2015年2月22日日曜日

☆『スウィーター!ルーツ・オブ・ジャパニーズ・パワー・ポップ1971-1986』(ポップトラックス【クリンク】/DIRP1001)

脱帽という言葉があるが、高木龍太さんがセレクトから解説まで担当したこのCDにまさに脱帽、勉強させていただきましたと感謝・感謝のコンピレーションだった。私が日本の音楽事情に疎いので、知識をお持ちの方なら知られたものもあるのだろうが、少なくとも私にはバッド・ボーイズ以外まったくお初、楽しむことができた。ではアルバム順ではなく、アーティスト順で紹介しよう。ザ・ジャネットは1973年から75年にシングル4枚、アルバム1枚を残したビート・バンドだが、解散後にヴォーカル&ギターの松尾ジュンとドラムの大間ジローがオフコースのメンバーになっているので、実力は当時から高く評価されていたようだ。しかし、東芝EMIからデビューした彼らはプロ作曲家の歌を歌わされ、演奏も外部ミュージシャンで歌入れのみという悔しい状況にいた。会社はネオGSで売り出したかったようで19歳と若くルックスもよくアイドル路線で行きたかったのだろう。そのジャネットで数少ないオリジナル曲を3曲収録、プラス井上忠夫作の1曲をセレクトしている。ラズベリーズやパイロット、バッドフィンガーを彷彿とさせるパワー・ポップで、演奏もハーモニーも素晴らしい。オリジナルで勝負させてあげればよかったにと改めて惜しまれる。さて、そのオフコースに加入したもう一人がバッド・ボーイズのヴォーカル&ギターの清水仁で、バッド・ボーイズの75年の日本語によるセカンド・シングルが収録された。A面はオリジナル、B面は小田和正の作曲だ。あのビートルズの完コピの名盤「Meet The Bad Boys」によしだたくろう作のファースト・シングルを入れたCDは、今でも超高額プレミアの人気盤で私も持っているが、セカンド・シングルは知らなかった。ビートに漂う哀調、ハーモニーも巧みで実力派だったということが伝わってくる。リンドンは博多出身の音のラウドさで知られたビート・バンドで、74年のデビュー・シングルは両面オリジナル、A面はストリングスをフィーチャーしたトニー・マコウレイを少し意識したようなサウンド、B面は牧歌的な曲想にストリングスとハープシコード風のキーボードのバッキングがよく合う。合わせて収録したのもオリジナルで、セカンド・シングルのB面と75年のサード・シングルA面。前者はファーストの延長にあるキャッチーでポップなチューリップ風のナンバーだったが、後者はニール・セダカのリバイバル・ブレイクを踏まえたアメリカン・オールディーズ・タッチになっていたのが面白い。全てオリジナル曲だったので所属に恵まれたか。ザ・ビーツは81年に東芝EMIからアロワナ名でデビュー・シングルを1枚リリース、この2曲は本CD収録予定のところ、マスタリング後に権利関係で外されたというあまりに惜しい事実がライナーで語られている。そのため収録されたのはビーツに改名し82年リリースの1枚目のシングルA面と、2枚目のシングルA面だ。前者はハーモニーのからみが絶妙なビートルズ風ナンバーでオリジナル、B面はラズベリーズの日本語カバーだった。後者はアレンジャーの伊藤銀次のセンスが感じされる軽快なバッキングが聴きものだ。さて個人的に大喜びなのがロッキーズの「夏のラブ・ソング」。78年リリースのデビュー。シングルのB面だが、作曲がガロのトミーこと日高富明の書き下ろしなのだ!キャッチーでビートの効いたギターが入るまさしくトミーのスタイルなのが嬉しい。曲だけ聴くとベイ・シティ・ローラーズ来日(2回目の)便乗商法シングルというベイ・シティ・フェローズなる覆面バンドの78年のシングル、まさにベイ・シティ・ローラーズそのもののサウンドで作られた英語のナンバーで、おお良く出来てるな、で終わってしまうが、解説を読むとメンバーはなんと先のオフコースに加入したジャネットとバッド・ボーイズの3人と東芝のプロデューサーなどで活躍した重実博なのだ。それがわかるともう1回聴きなおしてしまうだろう。他は85年から89年に7枚のシングルを出したグラム・ロック・シンガーのちわきまゆみだが、ファンの楽しみであるB面の英語カバーからベイ・シティのナンバーが選ばれ、パンキッシュなアレンジが冴えわたる。ルージュは75年にデビューするが加藤和彦のプロデュースで、メンバーの意向など一切反映させずに加藤主導で作られた。そのアルバムの中から最もシンプルでバンドのカラーが出た「ラブ・イン・フローラ」が収録された。ギターのカッコいいリフやミック・ジャガーを彷彿とさせる攻撃的なヴォーカルなどこのCDで最もハイセンスで、その群を抜くセンスの良さは加藤のセンスの賜物ではなくバンドの個性らしいが、とにかく最大のインパクトを受けたのは事実。最後はザ・レッド・ブラッズなるバンドの71年のバッドフィンガーのリアル・タイムのカバー曲。しかしてその実態は?私はまったく知らないが東芝のザ・マミローズ、ハロー・ハピーというバンドを経てマギー・メイで活躍した実川俊晴の初期ワークスだったのだ。高木さんの膨大な解説と、当時のジャケットが数多くカラーで掲載され資料価値だけでも十分。大好きな番組に「マツコの知らない世界」があるが、本当に「知らない世界」。山下達郎や大滝詠一のようなポップ・ミュージックのパイオニアではなく、はっぴいえんどのようなロックの草分けでもなく、本格的ロックバンドのブルーハーツ、またコレクターズが出てくる前のあだ花のようなミュージシャン達だが、こうやってまとめて聴ける意義は極めて大きい。18曲中11曲が初CD化で、3曲は廃盤状態と、レア度も満点である。インディーズレーベルなので、amazonでは送料別の中古盤扱いなので、送料無料のタワーレコードやHMV、そしてクリンクの芽瑠璃堂がベストだ。(佐野邦彦)
スウィーター! ルーツ・オブ・ジャパニーズ・パワーポップ 1971-1986

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