2015年11月14日土曜日

☆Rolling Stones:『Live In Leeds 1982』(Ward/GQXS90094~6)Blu-ray+2CD

さてストーンズの映像+CDの『From The Vault』シリーズだが、1990年の初来日公演に続いて、1982725日のイギリスのヨークシャーにあるリーズ大学のコンサートもBlu-ray1+CD2枚の仕様でリリースされた。このコンサートは、6人目のストーンズというべきイアン・スチュワートがライブで見られた最後のツアーであり、素晴らしいブギ・ウギのピアノでその存在感を見せつけてくれた。この時期のコンサートは1981年の北米ツアーはレギュラー盤の『Still Life』で1982年にリリースされ10曲を披露、映像は『Let's Spend The Night Together』のタイトルで1981年のアリゾナ州テンピのサン・デヴィル・スタジアムとニュー・ジャージー州のメドウランズ・アリーナの映像を1983年になって25曲リリースしていた。そしてこの『From The Vault』シリーズでは19811218日のヴァージニアでのライブが『Hampton Coliseum』としてBlu-rayCD25曲、昨年リリースされたばかり。そしていよいよストーンズのツアーの定番、北米の後のヨーロッパツアーである1982年のイギリスでの映像が本盤で見られるようになったのである。まだミックとキースは39歳、パワフルな歌と演奏(今でもパワフルだが)を全開で楽しませてくれる。なんいっても注目したのは、ストーンズの生みの親と言ってもいいイアン・スチュワートのキーボード・プレイだ。イアンは、キーボード・プレイヤーで、彼のセンスで結成前にそれぞれのメンバーの顔合わせを実現させた立役者だったにも関わらず、ストーンズのマネージメントを担当したアンドリュー・オールダムからルックスが良くないという理由でローディーに格下げされて働いていた苦労人だ。しかし1969年からツアーメンバーになり、70年代はニッキ―・ホプキンス、ビリー・プレストン、イアン・マクレガンという実力者と2人でライブを支えていた。そしてこの81年からのツアーでは、イアンが主役で、若いチャック・リーヴェルが2人目のキーボード・プレイヤーになった。イアンはチャックを鍛え、自宅に呼んでは素晴らしいキーボード・プレイの曲を一緒に聴き、そのあとイアンの自宅にある2台のピアノでセッションしたのだという。チャックはこの時のことを夢のようだったと語っており、ストーンズのために早く馴染ませようとするイアンの献身的な努力には頭が下がる。1975年までのキック・テイラーがギターを弾いていた時は、テクニック的には最も充実していたが、キースとの折り合いも良くなく、リラックスした感じがなかった。しかし後任のロン・ウッドはキースとの相性が抜群で、キースを立て、キースのソロのあとになってサラリとソロを仕込んでくる。こしてこの1981年からのツアーではイアン・マクレガンがキーボードのチーフになっており、最も気心が知れたメンバーでのライブは、自然と充実したものになった。イアンとサックスのボビー・キーズはどちらも見てくれも武骨そのもの、パワフルでゴツゴツした手触りのストーンズのライブが繰り広げられた。コーラス隊がない、男達だけでのこの頃のストーンズのシンプルなライブが個人的には好きだ。同じツアーなので1981年の北米ツアーと曲目も曲順もほぼ同じ、完全版が見られる81年のHamptonのものと比べて「Let It Bleed」が「Angie」に変わっただけだ。ただ明らかに違うのは、演奏スピードである。ともかく早い。「Shattered[」「Neighbors」「Let Me Go」「She's So Cold」などまさに疾走していて最高にカッコいい。こういうアップの曲にイアンのブギ・ウギ・ピアノは見事にマッチする。時代を感じさせるのはキース、ロン、ビルの3人が、くわえタバコでプレイしていることの多いこと。キースはコーラスへの参加もあるし、しばしばタバコを捨てて?いるが、ロンはなんだか煙そうに、ビルは火が付いているのか付いていないのか分からないくらいにさりげなく吸っていた。そしてビルはまったく手元をみないでプレイする。ベースを弾きながらカメラ目線を何度も送っていた。キースのギター・プレイはハードで素晴らしく、ストーンズのサウンドは俺が作るという自負に溢れていた。注目はキースのジャンパーで、なんと胸に大きく日の丸がプリントされている!これは日本人として嬉しい限りだ。ミックはいつでも手を抜かずパワフルそのもの、まさにストーンズの顔だ。そしてチャーリーはいつものチャーリーだった。しかし残念なことにイアンは1985年に急逝、これが最後のツアーだった。ライブは行われたがヨーロッパツアーは行われず、ミックとキースはそれぞれソロ・アルバムを出して関係も最悪となったが、1989年の『Still Wheel』とそのツアーで関係が修復し、ようやくイギリスにも戻ってくることになる。解説はストーンズの伝道師、寺田正典さんで、イアン・スチュワートのエピソードを中心になんと5万字という空前絶後のライナーで楽しませてくれる。この解説の為だけにも買う価値はあるだろう。(佐野邦彦)

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