2017年3月29日水曜日

NHKで再放送された「今よみがえるアイヌの言霊」。昭和22年に録音された100枚のレコードにより、消滅危機言語であるアイヌの歌と言葉が鮮やかに蘇った。


先日NHKで再放送された「今よみがえるアイヌの言霊」は、期待どおりの出来で、夢中になってTVの前で釘付けになった素晴らしい番組だった。アイヌ人は江戸時代には強欲な松前藩に収奪され、明治になると狩猟を禁止、農業従事を強要され、アイヌ文化が失われていった。日本語が浸透し、アイヌの言葉が失われていく中、戦後の昭和22年にNHKが言語学者の金田一京助とアイヌ人で初めて北海道大学教授になった知里真志保の監修のもと、北海道各地でアイヌの歌や言葉をSP100枚分、ダイレクト録音した。この貴重な資料が収録から70年後に発見され、デジタル化が開始される。70年間、レコードは紙のジャケットに入っていたため袋の紙がレコード盤に大量にこびりつき、その紙を丁寧にはがすことからスタート、はがしてもディスクがノイズだらけなので、音声を少しも切らないようデジタル化し、クリアに聞こえるようになった。その中にはユーカラという叙事詩もあった。アイヌの英雄達が神の国や地の国を自由に行きかう壮大なストーリーを、祭りの時に33晩も歌うこともあり、金田一京助はアイヌ民族が誇る文学だと絶賛した。アイヌは文字をもたない民族だったので、全ては口承で受け継がれていたため、登別に住む歌い手の女性はローマ字を習って(日本語と発音が違う)このユーカラを20年かけてノート50冊に残していた。ただそのユーカラがどう歌われたのか録音は僅か一部分なのだがこれで初めて当時のユーカラが音で分かったのだ。猟場のもめごとなどが起きた時は長老の前でチャランケという当事者2人での談判が行われる。しかし白老で録音されたチャランケはこれもメロディのついた歌なのだ。お互いが歌で主張し、一昼夜かかることもあるという。すぐに暴力に訴えない平和なアイヌ民族がこの歌からよく伝わってきた。そんなアイヌも戦時には徴兵され沖縄やガダルカナルで命を落とすものもいたという。師団があった旭川も爆撃で大きな被害を受けた。戦後、即興の跳舞の歌のシノッチャを聴くことができる。「かつて我らの先祖が大切に育んだ我らのふるさとでありますが 偉い人達の政(まつりごと)が悪かったため素晴らしいふるさとを戦(いくさ)が荒廃させた しかしながら神にしっかり守られるのが我らアイヌ民族でございます まさにこれからよい暮らしが子々孫々続くことでございましょう」と希望を込めて歌っている。ただ後述するがアイヌの思いはさらに戦後半世紀も待たないといかなかったのだが…。アイヌの音楽は女性たちが手拍子をしながら歌うウポポという熊が獲れた時や祭りで歌われた歌が、メロディもよりしっかりし何よりもリズムがあるのでとても聴きやすくて楽しい。釧路で録音されたが、その歌詞の美しさ、そして日本語とはまったく違うアイヌ語を併記して一部を書いてみよう。「チュプ カ ワ カムイ ラン イワ テッサム オラン(月から神が降りてきた 岩山の手前に降りた)イワ テッサム コンカニ マウ ネ チヌ(岩山の手前 美しい風音となってきこえる)」。奈良時代の日本語を残す琉球語に比べ、アイヌ語に共通点は乏しく孤立言語とされる。縄文語という説もある。そのアイヌはカムチャッカ、千島、樺太から北海道、東北北部(太平洋側と秋田以北の日本海側)まで住んでいた。ロシアになったアイヌ語は消失し、わずかに北海道のアイヌ語が残るのみで母語として話す人は2007年の段階で10人しか残っていなかった。ただ、今はアイヌ語を残そうとアイヌの血をひいていない人も多く学んでおり、早稲田大学でアイヌ祭が行われたり、北海道の一部では小学校の中でアイヌ語をおしえるようになっている。沖縄でもそれぞれの島の言葉を残そうと取り組んでおり、それぞれの民族の言葉が伝承されるようになったのは素晴らしいことだ。ただ沖縄と違って、アイヌ語は消滅危機言語とされ、本当の危機にある。アイヌ人も差別を免れるために大和民族との混血が進んで純粋なアイヌ人は相当少ないと推測される。昔のアイヌの写真を見ていただければわかるが二重瞼で鼻が高く、眉と目の間が近く、眼窩がくぼんでいるなど、彫りが深い。一見、外国人に見えるほど。しかしモンゴロイドであり、縄文人なのである。日本に住むアイヌ民族、大和民族、琉球民族だけに共通した遺伝子「ハブログループD1bY遺伝子)」があり、これが縄文人の遺伝子でアイヌ人は87.5%と高く、琉球民族が50%弱、大和民族が30%となっている。このハブログループD1bは、日本列島以外では確認されず、中国や朝鮮には存在しない。沖縄の人は彫りが深い美男美女が多いし、本土でも3割いるのだから、端正で外国人のような顔立ちの人は縄文人の血をひいているのかもしれない。東北のアイヌ人は早くに藩政の中、同化したが、北海道は蝦夷地としてまだ日本として認識されてもいなかった。北海道のアイヌの人口は少なく江戸時代で26800人とされる。江戸時代に北海道を独占的に支配しておいた松前藩は、先住民族のアイヌに苛烈な仕打ちをしていた。アイヌ人は和人(大和民族)の事を「シャモ」と呼んでいたが、それはネガティブなものではなく「兄弟」という意味だった。そんなアイヌは、自分達で獲った毛皮や鮭、昆布などを、和人の米や漆器、鉄器類などと交換していたが、米の交換レートを一方的に1/3にしたり、砂金採りによる勝手な開発、鮭の大網による捕獲など、生存権を脅かされたアイヌはついにシャクシャインを頭として蜂起、多くの侵略者の和人を倒したが、すぐに松前藩が反撃に出る。戦いは長期化が予想され、当時の幕府は問題を起こした藩は改易(お取り潰し)をしていたため、それをおそれた松前藩は和睦を呼びかけ、それに応じたシャクシャインは酒宴の場で謀殺された。卑怯極まりない悪辣な松前藩のやり方がよく分かる。シャクシャインの戦いのあとに本土から近江商人の飛騨屋という悪徳商人が出てきて、場所請負制をしいて、政商が結託して搾取。男は国後島などの離島で苦役につかせ、女は漁民の性の相手をさせられるなどそのひどい扱いは、日本人の松浦武四朗の「近世蝦夷人物誌」の克明に記されたが、幕府、明治政府に長く出版を禁じられた。明治時代になると、アイヌは平民となるが戸籍には「旧土人」と記され、明治政府はアイヌに急速な同化政策を敷く。名前は和人風に、アイヌの文化である狩猟を禁じられ、土地は奪われ、土地を与えられても「管理能力が無い」という理由で土地の売り買いもできない。入れ墨などの風習は野蛮(女性は結婚すると口の回りに口の形に沿って大きく入れ墨をしたので特に奇異に映った)であると禁止、教育の場でアイヌ語を使うことを禁じられ、ひどい差別のためでアイヌは和人との混血を望み、アイヌの伝統や文化は急速に失われていった。なんと平成9年になってようやく明治時代に公布された北海道旧土人保護法等が廃止され、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図るため、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(アイヌ文化振興法)が成立する。国は、この法律に基づき、アイヌ語・文化の振興、アイヌの伝統的生活空間の再生事業などアイヌ文化の振興施策を推進するようなった。

