5月末にここで掲載したNegicco 『ティー・フォー・スリー』のレビューへの反響は意外に大きく、恐縮ながら某SNSでORIGINAL LOVEの田島貴男氏にも触れて頂いた。
こういった状況も踏まえて考察すると、過去こういった傾向が無かった訳ではないが、メジャー系に比べて様々な制約が少ないと思われる、ローカル発信のインディー系アイドル・グループへの楽曲提供は、マニアックな音楽趣向を持つミュージシャンやクリエイターにとって、オマージュの場となりつつあるのだ。
今回紹介するRYUTist(りゅーてぃすと)が8月2日にリリースした、セカンド・アルバム『日本海夕日ライン』もそんな1枚であり、所謂J-POP(あまり使いたくないカテゴリーだ)と呼ばれる表舞台で展開されているアイドル・アルバムとは一線を画し、WebVANDA読者をはじめ音楽通の音楽ファンも満足させる内容となっている。
RYUTistは11年にオーディションにより結成され、新潟県新潟市中央区古町を拠点として活動する女性アイドル・グループで、現在のメンバーは、五十嵐夢羽、宇野友恵、佐藤乃々子、横山実郁の4名から構成されている。
これまでに4枚の公式シングル、『RYUTist HOME LIVE』というタイトルのオリジナル・アルバムをリリースしており、今年4月に学業専念のため卒業した大石若奈に代わり、最年少メンバーとなる横山を加えて発表したのが、この『日本海夕日ライン』なのだ。
日本海を南北に縦貫する新潟の海岸線”日本海夕日ライン”をテーマにしたという本作から、シティポップやフィレス~ナイアガラ・サウンド、ビーチ・ボーイズからウェストコーストロックのエッセンスを感じ取ることは音楽通にとっては容易だと思う。
なるほど楽曲提供をしたミュージシャンやクリエイター達もその筋に精通した強者揃いで興味深い。
まずはWebVANDAではお馴染みのThe Pen Friend Clubのリーダーである平川雄一、伝説のシュガー・ベイブ~山下達郎フォロワーで、79年にリリースした自主制作アルバム『LOVE』が、オークションでプレミアム・レア盤となり一躍注目され活動を再開したso niceを率いる鎌倉克行。
この2人をはじめ、新潟県柏崎市出身で音楽プロデューサー、作編曲家、シンガー、ラジオ・パーソナリティ-など多彩な顔を持ち、今年4月に『HOMMAGE』(USM JAPAN/ UICZ-4349)をリリースしたばかりのカンケこと柏崎三十郎、また新潟市在住で鈴木恵TRIOやEXTENSION58のヴォーカリストとして活動する鈴木恵(さとし)といったマニアに知られるミュージシャン達に加え、職業作家としてメジャー系アイドル・グループに多く曲を提供している永井ルイやKOJI obaこと大場康司などが脇を固めている。
ではアルバム収録曲から筆者が気になった曲を解説していこう。
「Morning light Sunshine」は、CHAGE&ASKAやスキマスイッチのディレクターとして長年アーティスト達を支え続けた、むらたつとむの作編曲によるシティポップだ。イントロのギター・カッティングから80年代感覚溢れるサウンドは最早アイドル・ソングとは一線を画している。 続く「piece of life(socond piece)」は、70年代ファンクをルーツとするダンス・ミュージック・サウンドだが、魅力的なサビのリフレインは往年のモータウン・スタイルというか、H=D=H作品に通じる大場康司の作だ。
「フレンド・オブ・マイン」は現役バンドマンの鈴木恵の提供曲で、明らかに冒頭2曲の職業系クリエイターの作風とは異なる。The Zombiesの名盤『Odessey And Oracle』(68年)収録の同名異曲であり影響下にあるとは思えないが、こちらは70年代後半のパワー・ポップの匂いがする。
「海岸ROADでオトナッTunes!」はカンケこと柏崎三十朗の作編曲で、シックスティーズ感覚にナイアガラ風味(大瀧詠一が手掛けた「うなずきマーチ」(82年))を加味している。懐かしさもあるファニーなアイドル・ソングであるが、4月にリリースされたカンケのソロ・アルバム『HOMMAGE』(16年)で展開される、もっとメロディックな曲を期待していただけに少し残念だ。
「日曜日のサマートレイン」は、鎌倉克行の作曲で編曲は大場康司によるシティポップ。ダンサンブルなアレンジングによってso niceをイメージさせることは難しいが、山下達郎サウンドを彷彿させる間奏のサックス・ソロは鎌倉のアイディアなのかも知れない。
そして特に贔屓している訳では無いが、サウンド的にWebVANDA読者に最もアピールするのが、平川雄一の作詞と作編曲による「ふたりの夕日ライン」だろう。The Pen Friend Clubの「I Like You」(『Spirit Of The Pen Friend Club』収録 15年)と「街のアンサンブル」(『Season Of The Pen Friend Club』収録 16年)の魅力を1曲にとじ込めたような名曲である。
バッキング編成やコーラスを聴く限りThe Pen Friend Clubが全面的に参加しているようだ。
聴きどころが多い本作の中でも筆者がベストに挙げたいのが、実質ラスト曲の「金色の海と七色のDays」(作編曲:永井ルイ)である。中高音域を中心としたホーン・アレンジ(シベリウス的)、70年代のデッドなドラムのチューニングやバロック風のフレーズを多用する鍵盤はシカゴ(ジェームズ・パンコウのホーン・アレンジがミソ)を彷彿させるし、キング・ハーベストの「Dancing In the Moonlight」(73年)みたいな左チャンネルのエレピのリフが印象的だ。
オーヴァーダビングした間奏の無垢なコーラスはThe Third Waveに通じるし、ソフトロック・ファンも魅了するだろう。
最後になるが本作『日本海夕日ライン』は、Negiccoの 『ティー・フォー・スリー』と比較しても色褪せないアルバムだと思うので、興味を持ったポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)
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