2018年7月16日月曜日

カンバス:『アイランド』 (Happiness Records/HRBR- 009)


 カンバスは09年に結成された、福岡出身のヴォーカル兼ギターの小川タカシとベース兼コーラスの菱川浩太郎による二人組のポップス・グループだ。
 2013年10月にファースト・アルバム『流星のベクトル』をリリースしてデビューした。同年には7インチ・シングルの「My Sweet Love Song」、翌14年に某タイヤ会社のWebムービーに「ラバー」を書き下ろして好評を得ていた。
 16年にはマイクロスターの佐藤清喜のプロデュースにより、7インチ・アナログ「この街の夜さ (c/w Sunset202)」をリリースして、シティポップ・ファンにも一躍知られるようになる。また本誌ではお馴染みのウワノソラが昨年リリースし、今月4日にアナログ2枚組でも発売した『陽だまり』収録の「遅梅雨のパレード」には、ゲスト・ヴォーカリストとして小川が参加していた。


 そして今月5年振りとなる、セカンド・アルバム『ISLAND(アイランド)』を7月20日にリリースする。
 彼等の魅力は温故知新な音楽知識をベースに小川が紡ぎ出すソングライティングと、特徴的な彼の声質にある。元キリンジでソロ・アーティストに転じた堀込泰行、遡れば小田和正(元オフコース)の系譜ではないだろうか。
 なお本作収録曲の内、シングルとして発表済みの「この街の夜さ」と「Sunset202」以外のレコーディングは、エンジニアの平野栄二のもとスタジオ・ハピネスでおこなわれており、ゲスト・ミュージシャンには流線形やキセルの他、昨年はTHE LAKE MATTHEWSのメンバーとしての活動したセッション・ドラマーの北山ゆう子、シンガー・ソングライターのayU tokiOのサポートで知られるギタリストの大石陽介とキーボーディストの今井カズヤ(「月の満ちかけ」というユニットをやっている)が参加している。

   

 では本作で筆者が気になった主な曲を解説していこう。 タイトル曲の「アイランド」はThe Fifth Avenue Bandに通じるモダンなブルーアイド・ソウル感覚に好感が持てる。イントロのギターリフがシュガーベイブの「SHOW」、ブリッジのピアノの刻みやコーラスのリフレインはトッド・ラングレンの「I Saw The Light」がそれぞれオマージュされていて、ポップス・ファンは思わず嬉しくなるだろう。
 続く「丑三つ時に君想う」は古風で奇妙な歌詞を持つラヴソングで、ホーンを含めたリズムのシンコーペーションなどアレンジの完成度が高く、初期のジェームス・テイラーがセクションと生み出していたグルーヴに近い。ホーン・アレンジはトロンボーンの山田翔一、複数のサックスは高木沙耶がプレイしている。

   

 VANDA読者に最もお勧めなのは既出シングルとして収録された「この街の夜さ」かも知れない。王道のポップス、ソフトロック然としているが、佐藤清喜がプロデュースしているだけあって初期マイクロスターの匂いがする。小川と菱川のコーラス・ワークもこの曲の魅力を引き出しているし、普遍的なメロディ-・センスはモンキーズの「Daydream Believer」を平成日本で蘇らせたようだ。
 この曲の歌詞に「幻想の摩天楼」という一節が出てくるが、続く「惰性」は正にスティーリー・ダンの『The Royal Scam』(76年)を彷彿とさせるファンクネスなサウンドに都会的なシニカルでクールな歌詞が載る。前曲からカラーが一転するのも彼等の引き出しの豊富さの現れ出るが、表現力溢れるギター・ソロには脱帽してしまった。筆者のファースト・インプレッションではこの曲がアルバム中ベストだ。

 引き出しの豊富さという観点から「ハイウェイ」は本作中最も異質なサウンドである。小川のピアノと菱川の生ベース以外はプログラミングで編成されており、80年代初期エレクトロ・ポップとシティポップの融合と言うべきだろうか、桶田知道のソロともセンスが異なっていて面白い。 特にシンセサイザーの音色はシーケンシャル・サーキット社のプロフェット5を意識していて、当時トニー・マンスフィールドが手掛けたネイキッド・アイズを思い起こさせる刹那的ロマンティシズムがたまらない。
 ラストの「SUNSET202」は「この街の夜さ」のカップリング曲だが、こちらも負けていない70年代の良質なソウル・フィールがサウンドに溢れている。洗練されたホーン・アレンジと普遍的なコーラスのリフレインでこの曲の虜になるリスナーは多い筈だ。
 アルバム全体を通して、例えばLampの様に判で押したような個性を主張したグループではないが、聴き飽きさせないソングライティングとアレンジの多様性、ヴォーカリストの声質や表現力によって着実にファンを増やしていけると確信している。興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(テキスト:ウチタカヒデ

0 件のコメント:

コメントを投稿