VANDA30号やWebVANDAの対談でもお馴染みのミュージシャンの近藤健太郎と、幅広いフィールドで活躍する作編曲家の洞澤徹によるユニット、The Bookmarcs(ブックマークス)が、6月29日に3曲入りシングル『追憶の君』を配信リリースする。
14年の『眩しくて』から2年、マイペースながら巧みな曲作りとアレンジ、スウィートなヴォーカルと歌詞の世界観。まさに大人のためのポップスを追求し続けている二人から届けられたサウンドにはいつも虜にさせられるのだ。
ここでは筆者と交流のあるメンバーの二人にこの新作について聞いてみた。
●「11年のThe Bookmarcs結成から5年が経過した訳ですが、それぞれ職業作編曲家とバンドのヴォーカリストと並行しての活動を振り返ってみてどうでしたか?」
洞澤(以下 H):「自分のなかではユニットでの音楽制作と、他の制作仕事で気分のモードの違いが昔(11年頃)ほどなくなって来ていると思います。
以前は気分を切り替えてやっていた気がしますが、なぜか今はそうとう追い込まれて締め切り間近でない限り、職業作家仕事とユニットとの制作のスタンスがそれほど変わりません。どちらも楽しみながら苦しみながら(笑)。 TheBookmarcsのリリースにあたっては、数多くの知り合いのプロの作曲家の耳にも届くことになるので仕事同様それなにの覚悟をもって取り組むことになります。」
近藤(以下 K):「The Bookmarcs結成時、自身のバンドthe Sweet Onionsは活動休止状態でして、その頃はカフェバーで1人弾き語りライブをやってみたり、曲を作って個人的に楽しんだりしていました。 でもThe Bookmarcsの活動がよい刺激となったのか、2012年にthe Sweet Onionsとして3年ぶりの復活ライブ(Little Lounge*Little Twinkleとのツーマン)、そして昨年夏、今年の2月にもライブをする機会に恵まれました。The Bookmarcsも結成以来わりとコンスタントに作品を発表できたりと、振り返るとなかなか充実した活動が出来ていたんだなぁと思います。」
●「これまでの『Transparent EP』、『音の栞~Favorite Covers~』、『眩しくて』の3作品を経て、今回『追憶の君』のリリースとなりますが、結成当初と今作でのサウンドの変遷を作編曲担当の洞澤君からお聞かせ下さい。」
H:「過去作品と今作の一番の違いは、できるだけ打ち込み感を排してドラムとベースも生に差し替えて、ある程度のばらつき感も含めて、いっそう演奏の息遣いを大事にした所だと思います。 イントロからエンディングまで仮に同じパターンが演奏されることになっても、感情のダイナミクスがそこにつくわけなので、打ち込みのキープとは違ってくる訳です。
もちろん打ち込みでもそこそこ凝ればダイナミクスや緻密なアーティキレーション(※音と音のつながりに様々な強弱や表情をつけることで旋律などを区分すること)は表現できますが、生には適わないしアクシデンタルな部分でも人力が良いなと今回は思いました。
そういえば制作時の後半は好んで小島麻由美さんの『面影』(03年)というアルバムを聴いていました。大好きなアルバムの一つで、演奏の息づかいが感じられて気持ちのどこかで雰囲気を寄せたいところがあったのかもしれません。」
●「同様に歌詞の世界観の変化については、作詞を担当している近藤君からお聞かせ下さい。」
K:「基本的に世界観は変わってはいないと思うのですが、歌詞を作る上でより心がけるようになったこととしては、できるだけ綺麗な言葉を使うこと、風景が思い浮かぶような詩、また夢で見たような景色や希望がほんのりと膨らむような、そんな世界観を築ければなぁと思っています。」
●「レコーディングの期間とその中で新たな試みなどを含めて、面白いエピソードはありましたか?」
H:「レコーディング期間はけっこう(曲を)寝かした期間が長かったので、いついつとは言えないのですが、ドラム、ベース、トロンボーンなど外部ミュージシャンに頼んで録音したのは3月 から5月です。
ドラムは基本的に僕が打ち込んだパターンを参考に、奏法などに少しリクエストを加えましたがフィルはすべてお任せでした。音作りはドラムの足立浩さんとスタジオハピネスの平野さんを全面的に信頼していましたので、特に何か言うことは無かったです。
