2014年11月2日日曜日

竹迫倫太郎:『Master Of Xmas』(K&T RECORDS/KTRE-1001)


 竹迫倫太郎は78年兵庫県姫路市生まれのシンガー・ソングライター。琉球大学医学部在学中の01年に発表した自主制作アルバムが認められ、02年に沖縄のインディーズ・レーベルClimax Entertainmentと契約し、05年までに4枚のミニアルバムと1枚のシングルをリリースしている。
 その後医師研修により音楽活動を休止していたが、12年12月よりFMくらしきで自身がパーソナリティーを務める音楽番組『Dr.竹迫のミュージック・クリニック』の放送開始をきっかけとして、小児科医の傍らでライヴを中心とした音楽活動を再開している。
そして今月7日に実に9年振りの新作として、K&T RECORDSよりニュー・シングル『Master Of Xmas』をリリースする。
 VANDA読者だったという竹迫の作る楽曲は、フィレスのウォール・オブ・サウンドやビーチ・ボーイズ、また70年代のウエストコースト・サウンドやAORなどのサウンドに影響された良質なポップスであり、このサイトの読者にも大いにお勧めできるので紹介したい。

   

 本シングルのタイトル曲「Master Of Xmas」は、キャプテン&テニールの「Love Will Keep Us Together」(75年)やドゥービー・ブラザーズの「What A Fool Believes」(78年)に通じる絶妙なシンコペーションを持つブルー・アイド・ソウル風味のポップスとして魅力に溢れている。曲調のルーツとしては、「Love Will Keep Us Together」の作曲者であるニール・セダカ(作詞はハワード・グリーンフィールド)に代表されるニューヨークを中心とした東海岸の50年代末期~60年代前半のポップスに遡るだろう。マイケル・マクドナルドもその年代のポップスを意識して「What A Fool Believes」を作曲したらしい。これはドゥービーのプロデューサーだった元ハーパス・ビザールのテッド・テンプルマンの助言もあったのではないだろうか。
 話を戻すが、この「Master Of Xmas」はそれらのポップスの魔法に掛かったシンガー・ソングライターが活動再開後リリースする初のシングルとして、実にふさわしいポジティヴな歌詞を持つクリスマス・ソングで、ギターをはじめベースやキーボード類からプログラミング、コーラスに至るまで1人多重レコーディングにより制作されている。
またエンジニアリングとミックスも竹迫本人が担当しているというから、さすが理系ミュージシャンの鏡と脱帽するばかりだ。

   

 カップリングには2曲のクリスマス・ソングのカバーが収録されており、ビーチ・ボーイズの「Little Saint Nick」(『The Beach Boys' Christmas Album』収録・64年)とポール・マッカートニーの「Wonderful Christmastime」(79年)が取り上げられている。
 なんともWebVANDA読者好みの選曲であるが、両曲ともオリジナルのアレンジを元に忠実にプレイされたもので、前者は竹迫が1人でコーラスの全パートを担当しているのが聴きものであり、後者ではポールが1人多重でレコーディングしたという原曲が持つ空間の狭さやシンセサイザー(プロフェット5)の質感がよく再現されている。
 以上2曲ともに独自のアレンジを施して主張しようとはせず、オリジナルのイメージを壊さないところに竹迫のデリケートなポップス愛を感じさせた。この辺りは4月に取り上げたThe Pen Friend Clubにも通じる。
 最後にボーナス・トラックとして収録された「コーモト薬局のテーマ」だが、単なるオマケではなく、隠し味で「君は天然色」でお馴染みのロイ・ウッド(ウィザード)の「See My Baby Jive」(73年)のリフやフランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズの「Why Do Fools Fall In Love」(56年)風のコーラスなど大滝詠一よろしくポップスのオマージュが詰まっているので是非聴いてみてほしい。
(テキスト:ウチタカヒデ



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