そんな中で記事投稿のご提案をいただき、この度、光栄にも執筆に参加させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
西岡利恵
トワイライトガレージの名盤と言われる作品で、寂しげな空気感の漂うサイケロックやフォークロックのようでもありながら、限りなくピュアなガレージロックでもある。つたない演奏は心に響く要因のひとつで、その自然発生的に生まれた特有のガレージらしさは味があるといった表現だけでは伝えきれない魅力がある。
The Rising Stormは、マサチューセッツ州アンドーヴァーの名門進学校フィリップス・アカデミーに通う学生バンドだった。
卒業間際の1967年、この『Calm Before…』をプライベート・プレスで500枚制作している。 当初は身近な友人、知人達へ売っていた程度だったようだけれど、メンバーが卒業してそれぞれの道を歩み始める中、一部のマニアの間で徐々に人気が高まり、80年代初頭には$350以上の高値がつくようになる。2016年には$6500支払ったコレクターまでいたらしい。 オリジナル盤は現在でも高額取引されるレアアイテムだけれど、過去にはEVA、STANTON PARK、Arf! Arf!(米マサチューセッツ州ミドルバラで60's ガレージパンクコレクター/ミュージシャンのエリック・リングレンが主宰するレーベル)から、今年の1月にはSundazed Musicから再発されている。
日本ではオールデイズ・レコードの、ジミー益子監修 60’s GARAGE ROCKIN’ OLDAYSシリーズとして4月に紙ジャケCDで復刻している。
収録曲は全12曲。 The Remains、The Rockin' Ramrods 、Wilson Pickettなどのカヴァーや、10代のガレージバンドにしては意外にも、12曲中5曲はオリジナルを収録している。
近年では2016年、結成50周年記念としてオリジナル曲「I'm Coming Home」がPenniman Recordsによってシングルカットされた。60年代のガレージバンドらしいかっこいい曲で、危なっかしさがまたいい。
B面もオリジナル曲「She Loved Me」。
同じく2016年、「Frozen Laughter」は、EFFICIENT SPACE のコンピレーション『SKY GIRL』に収録され、カナダの映画『Allure』にも使用された。彼等らしいトワイライトな雰囲気は、オリジナル、カヴァーに関わらず全編に満ちているのだけれど、特にArthur LeeのバンドLove のカヴァー「A Message To Pretty」はThe Rising Stormの持つ空気と絶妙にマッチしている。静けさの中で鳴り響くハーモニカ、囁くような歌声が切なくてぐっとくる。
そしてボストンのガレージバンドThe Rockin' Ramrods のカヴァー「Bright Lit Blue Skies」。この曲こそトワイライトガレージの最高傑作だと思う。
高度なテクニックでも意図的なアレンジでもない、ただ偶然の重なり合いのような奇跡的な結果で、原曲以上の情感が生み出されている。
そして1999年には、新たなオリジナル曲を含むスタジオ音源と、1981年、1992年のライブからの音源をコンパイルした『Second Wind』(同–AA-083)をリリースして今に至る。
現在もメンバー達はそれぞれ離れた土地で、音楽とは無関係の職を持ちながらも時々集まって The Rising Storm としての活動を続けているという。
(文:西岡利恵 / 編集:ウチタカヒデ)
【西岡利恵・プロフィール】
平川雄一を中心とする60年代中期ウェストコーストロックバンド The Pen Friend Club (ザ・ペンフレンドクラブ)でベースを担当。自身の臨時編成バンドSchultz(シュルツ)ではボーカル、ギターとして活動。音楽性は主に60年代のガレージロックやブリティッシュビートなどの影響を受けている。
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