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2017年9月28日木曜日

桶田知道が「チャンネルNo.1」のMVを公開


5月31日にファースト・ソロ・アルバム『丁酉目録(ていゆうもくろく) 』をリリースした元ウワノソラの桶田知道が、同アルバムのリードトラック「チャンネルNo.1」のMVを公開した。
元ウワノソラと紹介したが、本アルバムをリリースしたことで自らが志向するスタイルが明確化し7月末日をもって彼はバンドを脱退し、ソロ活動へ移行することになったのだ。
そのウワノソラもセカンド・アルバム『陽だまり』を10月11日にリリースすることが決定しているので、後日レビューを掲載する予定である。





Cast:Tomomichi Oketa
Director:Keisuke Sugano
Director of Photography:Shunta Ishizuka
Special Effect:Masaki Numata
Special Thanks:Yoshikazu Homura/Tetsuya Yamabe/Kosaku Ando
Produced by:bacter

さてアルバム・リリースから4ヶ月をも経て完成したMVを先行で観させてもらったが、映画界の巨匠スタンリー・キューブリック監督を彷彿とさせるカメラワークとシンメトリーなコンポジションが非常に鮮烈で、観る者の心を掴んで離さない。
監督は菅野圭亮で、これまでもウワノソラの「Umbrella Walking」や「恋するドレス」、ウワノソラ'67の「シェリーに首ったけ」のMVを手掛けている。
 このMVで「チャンネルNo.1」の世界観を堪能し、改めてアルバム『丁酉目録』を聴き直して欲しいと願うばかりだ。

桶田知道:『丁酉目録』(UWAN-002) 桶田知道インタビュー 
「考槃堂商店」オンラインストア

(ウチタカヒデ)

2017年9月27日水曜日

☆Brian Wilson:『The Brian Wilson Anthology』(ワーナー/WPCR17877)


ブライアン・ウィルソン初のレーベルをまたいだベスト盤がリリースされた。アルバム9枚からセレクトされ、プラス未発表の2曲で全18曲という構成だった。最も多くセレクトされたのがファースト・ソロの『Brian Wilson』から4曲で、後半の4枚のアルバムは1曲ずつのみ。なぜかライブ盤の『Live At The Roxy Theater』から2曲入っている。肝心な未発表曲は「Some Sweet Day」で、共作者がアンディ・パレイなので、2000年代前半の録音か。全体的にはホーンを多く使ったハッピーな曲で、印象はオールドタイミーな佳曲。「Run James Run」はあの『Pet Sounds』時代とは無関係の曲で、共作はジョー・トーマス。重ね合うハーモニーを生かしているが、コーラスのミックスがかなり大きく、中間のギターソロは60年代そのもの。歌詞の内容とは異なるアップテンポのハッピーなサウンドの曲で、アルの息子のマットのファルセットが大きくフィーチャーされている。その他、収録曲で僅かに異なる曲が2曲あった。1曲は「Heroes And Villains」で、アルバムではイントロにホーンが被るが、このアルバムでは被らずに歌からすっきり始まる。もう1曲は「Midnight’s Another Day」で、アルバムでは歌の後のピアノのリフレインが1回だが、本CDでは2回入るので7秒長い。この2トラックもコレクターには見逃せない。(佐野邦彦)


2017年9月26日火曜日

島全体が極上ビーチで覆われ、外国人観光客も押し寄せていない手付かずの唯一の楽園が「与論島」だ。息子が行って撮影してきた写真を見ながら紹介しよう。


下の息子が職場の夏休みを使って与論島から帰ってきた。45日、内23日は与論である。与論島は、聖域だった八重山・宮古が外国人観光客の急増などで今までの特別な地位を失いつつある中、残された最後の楽園だ。2年前に奇跡的に自分は車椅子で与論へ行けたのだが、12日では行きたい場所の半分も回れず、行けなかった場所を中心に息子に撮影してもらってきた。さっそくその写真をご覧いただきたい。「ウドノスビーチ」でのシュノーケリングでウミガメ2匹に出会ったという。リーフ内のこういう美しいビーチではウミガメが現れることは経験になく、自分も数えられないほど、深さがないリーフ内でシュノーケリングしたが一度も見たことがない。有名なのは大潮に近い干潮時に海の中に砂浜は現れる「百合が浜」だ。ここは与論一の観光スポットで、カップルや家族連れが多かったとか。自分が行った時は見られなかったが、渡し船の道中でもウミガメが泳いでいるのが見えたそう。そして息子がいわく一番美しいビーチは「アイギビーチ」で、B&Gというダイビングショップの間の前の海なので挨拶しながら行く方がいいらしい。息子が話したショップの店員さんは、神奈川で営業の仕事をしていたが、与論のここへきて、あまりの美しさに移住を決めて4月から働いているとか。朝方はこのビーチでもウミガメが泳いでいるそうで、この環境では移住を決める気持ちが分かるな。寺崎海岸、そして黒花海岸へ行ってどちらかでシュノーケリングをしてきたそうだが、どちらも極上のビーチで、みな言葉を失うほどの美しさらしい。ただし魚は少ないそうだ。他にも「プリシラリゾートヨロン」下の兼母海岸、島の東下からの赤崎海岸も行ってきてくれこれらもみな美しく、2年前にはウミガメの産卵跡を見つけ、沖に沖縄本島が見える「パラダイス・ビーチ」、百合が浜を沖に抱く長い白浜のビーチの一部の「シーマンズ・ビーチ」を見たが、こんな美しいビーチに囲まれた島は他にはない。今の自分はベッドの上でテレビとパソコンを見るだけで、24時間を過ごしているが、息子達に行ってもらって写真とビデオで見せてもらえば十分。自分は動けなくても家族はどこにでも行けてこうしてビジュアルで見せてもらえる。これで自分は幸せである。自分は光熱水費から通販などクレジットカードで払えるものは全てカード払いしてJALのマイルを貯めている。貯めたマイルを、今月に長男が二男に続いて公務員になったのでそのお祝いに、二男には夏休みなど好きに使えということで、長男は二男とすれ違いに今日から函館へ行った。幕末ファンなので五稜郭メイン。2週前は私と同じで花輪和一の「刑務所の中」にハマったので網走へ行って網走監獄見学、そして昔、長男とは大学卒業祝いに一緒に鹿児島・熊本と、薩摩の史跡は一緒に行ったので、3週前はまだ行っていない長州へ行きたいと山口へ行って萩を回り、下関戦争の砲台跡へ行ってきた。長州はかなりショボかったそう。そうして今回、二男が沖縄本島へ渡ってその日に目的の「ポケモンGO!」沖縄限定出現のサニーゴをゲット、安心して自分が徹底的に勧めた与論へ向かう。与論島へ行くには方法は2つ。那覇空港からプロペラ機が1日一往復飛ぶが、フライトは40分と短いが那覇発が13時、与論発145分は真昼間に着くだけ。それでも往復で29000円もかかる。その点、フェリーがあって那覇港から与論港まで沖縄本島を縦断していくので5時間かかるが、2等で片道2820円と安い。一日1便で朝7時発11時半に与論着、帰りは14時発で19時那覇港着なので発着時刻は飛行機と変わらず、値段は1/6だからこれは船が得。到着したらレンタカー、常に軽自動車を借りる。急坂がある場合はリッターカーの場合もあるが、レンタカーで無駄なでかい車を借りる人間の気が知れない。ホテルは常にビジネスクラス。高級リゾートは大金を捨てるバカの筆頭だと思っているし、だいたいホテルや旅館の夕食が嫌い。外食の方が好きなものが美味しく安く食べられるのに、本当に無駄。ただし民宿は生理的にダメ。与論島には全てがコテージで、複数人で借りればリーズナブルな「プリシラリゾートヨロン」があるが、一人で借りると高いので、民宿ではないホテルを捜すと「トイレ風呂共同」が多く、室内についているのは2か所しかなくそこを借りる。朝食付きで6000円くらいなので安いのだが。ここまで書いた息子達にプレゼントした旅行は、往復航空券はマイルなのでタダ、レンタカー、ホテルなどはヒマな自分が予約して代金は親の自分持ちで、まあ本当に「旅行プレゼント」だ。場合によっては分刻みのスケジュール表も付ける。家族旅行・夫婦旅行と30回は計画してきたので、もうツアー・コンダクターみたいになってしまっている。事実、今、お世話になっている訪問リハビリのPTさんのカップルに、先日八重山の最適スケジュールを考えて大成功、月末には私の勧めで八重山へ行ったら宮古へ行かないと話にならないと…という私の勧めに乗ってくれて吉野海岸など重要拠点を回って堪能してもらうことにした。「良かったです。最高でした」と言われればもう至福の喜びだ。息子達にはマイルで10月の3連休に土曜・最終便、月曜・始発便しかマイルの空きがなく、日曜に家族でまだ唯一軍艦島へ行ったことがない二男に「軍艦島上陸プラン」をプレゼントして、9月~10月の5つのJALマイル旅行はひと段落となる。まだ2回分くらいマイル旅行ができるので後は申請待ち。ちなみに軍艦島は、世界遺産登録以降大人気で、飛行機も取れなければ土日の軍艦島の船の予約も取れず、波高が0.5m以上で上陸禁止などの条件が付いているので、払い捨てで無駄でも午前・午後でひとりずつ空いていた別会社の予約を入れた。軍艦島(端島)は、平均月収がサラリーマンの倍、光熱水費に家賃はタダで、本土の炭鉱や、西表島のタコ部屋炭鉱と違って楽園で、住人はずっと住んでいたかったと誰もが語る炭鉱だったのに、隣のやっかいな国は強制労働だけでなく、映画では日本軍が炭坑内を水責めで殺すなどという嘘八百の映画を作っているのだから本当にひどいものだ。2年前に行った対馬じゃ盗んだ仏像を返さないし…。まあ気分の悪い話はここらでやめておこう。

