年代ガレージを聴いていると、気に入った曲について調べようとしても情報が少なく、バンドの出身地くらいしか分からないこともよくある。
こういう、その時代の一瞬で忘れ去られてしまってもおかしくなかった得体の知れないバンドの音源をコンピレーションに収めたレーベルの功績は偉大だと思う。
この手のコンピに収録されているバンドはシングルのみしか出していない場合が多いのだけれど、アルバムを残していても1、2曲以外は期待外れなことも多く、コンピで聴くのが最適だったりする。但しそんな性質のガレージコンピは大量にあるのでどれを聴こうか迷う。見つけた時にとりあえず買ってみるのも楽しいけれど、せっかくなので好みの内容で手元においておきたい音源が入ったコンピを選んでみようと思い、下調べして購入したのが、Arf! Arf! のサブレーベル Cheep! Cheep!から出ている『Sigh Cry Die』(AACC-098)だった。
2004年にCDのみでリリースされている。


邦題で『ヘタレの花道〜ガレージロック凹編』なんてついているような失恋ソングばかりが集められたコンピだそうだ。
個人的にはたまらなくトワイライトな音傾向の名曲多数のコンピだと思っている。憂鬱さの中に淡い光を漂わせるような魅力がたっぷり味わえる。ただ全体を通して聴くと、このCDの注意書きで「WARNING: THIS PRODUCT MAY BE ADDICTIVE AND LEAD TO MENTAL DETERIORATION」と書かれている理由はよく分かる。全29曲。前回記事で書いたThe GentsもシングルB面曲が収録されている。



特に目当てだったのはThe Nomadsというノースカロライナ州マウント・エアリーのバンドで、収録されているのは「How Many Times」というシングル曲。金属的なギターの音にたどたどしく入るドラム、スカスカな演奏。不完全さが生み出す哀愁には無性に感動を覚える。 The Nomads はシングル音源と未発表デモの編集版『From Zero Down』(CRYPT LP 006)も出ていて、LPでも入手したいと思うバンドのひとつ。


この『V/A - SIGH CRY DIE(邦題:ヘタレの花道〜ガレージロック凹編)』には対になるコンピとして、『V/A - PARTY PARTY PARTY(邦題:バカの花道~ガレージロック凸編)』(AACC-097)も同時リリースされている。

【文:西岡利恵(The Pen Friend Club)】

2018年11月3日土曜日

小林しの:『Havfruen nat』(philia records/PHA014)


 15年にファースト・ソロアルバム『Looking for a key』をリリースした女性シンガー・ソングライターの小林しのが、待望のニューシングル『Havfruen nat』を7インチ・アナログシングルで11月18日にリリースする。
 タイトル曲は作曲とアレンジに元melting holidaysで現ポプリのササキアツシが参加し、カップリング曲「雪虫」は06年に筆者が共同プロデュースしたコンピレーション・アルバム『Easy living Vol.1』収録のオリジナルをササキにより新たにリアレンジしたものとなっている。
 両面ともWebVANDA読者が好むソフトロック~MOR系サウンドなのでここで紹介したい。

 彼女のプロフィールについては前回のレビューでも紹介しているが、ギター・ポップ系バンド”harmony hatch(ハーモニー・ハッチ)”のヴォーカリスト兼ソングライターとして99年にデビューし、coa recordsより2枚のアルバムをリリースして02年に解散する。その後ソロへと転身し、多くのコンピレーション・アルバムに楽曲提供した後、16年の『Looking for a key』へと繋がっていく。
 ではこの最新シングル『Havfruen nat』について解説しよう。



 A面「人魚の夜」は、ササキがmelting holidays時代に書いた「morning star lily」という曲に小林が日本語詞を提供したものが原曲となっている。ソフトロックというカテゴライズだけでは括れないソフティな美しいバラードで、複数のキーボードとギターを主体にササキによって構築されたサウンドは、70年代の良質なMORの匂いもする。抑制が効いたクリーン・トーンのリード・ギターはmelting holidaysでササキとバンド仲間だったタサカキミアキのプレイによるものだ。
 またコーラスには小林自身と、Label Producerでthe Sweet Onions、The Bookmarcsのメンバーである近藤健太郎が加わっている。
 カップリングの「雪虫(white night version)」は、原曲のナチュラルなギター・ポップ・アレンジからサイケデリックでドリーミーなサウンドにアダプトしている。間奏のインストルメンツ・パートの展開などStrawberry Switchbladeの「ふたりのイエスタディ (Since Yesterday)」を彷彿とさせる。コーラスには小林の他、ササキとthe Sweet Onionsの高口大輔が参加している。
 ファンタジーで印象的なアルバム・ジャケットに触れておくが、イラストレーションはかみたゆうこ、デザインはいなだゆかりが担当している。

 なお本シングルは、下記のイベント会場にて先行発売され、翌日以降に一部の店舗でのみ扱う予定で一般流通はないとのこと。プレス数は100枚と少ないため、下記のイベント会場で入手するか取り扱い店舗に早期予約することをお勧めする。



【11月のフィリアパーティ vol.2
the Sweet Onions 20th anniversary&小林しの7″release party】
11月17日
【昼の部】@恵比寿天窓Switch 11:30OPEN 12:00START
【夜の部:after party】@茅場町バッテリーパークカフェ18:00OPEN  18:30START
予約問い合わせ先:philiarecords.com/contact/

