今年は『Each Time』の盤だな。3月21日を待とう。
恒例行事のようになった大滝詠一の30周年記念盤のリリース。30周年...の方のディスク2はカラオケに違いない。楽しみだ。そしてリリースの度に長くなったり短くなったりひとつとして同じものがない『Each Time』だから今回はどうなることか。実質的なファイナル・アルバム、いや極端に言えばファイナル・リリースと言ってもいいこの作品の、最終形のリリースはどうするんだろう。どう飾る、大滝先生。
そうしたら本当のファイナル・リリースになってしまった。5か月ぶりに退院し、久々の我が家でテレビを見ているとテロップで「大滝詠一氏が死去」と流れる。えっ?いったい何が起きたんだ?あわててインターネットを見ると速報されている。本当だったんだ...。12月は嫌だ。『Each Time』の3年前、『A Long Vacation』の前年の12月には、テレビに「ジョン・レノン氏死去」のテロップが流れ、呆然としたのを思い出す。また12月に、自分の大好きだったミュージシャンがこの世を去っていってしまった。
しかし彼らは不世出のミュージシャン。生み出した作品は永遠に残る。真に優れた作品は時代で錆びつかず、逆に時間と共に輝きを増してくる。リリースされた1984年に最新盤のLPで手にして以来、何十回も聴いたこのアルバム。改めて聴いたが、あまりの素晴らしさに震えがした。自分が音楽に求めていた理想がこのアルバムに詰まっている。メロディ、サウンド、プロデュース、全てが未だに理想形でとどまっていた。そしてさすが大滝先生、やはりファイナルも同じものにはしなかった。大滝ファンを名乗る多くの方は、はっぴいえんどやナイアガラが大好きないわば「ナイアガラ派」だが、私は『A Long Vacation』以降が大好きな「ロンバケ派」。だからこの時代はこだわりが深いので、詳しく記載しよう。
まず『Each Time』は、9曲しかなかった当初の1984年盤は「仮」であり、『Complete Each Time』以降の11曲仕様が今回も続いたので、11曲が真の『Each Time』と確定した。ただし曲順は『Complete Each Time』『20th Anniversary Edition』『30th Anniversary Edition』で全て違い、「Final」と題打ったこの曲順を正規の曲順としよう。『Each Time』も30周年の例にのっとり『A Long Vacation』
『Niagara Triangle Vol.2』に続いてディスク2は完全カラオケなので本来別々に記載すべきなのだが、大滝先生はアルバムとカラオケで別ヴァージョンを使うという期待を裏切らないマニアックぶりを見せてくれたので、それらを混在して紹介したい。
冒頭は不動の「夏のペーパーバック」だが、ここでは『Complete Each Time』で登場したイントロにベースが入らず楽器の少ないあっさりヴァージョンを採用した。ところがカラオケは1984年盤と20周年盤のベースの入るヴァージョンになっていて冒頭からやってくれる。「Bachelor Girl」は別ヴァージョンなし。「木の葉のスケッチ」は1984年盤、20周年盤と続く、フェイドアウトするヴァージョンだが、カラオケは『Complete Each Time』の完奏ヴァージョンを採用した。なお、『Snow Time』で披露されたイントロにアコーデオンが加わったヴァージョンは、「特別仕様」ということでこの盤でしか聴けない。そして「魔法の瞳」だが、『Complete Each Time』に続き20周年盤と、3分30秒後に新たにサビ(「ブルーの夜明けまで...」以降の30秒)が加わったロング・ヴァージョンが採用されていたが、30周年盤ではその部分がない、オリジナルの1984年盤に戻った。カラオケも同じ長さのテイクなので、これがFinalだった。「銀色のジェット」は別ヴァージョンなし。「1969年のドラッグレース」は『Complete Each Time』以降で使われたエンディングのギター音が長く伸びるヴァージョンで、カラオケも同じことからこれがFinal。「ガラス壜の中の船」は別ヴァージョンなし。アルバムのハイライトである「ペパーミント・ブルー」は、1984年に33㎝シングル6枚組でリリースされた『Each Time Single Vox』のみ収録されていたカラオケが遂に初CD化された。このカラオケが欲しくて当時購入したが、このボックス収録の曲は6曲が別ヴァージョンで、そのまま1986年の『Complete Each Time』に引き継がれたので、今まで書いた原稿は、『Complete Each Time』及び『Each Time Single Vox』が正確。ただ後者はアナログの限定盤だしゴチャゴチャするので今の表記で継続する。「恋のナックルボール」は『Complete Each Time』のみエンディングにごく短いSEが足され大滝らしい声も聞こえたが、それ以外、今回も通常ヴァージョンでこれがFinal。そしていよいよ難物「レイクサイド・ストーリー」だ。1984年盤オリジナルは最後のリフレインが2回続く時に2回目をフェイドアウト気味にヴォリュームを下げたあと完奏するエンディングを付けた通称「大エンディングヴァージョン」だったが、CD化された時はリフレインが4回続くロング・ヴァージョンながら完奏するエンディングはなかった。『Complete Each Time』はリフレインが3回でエンディングなし、20周年盤はこの曲が入った『Snow Time』も含め2回のリフレインでフェイドアウト、エンディングもない最短ヴァージョンに再変更。ところが今回は9曲仕様CDと同じ、リフレイン4回でフェイドアウト、エンディングなしに戻りこれがFinalのようだ。しかしカラオケは2回のリフレインのあとにエンディングが入る「大エンディングヴァージョン」が久々の登場、さらに2回目のリフレインでのフェイドアウト気味の音の絞りをしない編集なので、これは初登場の「大エンディングヴァージョン」であり、大滝先生やってくれました。「フィヨルドの少女」は別ヴァージョンなし。
こうやって堪能させてもらった『Each Time』だが、以降は実質オマケのようなシングル2枚だけだったので、大滝先生はキッチリと自分で仕事を仕上げて、音楽も人生もFinalしてしまった。数多い大滝の名曲でも本作の「ペパーミント・ブルー」と前作の「オリーブの午后」は、日本のポップスの最高峰であり、世界のポップス、ソフトロックと比べてもやはり最高峰、ポップ・ミュージックの行き着く最も美しい姿を示してくれた。こんな天才に出会えて我々は本当に幸せだった。大滝先生、ありがとう。(佐野邦彦)
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