98年にQYPTHONEでデビュー後ソロに転じ、CM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラック制作のクリエイターとしてのめざましい活躍をしている彼であるが、その真骨頂はシンガー・ソングライターとしての姿にあると筆者は考えている。
本作もソングライティングから編曲、オーケストレーションをはじめ、キーボードの演奏とプログラミングやヴォーカル、コーラスまで担当するというマルチ振りで、その独特な世界観を構築してジャンルの壁を軽々と飛び越えているのだ。
13年の『Lyrics』リリース後同年7月に新鋭のビックバンド、イガバンBBとタッグとのコラボレーションで『Big Band Back Beat』をリリースと、この年の活動は目まぐるしく忙しかったに違いない。
翌14年にも10周年を記念したオールタイム・ベスト『SWINGER SONG WRITER』を発表しており、シンガー・ソングライターとしてのソロ活動に一区切りをつけ、本作『EYE』で新たな中塚サウンドを模索していたのだろう。今月初頭に入手した音源を一聴して期待を上回るそのクオリティーに舌を巻いたのだが、例えるとベニー・シングスが手掛けたウーター・ヘメルの『Hamel』(07年)のサウンドを更にテクニカルに先鋭にしたといえばいいだろか。
ゲスト・ミュージシャンとして、パーカッションに松岡 "matzz" 高廣(tres-men/quasimode)、ストリングスにNAOTO、ブラスセ・クションには本田雅人(sax)、佐々木史郎(trumpet)、エリック・ミヤシロ(trumpet)、Luis Valle(trumpet)、中川英二郎(trombone)、五十嵐誠(trombone)等々、現在の日本のジャズ界の実力派ミュージシャン達が集結している。
アルバムは本作を象徴するリード・トラックの「JAPANESE BOY」から始まる。
アタックの強いシンセとホーンのリフ、スキャット、ストリングスが目まぐるしくり乱れ、ハイブリッドなビックバンド・サウンドを展開する。中塚のヴォーカルも生歌とオートチューン?でエディットされたコーラスが見事に構成されており、とにかく圧倒される最先端のジャズ・ポップというべきだろう。
続く「プリズム」は新主流派的な和声感にムーディーなラテン・ジャズのリズムを融合させて、90年代のアシッド・ジャズのテイストにも通じるクールなナンバーである。
弦楽四重奏のイントロから軽快に転回する「あの日、あのとき」のアレンジも面白い。途中ジミー・ウェッブが手掛けたフィフス・ディメンションの「Up, Up And Away(ビートでジャンプ)」(68年)風の短いフレーズが引用されていて唸ってしまった。
他にもビックバンド・サウンドを全面に出した「〇の∞ (album version)」、フュチャー・サウンド的なトラックに無垢なメロディと歌声をぶつけた「ふれる」等聴きどころは多い。
アルバム中最もソング・オリエンテッドな「ひとしずく」にも触れておこう。スローなニュージャックスイング調のバックトラックに感動的なホーンとストリングスが重なっていく。本作のハイライトと呼べるかも知れない。
(ウチタカヒデ)
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