それもその筈で、楽曲提供やアレンジャーとして以前本枠で紹介しているミュージシャン達が参加しているからである。
ご存じない読者もいると思うので紹介しておくが、Negicco は2003年に結成された新潟在住の所謂ローカル発信のアイドル・ユニットである。現在のメンバーはNao☆、Megu 、Kaedeの3名で、これまでに20枚のシングル、『Melody Palette』、『Rice&Snow』と2枚のオリジナル・アルバムをリリースしている。
地方をベースに十代前半でデビューして下積み時代が長かった点ではPerfumeをイメージさせるが、彼女達は独自のスタンスでこの時期を乗り切り現在に至っている。
なにより本作『ティー・フォー・スリー』は巷に数多存在するアイドル・アルバムとは一線を画す、音楽性とクオリティーを誇っており、ソフトロックやポップス・ファンを満足させる内容となっているのだ。
ニノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンスが取り上げたことでポップス・ファンにも知られたスタンダード・ナンバーの「Tea For Two(二人でお茶を)」をもじったらしいアルバム・タイトル、ECMレコード作品を思わせるジャケット・デザインなど、その拘りを感じ取ったのは筆者だけでは無い筈だろう。
また過去には小西康陽、ORIGINAL LOVEの田島貴男、NONA REEVESの西寺郷太といったポップスを知り尽くしたマエストロ達が楽曲提供をしているが、本作でもレキシの池田貴史、著名な作詞家の岩里祐穂(今井美樹の諸作で特に知られる)、シンガー・ソングライターの堂島孝平や土岐麻子から声優の坂本真綾等々に加え、ユメトコスメの長谷泰宏やウワノソラ及びウワノソラ'67の角谷博栄が参加しているのである。
人選については、彼女たちのプロデューサーであるconnie氏(新潟で現役サラーマンを兼務しながらNegicco のサポートを続けているが、その真摯な姿勢には頭が下がるばかりだ)の審美眼から選ばれたクリエイター達ばかりなのだろう。
では肝心のアルバム収録曲から筆者が気になった曲を解説していこう。
続く「RELISH」(作詞:岩里祐穂、作曲:connie)と「マジックみたいなミュージック」(作詞作曲:connie)も70年代のブラック・ミュージックからの影響が強く、前者はフィラデルフィア・ソウルから70年代後期のメリサ・マンチェスターを彷彿させ、リチャード・ティー風のピアノ・オブリが入ってご機嫌なのだが、サウンドは80年代的センスで構築されている。
後者はデヴィッド・ペイチ(TOTOの実質的リーダー)とデヴィッド・フォスターが手掛けたシェリル・リンの「Got To Be Real」等ブルーアイドソウル~AORサウンドへのエッセンスが感じられる。
本作はこの3曲の躍動感で引っ張られているが、ソングライティング的にVANDA読者を唸らせるのはこれから紹介する曲になるだろう。
まず長谷泰宏が作編曲した「カナールの窓辺」(作詞:connie)は、ジミー・ウェッブが手掛けたThe Fifth Dimensionの「Up-Up And Away」(67年)へのオマージュというべき現代のソフトロックである。全トラック生演奏によるものだが、ホーンのフレージングやコーラスのヴォイシングからハル・ブレインのドラム・フィルなどをよく研究されている。
今年3月にシングル・リリースされた「矛盾、はじめました。」(作詞:土岐麻子、作曲:さかいゆう)は、ミシェル・フーガン&ビッグ・バザールの「Une belle histoire」(72年・日本では78年にサーカスが「Mr.サマータイム」のタイトルでカバーした)を彷彿させるボサノヴァ・フレイバー漂う大人のフレンチ・ポップで彼女たちの新境地になったのではないだろうか。
「土曜の夜は」はウワノソラの角谷博栄のソングライティングによるシティ・ポップで、今月14日に数量限定で7インチ・リリースされたばかりだ。若きヘヴィー・リスナーである角谷らしい様々なエッセンスが鏤められているが、特にSUGAR BABE経由のGary Lewis & the Playboys(つまりスナッフ・ギャレット)風のサウンドは好きにならずにいられない。バッキングもウワノソラとサポート・メンバーによるものだろう。アルバムの終盤近くにこの曲を配置するセンスにも懐の深さを感じさせる。
そして「おやすみ」(作詞:MEG、作曲:connie)は前出の「「ねぇバーディア」のシングル・リリース時にカップリングされた同曲のアルバム・ヴァージョンで、長谷の弦アレンジが際立っている。シングルではオーガニックなスロー・ジャム風だったが、ここではピアノと弦カルテットにグロッケンによるデリケートなサウンドで、曲そのものを引き立てるA&M~Odeのシンガー・ソングライター風のバラードに仕上がっている。
続くラストの「私へ」(作詞:坂本真綾、作曲:connie)は前曲からの残り香というべき、同系列のバラードで「So Far Away」(キャロル・キング)、「We've Only Just Begun」(ロジャー・ニコルズ&ポール・ウィリアムス)、「Arthur's Theme (Best That You Can Do)」(クリストファー・クロス)等の名曲群を聴き込んだ者にしか作れない美しい曲である。
この2曲を初め半数の曲作りをしながらトータル・プロデュースも手掛けているconnie氏はかなりのポップス・マニアと察する。
本作『ティー・フォー・スリー』はそんな有能なプロデューサーと多くのクリエイターがバックアップした良質なアイドル、もとい2016年を代表するポップス・アルバムと言えるのだ。
興味を持ったソフトロック、ポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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