まずは一番古い1966年10月22日ミシガン州立大学のライブの「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」「God Only Knows」の3曲が嬉しい。というのもアルバムがリリースされた年のライブだからだ。このライブはあの1997年から2000年にかけてリリースされた伝説のBootlegシリーズ『Unsurpassed Masters』の番外編として、CD3枚組の『Live Box』の中で既にリリースされていたものだが、そのうちディスク1がこの日のFirst Show、ディスク2がSecond Showで、選曲が異なっていた。「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」はFirst Showのみで披露され、「God Only Knows」はどちらでも登場したがFirst Showではイントロのオルガンでマイク・ラブがGod Only Knowsの曲名をつぶやいたが、Second Showでは何も言わなかったので、本CDはこれもFirst Showの音源と分かる。『Live Box』はちゃんとしたライン録音だが、本CD収録に際してはリミックスしており歌と演奏のバランスを改善したと同時に歓声などの部分も編集している。「Good Vibrations」もこの日の録音にあったがテルミンの音程が不安定でサウンドも薄く出来がイマイチなので、この曲と「God Only Knows」「Wouldn’t It Be Nice」は1967年11月19日ワシントンDCのDaughters Of The American Revolution Constitution Hallでのライブも収録した。1966年の前述のライブは、歴史的価値はあるが「God Only Knows」はオルガンのイントロなど演奏がシンプル過ぎてライブとしての出来はあまりよくない。「Wouldn’t It Be Nice」はそこまでは劣らないが、こちらの方が弾むようなリズムがあった。3回目の「God Only Knows」は1972年11月23日ニューヨークのカーネギーホールのライブで、ホルン風のキーボードも入り、演奏とコーラスの厚みが格段に進化し、レコードに近くなっている。4回目登場の「God Only Knows」はさらに10年後の1982年のジャマイカのモンティゴ・ベイのライブで、カールの歌とコーラス、バッキングの演奏はさらなる厚みを増した。そして「Sloop John B.」も23年後の1989年5月23日カリフォルニアのユニバーサルスタジオのライブも収録、こちらも歌・コーラス・演奏が比較にならないほどの進化を遂げていた。ラストの2曲は1993年11月26日のニューヨークのパラマウント劇場のライブでの「Caroline No」と「You Still Believe In Me」のライブだが、この時期以降だとオリジナルとの再現レベルを追及してしまうので、ブライアン・バンドでのブライアン・ウィルソンの完璧なソロ・ライブとの比較をしてしまう。そのため面白味が下がってしまうが…。よってこの本Super Deluxe Editionがあれば2枚組のDeluxe Editionの全曲を包括してしまうので、そちらは必要ないことがはっきり分かった。
結局この50th Anniversary Super Deluxe EditionのメリットはDeluxe Editionにも入ったライブ+初登場3トラックだけなので、『Pet Sounds Sessions(Box Set)』を持っている人は、そもそも買うべきか、3トラックは諦めて安いDeluxe Editionで済ませてしまう手もある。もちろんコレクターの自分は1トラックが増えただけでも買うけど。逆に『Pet Sounds Sessions(Box Set)』に入っていた「Here Today(Stereo Backing Track)」は4分50秒と長く、それは曲が終わった50秒後にシークレット・トラックとしておそらく「Here Today」録音時の会話短くが入り「I Just Wasn’t Made For These Times」のア・カペラが10数秒出て終わるが、このシークレット部分は50th Anniversary Super Deluxe Editionではカットされているので前のものを売っぱらったりしないように。なおBlu-ray Pure Audioは、本ボックス収録の重複音源で、音質がいいということだ。
最後に、前のボックス・セットも持っていない人のために、本ボックスの目玉である「別テイク&初期テイク集」の部分の過去の紹介分もコピペしておこう。
目玉となるのは「God Only Knows」で、ブライアンがリード・ヴォーカルを取るBrian Wilson Vocal、エンディングがア・カペラの違うアレンジになるWith A Cappella Tag、間奏がサックスのSax Soloと3ヴァージョンも楽しめる。「I’m Waiting For The Day」でマイクがリード・ヴォーカルを取るMike Lead Vocal、「Sloop John B,」は初期テイクのブライアンが歌うBrian Wilson Vocal、完成度が高くなった一番をカールが歌うCarl Sings First Verseなどが目を引くが、「Here Today」のAlternate Versionのようにブライアンの歌いまわしが少し違うテイクも面白い。「Wouldn't It Be Nice」のAlternate Version(2テイクあり)では1番と2番の歌詞が逆になっていた。どの別テイクもヴォーカルが前面に出ていて迫力がある。ただし「Hang On To Your Ego」は『Good Vibrations Box』で初登場した1st Verseのあとマイクが「ブルルル」というテイクが収められた。確かにこちらのテイクの方がバック・コーラスもあるのでより完成ヴァージョンだが、『Pet Sounds』の1988年東芝EMI及び1990年Capitolリリースのモノ盤収録の「Hang On To Your Ego」のコーラスが入っていないが、マイクの余計な「ブルルル」がないテイクは収録されなかった。ここまでやったのになぜ?という思いが残る。
このテイクはこの50th Anniversary Super Deluxe Editionにも収録されていない。(佐野邦彦)