◎『Havfruen nat』取扱店舗 
ディスクブルーベリー : http://blue-very.com
RECORD SHOP ANDY : http://recordshop-andy.com
モナレコード : http://www.mona-records.com/


(テキスト:ウチタカヒデ


Vacation Three:『One』(TOO YOUNG RECORDS/TYG-VT01)



 男女3人組のアコースティック・トリオ“Vacation Three(ヴァケーション・スリー)”が記念すべきファースト・アルバムを11月7日にリリースする。Vacation Threeは、クルーエル・レコードに所属したギターポップ・バンド“ARCH”のリーダーであったヴォーカル兼ギター、メイン・ソングライターの中村大を中心としたユニットだ。現在彼は海外でも評価が高いニューウェーブ・ファンク・バンド“BANK”と平行してこのユニットで活動しているという。
 彼を支えるメンバーには、過去WebVANDAで紹介したELEKIBASSやFULL SWINGのサポートをはじめ、最近新作シングルを紹介したばかりのWack Wack Rhythm Bandのサックス奏者である仲本興一郎と、同バンドに参加する女性パーカショニストおきょんが加わっている。
 彼等のデモ音源は以前から、元ピチカート・ファイヴでプロデューサーの高浪慶太郎氏のFM番組で特集されるなど、耳の肥えた音楽通には知られていた。
 筆者も昨年初めに十数年来の友人でもある仲本に紹介されて以降、そのサウンドの素晴らしさにいたく共感したのだ。同世代的音楽趣向へのシンパシーなのかも知れないが、ヤング・マーブル・ジャイアンツ~ウィークエンド、エブリシング・バット・ザ・ガール等に通じるネオ・アコースティックと程よい中南米フレイバーがブレンドされたそのサウンドは、聴く者を心地よく包み込むのだ。
 本作は全10曲を収録し、レコーディングはメンバー3人の演奏のみでおこなわれ、ミックスは中村自身が担当している。またマスタリングには中村と元レーベル・メイトで、カヒミ・カリィやPort of Notes等のプロデューサーとしても高名な神田朋樹が迎えられているのも注目だ。




 では筆者が気になった主な収録曲を紹介していこう。
 冒頭の「New Voyage」は、アコースティック・ギター(主にアコースティックなので以下ギター)によるボッサのリズムを基本に、スルドとタンボリムがビートを刻み、ソプラノ・サックスがフリーに絡んでいくという展開で、中村とおきょんの2人によるコーラス、ヴォーカリゼーション、左右のエレキ・ギターとトライアングルやカバサのパターンが実験的だ。
 続く「Sweet Magic」はアップテンポなギター・カッティングとカホンのビートをバックに、中村の爽やかなヴォーカルが蒼い歌詞にマッチしていてギターポップ・ファンにもお勧めである。
 そして本作中白眉の名曲と推したいのが「欲望」である。デモ・ヴァージョンからダイヤモンドの原石であったこの曲には、中村の才能が集約されていると言って過言ではない。ネッド・ドヒニーの「Get It Up For Love(恋は幻)」(『Hard Candy』収録 76年)に通じる非常にクールなブルーアイド・ソウルで、不毛の愛を綴った歌詞との相性も非の打ち所がない完成度なのだ。
 本作のヴァージョンではギターにシンセ・ベース、パンデイロとアゴゴという珍しい組み合わせのリズム・セクションでニュー・アレンジされており、ジャジーなテナーサックス・ソロもこの世界観を更に高めている。筆者的にも今年の個人的ベストソングの1曲に確実に入るだろう。


 「Blue Submarine」はボッサ・ギターにシェイカーとトライアングルいうシンプルなリズム・セクションをバックに中村とおきょんが交互にヴォーカルを取る小曲だが、仲本を加えた3人のコーラスではコール・ポーターの「Night And Day」(32年)が引用されており、嘗てエブリシング・バット・ザ・ガールが同曲をカバーしたのを彷彿とさせてリピートしてしまう。中村とおきょんのハーモニーが美しい「あたらしいうた」もシンプルな編成ながら、中村によるリリカルな歌詞とソングライティングが光っており耳に残る。
 アカペラから始まる「Mirai」からラストの「海のない街」の流れも興味深い。「Mirai」は1分半の小曲ながら凝った構成で、コーラスとメッセージ性のあるブリッジからテナー・ソロへと繋がる。
 全編おきょんがリード・ヴォーカルを取る「海のない街」は、リヴァーブが効いたエレキ・ギターのカッティングとミッドテンポのパーカッション・ループによるバックトラックに前曲からの変奏パート的なコーラスが被さってくる。一夏の思い出を無垢に描いた歌詞が美しく本作のエンディングにピッタリである。
 このレビューを読んで興味を持った音楽ファンは本作を入手すると共に、都内を中心に沖縄や鹿児島にまで遠征するという彼等のライヴを是非体験して欲しい。詳しいスケジュールは下記のオフィシャル・サイトでチェックしよう。
younger than yesterday
http://www.tooyoung-records.com/younger/

(ウチタカヒデ)