まず川がある八重山の石垣島や西表島には土砂のためこういうビーチは川のない場所に2か所くらいしか存在しない。人気No1の波照間島のニシハマだが、逆にここひとつのみ。竹富島のコンドイビーチも人気があるが、ここも隣のカイジ浜までしかない。黒島、新城島、小浜島もメインは1か所ずつ。これが実は八重山の美しいビーチの数なのだ。その点、川のない宮古島は美しいビーチが多いが、三つの巨大な大橋で5つの島が結ばれたので一体とものとして計算しても、与論級のビーチは9つである。(ただリーフ内まで珊瑚が密集している吉野海岸、新城海岸は宮古島にしかない)私が昔から強くプッシュしている宮古島と石垣島の間に浮かぶ多良間島は、観光客が来ない点では与論以上、ただし極上ビーチは2か所しかない…。一つの島で宮古諸島5島のビーチ以上の極上ビーチを持つ与論島は最強の離島と言っていいだろう。1999年から子供達とは小学生から大学生まで沖縄の八重山に6回、宮古に6回、計12回行って、両諸島の全19の有人島を制覇できた。ところが八重山に最初に行った時の入域観光客数は61万が今は127万、宮古は34万が今は70万。海もイマイチ、観光客だけ多い沖縄本島が嫌で、さらにはるか南西のこの両諸島に通っていたのに、最近は外国人観光客が激増、もう静かな環境が保てなくなったよう。本土からは嫌いな「星野リゾート」など高級リゾートが開発しはじめ目障りでしょうがない。残った最後のパラダイスが、本島の東22㎞に浮かぶ与論島だった。この島の凄さは島に川がないので珊瑚礁が発達し、島の6割がリーフに覆われなんと60ものビーチがある。与論島は、本島が目の前に見えるほどの近さなのに行政区分では鹿児島県の奄美諸島で、一般的な沖縄観光コースから外れているところが幸いだ。年間の観光客数は6万人でプライベート感は十分、しかし島は港区くらいのコンパクトな島ながら人口は6000人と結構多いので、八重山の島々のように300人くらいしか住んでいないと食べるところも限られ、日帰りでないと不便極まりないが、与論島に不便さはない。沖縄返還前までは日本の最南端は「ヨロン」で、子供の頃、「ヨロンへ行こう!」というCMを何度も見た。しかし沖縄が返還され、与論島の観光客数は減り続け、廃墟になってしまったホテルが散見されるのが侘しい。ただ、与論島はこのまま、目を付けないでそっとしておいてほしいものだ。(佐野邦彦)



 


2017年9月24日日曜日

The Bookmarcs:『BOOKMARC MUSIC』  (FLY HIGH RECORDS/ VSCF-1763)      リリース・インタビュー

 昨年紹介した小林しの『Looking for a key』(16年2月)のレーベル・プロデュースやWebVANDAの対談でもお馴染みのミュージシャンの近藤健太郎と、歌謡曲の楽曲提供をはじめ映画やTV番組の劇伴、リラクシングギターのアルバム・リリースなど幅広いフィールドで活躍する作編曲家の洞澤徹によるユニット、
 The Bookmarcs(ブックマークス)が、10月11日に記念すべきファースト・フルアルバム『BOOKMARC MUSIC』をリリースする。
2011年の結成から昨年6月のシングル『追憶の君』までに4タイトルをマイペースに配信リリースしている彼等の魅力が詰まった初のフル・アルバムだけに興味は尽きない。
 因みにThe Bookmarcsは、作編曲とサウンド・プロデュース全般、ギターの演奏を洞澤、作詞とヴォーカルを近藤がそれぞれ担当している。
 ここでは昨年の『追憶の君』に続いて、メンバー二人にこのアルバムについて聞いてみた。



●満を持してのフル・アルバムのリリースですが、これまでの活動を振り返ってみてどうでしたか?

洞澤(以下・洞):配信リリースを中心に着々と積み上げてきた ものがやっとCDというカタチになって、まずは嬉しい気持ちでいっぱいです。 マイペースでしたが濃厚な制作活動だったなと感じます。
最近ではだんだんと手伝っていただける敏腕ミュージシャンも増えてきて、そのぶん音楽の幅も広がってきたように思います。

●手練れのサポート・ミュージシャンが増えてきたのは良い状況ですよね。洞澤君自身も過去にスーツケースローズやダリヤなどにギタリストとしてサポートしていた訳で、自分が依頼する際にも経験が活かされているんじゃないですか?

洞:まさにおっしゃる通りです。自分が要望を伝える側になって、伝え方、表現方法、などサポートをやってきたからこその経験がとても役に立っていることがわかりました。

近藤(以下:近):今までデジタル配信オンリーでリリースを 重ねてきたわけですが、大事に作ってきた楽曲達をより多くの人に届けたいという欲が出てきました。
なんとなく2人の中で、「やっぱりCDを作りたいね」みたいな空気が具現化し、今回無事リリースできたことを嬉しく思っています。

●配信でのリリースが普及してきたとはいえ、やはりCDを持つという所有感は捨てがたいですよね。日本人特有の拘りかも知れませんが。

洞:確かに日本人特有かもしれませんが、個人的には大事にしたい感性だなと思います。




●フル・アルバムに用意した新曲3曲のソングライティングやアレンジについて、これまでの楽曲と意図的に変えた手法やアイデアを聞かせて下さい。

1)「I Can Feel It」
洞:これは僕の鼻歌弾き語りが原型なんですが、サビ頭の部分ができた時点でかなり手応えを感じました。とにかくアルバムのリード曲になるようにリスナー層を幅広く想定してアレンジを考えました。
リズムアレンジはギターのミュートカッティング含めて今までにないテイストになっていると思います。作曲当時、Thundercatやエヂ・モッタをよく聴いていたのでアレンジにはニュアンスがどこかに出ているかもしれません。 

●初めてラフミックスを聴かせてもらった時からイントロのギターがスタックス・ソウル(スティーヴ・クロッパー)していて、挙げてもらったミュージシャン以外にも結構リスペクトされているサウンドだと思います。UKギタポ好きにはスクィーズの「Hourglass」(『Babylon &  On』収録 87年)を彷彿させますよ。
冒頭からThe Bookmarcsの新境地だなと思いました。

洞:ありがとうございます。とても光栄です。変化はこれからも常に続けていくつもりです。

2)「Let Me Love You」
洞:よりAOR感の強いアレンジになりましたが、作曲しているときはそんなに意識はしていなかったです。歌を録音したあたりから猛烈にAOR感を欲するようになって、いろいろ参考音源を聴いているうちにこのアレンジに固まりました。
北村規夫さんの落ち着いたどっしりとしたベースに伊勢賢治さんの甘いサックスセクションが曲のカラーを強めています。

●個人的にも趣味なシカゴ・ソウルを源流とするAORだと思いました。フルートのリフはボズ・スキャッグスのあの曲かとか(笑)。
サポート・ミュージシャンのプレイも的確で完成度が高いです。山下達郎ファンにもアピールしそうですよ。この曲も新境地の域に入りそうです。 

洞:かなり寄せた感はありますが(笑)、個人的にとっても気に入っているアレンジです。達郎さんファンの方々は耳が良いですから、どういうふうに聴こえるか気になるところですね。

3)「Oh Wonder」
近:穏やかなメロディが印象的な曲ですが、サビはわりとキャッチーなので、言葉(歌詞)で曲の流れを明確に変えることが出来ないかなと試行錯誤しました。
「Oh Wonder」というフレーズが頭に浮かんだ瞬間、一気にイメージがまとまり歌詞を書きあげました。大サビは夢の中にいるような少し不思議な世界観ですが、洞澤さんが見事にアレンジしてくれて、曲がドラマチックに仕上がったと思います。

●言われるように穏やかなメロに対してパートの展開が多いからドラマチックに仕上がっています。サウンドの肝はフェンダーローズ系のエレピですかね。従来のThe Bookmarcsサウンドを発展させたというか、スティーヴィー・ワンダーの匂いもするという。

洞:そうですね、フェイザーのかかったフェンダーローズの音が好きでこの曲でもポイントになっていると思います。
たまに、”スティービーを感じる”と言っていただけるのですが、自分の血肉部分になっているのかなと嬉しくなります。


●既存曲の中でもリアレンジ、リミックスされていますが、オリジナル・ヴァージョンの固定観念に悩みませんでしたか?

洞:自分の過去作品を何回か聴いているうちに、やり残したこと、改良すべき点が明白になっていたので方向性という意味ではそんなに苦労はしなかったです。より聴きやすくという方向性でした。
「消えない道」はリズムをもっと強調するバンド路線か、ソフトロック路線で行くのかで悩みましたが後者を選びました。結果、とても満足のいく出来となりました。

●「より聴きやすく」というのは、やはり職業作家である洞澤君の姿勢が出ていると思います。
挙げられた「消えない道」ではコーラス・パートの追加やサウンドに厚みを持たせたことでより黄昏感が出ていますね。その他の曲でリアレンジして成功したなと満足している曲はありますか?

洞:「遥かな場所」はベースとドラムを生に差し替え、それに伴いミックスもやり直したのですが、配信リリースのバージョンより曲の推進力が増して、スムーズに各パートが繋がる感じが出て気に入っています。

●「遥かな場所」はファーストEP『Transparent』(12年)収録の作品なので5年経っている訳ですが、リアレンジとリズム隊が生に差し替わったことですごく新鮮に聴けました。
では今回のレコーディング中で何か特質すべきエピソードを聞かせて下さい。

洞:「I Can Feel It」ではコーラスが多用されていますが、近藤くんと相談しながらいろいろ試しつつ、Bメロのオクターブ重ねは今回初めての試みでハマって楽しかったですね。近藤くんのコーラス・ワークの音色は凄いです。手持ち音源のプリセットにしたいくらい(笑)。

サックスの伊勢賢治さんとは、ネットのやり取りで譜面と、どういう風に演奏して欲しいかのリクエストを伝えて伊勢さんのプライベートスタジオでの録音をお願いしたのですが、あまりに素晴らしくて データが届いたとき小躍りしました。
特に「Transparent」のオブリガートは気持ちよくて聴いてもらいたいポイントの一つです。また伊勢さんは、「Let Me Love You」では当初僕のリクエストになかったフルートとパーカッションまでダビングで入れていただいて感激でした。彼はユーミンのツアー・メンバーでパーカッションから鍵盤までこなすマルチ・プレーヤーです。

ドラムの足立浩さんとベースの北村規夫さんは、前回のシングル「追憶の君」から レコーディングをお願いしているのですが、今回も素晴らしいコンビネーションで楽曲の屋台骨と潤滑油になってもらっています。
お二人のリズムが入ると楽曲がより滑らかに進行するというか。このコンビなしで今回のアルバムは 成り立たなかったと思います。
そして、レコーディングは1年以上前なのですが、アルバムラストを飾る「真紅の魔法」でイントロから響く和田充弘さんの甘いトロンボーンの音色は録音中、まるで他人の曲を聴いているようで酔いしれてしまいました。  

近:今回、既存曲のヴォーカル再録がいくつかあるのですが、これは自ら洞澤さんにもう一度歌いたいと希望を出しました。より曲を理解した上で、今のテンションで、当時自分で書いた歌詞を噛みしめながら歌うことが出来たのは嬉しい経験でした。 コーラスに関しては、いつもお互いアイデアを出しあい歌入れする作業が毎回楽しいです。 

●エピソードに出てきた近藤君のコーラス・ワークやサポート・ミュージシャンによる数々の名演はこのアルバムを聴いてのお楽しみですね。

洞:そうですね、ぜひ実際に聴いていただいて感じ取ってもらえたらと思います。 


●リリースに合わせたライブ・イベントがあればお知らせ下さい。

洞:11/11に北参道ストロボカフェで開催される、philia records presents 「11月のフィリアパーティー」という イベントにオープニングアクトとして出演しますのでぜひ遊びに来て下さい。
http://philiarecords.com/event/ 

