2015年2月8日日曜日

野佐怜奈とブルーヴァレンタインズ:『Lady or Girl?』(Apricot Sounds/ACDS1)


 2012年に元ピチカート・ファイヴの高浪慶太郎氏のプロデュースによりソロ・デビューした野佐怜奈(ノサ・レイナ)が、14年に新たに結成したバンド" 野佐怜奈とブルーヴァレンタインズ "としてのファースト・アルバム『Lady or Girl?』を2月11日にリリースする。
 筆者はソロ・シングル『ランブルスコに恋して』(アナログ・7インチ・12年)と同アルバム『don't kiss, but yes』(12年)の完成度の高さに注目していたので、マスタリング直後の本作音源を先月入手し聴き続けているが、ソロ・シングル(名作!)に色濃く漂っていたモッズ感覚も継続しつつ、野佐の歌唱力を活かした様々なスタイルの楽曲を収録しておりVANDA読者にもお勧めできるので紹介したい。

 野佐怜奈は東京のインディーズ・シーンで" その名はスペィド "のメンバーとして06年にそのキャリアをスタートさせた。その後、現代音楽作曲家のイーガルとの出会いにより"響レイ奈"として昭和歌謡テイストのアルバム『ピストルと女』を11年にリリースし、同時にラウンジ・グループ"ノーサレーナ"を結成してシングルをリリースするなどその活動は多岐に渡る。
 これまでのキャリアの中では、やはり高浪慶太郎氏が手掛けた12年のアルバム『don't kiss, but yes』に尽きるのだろう。そのトータル感と楽曲の完成度の高さで筆者も12年のベスト・アルバムに選出した程だ。




 野佐怜奈とブルーヴァレンタインズは、ヴォーカルの野佐の他ギターの菊池ともかとベースの横山由佳里の女性陣に、かせきさいだぁ&ハグトーンズやm-floのサポートで知られ、本作のサウンド・プロデュースも務めるドラマーのなかじまはじめを加えた4名が正式メンバーである。
 レコーディングには全曲のソングライティングを手掛けた前出のイーガルがサポート・キーボードとして加わっており、実質的には5人目のメンバーといえる。
 基本サウンドは4リズムのヘッド・アレンジによるものだが、野佐やイーガルが持っていた昭和歌謡テイストをなかじまが中心となってよりバンド的サウンドに拡大させている。

 では主な曲を解説しよう。昨年4月にアナログ・7インチ・シングルとして先行リリースされ、即完売したという「星降る丘
」。本作のリード・トラックであるこの曲は、荒削りながら初期スミスでのジョニー・マーを彷彿とさせるカッティングとアルペジオを効果的に使い分けた菊池のギター・プレイが印象的で、『シフォン主義』期の相対性理論サウンドにも通じるが、表現力豊かに歌い上げる野佐のヴォーカルは別格である。恐らく正規のヴォイス・トレーニングを受けているであるその発声や声質は昭和40年代歌謡を想起させ、彼女の大きな魅力となっている。



 続く「恋のスクランブル交差点」は、ボ・ディドリー・ビートやブラジリアン・マルチャなどリズム的アプローチが豊富で歌詞の世界をうまく演出しているのが面白い。「うらぎりの街角」では全面的にスカで演奏されており、この2曲では横山となかじまによるリズム隊のコンビネーションも聴きどころである。
 宇崎竜童&阿木燿子・作品に通じる「悪い女」やセカンド・シングルの「スペースカメラ」のガレージ・パンク感も捨てがたいが、ノリノリのマージー・ビートでキャッチーなメロディを正統派アイドルが歌ったような(まるでデビュー当時の森高千里だ!)「ロックンロールドライブ」のインパクトには参ってしまった。こういう曲を聴くとつくづく音楽って理屈じゃないと感じてしまうね。
 一転してラストの「今日はさよなら」は、浜口庫之助+大瀧詠一テイストの普遍的なポップ・ロックで締めくくっているのが心憎い。
アルバムのトータル感もさることながら、バンド・サウンドの必然性も感じさせる好盤といえる。
 なおマスタリングは、ピチカート・ファイヴをはじめ数多くの小西康陽氏の作品で知られる竹中昭彦氏が担当しておりサウンドに磨きが掛かっているので、興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ



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