昨年10月22日にミニアルバム『promenade』でソロ・デビューした、若き鬼才シンガー・ソングライター北園みなみが、早くもセカンドの『lumiere』を7月15日にリリースした。
紹介が遅れてしまったが、筆者は先月初頭から音源を聴いており、前作を踏襲した構築力の高いそのサウンドにまたも惹かれてしまった。
シティポップというようなカテゴライズで括るのが陳腐なほど、彼がクリエイトするサウンドは様々なエレメントを内包しており、聴く者の音楽的知識量を試されているようでもあるが、決して排他的ではなく、ポピュラー・ミュージックの本質を絶妙に捉えているのが特徴である。
北園は長野県松本市在住のシンガー・ソングライター(以下SSW)で、ソングライティングとアレンジは元よりドラム以外のリズム・セクションの楽器演奏とプログラミングを自らやってのける、極めて今日的なクリエイターである。特に生楽器の演奏能力には評価が高く、セッションに参加したLampの『ゆめ』(14年)でも耳にすることが出来き、本作でも手練なプレイを随所で聴けるのだ。
そんな彼をサポートするミュージャンには、前作に引き続きドラマーの坂田学が全曲に参加しているのをはじめ、コーラスにはLampの榊原香保里と女性SSWのマイカ・ルブテのお馴染みのシンガーが起用されており、橋本歩ストリングカルテットも前作からのメンバーである。
今回新たにクリエイター中塚武とのコラボレーションで知られるトロンボーン奏者の五十嵐誠率いるイガバンBBが起用され、より強力なホーン・セクションを披露している。
では本作の主な収録曲を解説していこう。アルゼンチンの作曲家、バンドネオン奏者としてばかりでなく、ポピュラー・ミュージックにも多大な影響を与えたアストル・ピアソラの「Libertango」をAOR的解釈で展開したリードトラックの「夕霧」。アクセントに使われているパーカッションは和楽器の締太鼓であり、ピアソラに和太鼓という絶妙な組み合わせのアイディアが北園の独創性を高めていて興味深い。また3管(ソプラノ、アルト、バリトン)のサックスによるホーン・アンサンブルの展開もさることながら、主旋律に呼応する個々のオブリガートのフレーズが極めて複雑で、アレンジャーとして一流であることを証明している。
続く「つぐみ」は一転してリラックスしたカントリー・ミュージックをベースにしながら、アコースティックギターの他、マンドリン、バンジョーにウクレレと全ての弦楽器を自らプレイして、これまでにないアンサンブルを試みている。フリューゲル・ホルンのオブリガートやヴィオラの間奏ソロも効果的で、周波数帯だけでなく細やかなニュアンスを熟考した楽器編成には恐れ入る。バッキングのフェンダー・ローズのプレイにしてもブルース進行による細やかなフレーズを織り込んでいて、曲が持つ不毛の恋愛といった世界観に一役買っている。
筆者はクリエイターとしては「夕霧」を高く評価しながらも、SSWとしての北園の魅力をこの曲に強く感じてしまう。素直にいい曲だと思うし10年後も風化しないだろう。
「リフロック」から「ミッドナイト・ブルー」の流れはドナルド・フェイゲンのソロに通じるものがあり、ジャズ・ピープルの解釈によるポップスの良質な部分が滲み出ている。前者ではWindows に標準内蔵されているソフトウェアMIDI音源のMSGSまで使用しているらしいが、自然に溶け込んでいて違和感はなく、弘法筆を選ばずといったところだ。
後者は前作収録の「Vitamin」同様マイカ・ルブテ(昨年The Pen Friend Clubと対バンしたライヴでお会いしたことがあった)をフィーチャーしたデュエットだが、ここではビッグバンド・サウンドでアレンジされている。FM音源系のデジタル・エレピを使用したことで生のホーン・セクションに埋もれることなく効果的な響きをしており、楽器選択も成功していると思う。
前作『promenade』のサウンドを踏襲しながらも、SSWとしての個性が開花した作品であり、今後期待されるフル・アルバムへの伏線として今年聴くべきアルバムであるので、興味を持った拘り派のポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)
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