UKロックバンドのジグソーだが、私は『ソフトロック A to Z』でバンドを発掘していく中、ジグソーは美しいメロディとハーモニーを兼ね備え、転調や対位法も取り入れながら、ファルセット中心のリード・ヴォーカルというまさにソフト・ロックの理想の形でアルバムを作っていたので強くプッシュすると、1998年にテイチク、2006年にビクターより、それぞれ彼らの1973~1977年の中核アルバム4枚にベスト盤1枚という5枚編成で、選曲をまかせてくれたので目いっぱいシングルオンリーや未発表曲を収録時間内に押し込んで計10枚のCDをリリースできた。しかし密かに押し込んだ中核は、彼らが1970年と1972年にPhilipsからリリースしていたプログレッシヴな2枚のアルバム『Letherslade Farm』と『Aurora Borealis』をファンに聴いて欲しくて、前者は寸劇混じりなのでセレクトだが、後者は全てばらして入れた。今Discogsで見るとどちらも100ポンド以上の値が付き、ジグソーではこの2枚だけが高額取引盤になっていた。またシングルの中でもB面曲がサイケデリック色の濃い「Tumblin’」だと120ポンドという高額だったりと、11年前に睨んだ見方は間違いなかったなと。それで今回のウルトラヴァイヴでは『Letherslade
Farm+11』は初期音源集付きで完全収録、『Aurora Borealis』は従来の3枚目のアルバムとの2in1として表に出て、ジャケットがリバーシブルになっているので、写真のように「表ジャケット」にも出来る。テイチクの声かけより19年、ようやく希望がかなった訳だ。今回のリイシューで、以前購入した人はまたジグソーかよ…と思わずに、成功はしなかったもののジグソーはプログレ系バンドとデビューして、「Sky High」とは違う世界観のサウンドで、一部のプログレファンには高く評価されていたことを知っていただきたい。この2枚にはそれぞれ1968年、1972年というその当時の未発表トラックを見つけたのでプラスしてあり価値がある。9月リイシューの3枚のもう1枚は、日本で「Sky High」がヒットして今年で40年という記念盤。1枚は「Sky High」が2000年代のリミックスを含めて12テイクも入っているがシングルと、映画用のMain Title、End Titleの3曲は価値がある。「Sky High」が1975年に全米3位、全英9位と大ヒット、その後全米では30位、66位、93位というヒットはあったものの、英米ではワン・ヒット・ワンダーだ。しかし日本では大人気覆面レスラーのミル・マスカラスのテーマ曲に使われたため1977年のオリコン洋楽チャート年間1位など、全世界の中で日本はでのジグソーは飛び切り人気が高く、英米で発売が見送くられた2枚のアルバムが日本のみでリリースされたほど。もちろん未CD化である。その1978年の『Journey Into Space』と1980年の『12 Chapters Of Love』が初めてCD化された。このディスク2は価値がある。
今回のリイシューの話は中村俊夫さんから夏過ぎに緩く話が来たものの、8月になって締め切りまで10日間くらいの超タイトなスケジュールでウルトラヴァイヴから依頼された。内容はこの9月発売の3枚と、11月発売の3枚で、9月発売の方は、『Sky High 40th Annerversary』は当時のミル・マスカラス人気を熟知している鈴木英之さんに依頼、11月には残り3枚がリリースされるが、そこには今までのテイチク、ビクター以降に発見された21テイクのCMジングル集や、未発表曲や未発表サントラ曲などが待ち構えていて、この「3シリーズ」でなんと膨大なジグソーの全音源のリリースが実現できる。こちらも林哲司さんの「If I Have To Go Away」が収録されている『Pieces Of
Magic』は、林哲司さんの本の作った実績がある鈴木さんにおまかせすることにした。選曲はコンプリートにするので、11月発売の3枚もお待ちいただきたい。今回のリイシューは「Sky High」がヒット40周年(これは日本での大ブレイクが1977年なのでそこが起点のようだ…)で、その記念がメインである。中村さんはイギリスまで行って立ち合い、その番組は9月10日にBS・TBSの番組『SONG TO SOUL「スカイ・ハイ」ジグソー』で放送された。曲のほとんどを共作で書いていたクライヴ・スコットが亡くなっていたのが残念だったが、もう一人の曲作者でリード・ヴォーカリストでもあったデス・ダイヤーほかの3名のメンバーが揃いデビュー時からの想い出を語り、長くマネージメントとエクゼクティヴ・プロデューサーを担当したチャス・ピートという最重要人物がみな中心になってコメントした。そして「Sky High」が生まれるまでだが、香港映画「The Man from Hong
