2015年4月9日木曜日

☆Brian Wilson:『No Pier Pressure』(ユニヴァーサル/UICC10017)

2007年の『That Lucky Old Sun』以来、久々のブライアン・ウィルソンのオリジナル曲で構成されたソロ・アルバムが本作だ。しかしそれにしては地味なリリース、まずこの暗いジャケット。ブライアンの娘のダリアが撮ったものだそうだが、このジャケだけが先に公表された時、曲目はおろか内容についてのコメントもなく、新作なのかどうかもよく分からない状況がしばらく続いていた。リリースも延期され、こうしてようやく手にすることができたのだが、2004年の『Brian Wilson Presents SMiLE(全米13)から前述の『That Lucky Old Sun』(同21位)、2011年にビーチ・ボーイズ版のオリジナル『The SMiLE Sessions(27)、そして2012年のビーチ・ボーイズ50周年にオリジナル・メンバーが24年ぶりに再結成してリリースしたアルバム『That's Why God Made The Radio』(同3位)とツアーの大成功、ブライアンの活動は実に華やかでかつ成功を収めていたが、リユニオン・ツアーが空中分解して分かれた後は一気に情報が少なくなっていた。マスコミの扱いの少なさからひっそりとリリースされた感があるが、内容はやはり期待を裏切らない素晴らしいものだった。ブライアンの創作意欲、そして曲作り、サウンド作りの才能は少しも衰えていない。本作のブライアンのパートナーは、『That's Why God Made The Radio』で共同プロデュースし、かつてはソロの『Imagination』などでもコンビを組んだジョー・トーマス。アダルト・コンテンポラリーでの実績があるジョーを起用して、She & HimSebuKacey MusgravesNate Ruessにア・カペラ界での新星で昨年にブライアンがアルバムに参加したPeter Hollensという若いミュージシャンとコラボを果たし、注目される。そしてベテラン・トランペット奏者のMark Ishamと、かつてのような超大物のコラボとガラッと変え新鮮な印象がある。そしてビーチ・ボーイズのメンバーは、ライブ活動を優先だとまた離れていってしまったマイク&ブルース以外はみな協力し、アル・ジャーディンが4曲、デビッド・マークスが2曲(デビッドはギター)、そして久々のブロンディ・チャプリンも1曲参加と、気の合うメンバーの参加が嬉しいところ。曲は、前述の若いメンバーとのコラボはメインのリードをゲストにとらせていて、そこも新鮮な感がある。その中では、ボサノヴァ風のShe & Himとのコラボの「On The Island」と、アコギとバンジョーにハーモニーが爽やかなKacey Musgravesとのコラボ「Guess You Had To Be There」が素晴らしく、特にPeter Hollensとのコラボ「Our Special Love」は、昨年のピーター・ホレンズのアルバム『Peter Hollens』に参加したテイクと基本的に同じものを収録していて、歌いだしのブライアンのソロ・パートにハーモニー・パートを重ねている部分など若干違いは見慣れるが、同じテイクを使うだけあって、その出来は完璧。まさに天使のハーモニーで、ブライアンのファンなら誰でもうっとりとしてしまうだろう。Mark Ishamの「Half Moon Bay」はインストで、素晴らしいサックスと、ギター、そしてハーモニーが一体となったまさに大人の雰囲気が漂う至福の一曲である。しかしそれにもまして引かれるのはビーチ・ボーイズのメンバーの参加作品で、「Whatever Happened」ではアルのヴォーカルにより化学反応が起きるようでハーモニーにもさらに広がりが出る。この曲はベースラインが『Pet Sounds』風で泣ける。さらにアルのリード・ヴォーカルが生きるのが「The Right Time」だ。現在のビーチ・ボーイズでも一番ヴォーカルが安定しているアルのリードは安定感があるので、ブライアンの渾身のコーラスワークが映えること。見事の一言。逆にアルがサビを担当しるのが「Tell Me Why」で、ブライアンはここではアルのパートにゴージャスなコーラスワークを乗せてくるのだ。阿吽の呼吸といったところ。「Sail Away」は出だしをブロンディが歌い、続けてアルが歌う佳曲で、サビはブライアン。「Sloop John B.」のフレーズをバッキングに一瞬入れるのがポイント。その他ではイントロを飾るピアノの弾き語りで始まる小品「This Beautiful Day」が、順に弦と管楽器が加わりハーモニーに覆われるイントロ部に相応しい曲。同じような美しいバラードの「The Last Song」は、「最後には君と一緒に歌えるかもしれない...」という何度も袂を分かってしまうマイクに捧げたような歌詞が嬉しい。シャッフルビートの「I'm Feeling Sad」も軽快でいい出来だが、やはりスコット・ベネットが「Summer Means New Love」に歌詞を付けた「Somewhere Quiet」は全てのビーチ・ボーイズ・ファンへの贈り物。文句なしにいいねえ。もうひとつ贈り物と言えば、海外盤のみのボーナストラック2曲の内の1曲「In The Back Of My Mind」。ブライアンの弾き語りだが、デニスが歌ってから50年経つんだなあ...。(佐野邦彦)


No Pier Pressure

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