近:10/1に東京八重洲にあるとっても素敵なスペース、「ギブソンショールーム」にて、「BOOKMARC MUSIC」レコ発 イベントをおこなう予定です。 極上の音響システムでアルバムの先行試聴、 トークやミニライブを交えた楽しいイベントです。観覧無料なので、日曜の昼下がりふらっと遊びに来ていただけたら嬉しいです。
http://gibsonsr.jp/ 


●では最後にこのファースト・フルアルバム『BOOKMARC MUSIC』のピーアールをお願いします。

洞:ファースト・アルバムにしてベスト・アルバムのような「BOOKMARC MUSIC」ですが、僕的には何と言っても新曲3曲に特に注目してもらいたいです。
全体的には6年間の活動のエキスをぎゅっと凝縮した内容になっていますので、AORやソフトロック・ファンのみならず幅広い方々に聴いてもらいたいです。

近:懐かしくも新しい、透明感溢れる大人のサウンドプロダクションというキャッチーを掲げ、約6年間活動してまいりました。
まさにその言葉がしっくりくるような作品に仕上がったと自負しております。 こだわり丁寧に作り上げた僕達の作品を是非聴いてください。
(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)
 

2017年9月20日水曜日

今年2回目の地球最後の秘境高地を取材したTV番組「秘境ギアナ高地魔の山アウヤンテプイ」を見る。ギアナ高地に惚れ込み30年間特番を見続けている。前にも書いたが詳しい資料と共に徹底紹介しよう。


今年になって「ここ3年、取材がなかった私の永遠の憧れの地、ギアナ高地の取材番組が先日NHKBSプレミアムで、「桐谷健太 天空の秘境ギアナ高地に挑む」として放送された。」と視聴記を書いたが、9月17日に今度はBSテレビ朝日で「秘境ギアナ高地魔の山アウヤンテプイ」が写真家の寺沢孝毅の取材で2時間枠でたっぷり放送された。本放送は2016年だったので見逃していたとい大失策、取材の舞台はアウヤンテプイである。世界最高の高さ979mの滝のエンジェル・フォールは、どのテーブル・マウンテンの滝も同じだが、台地の上の川があってそこから落ちているではなく、台地の下の地下水脈が切れているところから落ちて入るので、エンジェル・フォールも台地の数メートル下の穴から出ており、寺沢はカメラマンであることから命がけでロープで宙づりになって落ち口が見えるように写していた。ただその写真は特に絶景とは言えず、この手はTV放送の中でも何度も登場していたドローン空撮の方が向いているのでは?と一瞬考えたが、ヘリコプターを年何機も墜落させるというギアナ高地を隔絶させる回りを取り囲む1000mの断崖の外へ出たらドローンなどあっという間に気流で墜落してしまうのだろう。個人的にアウヤンテプイが楽しいのは、ここは台地の上が東京23区以上と飛び切り広いだけあって、テーブル・マウンテンの上が緑で覆われ、チュルン川という川も流れていることから、多くの生物に出会えることだ。以前もオポッサムという哺乳類、シギタチョウという鳥がいて驚いたものだが、今回はヘビに出会った。45回も登っているというガイドがヘビを見たのはこれで3回目と言っていたから、昆虫、両生類以外はあまり出会えないようだ。今回はアウヤンテプイ固有種のカエルのテプイラ・エレルカイを発見後、さらに台地の上のカエルはみな茶褐色だが水かきのない緑色のカエルを見つけ新種ではないがクリスタルカエルという珍しい種類で、さらに背中にまだら、褐色の2種のカエルはアウヤンテプイの固有種で、標本見本もないという激レアものだった。TVは2013年のロライマ、2015年のサリサリニャーマの映像が挿入され、画質もいいことから、この2回も特番で放送したのではと惜しまれる。最後はアウヤンテプイ上だが、全テーブル・マウンテン上で最も深い383mというシマ・アオンダという穴(谷)の中腹から流れ出すアオンダの滝の水源調査へ行くのだが、これが困難を極める。崖の上からロープで懸垂下降していくしかないのだが崖に僅かに飛び出た幅1mの第一キャンプで1泊が必要だが、突然の雷雨で全員到着は夜中の2時。そこからさらに下降して高さようやく180mのアオンダの滝の落ち口へ到着する。水が流れ出す横穴の珪岩洞窟の奥へたどっていくが、100m奥で崩落があり水源調査はそこで終わる。洞窟の奥には水の底の藻を食べるために水中でも暮らもるようになったコロギスという昆虫や、不気味なウデムシが見つかった。ガイドはこのアオンダの滝に来た日本人はあなたが初めてだと言っていたが、実は1991年の「ビーグル号探検記」で谷の下まで一気に懸垂下降していた。今回は絶景には特に出会えなかったが、植物も含め生物に多くスポットを当てたのはそれなりに満足できた。次回のギアナ高地の特集にまた期待したい。次は出来る限り初めて行くテーブル・マウンテンの景色を見てみたいものだ。

※ギアナ高地の魅力とは

さてギアナ高地とは何か。こうやってパソコンに文字を入力するだけで胸が躍ってしまう、私の終生、憧れの地、ギアナ高地。地球最後の秘境である。ギアナ高地は、南米ベネズエラ、ブラジルを中心に6各国にまたがる高地帯なのだが、ベネズエラのカナイマ国立公園を中核とするテーブル・マウンテンが林立する地域、いやテーブル・マウンテンそのものをギアナ高地と指すと言っていいだろう。そう、ギアナ高地の魅力はここに100以上点在するテーブル・マウンテンと呼ばれる2000m級の高山群の卓状台地にある。テーブル・マウンテンの名前の由来は、これらの山の四方が切り立った1000m近い断崖に囲まれ、その多くの頂上は平坦で、まるでテーブルのように見えるからなのだが、あまりの高低差に植物や動物が地上と隔絶され、生物の75%以上がここでしか見られない固有種になってしまった。その数は4000を超えるという。しかしこれらのテーブル・マウンテンはそれぞれが地表とは別の生物世界を持っているため、テーブル・マウンテンごと固有種がいる。みなジャングルの奥地にあり、地上から辿りつくのが困難なため、ヘリコプターで卓状台地(テプイ)の上に降りるしかないのだが、平坦に見える台地も実際は亀裂だらけで、探索は困難を極める。そのため、未だ大半が人跡未踏で、実際の固有種の数は想像もつかないという。

約2億年前の地殻変動で湖底にあった台地が隆起し、その後雨によって削られ、固い岩盤のみが残ってこの独特の地形が生まれた。この地はゴンドワナ大陸の分裂の中心軸であり、赤道付近からまったく動いていないため、その当時からの生物がそのまま奇跡的に残ったのである。ゴンドワナ大陸分裂の存在を裏付けるものとして、ギアナ高地特有のステゴレプスという植物がある。この植物が存在するのは他ではアフリカだけで、南米とアフリカが地続きだったことを証明しているのだ。

ただ、卓状台地は赤道直下なので紫外線が強烈で、さらに北東から常に吹きつける貿易風がギアナ高地にぶつかることによって生まれる年間4000mm以上という激しい雨により台地の堆積物は押し流され、生物が生きる環境としては非常に過酷だ。そのため卓状台地では高い樹木がほとんどなく、少ない養分を吸収するため食虫植物が極めて多い。テプイごとに固有種があるというヘリアンフォラというギアナ高地独特の食虫植物が知られているが、モウセンゴケやミミカキグサも多いし、パイナップル科のブロッキニアは葉を筒状にし、中心に貯まる水を酸性にして食虫植物に進化をしていた。ハウァでは卓状台地を黄色に染めるほどの大群落を作る。全体的に多いのは原始的なパイナップル科やランの仲間で、現在の地上を覆う進化した植物であるキク科、イネ科、マメ科の植物は少ない。キク科の植物など、草に進化する前の樹木の姿に留まっている

動物類では昆虫と爬虫類、両生類、ほかは僅かな鳥類と哺乳類がいる程度。(鳥類・哺乳類はエサが少ないので緑がある部分にしかいない。シギタチョウとオポッサム、ハナグマは撮影されている)天敵がいないためカエルは跳ねることができなかったり、水かきがなかったり、原始のまま取り残された。オレオフリネラという小さな跳ねることができない原始カエルが有名だが、ロライマ、クケナン、アウヤンテプイといったテーブル・マウンテンで見つかったこのカエルは、山によって腹の模様が違い、進化から取り残された中でも、気の遠くなるほどの長い時間の中で、微妙な違いが生まれていた。生物が多いアウヤンテプイには、固有種のカエルのテプイラ・エレルカイや、他では見れらない緑のクリスタルカエル、さらに別の模様が違う固有種など4種類が同時に見つかるが、みな水かきがないなど、原始的なカエルだった。サリサリニャーマという巨大穴の中のカエルは、水場がないため。水かきがない代わりに吸盤の付いた長い指があり、水たまりのない中生い茂る植物に張り付くため、独自の進化をしていた。チマンタのカエルも水かきがないが、こちらは背中に卵を産み付け背負って歩く。こういったカエルは他の場所にもいるが、チマンタのカエルは9つほどしか卵がなく、エサが少ないから育つ分だけ生んでいるようだ。卓状台地上では餌が極端に少ないため、バッタの仲間は水中で餌を探すようになり、エラらしきものが作られたカマドウマの仲間、腹に気泡を抱えて水中を歩くコオロギの仲間もいて、こちらは水棲に進化したようだ。アウヤンテプイのコロギス(コオロギとキリギリスのあいの子)は、水中の藻を主食にするため水生に進化してしまった。そして紫外線対策か、体が透明になってしまったゴキブリもいて、まさにワンダーランド。

テーブル・マウンテンが地下水脈によって浸食され大陥没した350m四方の大きな穴が8つも陥没でできた山、サリサリニャーマもあり、穴の底は卓状台地とも隔絶されてしまってさらなる固有種が生まれるという迷宮のような場所もある。

コナン・ドイルはギアナ高地を見て、この頂上台地には恐竜が生き延びているのではと想像し、「ロストワールド」を書いた。真偽の程はかなり怪しいが、ギアナ高地に50年以上住む探険家、アレクサンドロ・ライメは、アウヤンテプイで、1m程度のプレシオザウルスの仲間を見たと証言している。日本ではNHK、TBS、テレビ朝日という、娯楽志向でないテレビ局がギアナ高地を何度も取材して放送しているので、是非エアーチェックしてギアナ高地を見て欲しい。一度見たら、中毒になること間違いなしだ。

