スモール・フェイセスは強烈なR&BサウンドによるパワフルなDecca時代、サイケデリックな要素を取り入れひねりをきかせたImmediate時代でかなりサウンドが変わり、それぞれに熱烈な信望者を抱えるが、私は完璧なDecca派だ。3年ほど前にCharlyからImmediate時代のレア音源のボックスが出たが、Decca時代もいつかどこかがやってくれるだろうと待ち構えていた。ようやく今回リリースされ、心から嬉しい。ただDecca時代のレア音源は、犬伏功氏の尽力により、日本は世界最高のスモール・フェイセス大国になっていてDeccaのレア音源は、調査も復刻も完了していた。これ以上の音源が残されているのか、疑問でもあった。案の定、Decca時代の2枚のアルバムとシングル曲、別テイクにBBCのスタジオ・ライブの既発音源のCD5枚で構成され、日本での初登場はBBCの1966年1月14日のスタジオ・ライブ4曲だけしかない。ただスモール・フェイセスの最も魅力的な時代の音源が、一気にまとめて聴けるので、購入する価値は十分。暴力的なまでのスティーブ・マリオットとロニー・レーンのヴォーカルと、荒々しいエレキ・ギター、渦巻くハモンド・オルガンなど、デッカ時代の曲は文句の付けようがない。まずディスク2と3は1stの『Small Faces』と2nd『From The Beginning』で、それはボーナストラックなしのストレート・リイシューである。ディスク1の『Greatest Hits』は、内容的には最高の曲が集まり、デビューの「What'cha Gonna Do About It」から8枚目の「Patterns」までのDecca時代の8枚のシングルが順に並ぶ。これらは定番だが、この中のB面に配された「It's Too Late」「Understanding」「I Can't Dance With You」「E too D」は個人的にA面よりも好きな超弩級のロックナンバーで、いつ聴いても惚れ惚れ。プラスFrench EP別テイク2曲(「Don't Stop What You're Doing(Alternate Version)」(歌い方からまったく違う)、「Come On Children(Original
French EP Version)」)(後述のフランス盤LPのAlternate Versionに似ているが、2分50秒以降のオルガンのアレンジから、ブレイク時のア・カペラの歌詞など明らかに違っている。そもそもどちらもアルバム・ヴァージョンより50秒短い。)が収録された。音源的な注目はディスク4の『Rarities & Outtakes』で、1970年代の仏盤LPで登場したDecca時代の別テイク13曲や、ステレオ・ヴァージョン2曲、「My Mind’s Eye」の英シングル初期Matrixのみの初期テイク、『From The Beginning(Deluxe Edition)』で登場した初期テイク1曲、バックトラック5曲が収録された。冒頭の「Come On Children(Alternate
Version)」は当初French EP Versionとしてボーナス・トラックに収録されていたヴァージョン。続く「Shake(Alternate Version)と合わせて初期の一発録りの演奏も歌もラフなヴァージョンで、SFファンならお馴染みのテイク。続く「You Better Believe You
(Alternate Version)」は、演奏は同じだがマリオットの歌が別でエンディングが30秒ほど長い。「Own Up Time(Alternate Version)」は演奏が40秒長く「E Too D(Alternate Version)」は16秒長くこちらは完奏する。ディスク1にも入っていた「Don't Stop What You're Doing(Alternate Version)」を挟んで、次はマリオットの歌い方が少し違う「What's A Matter Baby(Alternate
Version)」のあとは別テイクのハイライト「What'cha Gonna Do About
It(Alternate Version)」で、これらはみな70年代リリースのフランス盤LP『The Small Faces』で登場したもの。「What'cha Gonna Do About
It(Alternate Version)」はフィードバックのイントロからまったく違う演奏で最も荒々しく、シングルよりも魅力的。「Sha La La La Lee(Stereo)」初期で唯一のステレオ・ヴァージョン、「Runaway(Alternate Mix)」は『From The Beginning (Deluxe Edition)』で登場したこれもステレオ・ヴァージョン(モノは5秒長い)だ。この他は『From The Beginning (Deluxe Edition)』のディスク2で登場した「That Man(Alternate Mix)」(エンディングに叫び声なし)、「Yesterday,Today And
Tomorrow(Alternate Mix)」(完奏する『From The Beginning』と違って効果音で終わる)、「Picaninny(Backing Track)」、「Hey Girl(Alternate Version)」(シングルのエンディングにあるshake your handなどの歌詞を歌っていない)、「Take This Hurt Off
Me(Alternate Version)」(エンディングの歌い方が違う)、「Baby Don't You Do It(Alternate
Version)」と続く。みな大きな違いではなく、ステレオ・ヴァージョンの2曲以外は前述のフランス盤LP『The Small Faces』収録曲。そして「My Mind's Eye(Early Version)」だ。このヴァージョンはイギリス盤シングル初期マトリックス等で間違えて収録されたヴァージョンで、エンディングのin my mind's eyeの後のコーラスの人数が落ちてしまっていて2人だけのハモリで薄い。(『From The Beginning(Deluxe
Edition)』にはAlternateと書いていながら通常ヴァージョンを間違えて収録していた。)そのディスクの残り6曲は『From The Beginning(Deluxe
Edition)』で初登場になったテイクで、内訳は5曲のBack Track「Talk To You(Take5)」「All Our Yesterday(Take11)」「Show Me The Way(Take3)」「I Can't Make It(Take11)」「Things Are Going To Get
Better(Take14)」と、リード・ヴォーカルがシングル・トラックなのは『From The Beginning』と同じだがオルガンが大きく入りアレンジが良くなった「(Tell Me)Have You Ever Seen
Me(Alternate Mix Take2)」だった。ディスク5は『BBC Session』として1965年-1966年のBBCのスタジオ・ライブ16曲収録。既発の『The BBC Sessions』からImmediate時代の1968年のライブ3曲は外し、1965年9月4日の3曲、1966年3月19日の3曲、1966年5月3日の3曲、1966年8月3日の3曲を収録し、本ボックスの目玉である初登場音源である1966年1月16日放送のJoe Ross Pop Showでの4曲を紹介する。「Sha La La La Lee」はこの後の収録のテイクよりもテンポアップしていて勢い溢れるライブだ。続いて「What'cha Gonna Do About It」。オルガンが効いているので、シングルの近い仕上がりだ。驚いたのはインストの「Comin' Home Baby」、イアン・マクレガンのオルガンがクールで、ジャジーな仕上がりでこれは驚き。最後は「You Need Loving」で、3月19日の演奏よりオルガンが全面で鳴っていてこれも良い。本ボックスで未収録のDecca音源はUniversalの『Small Faces(Deluxe Edition)』『From The Beginning(Deluxe Edition)』不要の疑似ステレオだけなので、このBOXで十分。なお「Just Passing」「Picanniny」のステレオはImmediate側で聴ける。。あと古いCDだが、『The Definitive Anthology Of The Small Faces』(Repertoire)は、スモール・フェイセス以前のスティーブ・マリオットのソロ・シングルとモーメンツのシングル、ジミ―・ウィンストン脱退後の2枚のシングルがまとめて入っているので、Decca時代ファンはお忘れなく。(佐野邦彦)
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