フーの箱入りボックス・セット「Super Deluxe Edition」の第3弾、いよいよ本命『Tommy』の登場となった。4枚組だが2枚は『Tommy』(最新リミックスCD&5.1サラウンドBlu-ray)なので、目玉は残る2枚となる。ディスク2『The Demos & Out-Takes』とディスク4『The Live Bootleg Album』、前者にはフーとしての未発表曲に初めて「Young Man Blues」の『The House That Track Built』のヴァージョンが収録、後者は『Tommy
』のライブとしては最も初期の音源と聞けば、入手しないわけにはいかないだろう。
世紀の名作『Tommy』の素晴らしさは、これ以上書く必要もなかろう。世の中に天才と呼ばれる人がいて、その人が誰もが到達しえない永遠の名作を作った。それが『Tommy』である。ディスク2には、その天才、ピート・タウンゼンドが作った『Tommy』の原型となるデモが23曲収められた。ピートのデモの完成度の高さは誰もが知るところ、やはりアレンジまで、ドラムの聴かせ所まで、きっちりと出来上がっていた。フーのレコーディングはこのピートのデモをみんなで聴いて、各々のパートに取り掛かる。詳細な設計図が出来上がっていて、ロック界でも一二を争うテクニシャン達が完成させるのだから、他の追随を許さないクオリティのアルバムが仕上がる。23曲中今まで5曲のデモを披露していたが、こうして一気に『Tommy』の原型に出会って、そのデモがどれだけ完成度が高いのか分かってはいたのだが、改めてピートの偉大さに身震いするばかりだ。メロディはもちろんハーモニー、アレンジ、ビート(ドラムパターン含む)、あの『Tommy』が既に出来ていたのだから。初期のライブでは、ざっくりとコード弾きしていた「I'm Free」も、デモではアルバムと同じ遅れたビートのアレンジで作られている。やりながらアイデアを出してまとめていくのではなく、ピートの頭の中では既にファイナル・ヴァージョンが鳴っていたわけだ。「Smash The Mirror」の終わりもガラスが割られていて余韻にドラ、まったく同じなのだから恐れ入る。この中で見たことがないタイトルは2曲。10秒しかない「Success」は使われていないアウトテイク。「Dream One」は「Amazing Journey」の後半のアイデアとして使われている。24曲目の「Trying To Get Through」はフーとして演奏したアウトテイクでこれよりも荒削りなテイクが『Tommy(Deluxe Edition)』に収められていた。そして『Tommy』で使うことが検討されていたスタジオ・ヴァージョンの「Young Man Blues」は、ようやく1969年のTrackレコードのオムニバス『The House That Track Built』のみ収録されていたものと同じヴァージョンだった。このスタジオ・ヴァージョンははじめ歌い方も違うまったくの別テイクが1998年版『Odds And Sods』で登場し、『Tommy(Deluxe Edition)』ではテイクは同じながらエコーが少なく乾いたミックスのものが収録され、さらに日本のみ2011年にリリースされた『Odds And Sads+12』では同じテイク、されどロジャーのヴォーカルがシングルと、3回も別のものばかり収められていたので、ようやく真打登場といったところ。ディスク4の『The Live Bootleg Album』は、1969年10月15日にカナダのオタワのシビックセンターからの収録で、『Tommy』のライブの全容を捉えたものとしては最も初期のライブである。今まで『Tommy』のライブの全体を収録したアルバムは、順に1970年2月14日のリーズ大学、15日のハル・シティ・ホール、8月29日のワイト島フェスティバルなので、『Tommy』がリリースされた1969年のライブはこれが初(「ウッドストック」など曲単位の収録を除く)である。ライブの初演は5月なので、その5か月後のライブが本ディスクだ。全体を通して聴くと最も荒削りで、「I'm Free」は、あの3コードを違うビートでストロークしている。最後の「See Me Feel Me/Listening To You」は歌が終わった後に5分近いアドリブが続き、洗練とは程遠い。しかしフーの場合、メンバーの演奏力が極めて高いため、荒削り=稚拙にはならず、逆に暴力的なエネルギーとなり、魅力を増す場合が多いのだ。ロックンロールの魅力が満ち溢れたものになる。このディスク4の『Tommy』のライブはそういった意味でとても魅力的だ。このディスク2枚のために、大枚をはたく価値は十分にある。(佐野邦彦)