●取材したテーブル・マウンテン

・アウヤンテプイ(2500m)…卓状台地が東京23区よりも広いギアナ高地で最大のテプイ。その崖の端から一気に地上まで落ちる滝が有名なエンジェルの滝(現地名はアンヘルの滝)で、落差979mは世界一。あまりの高さに水は途中で霧になり、よって滝つぼがない。エンジェルの滝の空撮、また水量の少ない乾季の時の滝の下からの映像は、ギアナ高地映像の定番だ。このアウヤンテプイを下から歩いて登り、さらに台地を横切ってエンジェルの滝まで縦走したのはNHKの「グレートサミッツ:アウヤンテプイ」だけ。ガイドの話でもまだ3組くらいしか縦走を果たしたチームはないとか。アウヤンテプイは台地の上にもある程度の高低差があり、台地を流れるチュルン川の周りには、頭よりも高い樹木が生い茂り、他のテーブル・マウンテンとは違って緑も水もあるので生物の発見が多い。先のNHKの映像でこの森の中で飛べない鳥、シギダチョウを発見するが、こういった地面を歩く恒温動物を見たのはギアナ高地上で初めてで、嬉しくなった。そして「桐谷健太 天空の秘境ギアナ高地に挑む」ではチュルン川回りの森林で、南米唯一の有袋類である哺乳類のオポッサムが発見される。待望の、初の哺乳類の発見に興奮。かわいい顔の小動物だった。「秘境ギアナ高地魔の山アウヤンテプイ」でカエルは他のテーブル・マウンテンで見つかるオリオフリネラという原始カエルではなく、緑色など4種のカエルも発見できた。みな水かきがなく、ジャンプもできないような原始的なカエルばかりだ。そして45回も登頂したガイドが3回しか見たことがないというヘビもこの番組で発見している。さらにこの番組では途中、エンジェルの滝の発見者であるジミー・エンジェルが自分の乗っていた小型機で台地の上に着陸した場所、そこはギアナ高地に人間が初めて降り立った場所になるため、それを記念してベネズエラ空軍が置いたという石碑を、台地の上で探し出した。ちなみに飛行機はもちろん大破したが、ジミー・エンジェルは一緒に乗っていた妻と共に歩いて生還を果たしている。エンジェルの滝は雨季には水量が増して何本もの滝になるが、その雨季の取材がテレビ朝日の「新ビーグル号探検記」だ。この番組では水量があるのでチュルン川もゴムボートで下流へ向かい、迫力がある。さらにシーマ・アオンダと呼ばれる383mというギアナ高地で最大の大きさの穴(谷?)にロープ1本で下降していったのはこの番組で、その命知らずぶりには脱帽される。穴の底では白い(他ではみな赤)ミミカキグサが発見された。シーマ・アオンダの途中から180mの落差のアオンダの滝が出てくるが、横穴の水源調査は「秘境ギアナ高地魔の山アウヤンテプイ」で100m奥の崩落個所まで行きついている。奥には水生昆虫になってしまったコロギス(コオロギとキリギリスのあいの子)や、ウデムシが生息していた。外観では、アウヤンテプイ台地には100mもの巨石が垂直にピョコンと4つ飛び出ているのだが、その通称「見張り番」や、「摩天楼」と呼ばれる巨石の空撮も見所である。

・ロライマ(2810m)…四方がきれいな垂直な崖、頂上の台地は空撮では見事に平坦なので、そのチーズケーキのような印象的な全景がまさにテーブル・マウンテンなのがこのロライマ。一般の観光客も麓から1拍2日のトレッキング(もちろん相当な体力が必要)で登ることができる。アウヤンテプイと並びギアナ高地取材の定番だ。平坦なので登らずともヘリコプターで直接台地に降り立つこともできる。取材で登山過程を見せないのはヘリを使用。ただし卓状台地は常に雲が沸き立ち、突然の豪雨があるのだが、当然、台地の縁の気流は上昇気流が常にあって悪く、しばしばこれらテーブル・マウンテンの回りでヘリが墜落しているので、完全に安全とは言えない。このロライマを完全縦走したのは「ニュースステーション」のみ。着陸点、登山の到着点とも一面岩で、風雨で浸食され残った岩が奇妙な造形となり地球外の惑星のように見えるのだが、それがまずロライマの見どころのひとつ。そして水晶が地上一面に露出した「水晶の谷」、「The Pit」(穴)とか「EL FOSO」(窪み)とか呼ばれる穴があり、穴の縁の崖を降りると下には水が流れ、水によって侵食された穴の縁がコロッセウムのように残り、上からの光が注ぐと水面の水に反射して実に幻想的な光景となるのだが、この3箇所がロライマの3点セットと言えるだろう。そして必ず岩の上の植物コロニーで、原始カエルのオレオフリネラを見つけている。縦走ではロライマの先の方は崖だらけで、踏破は崖を降り再び登るというザイルを使った登山となっていく。ロライマの本当の見どころは、崖の縁に立ち、遠く他のテーブル・マウンテンを望むというギアナ高地ならでは絶景だ。特に姿形がそっくりなクケナンが見える場所がベストポイントだろう。なお、海外制作でエンターテイメント的色彩も交じっている「探検ロストワールドの世界」では、ロライマ山の洞窟の探検があり、かなりの生物を発見するが、ハナグマの骨があったのには驚かされた。いつの骨なのかは分からないが、哺乳類がいたというのはこの放送を見た時はギアナ高地上での初めての発見だった。

・サリサリニャーマ(1350m)…ギアナ高地取材の主要テーブル・マウンテンのひとつ。ここの台地には大小8個の大穴が開いていて最大のものは穴の直径、深さとも350mもある。この最大の穴に最初に下りたのはNHKの「ギアナ高地巨大穴の謎に迫る」。この時と後の「世界ふしぎ発見」は、ヘリで穴の底のギリギリまで降りてヘリから直接穴の底へと降りられたが、大沢たかおは「天空のロストワールド」で、ヘリの下にロープ1本で吊り下げられ、降りていった。穴の底に着いた時、満面の笑顔で楽しかったという大沢たかおの度胸には脱帽だ。穴の底にはナビア・ヤウアナという花が咲くとその回りの葉も白くなり、花を目立たせるように進化したパイナップル科の草が面白い。穴の中だけの固有種だ。不気味なのはウデムシ。サソリのようだが異常に手が大きく、体もまだらでまさにエイリアン。こんなのが歩いているのだから自分だったらおちおち寝てはいられない。他ではザトウグモと思いきや、ミズカマキリの仲間という足だらけの昆虫もいた。この穴の取材の定番は、穴の縁にあり膨大な種の山を登り、その奥にある洞窟に生息するアブラヨタカのコロニーを見つけること。実はこの種は夜行性のアブラヨタカが夜、飛び立って地上で得た果実の種をここで吐き出しているので、長い年月の間にこんな膨大な数の山になっていたのだ。NHKと「世界ふしぎ発見」ではその近くにある深さ100m、直径150mの穴にも下降するが、NHKはロープで下降、「世界ふしぎ発見」ではヘリを使いロープ1本で吊り下げられ下降する。レポーターの女性、竹内海南江は凄い!ただしこちらの穴には見所はない。

・ネブリナ(3000m)…ギアナ高地の最深部にあり3000mと最高の高度を持つネブリナ山は、ーナ)と呼ばれている。ベネズエラとブラジルの国境の真ん中にあり、貴金属が採れるというので入山が制限され、放送はNHKの「霧の山ネブリナ」のみ。オリノコ川を進み、ジャングルを踏破しながら徐々にネブリナの姿が近づいてきたある日の夜、山で雷鳴が響く。すると昨日渡ったばかりの小川が轟々と流れる大きな濁流になっていた。上流で豪雨があったようだ。このままではまずいと撤退を決めるが戻るに戻れない。途方に暮れていた時に、ダイヤの盗掘人が残したボートを見つけた。木を切って即席のオールを作り、みんなでボートに乗り込んで濁流を下っていく。目の前に次々と現れる倒れた木を乗り越え、あるいはかがんで通り凄し、小さい木はマテチェで切り捨てる。この8時間の川くだりは、全てのギアナ高地取材で最も緊張感があり、まるで映画を見ているかのようだった。その後、3日間の豪雨が続いたことから、取材陣は九死に一生を得たのだった。この後、たどり着いた村にたまたま滞在していたベネズエラ空軍に交渉して、2日間のみという予定でネブリナまでヘリを出してもらう。標高2600m付近に平原を見つけそこに降ろしてもらった関野吉晴はネブリナを精力的に歩き回る。そこはパイナップル科の植物の群落と、様々なラン、食虫植物にびっしりと覆われた緑の台地だった。一見は日本の山と変わらないが、植物相がまったく違う。まさにギアナ高地だ。驚くべきはヤシが群生していたこと。3000mの高山にヤシの木が生えていることは驚くべきことだ。映像では雲の上にヤシの木の群落が映る。目を疑う光景だ。そして常に95%近い湿度があるためヤシの木に苔が生えているのだが、そんなヤシの木は他にはないそうだ。しかし映像はそこで終わる。時間の関係でネブリナの頂上には行けなかったので、これから上にどんな植物や動物がいるのかは分からない。色々海外のサイトでも探してみたが、ネブリナ登頂の映像はなかった。サリサリニャーマ以外、日本人が取材したほとんどのテーブル・マウンテンに登った関野吉晴。是非、彼をチーフに、ネブリナ登頂の番組を作って欲しいものだ。

・チマンタ(2693m)…ここを取材したのは「新世界紀行」だけ。本文中に書いた背中に卵を背負ったカエルの発見と、チマンタヤいうチマンタにしかない巨大な松ぼっくりのような草が印象に残る。このチマンタヤ、昼の強烈な日差しで水分を奪われ、火を点けるとあっと言う間に燃えてしまった。

・クケナン(2650m)…ロライマと一緒にヘリ観光ではこの隣のクケナンにも降りてくれる場合があるようだが、取材したのは「新ビーグル号探検記」。台地の光景もロライマと瓜二つだが、水晶がむき出しの穴があり印象的。オレオフリネラもやはりいた。フジの「グレートジャーニーZ・秘境ギアナ高地聖なる山クケナン」で関野吉晴がクケナンを麓から登頂、初め南北の縦断を目指すが途中に深い亀裂が走り分断されているため、東西の縦断に変更し、初の縦断を果たす。DVDは抜粋版なので出てこないが、本放送ではハナグマの群れの撮影に成功している。

・ワチャマカリ(1700m)…「ニュースステーション」の2回目の放送のみ取材。食虫植物だらけの台地だった。NHKの「地球アドベンチャー冒険者たち 南米ギアナ高地謎の山未知の民」で、関野吉晴が麓から初登頂を果たす。頂上は他のテーブル・マウンテンのようにフラットではなく、緑が茂り川が流れ、その中で一番高い丘を目指して初登頂を果たす。新種と見られるトカゲやカエルを発見した。

・マラワカ(2700m)…ここも「ニュースステーション」の2回目の放送のみ取材。テーブル・マウンテンというより、山塊のようになっている。山の中腹で探索した5mという世界最大の長さ(茎というより蔓)を持つカトレア・マキシムというランが見所。

・ハウァ(?m)…「世界ふしぎ発見!地球最後の秘境!南米ギアナ高地大紀行」のみ取材。ヘリから黄色の花畑に見えたが、着陸すると食虫植物ブロッキニア・ヘクトイデスの大群落だった。黄色く見えたのは葉の色だった。

・イルテプイ(2600m)…「THE世界遺産カナイマ国立公園Ⅱ」のみ取材。岩が多い台地で、植物が生えている台地はモウセンゴケやヘリアンフォラなど食虫植物が散見されたが、あっと言う間に終わってしまった。ナレーションでは3日間の撮影と言っていたが、放送は5分だけ。

