大滝詠一が急逝して約1年。そして初めてのベスト盤がリリースされた。CD3枚に、はっぴえんどからマニアックなナイアガラ時代、CM、そして『A Long Vacation』の大ブレイクからご隠居までの代表曲がずらりと収められ、やはり大滝詠一は不世出のミュージシャンだと改めて思うと共に、この偉大な才能を失った損失の大きさに呆然とせざるを得ない。メロディ・メーカー、サウンド・クリエイターとしては唯一無二の存在だ。アルバム全体の紹介する方は星の数ほどいるだろうから、この盤で初めて登場したヴァージョンと、初めてCD化されたヴァージョンのみ、チェックしてみよう。まずはディスク1の冒頭の「ナイアガラ・ムーン(イン・ザ・プールMix)」。ゴージャスなストリングスに乗せた1975年の名曲の2005年公開の映画用ヴァージョンで、なんとなくコミカルに感じるのは大滝の意図したところ。ナイアガラ・トライアングルの「幸せにさよなら(Single Version)(New Mix)」はいきなり大滝の歌から始まる始めて聴くヴァージョンで、もともと山下達郎、大滝詠一、伊藤銀次でそれぞれ録ったテイクがあり、それを順につないでいったのがシングル・ヴァージョンだった訳だが、そのつなぐ順番が違うヴァージョンということ。でも順番が違うと印象が大分違うもの。「青空のように(Single Version)」は、もともと極端に違うのは最初の1978年版『Niagara Calendar』のスチール・ギターの入ったヴァージョンで、このシングル用は冒頭のサビ頭部分のコーラスとバッキングがスタッカートに聴こえるようなミックスになっているところが1981年版や1986年版と違う。その後のパートのカスタネットのヴォリュームも違うが、まあ全体的に少し違って聴こえるという程度。名曲「ブルー・ヴァレンタイン・デイ(Single Version)」は逆に1978年版に近く、一番大滝のヴォーカルがオンになっていて、生々しく聴こえる。歌が上手いから逆に耳元で歌われているようでうっとり。これも少し違って聴こえるという程度。ちなみに吉田保ミックスのヴァージョンが最もエコーが聴いていてドリーミーだった。「烏賊酢是! 此乃鯉 (New Mix)」は『Let's Ondo Again』のバックコーラスを強調したミックスに比べ、バックのピアノを強調していて大きく違うミックスだ。そしてこのアルバムのハイライトが、大滝本人が歌う「夢で逢えたら」だ。シリア・ポールのヴァージョンがベストだと思っていたが、大滝自身が歌うこのヴァージョンのほうがよりドリーミーで魅力的。名曲だ。ディスク2からは自分が最も好きな『A Long Vacation』以降の大滝詠一の曲になる。全て名曲。「君は天然色(Single Version)」はイントロの音合わせが無く、「さらばシベリア鉄道(Single Version)」はエンディングが短いだけ。「恋するカレン(Single Version)」に至ってはイントロのヴォリュームが大きいというだけ。「A面で恋をして(Single Version)」は最後にドラムが入っている上に、アナログのシングル盤のエンディングには最後の溝にマシンガンのSEが刻まれていた(初期のシングル盤には...と書かれているが、3種持っている全部にSEが入っているので、入っていないものがあるのか不明)が、そこまでこのCDには収録してある。偉い!「Cider '83」はCMの30秒の後にリードヴォーカル抜きの30秒が入った初登場ヴァージョン。大滝の最後のシングル2枚、1997年の「幸せな結末」と「Happy Endで始めよう」のカップリングと2003年の「恋するふたり」(カップリングはストリングス・ヴァージョンだった)が収録され、『Each Time』以降の全ワークスがいっぺんに聴けるようになった。竹内まりやとのデュエット「恋のひとこと-Something Stupid-」はフランク&ナンシー・シナトラ父娘のデュオのカバーで、2003年の竹内まりやのアルバム『Longtime Favorites』(このアルバムには竹内&山下達郎夫妻の「Walk Right Back」のデュオも入っている)で披露したものを収録したもの。残念ながら、2002年の『Kyon3』で聴ける小泉今日子とのデュオの「怪盗ルビイ」は収録されなかった。ディスク3はカラオケで「幸せにさよなら」はイントロにスタジオ・チャット入り、「CM Special Vol.2」はイントロのカウント、「夢で逢えたら」と「恋するふたり」はイントロのスティック・カウントが聴ける。「ROCK'N'ROLL退屈男」「CM Special Vol.2」「Cider '83」はコーラス付で、「ナイアガラ・ムーン」「幸せにさよなら」「夢で逢えたら」「夏のリビエラ」「幸せな結末」「Happy Endで始めよう」「恋する二人」がオケだけだった。(佐野邦彦)
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