本番録音中、間奏前の足立さんのドラムフィルや北村規夫さんのベースのアドリブ・フレーズなどに思わずグッとくる瞬間があるので、そこは外部ミュージシャンの方にお願いする醍醐味だと思いました。
また「真紅の魔法」ではイントロから和田充弘さんのトロンボーンが入り、その後もずっと歌と絡み合うように演奏され、この曲の大事な要素になっています。一応譜面は書いてイントロやワンコーラス目などは譜面通りに吹いてもらいましたが、後半はほとんどアドリブです。フレーズが美しくてレコーディング中、普通の一オーディエンスになってしまっていました。」
K:「僕も生楽器の導入が大きな変化でした。ドラム、ベース、トロンボーンのレコーディングにそれぞれ立ち会わせていただきましたが、洞澤さんのアレンジに各プレーヤーの方々が瞬時に対応して、素晴らしい演奏を目の当たりにできたのは大きな喜びでした。 また、スタジオハピネスのエンジニアの平野さんの的確な音作りや、スムーズなレコーディングの進め方にも感銘を受けました。」
●「お二人それぞれで、今作中で個人的に好きな曲をピックアップして頂き、その理由をお聞かせ下さい。」
H:「「追憶の君」です。 歌や楽器、トータルアレンジ、質感などバランスがうまくいった 作品なのでとても気に入っています。
近藤君の落ち着いたトーンがとても曲にマッチしていて、メロディを考えついた当初からは、かなり曲が育った感じが一番します。アレンジで言えばベースとエレピのコンビネーションも巧くいっていると思います。」
K:「非常に悩むのですが、歌詞や歌い方の上で自分的新境地だなと思える「真紅の魔法」を挙げます。メロディがジャジーで、言葉をのせると最初の雰囲気とあまりにもガラっと表情が変わってしまうため、英語詞にしたほうがいいのかなとか、悩んだあげく投げ出しそうにもなりました(笑)。
でもなんとか完成していざ歌入れ。プレイバックを聴きながら洞澤さんが、「ばっちりイメージ通り!いやそれ以上だよ」と言ってくれたので、本当に嬉しかった思い出の曲です。大人っぽさを意識しつつ、気持ちよく歌えました。」
●「では最後に今作のアピールをお願いします。」
H:「何度聴いても飽きずに味わえる作品だと思っています。聴いてくれた方々の素敵な日 々の生活の演出の一部になれれば嬉しいです。」
K:「とても丁寧に作られた曲達なので、聴けば聴くほど味わいが出てくると思います。例えるなら、作り手の情熱や愛情を感じることのできる豊穣なワインのような作品を目指しました。 3曲それぞれの表情や世界観を何度もリピートして楽しんでいただければ嬉しいです。」
筆者からも収録曲の解説をしておこう、ジャズ風のギター・イントロを持つ「そばにいるよ」は、洞澤が得意とするスティーヴィ・ワンダーを彷彿させる穏やかなソウル・ポップスだろう。近藤による歌詞は大人の純愛というべき世界を描いている。
タイトル曲の 「追憶の君」 は、『Gorilla』(75年)や『In the Pocket』(76年)の頃のジェームス・テイラーに通じる、70年代中期の良質なシンガー・ソングライター風サウンドだ。薄くフェイザーを聴かせたエレキ・ギターやフェンダー・ローズ系のエレピの刻みなどサウンドも全体に完成度が高く、エヴァーグリーンな匂いがしてたまらない。
ラストの「真紅の魔法」は、The Bookmarcsとしては新境地の曲とアレンジになるだろう。 作曲した洞澤によると、The Style Councilの「The Paris Match」(『Café Bleu』収録・84年)に着想を得たらしいが、最終形は近藤の声質も相まってポール・マッカトニーのジャズ・スタンダード・カバー集『Kisses on the Bottom』(12年)みたいな味わい深さもある。
とにかくレイジーな近藤のヴォーカルに絡む和田充弘のトロンボーンのプレイは際立っている。
なお本作は6月29日から下記The BookmarcsのITunesサイトから配信リリースされるので、本インタビューを読んで興味を持ったポップス・ファンは是非購入して聴いてほしい。
ITunes 『追憶の君』
https://itunes.apple.com/jp/artist/the-bookmarcs/id530100662
(ウチタカヒデ)
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