嘗てピチカート・ファイヴを率いたという例えが最早不要になった感のあるクリエイター小西康陽が、11年の『11のとても悲しい歌』以来、4年ぶりにPIZZICATO ONE名義でセカンド・アルバム『わたくしの二十世紀』を6月24日にリリースする。
今作は彼がピチカート時代に発表した楽曲を中心に、ゲスト・ヴォーカリストを迎え挑んだセルフ・カバー作品集である。ヴォーカリストとして参加したのは、市川実和子、UA、enaha、おおたえみり、小泉今日子、甲田益也子、西寺郷太、ミズノマリ、ムッシュかまやつ、YOU、吉川智子という多彩な男女11名。
前作やコロムビア*レディメイド時代のオムニバス・アルバム『うたとギター。ピアノ。ことば。』(08年)を彷彿とさせる、最低限のバッキングにより演奏される良質なヴォーカル・アルバムとしてお薦めしたい。
前作『11のとても悲しい歌』では、マリーナ・ション、ウーター・ヘメル、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ、グウィネス・ハーバート、マルコス・ヴァーリ等やはり11組のヴォーカリスト(グループ)が迎えられた全編英語詞の洋楽カバーとなっていた。
ゲスト・ヴォーカリストと楽曲のセレクションには、これぞ小西康陽というべきセンスが貫かれ唯一無二なプロダクションとして高く評価された。今作でもその思想は当然踏襲されており、更に嘗てのピチカート・ナンバーがビビッドに蘇るこということで魅力溢れる作品集になったことは言うまでも無い。
では主な紹介しよう。『うたとギター。ピアノ。ことば。』収録でこの作品集の中でも最近作となる「東京の街に雪が降る日、ふたりの恋は終わった」はオリジナル同様にミズノマリの歌唱で、トランペッターをフューチャーしたジャズ・コンボ・アレンジからハモンドB3オルガンのみのバッキングにアダプトしているが、これが凄くいいのだ。窓からの雪景色が目に浮かぶ情景をB3の温かいトーンがミズノの歌声を包み込んでいる。
『Playboy & Playgirl』(98年)収録でロジャニコの「Love So Fine」やフィフス・ディメンションの「Up, Up And Away」等をモチーフにしたダンス・ナンバー「華麗なる招待」が、ここでは「ゴンドラの歌」と改題され、カントリー・ブルースのパートとニュー・ソウル香るシンガー・ソングライター風サウンドのパートで構成されている。前者は斎藤誠のギターと山本拓夫のブルース・ハープをバックにムッシュかまやつのナレーション(つまり「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」風だ)で進行し、後者は小西自身がヴォーカルを取り、ストリング・セクションを従え往年のアル・クーパー・サウンドのように味わい深い。この対比は非常に面白く聴き応えがある。
全編を通してひっそりと日曜の午後に聴きたい今作の中でも、一聴して筆者が気に入ったのは、ノーナ・リーヴスの西寺郷太がピアノの伴奏のみで歌う、ピチカート・ファイヴ時代の楽曲メドレーというべき「日曜日」だ。
「日曜日の印象」(『ベリッシマ』収録・88年)、「おかしな恋人・その他の恋人」(『カップルズ』収録・87年)、「新しい歌」(『Playboy & Playgirl』収録・98年)がシームレスに進行していくので、パズルのピースのように最初から計算されてソングライティングされていたのではと深読みさえしてしまった。今では遠く遙か大人になってしまったピチカート・マニアは、この一曲のためだけに入手すべきである。
続く「きみになりたい」(『女性上位時代』収録・91年)は、オリジナルはTom Scott & The L. A. Expressの「Sneakin' In The Back」をモチーフにした(モーマスも「Enlightenment」(『Timelord』収録・93年)で同様に使っている)クールなグルーヴで不毛の愛を綴っていた。
今作ではストリング・セクションのみをバックに、『うたとギター。ピアノ。ことば。』にも参加した吉川智子が凜とした歌声を聴かせており、生々しい弦の響きはコリン・ブランストーンの「Though You Are Far Away」(『One Year』収録・71年)を彷彿とさせる美しさだ。
繰り返しになるが、良質なヴォーカル・アルバムとしての側面もあるので渋谷系を通過していないポップス・ファンにも強くお薦めしたい。
(ウチタカヒデ)
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