・アウタナテプイ(1400m)…木の切り株のような特異な形をしたアウタナは古くから地元民にとって「生命の樹」として崇められた神の山だった。冒険登山家のレオ・ホールディング達はDVD『Autana』で「初登頂の東岸壁を初登攀する。オーバーハングもありロック・クライミングの連続。途中に大きな横穴のアウタナ洞窟があり、そこをベース・キャンプにする。登攀がメインなので頂上は何の調査もない。背の高い食虫植物が群生する頂上だった。

・チュリテプイ(2600m)…チマンタ山塊を構成するテーブル・マウンテンで、空撮では大地の亀裂が多い。大地の下に大きな珪岩洞窟があり、NHKの「桐谷健太 天空の秘境ギアナ高地に挑む」で洞窟探察を行う。硬い珪岩に洞窟ができるのは世界でも珍しく、その原因として洞窟内で新陳代謝で有機酸を出すバチルスというバクテリアを発見、このバクテリアの長い作用で珪岩の隙間に入った水の隙間が大きくなり落下を起こし、洞窟ができたのではいう推測が生まれた。

●ギアナ高地映像リスト
1987年
・新世界紀行:魔の山チマンタ
(TBS/ロケ地:チマンタ/キャスター恵谷治) 映像ソフト①
1987年
・世界の秘境:霧の山ネブリナ
(NHK/ロケ地:ネブリナ/キャスター関野吉晴) 映像ソフト②
1988年
・ニュースステーション4週連続放送
(テレビ朝日/ロケ地:アウヤンテプイ→マラワカ、ワチャマカリ→ロライマ完全縦走/キャスター関野吉晴) 映像ソフト③④⑤
1991年
・新ビーグル号探検記:失われた進化の世界ギアナ高地
(TBS/ロケ地:アウヤンテプイ、クケナン)
1997年
・そそり立つ太古の世界・南米ギアナ高地
(NHK/ロライマ、アウヤンテプイ) 映像ソフト⑥/※A
1997年
・GUAYANA-The Lost World-
(パイオニアLDCソフト/ロケ地:ロライマ。アウヤンテプイは空撮) 映像ソフト⑦

1997年

・グレートジャーニーZ・秘境ギアナ高地聖なる山クケナン

(フジ/ロケ地:クケナン縦走/キャスター関野吉晴)映像ソフト⑩(抜粋)
1999年
・世界遺産:カナイマ国立公園Ⅰ及びⅡ
(TBS/ロケ地:Ⅰ...アウヤンテプイは長いが空撮のみ、Ⅱ...ロライマ) 映像ソフト⑧/※Ⅰ...B、Ⅱ...C
2002年
・NHKスペシャル:ギアナ高地巨大穴の謎に迫る
(NHK/ロケ地:サリサリニャーマ)

2006年
・天空から降る巨大瀑布:ギアナ高地カナイマ国立公園
(NHK/ロケ地:ロライマ、アウヤンテプイ) ※D
2007年
・世界ふしぎ発見:地球最後の秘境ギアナ高地巨大な穴の謎
(TBS/ロケ地:サリサリニャーマ/キャスター竹内海南江)
2007年
・世界ふしぎ発見:南米ギアナ高地大紀行
(TBS/ロケ地:アウヤンテプイ、ロライマ、ハウァ/キャスター竹内海南江)
2008年
・天空のロストワールド
(テレビ朝日/ロケ地:ロライマ、サリサリニャーマ/キャスター大沢たかお) ※E
2009年
・グレートサミッツ:アウヤンテプイ
(NHK/ロケ地:アウヤンテプイ完全縦走) 映像ソフト⑨
2009年
・THE世界遺産:カナイマ国立公園Ⅰ及びⅡ
(TBS/Ⅰ...ロライマ、Ⅱ...サリサリニャーマ、イルテプイ)
2010年
・探検ロストワールドの舞台
(ディスカバリーチャンネル/ロケ地:ロライマ):
2010年
・世界遺産ものがたり:カナイマ国立公園♯51、♯52
(旅チャンネル/ロケ地:アウヤンテプイ) ※F

2012年

・Autana

(Berghaus/ロケ地:アウタナ・テプイ) 映像ソフト⑪

※イギリスを代表する冒険家のレオ・ホールディングによるアウタナ・テプイの登頂の映画。崖のぼりが中心で頂上は少しだけ。

2014年

・地球アドベンチャー冒険者たち 南米ギアナ高地謎の山未知の民

(NHK/ロケ地:ワチャマカリ(初登頂)/キャスター関野吉晴)

2016年

・秘境ギアナ高地魔の山アウヤンテプイ 

(BSテレビ朝日/ロケ地:アウヤンテプイ、ロライマ(2013年)、サリサリニャーマ(2015年)/キャスター寺沢孝毅)

2017年

・桐谷健太 天空の秘境ギアナ高地に挑む

(NHK/ロケ地:アウヤンテプイ、チュリテプイ) ※G

※空撮等で一瞬映ったテーブル・マウンテン
A...アコバンテプイ、カスティーヨ、B...ユルアニテプイ、C...アコバンテプイ、アンガシマテプイ、D..ウェイテプイ、E..アウタナ・テプイ、F..クサリテプイ、G...アコバンテプイ
※その他、NHKで食虫植物だけをターゲットにした『神々の詩:食虫植物南米ギアナ高地』もあり。

参考文献

●写真集

・「ギアナ高地THE LOST WORLD」(関野吉晴)(講談社)…ため息が出るほど素晴らしい写真ばかりで、バイブル的存在。ギアナ高地の山々から、植物、生物まで充実している。エンゼルフォール、アウヤンテプイ、ロライマ、ネブリナの4章で構成されている。

・「Lost Worlds of the Guiana Highlands」(Stewart McPherson)(Redfern)…唯一の洋書だが、頂上大地の景色が素晴らしく、そこの植物、生物の写真、特に群生する食虫植などはファンはたまらない。、アウヤンテプイ、ロライマ、クケナンの写真が多く、ネブリナや遠景では珍しいテプイの写真が多い。上記の本と合わせて必携。

・「ギアナ高地巨大穴の謎に迫る」(早川正宏、チャールズ・ブリュワー=カリアス)(NHK出版)…同名のNHK番組の写真集版。サリサリニャーマは上記本にはないのでこの2冊でほぼ完璧。写真は映像からおこしたものは少し荒い。

●  書籍

・「ネブリナ山探検紀行」(関野吉晴、NHK取材班)(日本放送出版協会)…NHK「霧の山ネブリナ」で語りきれなかった詳細が分かり読み応えがある。

・「ギアナ高地を行く」(恵谷治)(徳間書店)…ギアナ高地に憧れ続けた本人の思いとテレビ取材の裏側が面白い。チマンタ行きは不本意だったとは。

・「とにかく、しつこくアマゾンネブリナ」(敷島悦郎)(講談社)…ネブリナに憧れて単身ブラジルに向かい、現地の人間と格闘する。取材じゃないとかくも大変。

(作成:佐野邦彦)





2017年9月18日月曜日

☆Jigsaw:『Letherslade Farm+11』(Solid/CDSOL1799)☆Jigsaw:『Broken Hearted & Aurora Borealis+1』(Solid/CDSOL1800)☆Jigsaw:『Sky High & Rare Tracks 40th Anniversary Collection』(Solid/CDSOL 1797~8)




UKロックバンドのジグソーだが、私は『ソフトロック A to Z』でバンドを発掘していく中、ジグソーは美しいメロディとハーモニーを兼ね備え、転調や対位法も取り入れながら、ファルセット中心のリード・ヴォーカルというまさにソフト・ロックの理想の形でアルバムを作っていたので強くプッシュすると、1998年にテイチク、2006年にビクターより、それぞれ彼らの19731977年の中核アルバム4枚にベスト盤1枚という5枚編成で、選曲をまかせてくれたので目いっぱいシングルオンリーや未発表曲を収録時間内に押し込んで計10枚のCDをリリースできた。しかし密かに押し込んだ中核は、彼らが1970年と1972年にPhilipsからリリースしていたプログレッシヴな2枚のアルバム『Letherslade Farm』と『Aurora Borealis』をファンに聴いて欲しくて、前者は寸劇混じりなのでセレクトだが、後者は全てばらして入れた。今Discogsで見るとどちらも100ポンド以上の値が付き、ジグソーではこの2枚だけが高額取引盤になっていた。またシングルの中でもB面曲がサイケデリック色の濃い「Tumblin’」だと120ポンドという高額だったりと、11年前に睨んだ見方は間違いなかったなと。それで今回のウルトラヴァイヴでは『Letherslade Farm+11』は初期音源集付きで完全収録、『Aurora Borealis』は従来の3枚目のアルバムとの2in1として表に出て、ジャケットがリバーシブルになっているので、写真のように「表ジャケット」にも出来る。テイチクの声かけより19年、ようやく希望がかなった訳だ。今回のリイシューで、以前購入した人はまたジグソーかよ…と思わずに、成功はしなかったもののジグソーはプログレ系バンドとデビューして、「Sky High」とは違う世界観のサウンドで、一部のプログレファンには高く評価されていたことを知っていただきたい。この2枚にはそれぞれ1968年、1972年というその当時の未発表トラックを見つけたのでプラスしてあり価値がある。9月リイシューの3枚のもう1枚は、日本で「Sky High」がヒットして今年で40年という記念盤。1枚は「Sky High」が2000年代のリミックスを含めて12テイクも入っているがシングルと、映画用のMain TitleEnd Titleの3曲は価値がある。「Sky High」が1975年に全米3位、全英9位と大ヒット、その後全米では30位、66位、93位というヒットはあったものの、英米ではワン・ヒット・ワンダーだ。しかし日本では大人気覆面レスラーのミル・マスカラスのテーマ曲に使われたため1977年のオリコン洋楽チャート年間1位など、全世界の中で日本はでのジグソーは飛び切り人気が高く、英米で発売が見送くられた2枚のアルバムが日本のみでリリースされたほど。もちろん未CD化である。その1978年の『Journey Into Space』と1980年の『12 Chapters Of Love』が初めてCD化された。このディスク2は価値がある。


