ローリング・ストーンズの1995年のアン・プラグド・アルバム『Stripped』。このアルバムは、3月4日・5日の東京の東芝EMI第3スタジオと7月23日~26日のリスボンのスタジオでの録音に、ストーンズにしては小さな会場、スモール・ギグとして行われた5月26日のアムステルダム、7月3日のパリ、7月19日ロンドンでのライブから抜粋して作られたアルバムだった。リスボンでのスタジオ録音を除いた東京と3か所のライブはカメラに収録されていて、そのハイライトを抜粋したものは95年の年末にMTVで『Stripped TV Special』のタイトルで放送された。本ボックスでは、放送版より長く編集したBlu-ray『Totally Stripped』になり、なんと3回のライブは完全版で3枚のBlu-rayに収録された。そして『Totally Stripped』のタイトルでアムステルダム7曲、パリ4曲、ロンドン3曲から抜粋されたCDがプラス、さらに日本版のみ各会場から1曲ずつ計3曲を収録したボーナスCDがプラスされた。この2枚のCDだが、音源は『Stripped』とダブったのは1曲で、「Street Fighting Man」だが、『Stripped』は短縮版だったのでこちらは嬉しい完全版。あと「Gimme Shelter」はシングル「Wild Horses」のカップリングで収録されたものと同じ。(ミキシングは異なる。)曲目としても初めて登場したのは「Honky Tonk Women」「Far Away Eyes」「I Go Wild」「Miss You」「Brown Sugar」「Midnight Rambler」「Jumpin’ Jack Flash」「Rip This Joint」の8曲。(この時期の録音では東芝EMIスタジオで録音した「Honest I Do」が98年のサントラ『Hope Floats』のみ収録)このCDは3公演からのセレクトなので、この3枚のBlu-rayが極めて重要なものになる。まずアムステルダムはパラディソという定員1500人のクラブで5月26日と27日に行われ、Blu-rayには26日の模様が収められた。全20曲だが、他の会場と選曲がかなり違う印象だ。なんといっても最も小さな会場なのでメンバーと観客の距離感が違う。冒頭からメンバーは手を伸ばす観客とハイタッチをしていて、キースは満面の笑顔だしこれから始まるスモール・ギグを楽しみにしていることが伝わってくる。出だしの「Not Fade Away」からロンはアコギでガシガシとコードを弾いて曲が盛り上がる。続く「It’s All Over Now」と「Live With Me」はエレキ。前者はアレンジを変えていて新鮮だ。後者はボビー・キーズのサックス・ソロがマイクなどいらないような生々しい迫力で迫る。「Let It Bleed」からアコースティック・セットになりミックもアコギを弾き、ロンはアコギを寝かせてボトルネックを弾く。そして渋いブルース・ナンバー「The Spider And The Fly」でミックはハーモニカを入れる。「Beast
Of Burden」もアコースティック・セットなので間奏のアコギがきれい。そして「Angie」「Wild Horses」と定番へ。「Sweet Virginia」からキースのソロ3曲連続の最後の「The Worst」まではキースはずっとアコギで、ロンは時々エレキを持つが、アコースティック・セットが12曲続くのは素晴らしい。「Gimme Shelter」でエレクトリック・セットになり、リサ・フィッシャーとのエロティックなからみの演出もある。その後「Respectable」「Rip This Joint」ではキースはセミアコ、最後の「Street Fighting Man」ではキースとロンはアコギなので、レコードと同じパワフルなコードが再現されて最高だ。7月3日のパリのオランピア劇場も2000人という小ささで手の届きそうな範囲に観客がいる。エレクトリック・セットの「Honky Tonk Women」「Tumbling Dice」から始まり「Beast Of Burden」まで7曲エレクトリック・セットが続く。そして「Let It Bleed」からはアムステルダムと同じアコースティック・セットへ。「Angie」ではキースはアコギだが「Wild Horses」ではエレキを弾く。もちろんサウンドはアコースティックだが。「Down In The Bottom」ではミックはアコギ、キースとロンはアコギのボトルネックでこのブルース・ナンバーを決める。