耳の早い音楽ファンならご存じかも知れないが、このバンドは相対性理論の初期中心メンバーでメイン・コンポーザーでもあった真部脩一が昨年1月に結成したプロジェクトで、理論時代からの盟友でドラマーの西浦謙助と、ヴォーカリストとして某アイドル・オーディション出身の齋藤里菜(さいとう りな)が正式メンバーである。
本作のレコーディングにはライヴのサポート・メンバーでもあったルルルルズの奥野大樹(キーボード)とVampilliaのミッチー(ベース)が新たに加わっており、特に奥野はアレンジ面でも貢献している。
アルバム全体的な印象では前作以上にバンドらしさが滲み出てファースト・アルバムを経て肩の力も抜けているとは思うが、そこは一筋縄ではいかない真部ワールドなので聴き込む内に隠し球のようなマジックを垣間見ることができるのだ。
では本作で筆者が気になった収録曲を解説していこう。
冒頭の「会って話そう」は前作での「ホーミング・ユー」のようなインパクトこそないが、ファンク・ミュージックをベースにした齋藤と真部のヴォーカルが掛け合うラヴ・ソングだ。メロディ・ラインはキャッチーながら唯一無二で独特なペンタトニック系スケールが耳に残る。
続くタイトル曲の「充分未来」や「フロンティア」は一聴して往年のギターポップ・ファンにもアピールするサウンドだが、前者には理論時代の「品川ナンバー」(『ハイファイ新書』収録 09年)を彷彿とさせるTR-808系のハンドクラップが飛び道具的に使われ、後者は同じく「さわやか会社員」(『ハイファイ新書』収録)に通じるジョニー・マー経由のハイライフからブラジリアン・サンバに発展させるリズム・センスが真部らしいハイブリッドなセンスといえる。
一方新境地なのが詞曲共に彼等らしくない「春」であり、比較的ストレートなギターポップ・サウンドに不毛の愛が綴られていてアルバムの静かなアクセントになっている。
小曲の「モンド」からラストの「オシャカ」への流れも触れずにいられない。前作での「バックシート・フェアウェル」の位置にある「オシャカ」のプログレッシブな構成は、このバンドが数多溢れている無味乾燥なロック・バンドとは一線を画していることを証明している。
前作同様この『充分未来』も拘り派のロック、ポップス・ファンにお勧め出来る内容であることは間違いないので、興味を持った音楽ファンは入手して聴くべきだろう。
また前作に続きこのリリースを記念した単独公演「充分未来ツアー」が3月におこなわれるので、詳細は下記のリンクからチェックしてほしい。
https://www.syudan.com/news-1
(テキスト:ウチタカヒデ)
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