The Bookmarcs(ブックマークス)が、昨年10月の『BOOKMARC MUSIC』に続いてセカンド・アルバム『BOOKMARC MELODY』を11月28日にリリースする。
彼等は幅広いフィールドで活躍する作編曲家の洞澤徹と、WebVANDAの対談レビューでもお馴染みのSweet Onionsのヴォーカリスト近藤健太郎が2011年にタッグを組んだ男性2人のユニットだ。
前作はそれまで配信で発表した既存曲のリアレンジ、リミックス・ヴァージョンと新曲3曲をコンプリートした変則的スタイルだったが、本作では全10曲が書き下ろしのオリジナル曲を収録ということで、そのハイペースな創作力に敬服するばかりだ。
前作以上に深化したソングライティングと演奏について、結成前から筆者と交流がある洞澤(作編曲、ギター、プログラミング他)と近藤(作詞、ヴォーカル)の2人に聞いてみた。
●『BOOKMARC MUSIC』から約一年で全曲書き下ろしによるセカンド・アルバムのリリースですが、どのようなペースで曲作りをしていました?
近藤:洞澤さんから新曲のデモが送られてきてから、僕が歌詞をつけて仮歌を録るという流れはファーストから変わらずですが、今年の1月末に早速2曲程新曲が届きました。
ファーストは昨年10月リリースで、その後はプロモーションやイベントで忙しくしていたわけですが、洞澤さんの創作欲がとても高まっていて、新しい曲も瑞々しく新鮮でした。その後、月に2曲くらいのペースで送っていただき、歌詞のない段階で仮歌を録って雰囲気を掴んだり、ミーティングを重ねたりしながら制作していきました。
洞澤:曲作りという面では3月までに骨格となる数曲は書き終えていて(去年作ってあった曲も含め)、あとは、その中心となりうる曲とのバランスを見ながらバリエーションをつける感じでじっくり9月くらいまで曲作りを続けていました。
●ソングライティングが分業ということで曲先の場合、歌詞の世界観を共有するために大事にしていることはなんでしょうか?
近藤:大事にしていることは、歌詞の内容や雰囲気とメロディが調和するように常に心掛けていますが、ちょっと格好良く言ってしまうと、洞澤さんの書くせつなくて綺麗なメロディに呼び起こされて、言葉や物語が浮かび歌詞が生まれているので、とにかく何度もメロディを聴いてイメージを膨らませています。
洞澤:近藤くんへのメロディの伝え方として、今までシンセメロで渡していたのですが今回僕がめちゃくちゃ英語で仮歌を歌って渡した曲が何曲かありました。そこで母音や子音みたいなものを意識して詞も当ててきてほしいなぁという期待も込めて。結果その通りになってうまくいきました。詞の内容に関してはいつも完全に近藤くんにお任せです。
●本作でも前作収録の「I Can Feel It」同様にこれまでのThe Bookmarcsからはイメージ出来なかった曲(「胸騒ぎのシーズン」等)が収録されていますが、ソングライティングやアレンジを多様化させた意図、またのアイディアの源を聞かせて下さい。
洞澤:「胸騒ぎのシーズン」は最初からアルバム1曲を意識して作った曲です。なのでイントロのインパクトには特にこだわりました。イントロの「Baby Love」と聴こえる近藤くんのコーラスがかっこよくハマってすごく満足しています。
ちょっと夏っぽすぎたかなとは思いましたが、秋でも冬でもドライビング・ミュージックとしても楽しんでもらえるんではないでしょうか。
「雲の柱」はThe Bookmarcsの新境地だと思っています。リズムが4つ打ちなのも初めてだし3連というリズムも初めてじゃないかな?
Ed MottaやMario Biondiなどのアルバムを聴きながら骨格が浮かんだのを覚えています。アレンジも今までと違い打ち込み主体です。
もちろんギターや印象深いサックスは生なので、その辺りでうまく打ち込み音楽っぽさを中和するようにはミックスしました。少しオーガニックな感じから離れたいという気持ちもあってのアレンジだと思います。アルバムに幅を持たせるという意味でも成功したと思っています。
●ブラス・セクションが効いた「胸騒ぎのシーズン」や3連シャッフルの「雲の柱」のサウンドは、それぞれスタイルは異なるけどソウル・ミュージックのエッセンスに通底している訳ですが、元々ギターポップ・バンドをやっていた近藤君が歌うと新たなニュアンスが生まれる面白さがありますよね。
コンポーザー兼アレンジャーとして、その辺りを引き出すコツはなんでしょうか?
洞澤:そこを言ってくれると嬉しいです。一つは先入観を持たずに曲を作ることですね。近藤君だからこんな曲が合うんじゃないかみたいな考えは、最初のうちはありましたが、それではすぐに行き詰まっちゃいますよね。あえて黒い感じの曲調を作ってみるとかして、後から近藤ナイズしていくみたいなのはアリだと思っていました。
4曲目の「遠い光」は自分的キラーチューンです。デモを作っている段階で、サビは女性ボーカルをユニゾンで重ねたいなと思っていました。そこで誰に頼もうかと色々考えた末、以前映像系音楽の仕事でご一緒したジャズ・シンガーのRyu Mihoさんを思いつきコンタクトをとったところ快くOKしてくれて。見事にハマって曲のクオリティを何倍にも引き上げてくれました。アルバムの多様化に一躍かってくれたことはいうまでもありません。
●確かに「遠い光」におけるRyu Mihoさんの存在は大きいですね。近藤君の声と女性ヴォーカリストの声がブレンドすると生まれるマジックがあるような気がします。
またこの曲は楽器編成も絶妙ですが、2本のアコースティック・ギターの音がよく録れていると思いましたが、どんな工夫をしましたか?
