沖縄県八重山地方のみ、それも4つの部落だけで、非公開で行われる豊年祭がある。この豊年祭にはアカマタ、クロマタという来訪神が現れるのだが、この4つの部落全てで写真、ビデオ、録音、携帯電話、さらにはメモも取ることも禁止しているため、詳細は不明で、このインターネットの時代においても1枚の写真も見ることができず、完全な秘祭といえよう。
私はこのWeb VANDAの旅行記でもその存在について折に触れ書いてきた。行われているのは新城島(パナリ)、小浜島、西表島の古見、そして石垣島の宮良。パナリのアカマタ、クロマタは昭和30年代に撮影された写真が一部の本に掲載されていて、実は私はその異形な姿を見てすっかり心を奪われてしまったのだが、そのパナリはここ3年、島に住む方に頼んでいたものの、今年も一切、非公開と告げられ、断念せざると得なかった。小浜島と西表島の豊年祭の情報は非常に乏しい。(ただし古見の豊年祭は、古い雑誌にその写真が掲載されていた。アカマタ、クロマタに加え、シロマタも現れる古見は、これらの部落の豊年祭の原型と言われているが、その姿かたちはパナリのそれと大きく異なっていて、祭りでの行動もかなり違う)その中、石垣島の宮良部落の豊年祭は、石垣市の中心から車で30分くらいの場所にあり、公開は一切していないものの、来る人をチェックし排除するまでには至らないようだ。これは脈がありそうだ。石垣市では宮良の豊年祭の日程をオープンにしている。2日のうち、後半の夜のムラプールに現れることは知っているので、その日は7月28日。もう7回目の八重山といいながら石垣島に友達がいるわけではないので、あてはまったくない。
しかし日程だけ分かれば、あとはすべてぶっつけ本番で、人に尋ねればなんとかなるのではと、飛行機の予約を入れてしまった。妻にも見に行かないかと声をかけたが、木曜日なので職場がそんなに休めない、また私のように魅入られているわけではないので、行かないという。それじゃあ豊年祭が終わった翌日、金曜の夜から合流しようと話がまとまった。まずは頼れるのは地元の人と、宿泊するホテル、使用するレンタカーの会社に、ダメもとで宮良の豊年祭の情報を求めておいた。すると宿泊先のホテルの方が親切にも当日の時間、会場の場所などを、石垣市役所に尋ねて聞いてくださっていた。このホテルアイランドリゾート石垣島イン八島は、各部屋の中に洗濯機と乾燥機が置いてあるスグレもの。沖縄県八重山地方のみ、それも4つの部落だけで、非公開で行われる豊年祭がある。この豊年祭にはアカマタ、クロマタという来訪神が現れるのだが、この4つの部落全てで写真、ビデオ、録音、携帯電話、さらにはメモも取ることも禁止しているため、詳細は不明で、このインターネットの時代においても1枚の写真も見ることができず、完全な秘祭といえよう。
さて、話は戻るが、会場の情報は「宮良の知念商会の近くの広場」というだけだ。駐車場があるかどうかは分からない。タクシーで...と勧められたが、東京と違って流しはないので帰りの保障がない。まずはとにかく下見と、車で宮良部落へ向かった。宮良川が出てきたので近い。ドキドキしてきた。すると道端の「ビデオ・写真・携帯電話 撮影・録音絶対ダメ!!」の看板が目に飛び込む。
やはりな。大丈夫かなと思ったがその横に「一般駐車場」の矢印が。一般...では部落の人以外でも大丈夫そうだ。さっそくそちらに車を進めて停車する。停まっていたのは他に1台のみ。まだ開始時間までには2時間もあるが、早くに行こうと思い、まずは道端にある知念商会を探す。店はほどなく見つかったが、その商店の周りに広場らしいものがなく、人気もなく、途方にくれる。これはこの店の人に聞くしかない。ジュースを1本買ってレジで聞いてみたが、若い人だったので、こっちの方だと思います、というアバウトな返事。これじゃ分からないなと思ったら、奥から中年の主婦の方が出てきてくれて、この道を登っていけば広場が出てくるからと具体的におしえてくれた。
やはりな。大丈夫かなと思ったがその横に「一般駐車場」の矢印が。一般...では部落の人以外でも大丈夫そうだ。さっそくそちらに車を進めて停車する。停まっていたのは他に1台のみ。まだ開始時間までには2時間もあるが、早くに行こうと思い、まずは道端にある知念商会を探す。店はほどなく見つかったが、その商店の周りに広場らしいものがなく、人気もなく、途方にくれる。これはこの店の人に聞くしかない。ジュースを1本買ってレジで聞いてみたが、若い人だったので、こっちの方だと思います、というアバウトな返事。これじゃ分からないなと思ったら、奥から中年の主婦の方が出てきてくれて、この道を登っていけば広場が出てくるからと具体的におしえてくれた。
会場の向こうの森からはドンドンドンという3連の太鼓の音がずっと聞こえている。あの森が、アカマタクロマタが生まれるというナビンドゥなのだろうか。夜の帳がおりてくると会場はいつしか500人くらいの人で埋まっていた。太鼓の音が聞こえる森からは女性や年配の男性達が列を作って会場へ集まり始め、赤い鉢巻、白い鉢巻の集団がそれぞれ100人くらいずつ、広場に分かれて座った。
