嬉しいことに今回のリマスター盤は本年度最新で、全収録12曲のステレオとモノ・ミックスに3曲のボーナス・トラックが付き、しかもSHM-CDの高音質仕様ということで文句なしのリイシューである。
因みにこのアルバム『Navy Blue』は、98年に米Collectables RecordsからCD化されていたが、現在は中古市場で高騰しているのでやや入手困難であり、昨年自主レーベルのオールデイズ・レコードから紙ジャケでリイシューされたので既に手にしたコレクターもいると思うが、高音質やミックス違いに拘りたいポップス・マニアには本盤をお勧めしたい。
ダイアン・リネイのプロフィールについては付属の解説に詳しいので少し省略するが、45年ペンシルバニア州南フィラデルフィア生まれ。62年にアトコ・レコード(アトランティック・レコード系列)のプロデューサー兼ソングライターのピート・デ・アンジェリスに認められ、シングル「Little White Lies」でデビューするがチャート的には振るわなかった。翌63年セカンド・シングル「Tender」をボブ・クルーが手掛けたことが転機となり、同年20世紀フォックスへ移籍する。
そして再びクルーの元、シンガーソングライターのエディ・ランボーにバド・レハークを加えた3名の共作とチャーリー・カレロのアレンジで制作されたのが、本アルバムのタイトル曲となるシングル「Navy Blue」なのである。
この曲は64年の全米チャートで6位の大ヒットとなり、続く「Kiss Me, Sailor」も同29位のスマッシュ・ヒットを記録する。このダブル・ヒットの経緯から本アルバムが誕生するわけだ。
かの大滝詠一氏もフェイバリット・アルバムの1枚に挙げていただけに、多くのフォロワーやポップス・マニアは聴かない訳にはいかないと思う。
おりしも05年の初演後ロングラン・ヒットしたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、14年に名匠クリント・イーストウッド監督の手で映画化され、一気にフォー・シーズンズが再注目される。 またその年の初頭には御大フランキー・ヴァリが初来日公演を果たす。蛇足だが筆者は日比谷公会堂で湯川れい子先生や亀昭信氏のほぼ後列という良席で素晴らしいステージを堪能した。
思えば日本においてフォー・シーズンズ・サウンドは、大滝氏や山下達郎氏の楽曲やラジオ・プログラムを通じて、多くのポップス・ファンの心に植え付けられたと感じる。
『Navy Blue』はそんなポップス・ファンにとって打って付けのアルバムなのだ。 このような名盤ゆえ、僭越ではあるが筆者なりに主な収録曲を解説していきたい。
冒頭の「Kiss Me, Sailor」は前出の通り、64年に全米29位となったエディ・ランボウとバド・リハックのソングライティングによる作品だ。ノンクレジットながらボブ・クルー・プロダクションではお馴染みのミュージシャンが参加していると思われるが、バディー・サルツマンのプレイらしきスネアからタムを連打するフィルのアクセントが印象的だ。
また熱心なナイアガラーにはよく知られているが、イントロから繋がるサビ(この曲はヴァースより先にサビから始まる)のパートは、松田聖子の「風立ちぬ」(81年・作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一)でオマージュされているのがよく分かる。
当然ながらモノ・ミックスは定位の関係で、ヴォーカルに対してホーンとコーラスの音量レベルを高く感じるが、リネイのパンチの効いた歌声の醍醐味はモノに軍配が上がる。
続く「Soft - Spoken Guy」、こういうセンシティヴなマナーを持った曲がヒット・ソングの次に控えていることにこのアルバムの価値を見出せる。フィメール・コーラスのスタイルなど後のダスティ・スプリングフィールドにも通じるブルーアイドソウル感が堪らない。クルーとエディ・ランボウにリハックの共作によるこの曲、導入部の印象的なヴィブラフォン(エレピ?)はデイヴ・カレイのプレイだろうか。
ハンドクラップとシェイカーが8分で刻まれる「Please Forget Me」は、典型的なフォー・シーズンズ・サウンドであるが、サビからの展開がベン・E・キングの「Stand By Me」(61年)にも通じる普遍性を感じさせる。ステレオ・ミックスの左チャンネルでイントロから聴ける印象的なエレキ・ギターはヴィニー・ベルだろう。
唯一カレロがアレンジにタッチしていない「Hello Heartaches」は、クルーとシド・ベースの共作でベースがアレンジも手掛けている典型的なハチロクのガール・ポップである。
そしてタイトル曲で全米6位の先行シングル曲「Navy Blue」だが、この曲もフォー・シーズンズ・サウンドの流れを感じさせる。余談だが歌詞には海軍の水兵である彼氏から東京消印の手紙とお土産が届いたと出てくる。そのお土産はしゃべるチャイナドールということで、中華街を経由して東京へアクセスすることが可能な横須賀基地に勤務という設定なのかも知れない。
