2001年末に『林哲司全仕事』の作業が終了後、「28」への掲載内容について佐野さんへ連絡することになっていた。そこでポップスを聴きはじめた頃からのファンだった「Bread」と「America」を挙げた。この2グループは日本でも根強い人気がありながら、これまできっちりとまとめられた特集が組まれたことがなかった。彼も「リアルタイマーの視点で是非やるべき」と言ってくれたので、自分の体験をベースにとことん追求してみることにした。
そんなやる気満々で取り掛かろうとしていた折、松生さんから連絡が入った。内容は作詞家・精神科医の北山修さん監修で『POP HEALING MUSIC~ポップスでリラクゼーション』をまとめているので、そこに掲載する<ディスク・コレクション>を頼まれた。それは佐野さんにも入っていたので、お互いの得意分野を優先してダブらないように各自20~30枚程度まとめた。その後、この本が発売された2002年1月に、京都で北山さん主催する「言葉の力」コンサートがあり、松生さんと音友の木村さんがかけつけている。その当日、私はそのコンサートの打ち上げに呼び出され、京都まで出向いた。会場には北山さんはじめ、杉田次郎さんなど当日の出演者も参加されていた。私は単なる飛び入りだったので隅でおとなしくしていたが、主賓の北山さんの配慮でとても楽しい場を共有させていただいた。
こんな寄り道をしてしまったので、佐野さんから指定された2月の締め切りは厳しくなってしまった。慌てて佐野さんに連絡をとると、今回の事情を理解してくれ、「6月発売なので、3月いっぱいにはお願いします」ということになった。ただ、K君が希望していた「Edger Winter」は私経由となるので、「2月中に」とくぎを刺されてしまった。とはいえ、このコラムはEdgarの大ファンであるK君が傑作ソロ『Jasmin Nightdreams(ジャスミンの香り)』を力説したいというものだったので、こちらが請求する前に、即原稿を送ってくれた。
このように心配事がすんなり片付き、まずBreadに取り掛かった。一般にはDavid Gatesをメインに語られており、軽視されがちなGemes Griffinも対等に扱い、加えて優れたプレーヤーであるMike Botts、Larry Knecktelにもきっちりとスポットを当てられるよう資料集めに奔走した。ただ絶対に書きたかったのは、あまり知られていない、サード『Manna(神の糧)』の初回観音開きジャケ(CD化でも紙ジャケは未発売)の紹介だった。
またElectraレーベルのEPは「幼虫」LPは「アゲハ蝶」がプリントされていた仕様にも触れておきたかった。ちなみにこの仕様はいつごろからスタートしたかは定かでないが、1970年頃からは採用されていたようだった。ただ日本では当時の発売元Victor時代は(1972年まで)、「ギターおじさん」のブルー・レーベルで、配給元がPionnerに移動した1973年以降米国にあわせて採用となっている。
そして、彼らのセカンド・ヒット「It’s Don’t Matter To Me」はVictorでの邦題は「関係ないね」だったが、Pionnerに移って「気にしないで」にチェンジしている。まともに研究をされている方からすればどうでもいい話題かもしれないが、このこだわりが自分らしいという想いで一気にまとめた。この「新発見」については佐野さんも「その観察力は鈴木さんらしいね」と評してくれた。
ところでこのコラムを発表後、VANDA読者のとあるブレッド・ファンがH.P.を開設(注1)されている。ある時に彼から「鈴木さんの記事を読んで、立ち上げを決意した」と伺い、やって良かったと実感した。そして彼とはしばらく交流を持ち、1996年に発売されたコンプリート・ベスト『Retrospective』は極東を含むワールド・ツアーにあわせたものだと聞いた。ちなみにこのツアーには日本公演の予定があったらしいが見送りとなり、公演のあった台湾まで遠征したファンもいたという事だった。
その後、2006年10月に私が近隣のコミュニティFMでBread特集(80分前後)組んだ際に、ファン代表として電話インタビューに登場していただいた。補足ながら、番組での彼からのリクエストは「Don’t Tell Me No」(『The Guiter Man』収録)だった。なおこのプログラムは企画・構成・音源調達・DJまで全て私一人で担当したもので、限られたエリアでしか受信できなかった。にもかかわらず、聴取者から大きな反響をよび、放送したFM局自体が評判となったと聞き、誇らしい気分を味わった。
そしてAmericaに移るが、彼等は日本でレコード発売前からその存在を知っており、また「Musrat Love」などではBreadにも通じる雰囲気があり今回まとめるのがベストだと思っていた。また全盛期の1976年武道館公演、それにDan Peek脱退後二人組となった1994年の再来日の大阪公演も見ているので、その軌跡をまとめながら感慨深いものが込み上げてきた。なお1976年の公演ではGerry Beckleyが観客席にOvationのギターを投げ込んでいる。私はその奪い合いになっていたギターの至近距離にいたので、ずっと残念な思いでいたが、今回終演後スタッフが回収に来たという話を聞き、興醒めしてしまった。
さらに1980年中ごろから新作が途絶えた時期の話題では、Janet Jacksonが彼らのお気に入りであることを強調しておきたかった。それは「Someone To Call My Lover」(注2)は「Ventura Highway」をサンプリングしていることは有名だが、「Let's Wait Awhile(急がせないで)」(注3)も「Daisy Jane」によく似たフレーズが使用されている事実からも伺える。またこのコラムをまとめるにあたり、当時しっかり聴けていなかったDan Peekのソロも、K君を通じその音源が入手出来、自分ながら満足いく仕上りになった気がする。
ちなみにこのAmericaもBread同様、コミュニティFMで2007年2月に特集番組を放送している。勿論このプログラムもVANDAに掲載した内容をベースに企画したもので、この特集ではJanet Jacksonとの関連に興味を持たれた方が多かった。
次回は、「29」発行までの経緯と、佐野さんが数年に渡ってすすめていた企画「Soft Rock A To Z」の大改訂版(仮題は「Soft Rock A To Z 2002」)、それに最終的に棚上げとなってしまった「リスナーのための音楽用語辞典」のやりとりなど、曲折の日々について紹介する予定だ。
(注1)福岡在住のN氏による、H.P.“Sound Of Bread”。
(注2)2001年の第8作『All For You』収録曲。アルバムから2枚目(通算44作)のシングルで全米3位、R&B.15位。全英でも11位を記録。
(注3)1996年のサード『Control』収録曲。アルバムから5枚目(通算15作)のシングルで全米2位、R&B.1位。全英でも2位を記録。
(注4)茅ヶ崎辻堂にあるGood Musicを楽しむ音楽カフェ。オーナーはVANDAでもお馴染みの宮治淳一氏。
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