洞澤:アコギは2本重ねていますが両方マーティンD-28です。録り方はいつもと一緒ですがアレンジ的にうまく隙間にハマった感じがします。僕もこの録音は気に入っています。
その他「夏、ふわり 」は最初からブラスを聴かせたかったので後の音はわりとシンプルな編成です。この曲はリズムのレゲエビートを元にしているのですが、いわゆる「ズッチャ、ズッチャ」というわかりやすいレゲエ・アレンジにはしたくなかったので、少しヨーロピアンテイストを混ぜて一聴してレゲエ!という風にならないようにしました。
例えばスティングの「Englishman in New York」やドナルドフェイゲンの「I.G.Y」なんかもレゲエビートが根底にあるけれど、言われてみれば!というぐらいしか匂いませんよね。ああいうふうなのがやりたいなと思って。
『BOOKMARC MUSIC』は総括的アルバムで6、7年前の曲とかも入っているので良い悪いは別にしても今の自分の感覚とは多少違ってきている部分もあります。そこで、とにかく”今、感じていること”を表現したいと常に考えていました。しかしながら前作からの流れも大切にしているので新曲といえ、曲によっては違和感ないように曲調を考えたりはしました。
アイディアという面では、前述したEd MottaやMario Biondi、それにGiorgio Tuma、Erik Taggといった新旧含めたアーティストのアルバムを制作中によく聴いてインスピレーションを受けていたので、どこかに影響されているかもしれません。
●前作『BOOKMARC MUSIC』はそれまでの配信シングル曲の集大成的アルバムだったので、本作『BOOKMARC MELODY』とは明らかにアルバム・コンセプトが違いますね。
本作の方がトータル感があると感じました。例えば中間部にあるインストの「Bridge」で「胸騒ぎのシーズン」のコーラスが引用されていたりと、意図的にアルバムのカラーが浮き上がってくるというか。
洞澤:その通りですね。まず制作期間が10曲でだいたい10ヶ月くらいでしょうか。前作のように年を大きく跨いだ作品ではないので自ずと色は決まってきました。アルバム色を出したい思いもあって「Bridge」を作ったり、曲間にこだわったりもしました。
●レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
近藤:特筆という程のことではないのですが、ボーカル録りに関して言うと、前回よりかなり時間をかけてレコーディングすることが出来ました。
基本的に一度録音したものを持ち帰り、自分なりに何度も聴き直し、より曲を理解した上で本録りに挑む。難しい曲もいくつかありましたが、妥協せずに何度もトライした歌もあります。
洞澤:リズム・レコーディングは6曲を結構な短時間で録り終えたのですが、その時のドラムの足立浩さんと、ベース北村規夫さんの集中力はすごかったです。普通に弾いていたようにみえた北村さんが終わった途端ヘロヘロになったのを見て、「あ、かなり集中していたんだな!」と思いました。
あと自宅で「遠い光」のRyu Mihoさんのユニゾン・コーラスを録音した時は、歌い始めて2秒くらいで「この曲は化けるな!」と思いました。そのくらい素晴らしかったです。
●歌入れで何度もトライしたという曲が気になります。支障がなければ教えて下さい。
近藤:「Flight!」です。完成形は非常にキャッチーで流麗なストリングスも印象的で聴き易いナンバーになりましたが、メロディは起伏に富んでいるのでなかなか苦戦しました。
●前作から参加しているドラムの足立浩さんとベースの北村規夫さんはサポート・ミュージシャンとして、The Bookmarcsには欠かせない存在となっていますが、お二人の最近の活動を教えて下さい。
またRyu Mihoさんについても教えて下さい。
洞澤:足立浩さんはシャンソン歌手のクミコさんや、ミュージカルで活躍されている井上芳雄さんのサポートなどもしています。
北村規夫さんは様々なアーティストサポート、ディナーショーやプロハワイアンバンドのベーシストとしても活躍中です。
Ryu Mihoさんは今までキングレコードから3枚のアルバムを出していますが、ジャズ・シンガーとして都内のジャズクラブで一流ミュージシャンとともに活躍中です。その声質から「TOKYOのため息」と呼ばれています。
●リリースに合わせたライブ・イベントがあればお知らせ下さい。
近藤:12月15日(土)お昼に「ふるんの小部屋 vol.29」というイベントに出演します。 共演は“月の満ちかけ”さん、“Dinorah! Dinorah!”さんです。 The Bookmarcsは僕らの他、キーボード、コーラスのサポートを迎えお届けする予定です。
また来年になりますが、あらためてレコ発ワンマンライブが出来たらなと思っております。
http://www.strobe-cafe.com/kitasando/schedule/2018/12/201812150.html
●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。
近藤:ファーストから約1年という短いインターバルでリリースする新作です。前作は配信でリリースしていた既存曲が中心のアルバムでしたので、自分達の中では、ある意味これがファーストアルバム!と言ってしまってもいいくらいの愛着を持っています。
全て書き下ろし、自分達の今のテンションや表現したいことが詰まった作品です。ジャンルに囚われず色んな方に聴いていただきたいので、是非お手にとっていただけたら嬉しいです。
洞澤:この1年で制作しきった渾身の10曲、リアルなThe Bookmarcsを感じてもらいたいです。是非聴いてください!
(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)