夜の7時からは来賓の挨拶が続き、7時半に宮良公民館長から「聖地ナビンドゥより我々のニイル(ニイルピィトゥ=来訪神か?)の神様がやってこられます。その時は皆様、ご起立願います」とのアナウンスが入る。すると森の方からのぼりが2本現れ、その後ろのシンカの隊列の向こうに巨大な影が2つ見えてきた。
アカマタクロマタに違いない!この日は部落中の照明を落としているので、見えるのはほとんどシルエットだけ。これだけで凄い迫力だ。すると太鼓の音が突然ドドドドドドドンと連打に変わった瞬間、アカマタクロマタが広場に飛び込んできた。
でかい!高さは2.5m、横は2mはあるだろう。体中が草で覆われ、それぞれ赤と黒の巨大な面をつけているが夜光貝の目だけが夜の帳の中でキラキラ光り、その迫力はとても言葉では表現できない。子供が一斉に泣き出したという事実だけでもその衝撃が伝わるだろう。
すると鉢巻姿の村民が一斉に歌い始めた。歌は掛け合いで歌われ、みな声を限りに大声で歌っている。歌詞は一切分からないが沖縄でも本土でもない音階で、そのキーは高く、全身全霊をかけて歌う。歌に合わせてアカマタクロマタは上下に体を揺すり、2本の幟を持つ旗手は旗を互いクロスさせながら飛び上がるように踊る。そして後半、歌い手は一斉にアカマタクロマタを取り囲み、手を叩き、踊りながら、出会えた喜びを爆発させた。歌はユニゾンになり、宮良の夜を歌で覆い尽くした。演出の見事さ、歌の素晴らしさに私は感動して涙ぐんでしまった。祭りには出店のひとつもないが、この豊年祭をみな心から待っていたことが伝わってくる。畏敬の念にあふれ、これこそが祭りの本来の姿なのではないか。
ここでいったん、広場での儀式は終わる。この後、2つの神は、シンカと歌い手と共に部落を一晩中、朝までかけて一軒一軒めぐり、祝福を与えていくのだ。もうこれだけ見られれば十分だと思い、一般駐車場の方向へ向かうが、なにしろ暗いので人の後を付いていくしかない。
すると突然、あの太鼓の音が聞こえてきた。見ると脇の家に人が集まっている。集まった人の間をぬって前へ出ると、ちょうどアカマタクロマタが民家を訪れているところだった。アカマタクロマタは広場さながらにかけあいの歌に合わせて上下に体をゆすっている。歌は広場でのテンションを保ち実に見事だ。広場では正面にいながら暗くてよく見えなかったので、アカマタクロマタの顔をよく見たかったが、ちょうど横からだったので見られたのは横顔だけ。歌が終わるとシンカはアカマタクロマタをさっと取り囲み、慌ただしく移動していく。ここでも見られたのはよかった。
でもこの暗さではいったん国道へ出るしかない。一般駐車場は国道から入ったので、正確な曲がり角を知るにはそれしかないと、国道方面へ行こうとすると、シンカが道を封鎖し、通らせてくれない。この先で儀式をやるんだな。仕方がない。横道を回って国道へ出ると、警察が国道の車を止めている。道路は異様に暗い。
すると国道に面した神社にアカマタクロマタが入ろうとしていた。迎える家は全ての戸を全開にしてお迎えしている。家の中には20人以上いただろうか、アカマタクロマタが敷地に入ってくると全員が満面の笑顔になり、いかに待ちわびたか伝わってきた。国道側は人垣なのでよく見るために神社の横の脇道へ行き、低い塀越しに歌と踊りを眺めていた。
後日、石垣島で何回かタクシーで移動した時に運転手さんに聞いたのだが、この歌、昔から部落に住んでいる人、移住してきた人など、それぞれみな違うのだそうだ。ただ同じ石垣の人でも歌の内容は分からず、宮良の人に、いくら内容を教えてくれといっても絶対に教えてくれないし、せめて由来だけでも懇願してもそれもダメ。あそこの人にとっては神様だからさ、と苦笑していた。
今回も位置が横なのでアカマタクロマタの顔がよく分からない。こっち向かないかなと思っていたら、シンカの中でもリーダー格と思われる手に杖を持っている人がやってきて、血相を変えながら、ここはダメだ、あっちへ行けと、手で押してくる。「早く早く!」と口走りながら押すので、道路の奥へ押し出されていくと、シンカの一団が小走りにやってきた。するとアカマタクロマタが自分のすぐ横を疾風のように通り過ぎていった。目の前で見られたし、意図せずに何度も儀式が見られたなんてなんてラッキーなんだろう。長年、恋焦がれていたから、神様がそうさせてくれたのかな。でもやっぱり横顔しか見られなかった。
駐車場へ行く道を見つけ、真っ暗な夜道を見上げると、空には降るほどの星。アカマタクロマタに出会えた喜びと、素晴らしい音楽に出会えた喜びではち切れてしまいそうな胸を、満天の星空がそっと包んでくれた。(佐野邦彦)
すばらしい。
返信削除私も送思う。
返信削除輪廻転生DNAが旋律をがおぼえてた。
同感です。
2神柱 大世持 広世持