Kong」のサントラ盤候補のミュージシャンにフォートップス、トム・ジョーンズ、エンゲルベルト・フンパーディンクと片端から断られ、万策尽き、たった3日で仕上げられるかということでジグソーに白羽の矢が回ってくる。まだヒットのないジグソーはこのチャンスを逃さず、見事、この傑作「Sky High」を書いて採用され、すぐにイギリスの腕利きアレンジャー、ハワード・ヒューソンに最終アレンジが回る。彼は信頼を置くイギリスのレッキング・クルーであるジャズ・ミュージシャン達に翌日にはスコアを回し、ほぼワンテイクでバックのオーケストレーションを仕上げ、ジグソーのメンバーもワンテイクで同時演奏する緊張感に満ちたレコーディングに臨むが、さすがプロ集団、完璧で驚嘆した…などという映画『レッキング・クルー』と同じ光景はイギリスでも同じなんだなと楽しく見ていた。なおハワード・ヒューソンはビートルズの「The Long And Winding Road」のアレンジをするなどまさに超一流アレンジャーである。
まず『Letherslade Farm+11』の紹介だが、この当時のメンバーは5人である。この当時、作曲を一手に受け持っていたキーボードのクライヴ・スコット、後に作曲・作詞を開始、クライヴ・スコットの共作者になり、リード・ヴォーカルも担当するようになるドラムのデス・ダイヤー、そして初期のリード・ヴォーカリストでギタリストのトニー・キャンベル、そしてベースのバーニー・バーナード、サックスのトニー・ブリネルである。そしてこのアルバムからずっと彼らのマネージャーとエグゼクティブ・プロデューサーを務めるチャス・ピートが参加したことも大きい。それまではアマチュアだったジグソーにプロとしての自覚を与えた。メンバーはTVの中で、「モンティ・パイソン以前に寸劇仕立てのさまざまなジャンルの曲をアルバムに収めた。今でもエッジが効いていて面白いね」となかなか自信を持った反応だ。曲目は非常に多いがたくさん挿入されているInterviewとかTap Danceは曲ではなく、読んで字のごとしである。曲になっている部分だけ追っていくとまずはJim Whitney作の「Weaver’s Answers」だ。スコットのキーボードによって盛り上がるブルージーな曲で間奏のサックスからオルガンのソロ、そこにギターが被り事に堂々たる演奏で聴きどころ十分。
外部ライター作で女性の喘ぎ声がフィーチャーされた変わった曲が「Je T’aime/If You Were The Only Girl In The World」 、スコットの自作の「Can I Have This Dance」はピアノの弾き語りの小品、スコット作の「Blow Blow Thou' Winter Wind」は、キーボードを全面に出したこれもブルージーな曲で、「Weaver’s Answers」と同じく間奏のオルガンとギター、サックスのからみが聴きもの。そしてスコットはバッハの「主よ人の望みの喜びよ」をモチーフにしてEL&Pばりのキーボードを効かせた「Jesu Joy Of Man's Desiring」としてアレンジ、中間部には2種類のギターソロを入れ込むなどEL&Pにはないサウンドであり、全体的にビートがあって浮き浮きするようなこのインストはアルバムのハイライトになった。B面にはおふざけの外部ライター作のオールディーズ「Danny」を挟んで、アルバムのハイライトのもう1曲、これは外部ライターのMartin Hallの作品だが「Say Hello To Mrs. Jones」はスコットのピアノとキーボードをバックに歌い上げるノスタルジックな美しいバラードで、レイ・デーヴィスが書きそうな雰囲気も漂う。
「Diesel Dream」は曲ではない部分のクレジットと同じYettey作とあるが、メンバーの共作の意味だ。曲は堂々たるR&Bで、ブルース・ハーブも入り、ギターソロもブルージーで、ヴォーカルも及第点。こんな黒いジグソーを聴ける貴重なヴァージョンだ。この後はスコット作の「Morning」。少し緊張感を漂わせた曲だが、サビでは緊張を解くような工夫が施されている佳作。そしてアルバム最後の「曲」は、スコットの「Seven Fishes」。この曲も哀調が漂うバラード系のロック・ナンバーで、泣くようなギターがいい味を出している。サビは一転して明るめに作られギターの音色など少しサイケデリック。こうして作られたジグソーのファースト・アルバム『Letherslade Farm』は、プログレ&サイケファンに評価された。