今回のリイシューの話は中村俊夫さんから夏過ぎに緩く話が来たものの、8月になって締め切りまで10日間くらいの超タイトなスケジュールでウルトラヴァイヴから依頼された。内容はこの9月発売の3枚と、11月発売の3枚で、9月発売の方は、『Sky High 40th Annerversary』は当時のミル・マスカラス人気を熟知している鈴木英之さんに依頼、11月には残り3枚がリリースされるが、そこには今までのテイチク、ビクター以降に発見された21テイクのCMジングル集や、未発表曲や未発表サントラ曲などが待ち構えていて、この「3シリーズ」でなんと膨大なジグソーの全音源のリリースが実現できる。こちらも林哲司さんの「If I Have To Go Away」が収録されている『Pieces Of Magic』は、林哲司さんの本の作った実績がある鈴木さんにおまかせすることにした。選曲はコンプリートにするので、11月発売の3枚もお待ちいただきたい。今回のリイシューは「Sky High」がヒット40周年(これは日本での大ブレイクが1977年なのでそこが起点のようだ…)で、その記念がメインである。中村さんはイギリスまで行って立ち合い、その番組は910日にBSTBSの番組『SONG TO SOUL「スカイ・ハイ」ジグソー』で放送された。曲のほとんどを共作で書いていたクライヴ・スコットが亡くなっていたのが残念だったが、もう一人の曲作者でリード・ヴォーカリストでもあったデス・ダイヤーほかの3名のメンバーが揃いデビュー時からの想い出を語り、長くマネージメントとエクゼクティヴ・プロデューサーを担当したチャス・ピートという最重要人物がみな中心になってコメントした。そして「Sky High」が生まれるまでだが、香港映画「The Man from Hong Kong」のサントラ盤候補のミュージシャンにフォートップス、トム・ジョーンズ、エンゲルベルト・フンパーディンクと片端から断られ、万策尽き、たった3日で仕上げられるかということでジグソーに白羽の矢が回ってくる。まだヒットのないジグソーはこのチャンスを逃さず、見事、この傑作「Sky High」を書いて採用され、すぐにイギリスの腕利きアレンジャー、ハワード・ヒューソンに最終アレンジが回る。彼は信頼を置くイギリスのレッキング・クルーであるジャズ・ミュージシャン達に翌日にはスコアを回し、ほぼワンテイクでバックのオーケストレーションを仕上げ、ジグソーのメンバーもワンテイクで同時演奏する緊張感に満ちたレコーディングに臨むが、さすがプロ集団、完璧で驚嘆した…などという映画『レッキング・クルー』と同じ光景はイギリスでも同じなんだなと楽しく見ていた。なおハワード・ヒューソンはビートルズの「The Long And Winding Road」のアレンジをするなどまさに超一流アレンジャーである。

まず『Letherslade Farm+11』の紹介だが、この当時のメンバーは5人である。この当時、作曲を一手に受け持っていたキーボードのクライヴ・スコット、後に作曲・作詞を開始、クライヴ・スコットの共作者になり、リード・ヴォーカルも担当するようになるドラムのデス・ダイヤー、そして初期のリード・ヴォーカリストでギタリストのトニー・キャンベル、そしてベースのバーニー・バーナード、サックスのトニー・ブリネルである。そしてこのアルバムからずっと彼らのマネージャーとエグゼクティブ・プロデューサーを務めるチャス・ピートが参加したことも大きい。それまではアマチュアだったジグソーにプロとしての自覚を与えた。メンバーはTVの中で、「モンティ・パイソン以前に寸劇仕立てのさまざまなジャンルの曲をアルバムに収めた。今でもエッジが効いていて面白いね」となかなか自信を持った反応だ。曲目は非常に多いがたくさん挿入されているInterviewとかTap Danceは曲ではなく、読んで字のごとしである。曲になっている部分だけ追っていくとまずはJim Whitney作の「Weavers Answers」だ。スコットのキーボードによって盛り上がるブルージーな曲で間奏のサックスからオルガンのソロ、そこにギターが被り事に堂々たる演奏で聴きどころ十分。 外部ライター作で女性の喘ぎ声がフィーチャーされた変わった曲が「Je T’aime/If You Were The Only Girl In The World」 、スコットの自作の「Can I Have This Dance」はピアノの弾き語りの小品、スコット作の「Blow Blow Thou' Winter Wind」は、キーボードを全面に出したこれもブルージーな曲で、「Weavers Answers」と同じく間奏のオルガンとギター、サックスのからみが聴きもの。そしてスコットはバッハの「主よ人の望みの喜びよ」をモチーフにしてEL&Pばりのキーボードを効かせた「Jesu Joy Of Man's Desiring」としてアレンジ、中間部には2種類のギターソロを入れ込むなどEL&Pにはないサウンドであり、全体的にビートがあって浮き浮きするようなこのインストはアルバムのハイライトになった。B面にはおふざけの外部ライター作のオールディーズ「Danny」を挟んで、アルバムのハイライトのもう1曲、これは外部ライターのMartin Hallの作品だが「Say Hello To Mrs. Jones」はスコットのピアノとキーボードをバックに歌い上げるノスタルジックな美しいバラードで、レイ・デーヴィスが書きそうな雰囲気も漂う。 「Diesel Dream」は曲ではない部分のクレジットと同じYettey作とあるが、メンバーの共作の意味だ。曲は堂々たるR&Bで、ブルース・ハーブも入り、ギターソロもブルージーで、ヴォーカルも及第点。こんな黒いジグソーを聴ける貴重なヴァージョンだ。この後はスコット作の「Morning」。少し緊張感を漂わせた曲だが、サビでは緊張を解くような工夫が施されている佳作。そしてアルバム最後の「曲」は、スコットの「Seven Fishes」。この曲も哀調が漂うバラード系のロック・ナンバーで、泣くようなギターがいい味を出している。サビは一転して明るめに作られギターの音色など少しサイケデリック。こうして作られたジグソーのファースト・アルバム『Letherslade Farm』は、プログレ&サイケファンに評価された。

このファースト・アルバムより前にジグソーは4枚のシングルをリリースしており、さらにファーストとセカンド・アルバムの間にも3枚のシングルがリリースされ、どのシングルもレア盤ばかりだ。作曲はこの時代は基本的にメンバーのクライヴ・スコット単独なので、スコット以外の時のみ記述する。まず19683枚リリースしているが、デビューはMGMからリリースした「One Way Street」で、このA面はホーンを効かせたAmen Cornerを思わせるラテン風のロック・ナンバーで、中間にアコースティック・ギターを作った美しいブレイク部分を入れ込んできたところにセンスの良さが感じられる。B面の「Then I Found You」は、オルガンとホーンのバッキングによるポップなロック・ナンバーだ。続くシングルはミュージック・ファクトリーからの「Mr.Job」で、サックスをフィーチャーした軽快なロック・ナンバーで、牧歌的な味わいもあった。作曲はBown-Bannisterという外部ライターを起用している。B面の「A Great Idea」はストレートなEquals風のロック・ナンバーだ。続く「Let Me Go Home も同じレーベルからのリリースで、A面はさらにホーンを効かせたパワフルなビート・ナンバーだったが、B面の「Tumblin’ はジェットマシーンを使い、ギターもシタール風でサイケデリック色が強く、サイケファンの間では名作として大人気のナンバーになった。中古市場でもジグソーのシングルでは最も高い120ポンドで取引されているほど。その次の1968年と最初期のBaby Jump Back’」はどのリストを捜してもリリースされた形跡がないので未発表曲とみて間違いない。ファルセットのコーラスを少し入れるなどこの当時の曲としてはポップなナンバーだ。1970年に『Letherslade Farm』がフィリップスからリリースされるが、同年にフォンタナから「Lollipop Goody Man」のシングルをリリース、ホーンのリフをさらに強調してフィーチャーしたビート・ナンバーで、歌い方もEqualsを意識したかのようなブラック風にしていた。このシングルのB面は「Seven Fishes」でLetherslade Farm』からのカットである。この「Lollipop And Goody Man」のシングルもNear Mint100ポンドと高額だ。翌1971年には、前述のMGMからの1968年のデビュー・シングル「One Way Street」をフィリップスから再リリースしているが、B面を「Confucious Confusion」に差替えている。このオリエンタルなムードの曲は、何か日本のお祭りの曲を聴いているような不思議な感覚を持ち、オルガンの間奏部分など顕著。このシングルも相当レアのようで、コンディションが悪くて80ポンド、いいと200ポンドという超高額盤である。その次がLetherslade Farm』からインストの「Jesu Joy Of Man's Desiring」をシングル・カット、そのB面が「No Question Asked」だ。1971年になりと、それまでのオルガンとホーン、ギターのロック、サイケデリックのロックバンドから脱却しようと、試行錯誤した時期なので、軽快なサウンドでポップなメロディが印象に残る佳曲に仕上げている。そしてこの年のリリースのシングルのラストが『Aurora Borealis』からの先行シングル「Keeping My Head Above Water」のシングルだが、UK盤のカップリングのみ違っていてアルバム未収録曲の「It’s Nice But It’s Wrong」が収録された。セカンド・アルバムではスコット単独作はなくなりクライヴ・スコット=デス・ダイヤーの共作になるのだが、この曲はまだスコット単独だ。しかしサウンドは明らかに進歩していてポップで浮き浮きするようなメロディとサウンド、バックにはハープシコードも聴こえ、セカンド・アルバムへ至る変化が感じられる。なおこのA面曲はフィリップスから移籍したBASFからもシングル・カットされているが、確認されたドイツ盤、ポルトガル盤のB面はセカンド・アルバムの「Seven Fishes」に差替えられていて、「It’s Nice But It’s Wrong」を聴くことはできない。

そして1年置いた1972年にフィリップスからのセカンド・アルバム『Aurora Borealis』をリリースする。クレジットはクライヴ・スコット&デス・ダイヤー共作のスコット=ダイヤーにこのアルバムから統一される。冒頭の「Keeping My Head Above Water」はヘヴィなロックンロールで、それまでのジグソーサウンドの延長線上に作られた感がある。シングルのリリースは前年の1971年で、イギリスでは前述のアルバム未収録の「It’s Nice But It’s Wrong」とカップリングでリリースされている。中間部にはきれいなハーモニーを響かせる部分があり、単純なロックナンバーではない。次の「Autumn」は前作とつながるパワフルなイントロと、目いっぱいのファルセットでハモるロックナンバー。「Come With Me」はミディアムのシンプルなポップナンバーだが、コーラス、オーケストラのバックも入り、転調も使って単純な進行では作っていない。「Life Insurance」は1曲丸ごとファルセットのシャウト・ヴォーカルで歌うロックナンバーで、ちょっと声に無理がありハード・ロックにもなっていない。「Sitting On A Bomb」はやタイトルそのものに、タイマーのように刻まれるドラムに合わせてシンプルに歌われるナンバーだが、サビはコーラスも入ってゴージャスに。でもその後に爆発音でおしまい。「When The Sun Is In Your Eyes」は哀調を帯びたミディアムのロックナンバーだが、ハーモニーがあるもののリード・ヴォーカルがファルセットのシャウト・ヴォーカル、しかしハード・ロック的な迫力を感じさせる皆無なので、不思議な印象の曲だ。そしてB面のトップを飾る「What’s My Name」こそ、新生ジグソーを代表する名曲。オーケストラに載せて、巧みな転調で作られた美しいミディアムのバラードで、アルバムのハイライトになった。ジグソーのベスト盤を作っても必ず選ばれる名曲だ。続く「See Me Flying」、この洒落たコード進行とアコースティック・ギターのカッティングが印象に残る佳曲は、開放感があり、従来のジグソーにはない新しい世界を感じさせてくれた。「Freud Fish」はイントロのSE、バッキングの叫び声、電気処理されたリード・ヴォーカルと、サイケデリック・バンドのジグソーの面影を残す曲。しかし基本は哀調を帯びたロックナンバー。「Hanging Around」は明るいホーンからスタートするこの曲は、ハッピーな雰囲気に満ちていて、わくわくさせられる曲だ。今までのジグソーにはなかったサウンドが楽しい。「P-R-R-R Blues」はガヤガヤしたSEをバックに入れ、ホンキートンク風のピアノやボトルネックのギターで愉快に歌われるブルースナンバー。「Ready To Ride」はパワフルなホーンのビートに載せて歌われるソウル風のナンバー。サビに一瞬、静寂のような変化を入れるのがジグソーらしい。この曲が『Aurora Borealis』のラスト・ナンバーだ。そして今回、世界初登場となる1972年の未発表曲が「Standing On My Hand」。収録年からいってBASF用ではなくフィリップスの『Aurora Borealis』用に録音された曲だろう。マイナーのスタートがメジャーに展開、ハーモニーも十分だし、後半の抒情的なピアノソロなど洗練されている。お蔵入りにしたのが惜しい1曲だ。このアルバムのカップリングの2in1BASFと契約した1973年の『Broken Hearted』で、この中にはThis is Soft Rockというべき「Summertime Wintertime」や「Have You Heard The News」という、フィリップス時代には無かった流麗なソフトロックナンバーが登場、クオリティは11月発売の後半の3枚へ毎年上がっていくのだが、もう何度も紹介しているのでパス。