オブリガートや間奏で聴けるクラヴィオライン(後にビートルズの「Baby, You're A Rich Man」(67年)でも聞ける初期アナログ・シンセ)は、フォー・シーズンズの「Little Angel」(65年)でも似たトーンを耳にすることが出来るが、ボブ・クルー・プロダクション・セッションの常連キーボーディストで後にHot Butterにも参加するスタン・フリーのプレイだろうか。
日本ではダニー飯田とパラダイス・キング(フューチャリング九重佑三子)や伊東ゆかり、浅田美代子までがカバーしており、パラキンと浅田ヴァージョンの訳詞は漣健児、伊東ヴァージョンは安井かずみがそれぞれ担当している。
アルバム後半には、ザ・シュレルズが61年にリリースして翌62年に全米1位となった「Soldier Boy」のカバーをしている。原曲はカントリー風味のスローなドゥーワップだが、ここでのアレンジは「Dawn (Go Away)」(64年)を思わせるドラマティックな展開で原曲より魅力あるサウンドに仕上げている。さすがチャーリー・カレロのいい仕事というしかない。リネイの表現力も素晴らしいの一言に尽きる。
その「Dawn (Go Away)」や「Let's Hang On!」等多くのフォー・シーズンズ・ナンバーを手掛け、デニー・ランデルとのコンビで知られるサンディー・リンザーとクルーの共作による「He Promised Me Forevermore」はアレンジ的にも面白い。
古いディズニー映画のサントラを思わせる仕掛けがちりばめられていて飽きさせず、カレロの音楽的引き出しを垣間見られて興味深い。
ボーナス・トラックは『Navy Blue』後にリリースされたシングル「Growin' Up Too Fast」(64年)、「Waitin' For Joey」(64年、「Growin' Up Too Fast」のB面)、「It's In Your Hands」(64年)の3曲を収録している。 「Growin' Up Too Fast」はフォー・シーズンズの音楽的リーダーであるボブ・ゴーディオとクルーの共作で、アレンジ的にもチューブラーベルでメンデルスゾーンの「結婚行進曲」を引用してカレロのセンスを感じさせるがヒットに結びつかなかった。
続く「It's In Your Hands」もマーケットを意識したカントリー風味のロッカバラードだがヒットせず、リネイのよさも引き出されていないようで残念だ。
ともあれアルバム『Navy Blue』が、半世紀以上過ぎた今でも聴き継がれるべきガール・ポップのクラシックであることを心より信じている。興味を持ったWebVANDA読者やポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しいと願うばかりだ。
因みにこのアルバム『Navy Blue』は、98年に米Collectables RecordsからCD化されていたが、現在は中古市場で高騰しているのでやや入手困難であり、昨年自主レーベルのオールデイズ・レコードから紙ジャケでリイシューされたので既に手にしたコレクターもいると思うが、高音質やミックス違いに拘りたいポップス・マニアには本盤をお勧めしたい。
ダイアン・リネイのプロフィールについては付属の解説に詳しいので少し省略するが、45年ペンシルバニア州南フィラデルフィア生まれ。62年にアトコ・レコード(アトランティック・レコード系列)のプロデューサー兼ソングライターのピート・デ・アンジェリスに認められ、シングル「Little White Lies」でデビューするがチャート的には振るわなかった。翌63年セカンド・シングル「Tender」をボブ・クルーが手掛けたことが転機となり、同年20世紀フォックスへ移籍する。
そして再びクルーの元、シンガーソングライターのエディ・ランボーにバド・レハークを加えた3名の共作とチャーリー・カレロのアレンジで制作されたのが、本アルバムのタイトル曲となるシングル「Navy Blue」なのである。
この曲は64年の全米チャートで6位の大ヒットとなり、続く「Kiss Me, Sailor」も同29位のスマッシュ・ヒットを記録する。このダブル・ヒットの経緯から本アルバムが誕生するわけだ。
かの大滝詠一氏もフェイバリット・アルバムの1枚に挙げていただけに、多くのフォロワーやポップス・マニアは聴かない訳にはいかないと思う。
おりしも05年の初演後ロングラン・ヒットしたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、14年に名匠クリント・イーストウッド監督の手で映画化され、一気にフォー・シーズンズが再注目される。 またその年の初頭には御大フランキー・ヴァリが初来日公演を果たす。蛇足だが筆者は日比谷公会堂で湯川れい子先生や亀昭信氏のほぼ後列という良席で素晴らしいステージを堪能した。
思えば日本においてフォー・シーズンズ・サウンドは、大滝氏や山下達郎氏の楽曲やラジオ・プログラムを通じて、多くのポップス・ファンの心に植え付けられたと感じる。
