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2017年10月1日日曜日

ウワノソラ:『陽だまり』(UWAN-003)


2014年にバンド名をタイトルにしたファースト・アルバムでインディーズ・デビューしたウワノソラが、満を持してセカンド・アルバム『陽だまり』を10月11日にリリースする。
サイド・プロジェクトとしては、15年6月にいえもとめぐみと角谷博栄が"ウワノソラ'67"として『Portrait in Rock'n'Roll』、今年5月には桶田知道がソロ・アルバム『丁酉目録』をそれぞれリリースしていたが、バンド本体のニュー・アルバムを待ち望んでいた、ポップ・ファンも多かったと思う。

ミュージックビデオ「チャンネルNo.1」(『丁酉目録』収録)のレビューでも触れたが、桶田が今年の7月末日をもってバンドを脱退し、角谷といえもとの二人だけになってしまったのは残念であるが、基本的なサウンド・アプローチやスタイルに違いは感じられない。
それはプロデュースからアレンジ、エンジニアリングまでを担当する角谷がこのバンドの柱だったからだろう。
いえもとは初の試みとして、角谷と共作で「ときめきのブルー」の作詞に挑戦しており、今後も作詞面でも活躍してくれるかも知れない。
また桶田は置き土産として、初期の名作と言われる「Umbrella Walking」(アイドル・グループNegiccoのメンバーも好きらしい)と「打ち水」(曲は角谷との共作)のソングライティングを手掛けている。
リリース資料の角谷の文によると、この桶田作の「Umbrella Walking」を軸にアルバムは制作されたという。そこからアルバム・タイトルとなる『陽だまり』という架空映画のサントラのコンセプトが練られており、冒頭の「陽だまり -Prelude-」と「俄雨 -Interlude-」、「夕刻-Interlude-」が同じメロディを持つ変奏曲となっているのはそのためだ。

今回のレコーディングに参加した主なミュージシャンは、ファーストとウワノソラ'67の『Portrait in Rock'n'Roll』を通して関わっている面子が多く、キーボードの宮脇翔平、ベースの熊代崇人、バッキング・ヴォーカルとシンセサイザーに深町仰。新たにドラムには木村恵太、アデショナル・ギターとして西本諭史が参加している。
また初の試みとして、「遅梅雨のパレード」にゲストでカンバス(彼等は最近RYUTistの「想い出はプロローグ」にアレンジと演奏で参加していた)の小川タカシがリード・ヴォーカルを取っているのも興味深い。


では主な収録曲の解説しよう。
アルバムは本作のテーマといえる「陽だまり-Prelude-」から静かに始まる。弦楽五重奏の編成にハープと木管を加えたオケにいえもとのスキャットがリードを取る。アルマンド・トロヴァヨーリやピエロ・ピッチオーニなど60年代末期のイタリア映画のサントラを想起させて麗しい。
続く「画家と絵画」は、Love Generationの「Love Is A Rainy Sunday」やButterscotchの「Don't You Know (She Said Hello)」などソフトロックとブルーアイド・ソウルの良さを融合したような曲で、WebVANDA読者に最もお勧めしたい。筆者もファースト・インプレッションでは、本アルバムのベスト・トラックと感じた。
そして「Umbrella Walking」だが、シティポップ然とした曲調ながらTender Leafの「Countryside Beauty」(『TENDER LEAF』収録 82年)などハワイアンAORの匂いもする。Aメロはシュガーベイブもレパートリーにしていた、伊藤銀次の「こぬか雨」(『DEADLY DRIVE』収録 77年)を想起させる音符を詰め込んだ感じが初々しい。
『丁酉目録』のインタビューで作者の桶田も語っているが、ファースト収録の「摩天楼」同様に紆余曲折あったこの曲を角谷がアレンジで手助けしたのがよく理解出来る。



角谷がリード・ヴォーカルを取る「プールサイドにて」は、70年代初期のニューソウル系シャッフルのグルーヴをキープしながら、マイケル・マクドナル加入後のThe Doobie Brothersが持つブルーアイド・ソウルのエッセンスを加味している。角谷のヴォーカルには北園みなみのそれを彷彿とさせる瞬間があり、控えめながらいい味を出しているのだ。横山貴生のアルトサックス・ソロも非常に効果的で曲を演出している。
ラテン・フレイバー漂う「エメラルド日和」は、Aメロはムーンライダーズの「週末の恋人」(『イスタンブール・マンボ』収録 77年)のテイストを醸しつつ、70年代末期のCRUSADERSに通じるラテン・フュージョンのエッセンスも感じさせる。曲の全編で玉田和平による各種ラテン・パーカッションが活躍しているのも聴き逃せない。
続く「パールブリッジを渡ったら」は70年代初期のブラス・ロックとフュージョン・ロックの色が濃く、西本諭史のギター・ソロと横尾昌二郎のトランペット・ソロもそちらのテイストでプレイされている。
アルバム・リリース前に先行でMVが公開された「夏の客船」は、ジノ・ヴァネリの「I Just Wanna Stop」(『Brother to Brother』収録 78年)にも通じるソフティなAOR感覚が漂うサウンドだが、歌詞の世界観は松任谷由実の影響大で、ひと夏の不毛な愛を綴った青春の1ページを現している。理屈抜きに純粋に良い曲である。


「鳥になったようだ」は完全なソフトロック・サウンドで、ブルース・ジョンストンの名作「Disney Girls (1957)」(『Surf's Up』収録 71年)に通じるメロディ感覚やサビのクローズド・ヴォイシングのハーモニーに打ちひしがれるだろう。儚く甘い微睡みが心地よい。
ミナス・サウンドの影響下にある「渚まで」はウワノソラとしては新境地だ。交流があるLamp染谷の作風にも近く、横山貴生のフルート・ソロはベベート(タンバ・トリオ)のそれを想起させる、繊細ながら野性味のあるプレイで聴き応えがある。
ラストの「ときめきのブルー」は、角谷のクラシック・ギターで奏でられるボッサのリズムにいえものとの美しい歌唱が聴く者の心を掴んで離さないだろう。

『Portrait in Rock'n'Roll』やNegiccoに提供した「土曜の夜は」での試みが本作での向上に繋がったのかも知れないが、ファースト・アルバムより数段クオリティが高くなったアレンジやサウンドと、ヴォーカリストとしてのいえもとの表現力は、Lampの『ゆめ』(14年)にも通じる2010年代を代表する「音楽通のためのポップス・アルバム」に仕上がっている。
なお本作は自主制作アルバムなので初回プレス枚数は少ないと予想されるので、興味を持った読者の方は下記のリンクから早急に予約して入手して欲しい。

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