Sky High & Rare Tracks 40th Anniversary Collection』は先に紹介したようにディスク1は「Sky High12テイク(価値ありは3テイク)と6曲のシングルオンリーなどはテイチク、ビクターで聴ける。最後の1989年に作られた「Who Do You Think You Are(PWL Mix)」は洋盤コンピにはよく入っていたが、まだ持っていない人にはお得。目玉はディスク278年に日本のみリリースの『Journey Into Space』の10曲は、オリジナルが3曲しかなく、金を前払いしていたリック・ジェラルドが怒ったと伝えられるが、聴いてみるとオリジナルの3曲は焼き直しで出来が悪く、外部ライターの7曲がアコースティックで新鮮で、これはジグソーの狙いの方が上だったが、英米で発売を拒否されこうして日本のみの発売になった。もう1枚の80年リリースの日本のみのアルバム『12 Chapters Of Love』の11曲は2曲がリレコだが他はオリジナル、クオリティは保っており、当時のディスコの影響を受けた曲もあった。このディスク2の曲はテイチク、ビクターでは未収録のものも多いので、このディスク2のために買うべきだ。では11月の未発表トラック満載の3タイトル『I've Seen The Film,I've Read The BookCM Tracks』『Sky HighUnreleased』『Pieces Of Magic+Home Before Midnight』をお待ちください。(佐野邦彦)



2017年9月15日金曜日

☆Rolling Stones:『Sticky Fingers Live At Fonda Theatre 2015(From The Vault)』(Ward/GQXS90284-5)Blu-ray+CD


ローリング・ストーンズは大規模ツアーの前に、小規模な会場で密かにウォームアップギグを開催してきたが(古くは1977年の『Love You Live』のエル・モガンボが皮切り)、2015年の北米ツアーの前の2015520日に、席数が1200人というごく小規模のフォンダシアターでこのライブが行われた。今までのスモール・ギグとは全く違うのは、今回は名盤『Sticky Fingers』を全曲披露するというコンセプトライブで、全16曲という曲数も絞り込んだものであること、そしてこのギグを4Kで撮影して初めてその全貌が我々ストーズファンに届けられたことにある。解説は寺田正典さんが主で、知りたいことが全て分かる。例えばストーンズのアルバムで全曲がライブで披露されたものは何枚あったのかなと思ったら『Let It Bleed』『Sticky Fingers』『Black And Blue』『Some Girls』の4枚だけだそうで『Exile On Main St.』も強く望まれたが、チャーリーいわく「今、あんな叩き方はできないよ」と。さすが名盤が並ぶ。ミックはコンサートの冒頭付近で「今度は『Their Satanic Majesties Request』を全曲やるかな」と言っていたが、もちろんこれは冗談、先日、キースは『Their Satanic Majesties Request』を最低のクズと言っていたので、100%やるわけがなく、ミックのブラックジョークだ。コンセプトのあるギグなので、アルバム10曲とその他6曲の計16曲という短いコンサートだ。まず全体的に言えるのはやはりこういう取り組みはストーンズも楽しいようで、始終笑顔のキースが忘れられない。Blu-rayCDは曲順が違い、正しいのはCDだが、『Sticky Fingers』の曲をプレイすると何度もメンバーの想い出のインタビューが挿入され、そこが面白いので、その内容を交えながら紹介していきたい。冒頭は「Start Me Up」だ。「Jumpin’ Jack Flash」と並ぶストーンズのオープニング・アクトの定番から始まる。やはりいくら『Sticky Fingers』といえども、頭に「Brown Sugar」を持ってきては、「ライブでアルバムを楽しませる」ことには直結しないので「Sway」からスタートする。この粘っこいR&Bナンバーを、かなりテンポアップしてプレイする。キースも通常のギターなのでなんとなく歯切れがいい。そして「Dead Flowers」だ。シンプルなC&Wナンバーだが、人気がある。そしてキースがミックとの自慢の共作だと誇らしくインタビューで語る「Wild Horses」。キースはアコギではなくエレキを弾き、若干テンポアップしてウェットな感じにはしていない。そしてミックが本作はドラッグの隠語満載と言い、キースはインタビューでバレたかと笑う本アルバムの中でも最問題作「Sister Morphine」。久しぶりにプレイしたら不気味で70年代にタイムスリップしたよ、我に返ったら胡麻塩頭の頭の自分がいた(笑)と語る笑顔のキースはそれでも嬉しそう。冒頭は確かに不気味な滑り出しだが、中間以降のロンのボトルネックギターの迫力は素晴らしく、ロンの名演だ。そして1970年当時にこのアルバムを買った時には、なぜこんなメチャクチャシンプルで酔っぱらいのざれ歌のようにも聞こえたアルバム唯一のカバー曲、フレッド・マクダニエル作の「You Gotta Move」の登場だ。カッコいい事にキースのアコギのブルースギターに乗せてミックら全員で歌う。単純なブルースの繰り返しだが、会場全員で「You Gotta Move」を全力で歌うようになるのは感動的。発売当時は分からなかったが、今はこの曲の魅力にハマるなあ。そしてアルバムの中でもハイライト級に人気がある「Bitch」の登場だ。ボビー・キーズ、ジム・プライスのホーンが最高のこの曲、キースは2014年に急死してしまったボビーが最高だと忘れられず、いつも右横にはボビーがいる気がすると、全幅の信頼を置いていたことが伝わってくる。ライブではあのリフをロンにまかせ、キースがリード・ギターを自在に弾いている。ホーンが弱く聴こえるのが残念だ。そしてアルバムの中である意味、一番斬新な「Can’t Hear Me Knocking」。ザックリとしたギターのリフに乗せたロックナンバーが途中からのコンガからラテン・ジャズに変わって演奏が続いていくフリーキーな曲でカッコいい。ボビー・キーズの後釜のカール・デンソンがサックスで頑張っている。ミックもその当時、プレイしていてストーンズの新しい面が見られてやっていて楽しかったそうだ。そしてメンバーがストーンズで最もスローなナンバーと口を揃える「I Got A Blues」。最もスローといいながらミックの熱唱によるスロー・バラードで、テンポは特に遅いわけではない。そして『Sticky Fingers』の最後はオリエンタルな「Moonlight Mile」。聴いていて何か違和感があると思っていたら、見事寺田さんの解説でミックのオリジナルはGだが、ライブでは5度上のDで歌っていて色々と歌い方も違っているのだそうだ。そして最後はいよいよお待ちかね、「Brown Sugar」。ミックは無人島へ持っていく1曲なら「Brown Sugar」と断言していて、傑作を書いたという自信に満ちていた。さらにキースもレコーディングは感動的だった、究極のロックンロールを仕上げた気分だった、そして何よりも熱があったんだと語る。キースのリフも当時のレコードと同じ跳ね上がらない弾き方でこういう小さいところも嬉しい。そしてアンコールはB.B.キングのカバーの「Rock Me Baby」。徐々に盛り上がりエンディングでロンのギターソロ、キースのギターソロ、ミックのブルースハーブで終わるところが最高だ。そしてオオトリは「Jumpin’ Jack Flash」。昔から自分が力説しているようにこの史上最強のロックナンバーをここでは一切崩さず、But it’s alright nowの部分もレコードと同じハーモニー、ミックの歌い方もレコードと同じで崩さず、こういうライブ・ヴァージョンが一番好きだ。この会場の人はこういう部分も幸せだな。ボーナストラックは実は「Start Me Up」の後に続いて演奏された「All Down The Line」と「When The Whip Comes Down」で、なかなか熱いライブだ。そして3曲目の「I Can’t Turn You Loose」は、実際には「Jumpin’ Jack Flash」の続いての本当のラストナンバーだった。オーティス・レディングで知られるこのナンバーだが、最も親しまれているのはブルース・ブラザースがデビュー・アルバムのオープニングに使われていたからで、このこの繰り返すホーンのフレーズを聴いたことがない人間などいないだろう。みんなが明るく笑顔で終わる最高のエンディングだ。このライブ、なんとたったの$29.5だったそうで、なんと幸せなファンなのだろうか。ただ会場にいたオーディエンスにはそうそうたる有名人が並び、一般人じゃとても入り込むすきなどなさそう。(佐野邦彦)

2017年9月2日土曜日

『Best Of The Pen Friend Club 2012-2017』(サザナミ・レーベル/SZDW1040) 平川雄一インタビュー


 2月8日に4thアルバム『Wonderful World Of The Pen Friend Club』をリリースしたばかりのペンフレンドクラブが、初のベストアルバムを9月6日にリリースする。
 幾度かのメンバー・チェンジを経たバンド・ストーリーのメモリアルというばかりではなく、リーダーの平川によるリミックスへの飽くなき拘りによりブラッシュアップされた全20曲が収録された、希なベストアルバムと評価したい。選曲的にもWebVANDA読者にはお馴染みのソフトロック・クラシックが多く収められているので強くお勧め出来るのだ。
 ここでは通算4回目(またかと言われそうだが)となる平川氏へのインタビューをおおくりする。


   

 【収 録 曲】
1. 8月の雨の日 ※4
2. Do I Love You ※1
3. Tell Me (Do You Really Love Me?) ※2
4. 街のアンサンブル ※3
5. 微笑んで ※4
6. Don't Run Away ※1
7. How Does It Feel? ※2
8. What A Summer ※3
9. Sherry She Needs Me ※4
10. I Sing A Song For You ※1
11. I Like You ※2
12. Summertime Girl ※3
13. Love's Lines, Angles and Rhymes ※4
14. I Fell In Love ※1
15. His Silhouette ※3
16. The Monkey's Uncle ※2
17. Newyork's A Lonely Town ※1
18. 土曜日の恋人 ※3
19. Wichita Lineman ※2
20. ふたりの夕日ライン ※4

【オリジナル収録アルバム】
『Sound Of The Pen Friend Club』※1 
『Spirit Of The Pen Friend Club』※2 
『Season Of The Pen Friend Club』※3
『Wonderful World Of The Pen Friend Club』※4



●今年2月の『Wonderful World Of The Pen Friend Club』が記憶に新しい訳ですが、この時期にベスト・アルバムをリリースしようとした動機を教えて下さい。
また選曲にはメンバーの意見も反映しましたか?バンド内投票とか? 