』のライブとしては最も初期の音源と聞けば、入手しないわけにはいかないだろう。
世紀の名作『Tommy』の素晴らしさは、これ以上書く必要もなかろう。世の中に天才と呼ばれる人がいて、その人が誰もが到達しえない永遠の名作を作った。それが『Tommy』である。ディスク2には、その天才、ピート・タウンゼンドが作った『Tommy』の原型となるデモが23曲収められた。ピートのデモの完成度の高さは誰もが知るところ、やはりアレンジまで、ドラムの聴かせ所まで、きっちりと出来上がっていた。フーのレコーディングはこのピートのデモをみんなで聴いて、各々のパートに取り掛かる。詳細な設計図が出来上がっていて、ロック界でも一二を争うテクニシャン達が完成させるのだから、他の追随を許さないクオリティのアルバムが仕上がる。23曲中今まで5曲のデモを披露していたが、こうして一気に『Tommy』の原型に出会って、そのデモがどれだけ完成度が高いのか分かってはいたのだが、改めてピートの偉大さに身震いするばかりだ。メロディはもちろんハーモニー、アレンジ、ビート(ドラムパターン含む)、あの『Tommy』が既に出来ていたのだから。初期のライブでは、ざっくりとコード弾きしていた「I'm Free」も、デモではアルバムと同じ遅れたビートのアレンジで作られている。やりながらアイデアを出してまとめていくのではなく、ピートの頭の中では既にファイナル・ヴァージョンが鳴っていたわけだ。「Smash The Mirror」の終わりもガラスが割られていて余韻にドラ、まったく同じなのだから恐れ入る。この中で見たことがないタイトルは2曲。10秒しかない「Success」は使われていないアウトテイク。「Dream One」は「Amazing Journey」の後半のアイデアとして使われている。24曲目の「Trying To Get Through」はフーとして演奏したアウトテイクでこれよりも荒削りなテイクが『Tommy(Deluxe Edition)』に収められていた。そして『Tommy』で使うことが検討されていたスタジオ・ヴァージョンの「Young Man Blues」は、ようやく1969年のTrackレコードのオムニバス『The House That Track Built』のみ収録されていたものと同じヴァージョンだった。このスタジオ・ヴァージョンははじめ歌い方も違うまったくの別テイクが1998年版『Odds And Sods』で登場し、『Tommy(Deluxe Edition)』ではテイクは同じながらエコーが少なく乾いたミックスのものが収録され、さらに日本のみ2011年にリリースされた『Odds And Sads+12』では同じテイク、されどロジャーのヴォーカルがシングルと、3回も別のものばかり収められていたので、ようやく真打登場といったところ。ディスク4の『The Live Bootleg Album』は、1969年10月15日にカナダのオタワのシビックセンターからの収録で、『Tommy』のライブの全容を捉えたものとしては最も初期のライブである。今まで『Tommy』のライブの全体を収録したアルバムは、順に1970年2月14日のリーズ大学、15日のハル・シティ・ホール、8月29日のワイト島フェスティバルなので、『Tommy』がリリースされた1969年のライブはこれが初(「ウッドストック」など曲単位の収録を除く)である。ライブの初演は5月なので、その5か月後のライブが本ディスクだ。全体を通して聴くと最も荒削りで、「I'm Free」は、あの3コードを違うビートでストロークしている。最後の「See Me Feel Me/Listening To You」は歌が終わった後に5分近いアドリブが続き、洗練とは程遠い。しかしフーの場合、メンバーの演奏力が極めて高いため、荒削り=稚拙にはならず、逆に暴力的なエネルギーとなり、魅力を増す場合が多いのだ。ロックンロールの魅力が満ち溢れたものになる。このディスク4の『Tommy』のライブはそういった意味でとても魅力的だ。このディスク2枚のために、大枚をはたく価値は十分にある。(佐野邦彦)
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