このファースト・アルバムより前にジグソーは4枚のシングルをリリースしており、さらにファーストとセカンド・アルバムの間にも3枚のシングルがリリースされ、どのシングルもレア盤ばかりだ。作曲はこの時代は基本的にメンバーのクライヴ・スコット単独なので、スコット以外の時のみ記述する。まず1968年に3枚リリースしているが、デビューはMGMからリリースした「One Way Street」で、このA面はホーンを効かせたAmen Cornerを思わせるラテン風のロック・ナンバーで、中間にアコースティック・ギターを作った美しいブレイク部分を入れ込んできたところにセンスの良さが感じられる。B面の「Then
I Found You」は、オルガンとホーンのバッキングによるポップなロック・ナンバーだ。続くシングルはミュージック・ファクトリーからの「Mr.Job」で、サックスをフィーチャーした軽快なロック・ナンバーで、牧歌的な味わいもあった。作曲はBown-Bannisterという外部ライターを起用している。B面の「A Great Idea」はストレートなEquals風のロック・ナンバーだ。続く「Let Me Go Home」 も同じレーベルからのリリースで、A面はさらにホーンを効かせたパワフルなビート・ナンバーだったが、B面の「Tumblin’」 はジェットマシーンを使い、ギターもシタール風でサイケデリック色が強く、サイケファンの間では名作として大人気のナンバーになった。中古市場でもジグソーのシングルでは最も高い120ポンドで取引されているほど。その次の1968年と最初期の「Baby Jump Back’」はどのリストを捜してもリリースされた形跡がないので未発表曲とみて間違いない。ファルセットのコーラスを少し入れるなどこの当時の曲としてはポップなナンバーだ。1970年に『Letherslade
Farm』がフィリップスからリリースされるが、同年にフォンタナから「Lollipop & Goody Man」のシングルをリリース、ホーンのリフをさらに強調してフィーチャーしたビート・ナンバーで、歌い方もEqualsを意識したかのようなブラック風にしていた。このシングルのB面は「Seven Fishes」で『Letherslade
Farm』からのカットである。この「Lollipop And Goody Man」のシングルもNear
Mintで100ポンドと高額だ。翌1971年には、前述のMGMからの1968年のデビュー・シングル「One Way Street」をフィリップスから再リリースしているが、B面を「Confucious Confusion」に差替えている。このオリエンタルなムードの曲は、何か日本のお祭りの曲を聴いているような不思議な感覚を持ち、オルガンの間奏部分など顕著。このシングルも相当レアのようで、コンディションが悪くて80ポンド、いいと200ポンドという超高額盤である。その次が『Letherslade
Farm』からインストの「Jesu
Joy Of Man's Desiring」をシングル・カット、そのB面が「No Question Asked」だ。1971年になりと、それまでのオルガンとホーン、ギターのロック、サイケデリックのロックバンドから脱却しようと、試行錯誤した時期なので、軽快なサウンドでポップなメロディが印象に残る佳曲に仕上げている。そしてこの年のリリースのシングルのラストが『Aurora Borealis』からの先行シングル「Keeping My Head Above Water」のシングルだが、UK盤のカップリングのみ違っていてアルバム未収録曲の「It’s Nice But It’s
Wrong」が収録された。セカンド・アルバムではスコット単独作はなくなりクライヴ・スコット=デス・ダイヤーの共作になるのだが、この曲はまだスコット単独だ。しかしサウンドは明らかに進歩していてポップで浮き浮きするようなメロディとサウンド、バックにはハープシコードも聴こえ、セカンド・アルバムへ至る変化が感じられる。なおこのA面曲はフィリップスから移籍したBASFからもシングル・カットされているが、確認されたドイツ盤、ポルトガル盤のB面はセカンド・アルバムの「Seven Fishes」に差替えられていて、「It’s Nice But It’s
Wrong」を聴くことはできない。
そして1年置いた1972年にフィリップスからのセカンド・アルバム『Aurora Borealis』をリリースする。クレジットはクライヴ・スコット&デス・ダイヤー共作のスコット=ダイヤーにこのアルバムから統一される。冒頭の「Keeping My Head
Above Water」はヘヴィなロックンロールで、それまでのジグソーサウンドの延長線上に作られた感がある。シングルのリリースは前年の1971年で、イギリスでは前述のアルバム未収録の「It’s Nice But It’s
