2015年6月2日火曜日

☆斎藤充正著『フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズのすべて』(SPACE SHOWER BOOKS)

ここ10年で読んだ音楽書、音楽ムック、音楽特集本の中で、この本ほど感動した本はない、あまりの凄さに他に何の本が出たのか忘れてしまったほど。この1冊の本をしばらく手元に置いて読めるというだけで幸せだ。突然、『Jersey Boys』のヒットでにわかフォー・シーズンズ・ファンが出てきたが、何しろあまりにもファンが少なかったのでそれはそれで嬉しい事だが、アメリカでビーチ・ボーイズと並ぶこの超大物をきちんと紹介でき、そしてフランキー・ヴァリのソロも含めたその膨大なワークスをきちんと分析できる人はいないと思っていた。私でもとても手が出せなかった。そこに突如登場したのがこの本だ。なんと総ページ680P。どこかのヒストリー本を訳したものにディスコグラフィーを足した適当な音楽本が多い中、綿密な調査でファンクラブのインタビューまで読んでヒストリーを追いながら、基本はリリースしたシングル、アルバム順に全てそのジャケットを掲載しつつ、その音源を全部自分の耳で聴いて比較分析した私が最も望んだ作りの最高の本だ。音源比較はストップウォッチでランニングタイムの差まで調べているまさに音源コレクターの鏡。当然ステレオとモノの違い、LPCDの違い、そしてシングルヴァージョンとアルバムヴァージョンと違いという基本のことながら膨大な労力が必要で、筆者の斎藤充正さんはフォー・シーズンズのパイオニアになった。フーやキンクス、スモール・フェイセスなどでパイオニアになってくれた犬伏功さんのような僅かな違いまで全て調べて指摘してくれる方が現れると、その「先生」の後追いでみな容易にコレクティングができるわけだが、最初のパイオニアになるのはともかく大変。私もそうだが、音源派の人は、もうマトリックスナンバーでの違いまで言及するので読んでいて楽しい。(比べてジャケットの違いとか日本盤スリーブの違いなどにこだわるマテリアル派は理解不能。LPの帯がどうの...なんて切手コレクターと同じじゃないかと思っている)そして斎藤さんが凄いのはその音楽的な知識の深さと英語力の確かさがある。カバー曲の作者やシンガー、バッキングのメンバーに至るまで実に詳しくて驚かされた。そして英語力によって歌詞の違いや、歌詞の内容から見えるメンバーの心の動きまで言及してくれる。さらに凄いのは、フォー・シーズンズとフランキー・ヴァリのワークスだけでなく、ボブ・ゴーディオ、ボブ・クルーのワークスは当然としてもなんとニック・マーシのプロデュース作品までみんな調べて、それも内容まで紹介してくれる。本当に勉強になる。フォー・シーズンズでは「Save It For Me」のシングルヴァージョンのドラムの迫力とか、「Circles In The Sand」のシングルヴァージョンの編集の大きな違いなどたくさん気づかせてもらって、その他にも新発見のことだらけ。さらに知識はあっても見たことがなかったメキシコのみ発売のアルバム『Seasons Of Love』のみで聴けるフランキー・ヴァリとサンドラ・ディエゴとのスペイン語のデュオ「Fantasia de Amor」のジャケットも初めて見ることができた。嬉しいことに詳しい詳細が分かったのでYou Tubeで検索したら配信している人を見つけ始めて聴けて大満足だった。フォー・シーズンズといえば19923月のレコード・コレクターズは、山下達郎と大滝詠一の対談と言う超豪華な顔ぶれながら第2特集扱い、さらに「アメリカン・ロック」などの特集本からも外され哀れな扱いが続いていた。私が作っていたVANDAという本では1993年の11号でフォー・シーズンズの特集をしたがまあ斎藤さんのこの本と比べてはおこがましいほどの薄い内容だったが、レココレでこの扱いだから他の音楽出版社ではまったく期待ができないと見放していたので、矢も楯もたまらず自分で作ったという思い出がある。それから22年。ついにこんな本が出るなんて夢のよう。絶対買うように。これは音楽ファンの義務ですぞ。ビーチ・ボーイズファンのバイブルと言えばElliottの「Surf's Up」だが、フォー・シーズンズファンのバイブルは本書、それほどのレベルだ。(佐野邦彦)  
PS 日本盤ジャケットとか興味がないと書いたが、それはそういうものに費用を使うのはもったいないということで、ジャケット本でまとめて見るのは興味深い。オリジナルじゃないから音は期待できず盤はどうでもよい。ちなみにフォー・シーズンズの日本盤シングルとコンパクト盤が36枚も見られるのは、昔VANDA編でシンコーミュージックから出した『Pop Hit-Maker Data Book』だけ。でも凄いのはこういう60年代のシングルとコンパクト盤をほとんど持っていて、快くお貸しいただいた西村健氏である。



0 件のコメント:

コメントを投稿