ここでは過去作品についても振り返り語ってもらったので、最近作から彼等のサウンドに触れたファンには興味を持って聴いて欲しい。
(左より榊原香保里、永井祐介、染谷大陽)
●先行で「Fantasy」のMVが公開されていますが、80年代前半の映像を元に榊原さんが編集を担当されていますが、曲の世界観にも絶妙に合っていると思います。
このMV制作はどのようなイメージで作られましたか?
当時の街の雰囲気や若者がすごく良くて、今回の音色にもぴったりですよね。貴重な素材を提供していただきました。
●画質から推測するとマスターは16か8ミリフィルムのようですが、当然デジタルに変換してから編集したんですよね?
榊原:これは8ミリですね。デジタル変換はその方がやってくれました。 自分たちでデジタル変換する場合は両国に専門店があって、いつもそこにお願いしています。
●自分が手掛けた曲はなかなか選べないと思うので、自作曲以外でこのアルバムで印象に残っている曲を各々挙げて、その理由を語って下さい。
染谷:永井の曲は4曲とも初めて聴いた時のキラキラ輝いている感じがどれも等しく印象的です。「あ、すごく良い感じ。早く進めよう」っていう気持ちになりました。
榊原:「Fantasy」です。すごく好きな曲だからです。今回のアルバムの中で一番早くかたちになって、サウンドのイメージも纏まっていた。この曲に連れられてここにいる、という感じがしています。
永井:「車窓」ですかね。理由はLampでしか聴けない音楽になっている、気がするからです。
染谷:この曲は、シコ・ブアルキ、タヴィーニョ・モウラ、フランシス・ハイミ、ミルトン・ナシメントあたりの影響があります。あまり言うとつまらなくなるので、ミュージシャンの名前までに留めておきます。
●以前のライブでも演奏されていた「Fantasy」と「1998」の完成度は甲乙付けがたいです。ところでクレジットを見ると、本作中永井さんの全ての曲で染谷さんはプレイしていませんが、俯瞰的立場でディレクションをしていたのでしょうか?
永井:基本的には僕一人の作業ですけど、途中の音源は共有しているので、その都度アドバイスはもらっていました。一人の作業というのは往々にして視野が狭くなりがちなので、アレンジやプレイ内容など、色んな部分で助けてもらっていますね。
染谷:永井の曲を聴かせてもらえるのは、制作終了まで残り2~3ヶ月という時期なんですけどね...
染谷:意図があったわけではないですが、そうなります。だいたい僕らのアルバムを振り返ると分かりますが、アレンジャーが入る方が珍しいですから。
●WebVANDAという音楽研究サイトの性質上からの質問なのですが、このアルバムの曲作り、またレコーディング中に愛聴していたアルバムを何枚でも挙げて下さい。
染谷:Dori Caymmiの88年のセルフタイトルのアルバム、Marcos Valleの83年のセルフタイトルのアルバム、Beto Guedesの84年の『Viagem Das Mãos』、Chico Buarqueの1987年の『Francisco』、Ivan Linsの87年の『Mãos』、Francis Himeの73年のセルフタイトルのアルバム、Rosa Passosの1stアルバム、Milton Nascimentoの『Notícias do Brasil』です。
永井:期間が長いので難しいですけど、ここ数年好きで聴いているのはマイケル・フランクスの80年代の諸作ですかね。80年の「One Bad Habit」くらいまでは今までも好きでよく聴いていましたが、最近はむしろそれ以降のタイトルの方を好んで聴いています。あと80年代のマルコス・ヴァーリも好きですね。特に83年の「Marcos Valle」はかなりお気に入りのアルバムです。
榊原: Flavio Venturini『Nascente』『O Andarilho』、Prefab Sprout『Steve McQueen』『Swoon』、may.e『私生活』、Sunset Rollercoaster『Jinji Kikko (EP)』、あと、ヴォーカル録音の前にElsa LunghiniとGlenn Medeirosのデュエット「Un Roman d'Amitié」を聴いたりしていました。
●僕は『そよ風アパートメント201』(2003年)のデビューからLampの歩みを見てきたのですが、アルバム毎にそのサウンド・スタイルは進化しているけど、Lampならではの美学があったからこそ、唯一無二の存在になりえたのだと思います。