Wrong」とカップリングでリリースされている。中間部にはきれいなハーモニーを響かせる部分があり、単純なロックナンバーではない。次の「Autumn」は前作とつながるパワフルなイントロと、目いっぱいのファルセットでハモるロックナンバー。「Come With Me」はミディアムのシンプルなポップナンバーだが、コーラス、オーケストラのバックも入り、転調も使って単純な進行では作っていない。「Life Insurance」は1曲丸ごとファルセットのシャウト・ヴォーカルで歌うロックナンバーで、ちょっと声に無理がありハード・ロックにもなっていない。「Sitting On A Bomb」はやタイトルそのものに、タイマーのように刻まれるドラムに合わせてシンプルに歌われるナンバーだが、サビはコーラスも入ってゴージャスに。でもその後に爆発音でおしまい。「When The Sun Is In Your Eyes」は哀調を帯びたミディアムのロックナンバーだが、ハーモニーがあるもののリード・ヴォーカルがファルセットのシャウト・ヴォーカル、しかしハード・ロック的な迫力を感じさせる皆無なので、不思議な印象の曲だ。そしてB面のトップを飾る「What’s My Name」こそ、新生ジグソーを代表する名曲。オーケストラに載せて、巧みな転調で作られた美しいミディアムのバラードで、アルバムのハイライトになった。ジグソーのベスト盤を作っても必ず選ばれる名曲だ。続く「See Me Flying」、この洒落たコード進行とアコースティック・ギターのカッティングが印象に残る佳曲は、開放感があり、従来のジグソーにはない新しい世界を感じさせてくれた。「Freud Fish」はイントロのSE、バッキングの叫び声、電気処理されたリード・ヴォーカルと、サイケデリック・バンドのジグソーの面影を残す曲。しかし基本は哀調を帯びたロックナンバー。「Hanging Around」は明るいホーンからスタートするこの曲は、ハッピーな雰囲気に満ちていて、わくわくさせられる曲だ。今までのジグソーにはなかったサウンドが楽しい。「P-R-R-R Blues」はガヤガヤしたSEをバックに入れ、ホンキートンク風のピアノやボトルネックのギターで愉快に歌われるブルースナンバー。「Ready To Ride」はパワフルなホーンのビートに載せて歌われるソウル風のナンバー。サビに一瞬、静寂のような変化を入れるのがジグソーらしい。この曲が『Aurora Borealis』のラスト・ナンバーだ。そして今回、世界初登場となる1972年の未発表曲が「Standing On My Hand」。収録年からいってBASF用ではなくフィリップスの『Aurora Borealis』用に録音された曲だろう。マイナーのスタートがメジャーに展開、ハーモニーも十分だし、後半の抒情的なピアノソロなど洗練されている。お蔵入りにしたのが惜しい1曲だ。このアルバムのカップリングの2in1はBASFと契約した1973年の『Broken
Hearted』で、この中にはThis is Soft Rockというべき「Summertime Wintertime」や「Have You Heard The
News」という、フィリップス時代には無かった流麗なソフトロックナンバーが登場、クオリティは11月発売の後半の3枚へ毎年上がっていくのだが、もう何度も紹介しているのでパス。
『Sky High & Rare Tracks 40th Anniversary Collection』は先に紹介したようにディスク1は「Sky High」12テイク(価値ありは3テイク)と6曲のシングルオンリーなどはテイチク、ビクターで聴ける。最後の1989年に作られた「Who Do You Think You Are(PWL Mix)」は洋盤コンピにはよく入っていたが、まだ持っていない人にはお得。目玉はディスク2で78年に日本のみリリースの『Journey
Into Space』の10曲は、オリジナルが3曲しかなく、金を前払いしていたリック・ジェラルドが怒ったと伝えられるが、聴いてみるとオリジナルの3曲は焼き直しで出来が悪く、外部ライターの7曲がアコースティックで新鮮で、これはジグソーの狙いの方が上だったが、英米で発売を拒否されこうして日本のみの発売になった。もう1枚の80年リリースの日本のみのアルバム『12 Chapters Of Love』の11曲は2曲がリレコだが他はオリジナル、クオリティは保っており、当時のディスコの影響を受けた曲もあった。このディスク2の曲はテイチク、ビクターでは未収録のものも多いので、このディスク2のために買うべきだ。では11月の未発表トラック満載の3タイトル『I've
Seen The Film,I've Read The Book+CM Tracks』『Sky High+Unreleased』『Pieces Of Magic+Home Before Midnight』をお待ちください。(佐野邦彦)
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