平川:動機は過去の音源をリミックスしたかったからです。それだけと言っていいです。選曲は僕一人の判断です。
活動が5周年とキリがいいのと、今回はメンバーが入れ替わることなく次に進めそうなので、これまでの4枚のアルバム(4人のボーカル)を「初期のペンクラ」として一区切りにできるかなと。
でも、とにかく「リミックスしたかった」の一言に尽きます。

●拘りが凄いよね(笑)。リミックスということでマルチトラックから全てやり直す訳ですが、作業時期と作業状況はどんな感じでしたか?
時間が経過しているとはいえ、オリジナル・ミックスの固定観念があるから頭を切り換えるのが大変だったのでは?
基本的に平川さん一人で担当したんですか?

平川:リミックスの作業時期は今年の4thアルバム発売後くらいから少しずつ進めていました。
1stアルバムの曲を全曲やり直そうと思ってなんとなく進めていたんですが、そのうちベスト盤として出すことにしたので全アルバムから選抜された曲のリミックス作業に移行しました。
オリジナル・ミックスへの固定観念というのは全然無くて、むしろ「もっと良くしたい」という気持ちで一杯だったので楽しんでやれました。
作業は僕一人で行いました。

●これまでのアルバムを振り返って、それぞれについて平川さんの思い入れを聞かせて下さい。

1)『Sound Of The Pen Friend Club』
平川:当時は全然知識が無くて、まさか自分のバンドで全国流通のアルバムが作れるとは思っていなかったので、最初に声をかけてくれたサザナミ・レーベルには本当に感謝ですね。
当時はこの1枚で終わる(アルバムを2枚も3枚も発売させてもらえるわけがない)と思っていました。なのでジャケットは見る人が見ればどういうバンドか一発でわかるデザインにせねば、と思いこのような感じに。音もジャケも、あの当時の僕の全力を投入して制作にあたりましたが・・・今聴くとやり直したいところだらけですね(笑)。
今回のベスト盤でのリミックスで一番恩恵受けているのはこの1st収録曲です。完全に生まれ変わりました。ベスト盤に入らなかった曲もいつか全部やり直したいですね。

●当時の心情が伺えますが、そもそもペンクラを結成した時は活動の中心はライブと考えていたのですか?
またサザナミ・レーベルから声が掛からなければ、自主制作でリリースする予定はあったのですか?

平川:結成当初は軽い遊びのバンドのつもりだったので、たまにライブが出来る程度でいいと思っていましたが、ボーカルに夕暮コウが加入すると自分が思っていた以上にいいバンドになると確信するようになりました。 活動が始まってからすぐに自主製作EP(CD-R)を作ったので、盤を残そうという意識は当初からあったと言えます。
最初に声をかけてもらったのがサザナミ・レーベルでした。それがなければ未だに手刷りCD-Rだったかもしれませんね。


2)『Spirit Of The Pen Friend Club』
平川:僕の気持ち的には「ペンクラのアルバム1枚目」、という感じです。
現メンバー(楽器隊)が参加したアルバムですし、非常に思い入れがあります。選曲的にもペンフレンドクラブというバンドを1stアルバム以上に象徴したものになっていると思います。
ただクオリティは1stより進化しましたが、やっぱり今聴くといろいろ自分のミックスが許せないので・・・。

●初めて推薦文を書かせて頂いたアルバムなので私も印象に残っています。ファーストでカバーしていたブルース&テリーの「Don't Run Away」やトレイドウィンズの「New york's A Lonely Town」は、マニアックな選曲とはいえ熱心な山下達郎ファンの間ではよく知られていましたが、このアルバムではジミー・ウェッブ作でグレン・キャンベルの「Wichita Lineman」を取り上げていて、平川さんの趣味の良さを確信しましたね。
各アルバムにおけるカバー曲の選択基準は、どんな尺度で選んでいたのですか?

平川:カバー曲の選択基準はもうただ単に「好きな曲」に尽きます。
あとは「こんな曲やるバンド、今どこにもおらんやろう」というのもありますね。ラグドールズの『Dusty』然り。
そういうところに命を懸けたいです(笑)。

●「命を懸けたい」とは拘りを超えて、悟りを開いたような境地に近いね(笑)。
繰り返しになるけど、各アルバムで取り上げるカバー曲は既にリストアップしていて、アルバム全体の構成を考えながらタイミングを計っているということですか?

平川:最初の頃はリストアップしていましたが、最近はその時のバンドの状況や、前作との比較を考えて決めるようにしてます。



3)『Season Of The Pen Friend Club』
平川:自主レコーディング、自主レーベルでの発売、と全部自分たちで作ったアルバムですね。
オリジナルとカバーの比率も5:5にし、日本語曲もこのアルバムから。 いろいろ挑戦した一枚ですね。新規ファン開拓、業界人との繋がり、等、いろいろな切っ掛けを作ってくれたアルバムになりましたが、やはり今聴くとダメなポイントが多すぎますね。
今回ベスト盤のリミックスで満足できる出来になりました。 

●このアルバムがリリースされたのは、ゾンビーズやジェフリー・フォスケットの来日公演で共演するなど、バンドとしてかなり充実していた時期ですが、今のところこのアルバムだけが自主レーベルからのリリースですね。
自主レーベルに拘った理由はなんでしょうか?

平川:このころになると盤を作って売ることのイロハが分かってきたので「これは自分でできるな」と思い自主レーベルでやることにしました。
自分で録って、自分で売る方が儲けが多いですからね。その分リスクは伴いますが、そこまで大きいビジネスにもなってないんで(笑)。分かる人にだけ伝わればいいと。
面倒くさい事務作業もありますが、メンバーが手伝ってくれるので助かっています。

●またボーカリストが、ファーストの夕暮コウさんからセカンドで向井はるかさんへ交代して、このアルバムでも高野ジュンさんへ代わっています。
各メンバーの方向性などシビアな事情があったと思いますが、バンドの看板であるボーカリストを定着させるというのは、この時期ペンクラにとって永遠のテーマになりつつありましたか?

平川:ボーカルが変わるとライブの全レパートリーのキーが変わるので、打楽器奏者以外がいつも大変な思いをします。もう三回もキーを総変えしていますからね、ペンクラは(笑)。
あと個人的なことですがボーカルの交代はとにかく精神的な重圧がすさまじいです。ペンクラの場合、ボーカルが抜けるだけで一気にバンド存亡の危機に陥ります。一番の肝のパートですし、一番後任が見つかりにくくもあります。ボーカルの違いでバンドの色がハッキリと変わりますから後任探しも慎重にならざるを得ません。
そんな中、いつもいいボーカルに巡り合えたなあと幸運に感謝しています。今回のベスト盤でも4人のボーカルが入れ代わり立ち代わり聴けるので、それが伝わるだろうと思っています。結果オーライですかね。

●同じバンドなのにレパートリーのキーを三回も変えるってなかなか無いよね(笑)。でもそれは歴代ボーカリストのベストな声域を綿密に計算していることの現れであって、今回のベスト盤を聴いて感じたのは違和感無くペンクラ・サウンドとして受け止められたことですね。

平川:ありがとうございます。今回のベスト盤のライナーノーツでもカンケさんが「初めて聴いた人は4人の女性ボーカルがいると思うだろう」といった趣旨の文を寄せられていました。
確かにそうかもしれませんね。


 4)『Wonderful World Of The Pen Friend Club』
平川:近作ですが、これは褒めるところの多い一枚です。
これまでのペンクラ作品の中で一番まともに聴けますね。「Sherry She Needs Me」のサウンド作りでは、やりたいことが100%実現できました。もちろん新メンバー藤本有華(Vo)と大谷英紗子(Sax)の好演も理由の一つです。
実は今年の11/3(レコードの日)に、この4thアルバムがアナログLP化されるんですが、ここぞとばかりに全曲リミックスしました。CDよりも更に、遥かに良くなったのでその4thLPも是非聴いていただきたいです。

●私もこれまでの最高傑作だと感じています。
「最新作が最高傑作」と言ったのは、ミック・ジャガー(ローリング・ストーンズ)の口癖だったと思いますが、リリース毎に前作を超えるアルバムを制作するというプレッシャーをリーダー、そしてプロデューサーという立場で常に感じていたと思います。
その辺りの苦労話を聞かせて下さい。

平川:そういうプレッシャーは感じたことはないです。
ただその時の自分が合格点を出せることが大事なので、そこに至らないことのほうが恐ろしいです。誰もがそうだと思いますが、完成時点で自分が100%納得できないとだめですね。
後から聴いたら後悔ばかりなんですけどね。



●過去多くのバンドは、ベスト・アルバムを一区切りに新たなステップを踏んでいく訳ですが、今後のペンクラについて新たなトピックスはありませんか?

平川:現メンバーで次の5thアルバムを作るということです。
同じメンバーで続けてアルバムを作ることは未知の経験であり、同時に悲願でもありました。既にジャケットがいい感じに完成しているので、それに見合った音楽を作ります。

●ペンクラみたいにマニアック(個人的には音楽界の「ガールズ&パンツァー」的なギャップの美学を感じている)なバンドのニューアルバムのコンセプトが、ジャケ先行というのは珍しいですが、収録曲やカバー曲の選曲などのアイディアは既に固まっていますか?

平川:収録曲は全部決まっていて、現在少しずつ録音を進めています。
本当は音楽のコンセプトのほうが先に決まって、それに合わせてジャケを撮るという順番なんですが、ジャケデザインのほうが先に出来てしまう、というだけなんです。
でもジャケができるとやる気が沸きますね。



●リリースに合わせたライブ・イベントをお知らせ下さい。

平川:9月30日にdues新宿でディスクユニオン購入者限定ライブ&サイン会があります。その他にも増える可能性がありますのでザ・ペンフレンドクラブ公式サイトをチェックして頂ければ幸いです。
ザ・ペンフレンドクラブ公式サイト

●では最後にこのベスト・アルバムのピーアールをお願いします。

平川:とにかくリミックスによって格段に音が良くなったので是非お聴きいただきたいですね。
これから初めてペンクラを聴く人にこそお勧めです。あとカンケさんのライナーノーツが絶品でバンド5年の統括と20曲分の解説は圧巻です。 紙ジャケもA式セミダブルと豪華な仕様ですので是非!

(インタビュー設問作成/テキスト:ウチタカヒデ