そこで過去の作品を振り返って、当時を思い出しながら各アルバムについて一言お願いします。(タイトルのリンク先に当時のインタビューまたはレビューを掲載)
1.『そよ風アパートメント201』(03年)
染谷:今となっては、そんなに人にお薦めしたいアルバムではないですけど、当時はとにかく無我夢中で作りました。 メンバー以外の人が関わる初めての共同作業はかなり困難なものでした。
永井:色々と苦い思い出の多いアルバムですね。なぜこんなにも思い通りの音楽が出来ないのか、というその後もずっと続く苦悩の始まりのアルバムです。
2.『恋人へ』(04年)
染谷:永井が一番自己表現にこだわったアルバムかと思います。今でこそ名盤と言う人も多いですが、リリース当時の評判は良くなかった印象です。永井の「ひろがるなみだ」を軸に構成したアルバムでした。
永井:「ひろがるなみだ」を作ることができたのが大きかったと思います。初めて作曲に満足できた曲ですね。
永井:『恋人へ』のセールスが良くなかったこともあり、気合いを入れて作り始めましたが、最後の方は疲れ果て、投げ出してしまったような記憶があります。あと、このアルバムあたりからベースを弾くことの面白さを分かり始めたような気がします。その感じがプレイに出ているように思います。
染谷:誰かに「どんな音楽をやっているの?」と言われて、まず初めにこれを差し出すことはないと思います。ただ、これはこれで色んなところに良さがあると思ってます。
永井:このアルバムで僕がやりたかったことは、冒頭3曲の流れがほぼ全てです。今聴くとそんなに完成度は高くないですけど、初めて自分の思い通りのことができた感じがして満足しました。
あとは完成した「雨降る夜の向こう」を聴いた時に、やっとバンドのオリジナリティが出来てきたような気がしました。
榊原:ファーストからお世話になってきた究体音像製作所を離れ、スタジオで録音をするようになりました。この『ランプ幻想』を出したことで、自分たちは変わっていったと思います。また、このアルバム以降、聴いてくださる方との結びつきが強くなった気がしています。
5.『八月の詩情』(10年)
染谷:これはリリース以来ずっと好きな作品ですね。後悔といえば、最終的な仕上げの部分で音圧を上げすぎたので、やり直せるならそこだけやり直したいです。
永井:アルバムの最後に収録されている「八月の詩情」は録音やアレンジに後悔があるんですけど、自分が作った中では特に気に入っている曲です。ジャケット写真は僕が伊豆の方に旅行に行った時に撮影したものです。
榊原:アルバムの為に録音していた数曲から、夏という季節をテーマに急遽まとめたアルバムですけれど、いい意味でコンパクト、統一感のある良い作品になりました。
6.『東京ユウトピア通信』(11年)
染谷:ちょっと力みすぎたかなと思いますが、僕のピークがここにあると言っても過言ではないかなと思います。作曲家として乗りに乗った時期の作品です。こちらも前作の経験を活かせず、最終的に音圧を上げすぎました。そういう点でこれはレコードの方が良い音で聴けるのではないでしょうか。夢中で作業をしていると段々冷静さを失っていくんですね。
永井:ジャケット含め完成度の高い作品だと思います。
7.『ゆめ』(14年)
染谷:『東京ユウトピア通信』を出し終えて、何を作ろうというほぼゼロの状態から作ったアルバムでした。その分、時間もかかりました。
永井:なんと言っても「さち子」に尽きると思います。この曲は良過ぎて自分のバンドの曲という感覚があまりありません。
榊原:永井の言うとおり、「さち子」は自分たちの曲ではないみたい。それまでの作品から漂う、「これでもかー!」という自我を感じないからでしょうかね。そこは、『彼女の時計』にも繋がっていると思います。
●最後に本作『彼女の時計』の魅力を挙げてアピールして下さい。
染谷:なんでしょうね。Lampの作品が悪いわけがない。良いかどうかは別としてって感じでしょうか。
永井: 今までLampを好きだった人には新鮮に響く音楽だと思いますし、本作から初めて聴いたという人にも良いと思ってもらえる内容になっていると思います。派手さはありませんが間口の広い作品だと思うので是非聴いてもらいたいです。
榊原:メロディーも今までよりずっとシンプルになって、少しもの足りないかもしれませんが、これまでの作品を聴き続けてくださった方には、かえって新鮮に、純粋に、良いと思っていただけるものになったような気がしています。
(インタビュー設問作成/テキスト:ウチタカヒデ)
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