こうやって日本が過去にやってきた史実を知り、その独自な文化を絶やさないよう、振興するのは文明国として当然のことだ。ネイティブ・インディアンを虐殺し、ハワイ王国を滅ぼしたアメリカや、アボリジニを惨殺し、人間狩りまでしたオーストラリアは、今は先住民族を保護している。もちろんヨーロッパ諸国はおぞましいアフリカでの黒人奴隷狩り、南米、アラブ、アジアでの侵略で血に染まった歴史が知られているが、同じヨーロッパ内でもイギルスのウェールズ語やアイルランド語の撲滅政策、フランスのプロヴァンス人、アルザス人、ブルゴーニュ人への同化政策、プロイセンのスラブ人への同化政策。(後のナチスドイツは論外)、その他スペイン、イタリア、スウェーデンなどどこでも行ってきた。さらに苛烈なのは民主主義がほとんどない中露で、周辺国にロシア語を強制し逆らう人間は抹殺した旧ソ連、今のロシアでもウクライナやジョージアのように逆らう国には、ロシア系住民保護のためと占領下に置いて平気の平左。中国のウイグル自治区、ネパール自治区は、過酷な支配で民族の文化を破壊、漢族をどんどん送り込んで人口比まで変えようとしていて、取材は厳しい制限があって実態が分からない。でもテロや抗議自殺が絶えないのを見ると中国共産党のおぞましい実態が見える。(最近のハリウッド映画は中国マネー目当てで、中国はアメリカを助けてくれるパートナー扱い、中国が人権無視の共産党の独裁国家ということに目をつぶるハリウッドは、いくらトランプを批判してもダブルスタンダードでお先真っ暗だ)いつも支配ばかりされてきたような感がある朝鮮でも済州島の島民への同化政策を強要した。そして日本ではアイヌ、沖縄がある。では昔に戻せるのかと言えばそれは無理で、昔はここが領土だったと言い出せば7世紀の地図を目指すイスラム国のようになってしまう。現在では先住民族の存在を認め、その文化を継承できるよう、国家が責任を持って保護に努めているのが民主主義国家だが、我が日本には未だに日本は単一民族、皇国史観に基づいた神の国だ…なんていって言っているバカ者が政治家に多くいるので困ったもの。平和主義者で現憲法を評価し守るとおっしゃっている天皇陛下の真逆のことを主張するこいつらは、自分達が一番言われたくない「逆賊」なのが分からんかね。と、話が逸れてしまったのでここでおしまいとしたい。最後にアイヌ語は北海道の多くの地名がアイヌ語由来なのでその点はしっかり生き残っている。東北の地名もアイヌ語由来がかなりあるので、興味をお持ちの方は調べて欲しい。※下の写真は北海道・新ひだか町のシャクシャイン像、ようやく英雄になった。(佐野邦彦)
 

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