『Navy Blue』はそんなポップス・ファンにとって打って付けのアルバムなのだ。 このような名盤ゆえ、僭越ではあるが筆者なりに主な収録曲を解説していきたい。
冒頭の「Kiss Me, Sailor」は前出の通り、64年に全米29位となったエディ・ランボウとバド・リハックのソングライティングによる作品だ。ノンクレジットながらボブ・クルー・プロダクションではお馴染みのミュージシャンが参加していると思われるが、バディー・サルツマンのプレイらしきスネアからタムを連打するフィルのアクセントが印象的だ。
また熱心なナイアガラーにはよく知られているが、イントロから繋がるサビ(この曲はヴァースより先にサビから始まる)のパートは、松田聖子の「風立ちぬ」(81年・作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一)でオマージュされているのがよく分かる。
当然ながらモノ・ミックスは定位の関係で、ヴォーカルに対してホーンとコーラスの音量レベルを高く感じるが、リネイのパンチの効いた歌声の醍醐味はモノに軍配が上がる。
ハンドクラップとシェイカーが8分で刻まれる「Please Forget Me」は、典型的なフォー・シーズンズ・サウンドであるが、サビからの展開がベン・E・キングの「Stand By Me」(61年)にも通じる普遍性を感じさせる。ステレオ・ミックスの左チャンネルでイントロから聴ける印象的なエレキ・ギターはヴィニー・ベルだろう。
唯一カレロがアレンジにタッチしていない「Hello Heartaches」は、クルーとシド・ベースの共作でベースがアレンジも手掛けている典型的なハチロクのガール・ポップである。
そしてタイトル曲で全米6位の先行シングル曲「Navy Blue」だが、この曲もフォー・シーズンズ・サウンドの流れを感じさせる。余談だが歌詞には海軍の水兵である彼氏から東京消印の手紙とお土産が届いたと出てくる。そのお土産はしゃべるチャイナドールということで、中華街を経由して東京へアクセスすることが可能な横須賀基地に勤務という設定なのかも知れない。
オブリガートや間奏で聴けるクラヴィオライン(後にビートルズの「Baby, You're A Rich Man」(67年)でも聞ける初期アナログ・シンセ)は、フォー・シーズンズの「Little Angel」(65年)でも似たトーンを耳にすることが出来るが、ボブ・クルー・プロダクション・セッションの常連キーボーディストで後にHot Butterにも参加するスタン・フリーのプレイだろうか。
日本ではダニー飯田とパラダイス・キング(フューチャリング九重佑三子)や伊東ゆかり、浅田美代子までがカバーしており、パラキンと浅田ヴァージョンの訳詞は漣健児、伊東ヴァージョンは安井かずみがそれぞれ担当している。
アルバム後半には、ザ・シュレルズが61年にリリースして翌62年に全米1位となった「Soldier Boy」のカバーをしている。原曲はカントリー風味のスローなドゥーワップだが、ここでのアレンジは「Dawn (Go Away)」(64年)を思わせるドラマティックな展開で原曲より魅力あるサウンドに仕上げている。さすがチャーリー・カレロのいい仕事というしかない。リネイの表現力も素晴らしいの一言に尽きる。
その「Dawn (Go Away)」や「Let's Hang On!」等多くのフォー・シーズンズ・ナンバーを手掛け、デニー・ランデルとのコンビで知られるサンディー・リンザーとクルーの共作による「He Promised Me Forevermore」はアレンジ的にも面白い。
古いディズニー映画のサントラを思わせる仕掛けがちりばめられていて飽きさせず、カレロの音楽的引き出しを垣間見られて興味深い。
ボーナス・トラックは『Navy Blue』後にリリースされたシングル「Growin' Up Too Fast」(64年)、「Waitin' For Joey」(64年、「Growin' Up Too Fast」のB面)、「It's In Your Hands」(64年)の3曲を収録している。 「Growin' Up Too Fast」はフォー・シーズンズの音楽的リーダーであるボブ・ゴーディオとクルーの共作で、アレンジ的にもチューブラーベルでメンデルスゾーンの「結婚行進曲」を引用してカレロのセンスを感じさせるがヒットに結びつかなかった。
続く「It's In Your Hands」もマーケットを意識したカントリー風味のロッカバラードだがヒットせず、リネイのよさも引き出されていないようで残念だ。
ともあれアルバム『Navy Blue』が、半世紀以上過ぎた今でも聴き継がれるべきガール・ポップのクラシックであることを心より信じている。興味を持ったWebVANDA読者やポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しいと願うばかりだ。
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