5曲のアコギの後、「Like A Rolling Stone」からはエレクトリック・セットへ。「Miss You」はリサ・フィッシャーがミックとからむ演出があり、ミックへの乳首舐めが凄い。エンディングはコードが跳ね上がるタイプの「Brown Sugar」のあと、レコードに忠実な「Jumpin’ Jack Flash」が最高。コーラス部分がちゃんとしているのでレコードと同じに聴こえる。キースのコードもミックの歌い方も崩さないところがいい。7月19日のロンドンはブリクストン・アカデミー、5000人という規模で他に比べて倍以上大きいが、これでも「スモール・ギグ」と言ってしまうところがストーンズの凄いところ。このフィルムのみ他と違ってバックステージから映っていて、会場も観客の手などが見えないので大きな会場ということが伝わってくる。最初の3曲はパリと同じ選曲、6曲目の「Dead Flowers」からアコースティック・セットに変わる。今までロンがアコギを寝かせてボトルネックで弾いていた曲がスティール・ギターを使うなど大きな会場用なのか使い方が違っていた。ただ「Down In The Bottom」のようなブルース・ナンバーではロンがアコギを寝かせてミックと合わせて3本のアコギの曲もある。ただしロンがエレキの場合も多い。そして「Like A
Rolling Stone」ではもともとディランがエレキを持って出てきた曲ということもあるのか、この会場のみエレクトリック・セットになった。以降はエレクトリック・セットだが、「Monkey Man」で盛り上がる。そしてリサ・フィッシャーとのからみはこの会場ではこの曲で、リサの「You’re
the monkey」の熱唱が光る。後のキースの2曲もエレクトリック、以降もアコギに持ち帰ることはなく最後の「Jumpin’ Jack Flash」へ。キースは上半身裸でミックも裸に上着をひっかけているだけというお馴染みの姿に。ここでもコーラスなどレコードと同じでパリと同じ演奏でいい。そしてBlu-rayの『Totally Stripped』は東芝EMIスタジオでの4曲が目玉。メンバー4人とサポートメンバーが集まって録音されたが4人がお互いの顔が見える円形で囲んで一斉に演奏する様は感動的。キースの「滅多にやらない曲との縁が戻って嬉しいよ」という言葉と現実派のミックの「古い「クモとハエ」とか大変。違う時代に引き戻されるようでそういうのは苦手。入り込みにくい。でも絶賛してもらえたからいいかな」の感覚の違いが面白い。Blu-rayでは「Love In Vain」が完全版。「The Spider And The Fly」は途中でミックのインタビューがインサートされて再び演奏に戻って完奏する。「Wild Horse」はピアノにコーラス隊も入っての一発録りで完全版、キースは「みんな揃って演奏できたのが感動的だ。小細工はきかないし、みんなが揃って一発録りし、音が溶け合っていた」と大満足。チャーリーも同様だった。最後は「Let It Bleed」で、ここではメンバーのスタジオ内のショットが映像で、曲も短く編集され終わる。4曲だけの収録だが、ここでしか見られない映像で超貴重。実際には16曲を演奏し、5曲+1曲がCD化された。映像の中の「Love In Vain」「The Spider And The
Fly」「Wild Horses」は『Stripped』に収録されている。MTVでは89年からUnpluggedが始まり、ポール・マッカートニーは91年に『Official Bootleg』を出すなど。95年のストーンズのこのアルバムは企画としては遅い。しかしキースは自宅や、ツアー時でのロンとのセッションは常にアコギで、アンプラグドは昔からの自然なこと、そういったいきさつからはじまって東芝EMIスタジオのセッションとその後の日本での9公演でのアコースティック・セットの導入、3公演の詳細、『Stripped TV Special』とBlu-ray『Totally Stripped』の違いなど、ストーンズの伝道師、寺田正典氏が5万字を超える圧倒的なライナーで紹介してくれる。これで他のものは一切読む必要がない素晴らしいライナーだ。ただ、この日本版はTシャツが同梱されてしまうのでこれのみ困る。昔日本盤の『Time Of The
Zombies』もそうだったが箱だけ大きくなり、着てしまえば箱が無駄になってしまうので結局着ないで取ってあるので部屋が狭くなるのみ。LPと合わせてTシャツも同梱じゃないものも選べるようにしてほしい。なにしろ部屋が狭いので…(佐野邦彦)
0 件のコメント:
コメントを投稿