2014年11月24日月曜日

Kerry Chater:『Part Time Love』『Love on a Shoestring』(Real Gone Music/RGM- 0273, 0274)



 60年代後半にゲイリー・パケット&ユニオン・ギャップのベーシストとして活動し、その後ソングライターとして成功を収めたケリー・チェイター。彼が70年代後半にワーナーからリリースした2枚のソロ・アルバムが米Real Gone Musicからリイシューされた。
 ファーストの『Part Time Love』(77年)は世界初CD化で、セカンドの『Love on a Shoestring』(邦題『ちぎれそうな恋』 78年)は2000年に日本国内で一度リイシューされたが、現在廃盤で中古市場ではプレミア価格で取引されていただけに、70年代ポップス~ブルー・アイド・ソウル&AORファンはこの機会に入手すべきなので紹介したい。

 まずゲイリー・パケット&ユニオン・ギャップについて少し触れておこう。
 リーダーでヴォーカル兼ギタリストのパケットは42年ミネソタ生まれで、カリフォルニア州サンディエゴのカレッジ在学中の66年にThe Outcastsなるバンドを結成し、翌67年に発展して組まれたのがユニオン・ギャップである。
 45年カナダはバンクーバー生まれのケリー・チェイターはThe Outcasts時代からのメンバーで、67年全米4位のヒットとなったシングルをタイトル名にしたファースト・アルバム『Woman, Woman』(68年)ではベーシストの他、ソングライターとして2曲を提供(1曲はキーボードのゲーリー・ウィッテムと共作)している。




 同年のビートルズのSgt. Pepper'sからヒントを得たと思しき、南北戦争時代のアーミー・ルック(一部のGSグループも彼らを参考にしたのかも知れない)という特異なコスチュームも相まって、「Woman, Woman」の後も「Young Girl」 (68年・全米2位)、「Lady Willpower」(68年・同2位)、「Over You」(68年・同7位)、「This Girl Is a Woman Now」(69年・同9位)と、結成2年の間に5曲のベスト10ヒットを放った。この内3曲のソングライティングも手掛けたプロデューサーのジェリー・ファラーの手腕は大きい。全米1位のヒットとなったリッキー・ネルスンの「Travelin' Man」(61年)の作者でもある彼は、シンガーソングライターとしてChallenge Recordsで様々なタイプの楽曲をリリースするなど時代を先行した才人だった。チェイターはそんなファラーに認められ、サード・アルバム『Incredible』(68年)では名匠アル・キャプスと分担してアレンジを手掛けており、バンド内クリエイターとしてメキメキ成長していたらしい。

 しかし69年プロデューサーがファラーからディック・グラッサーへとチェンジしたのが災いして、同年12月にリリースされた4作目の『The New Gary Puckett and the Union Gap Album』がユニオン・ギャップの事実上のラスト・アルバムとなり、翌70年にチェイターはゲーリー・ウィッテムと共にバンドを脱退してしまう。その後ブロードウェイ・ミュージカル、映画やテレビの劇伴作編曲家として名高いレーマン・エンジェルが設立した"BMI Lehman Engel Musical Theater Workshop"にて5年間学び、リリースされたのが今回リイシューされた『Part Time Love』(77年)と『Love on a Shoestring』(78年)である。
 ソングライターとしてのチェイターは、ポップ・ロックバンドのエアウェーブズの「So Hard Livin' Without You」(78年)をはじめ、カントリー系女性シンガーのジェニファー・ウォーンズの「I Know a Heartache When I See On」(79年)や同じくタニヤ・タッカーの「Love Knows We Tried」(80年)などのヒット曲を数々提供した。そんな中でもWebVANDA読者やポップス・ファンに最も知られるのは、カーペンターズのカレン生前最後のアルバム『Made in America』(81年)に収録されシングル・カットされた「(Want You) Back in My Life Again」かも知れない。



 さて本題のチェイターのソロ・アルバムであるが、両作品ともスティーヴ・ヴァリとマイケル・オマーティンアンの共同プロデュースである。
 この時期スティーリー・ダンの『Katy Lied』(75年)と『Aja』(77年)、ボズ・スキャッグスの『Down Two Then Left』(77年)などブルー・アイド・ソウル~AORの傑作といわれるアルバムに参加し、キーボード・プレイヤーとしてばかりではなくアレンジングでも貢献を果たしたオマーティンアンは、後年プロデューサーとしてクリストファー・クロスのファースト・アルバム『Christopher Cross』(79年)でグラミーのアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝いている。
 因みにファーストの『Part Time Love』には上記作品にも参加しているドラマーのジェフ・ポーカロ、ベーシストのデヴィッド・ハンゲイトという後のTOTO組、ギタリストのディーン・パークス、パーカッショニストのヴィクター・フェルドマン(ジャズ・プレイヤーとしても高名である)などが参加している。
 オマーティンアン夫妻のソングライティングによるタイトル曲の「Part Time Love」はこの時期のボズ・サウンドに通じるが、ここではポーカロのドラミングにシンセベースという珍しい組み合わせのリズム・セクションに、チャック・フィンドレー、ジム・ホーン、スティーヴ・ダグラス!という名手達がプレイするホーン・セクションが新鮮だ。
 チェイターのヴォーカルはアルバム全編を通して控えめながら味わい深い声を聴かせてくれるが、バラードの「No Love On The Black Keys」や「Here Comes The Rain」でより発揮される。
 特に74年にゲイル・マッコーミックに提供後、B・J・トーマスやケニー・ロジャースなど数多くのシンガーに取り上げられた名バラード「Even A Fool Would Let Go」のセルフ・カバーは、ヴォーカルとサウンド共に非常に完成度が高い。




 翌年の『Love on a Shoestring』にはポーカロやハンゲイトのような手練なスター・プレイヤーの参加こそないが、『On The Waters』(70年)からブレッドに参加したドラマーのマイク・ボッツと、79年にモータウンからファンク・バンド、ドクター・ストラットとしてデビューする、ベーシストのピーター・フレイバーガーとギタリストのティム・ウェストンらが参加している。
 アルバム中スローなバラードが6曲とソング・オリエンテッドだった前作に比べ、今作は参加ミュージシャンのカラーもあり、バネのあるリズムを持ったブルー・アイド・ソウル系の曲が際立っている。冒頭の「Well On My Way To Loving You」や「No Room In My Life (For Anyone Else But You)」など聴くと、オマーティンアンのアレンジと人選は間違っていなかった。
 アルバム中筆者が最も好む「Leave Well Enough Alone」は、面白いことに同年レオ・セイヤーが『Thunder In My Heart』で取り上げており、こちらのリズム隊はポーカロとハンゲイトという逆転現象で、同アルバムの他曲で参加しているオマーティンアンのプレイこそないが、この曲をチェイターと共作しているトム・スノウがピアノとシンセサイザーで参加している。またセイヤー自身のプレイによるハーモニカが入るパートなどは、後のドナルド・フェイゲンの「New Frontier」(『The Nightfly』収録・82年)に影響を与えたであろう。
 いずれにしても手練プレイヤーによるシャープなセイヤー・ヴァージョンより、独特なシンコペーションのマジックが面白いチェイターのセルフ・ヴァージョンをお勧めする。



 他にもイントロが後のポール・マッカートニー&ウイングスの「Arrow Through Me」(『Back To The Egg』収録・79年)を彷彿とさせる 「Ain't Nothin' For A Heartache」や、79年にシングル(アルバム『Make Your Move』にも収録・80年)としてキャプテン&テニールが取り上げたAORバラードの「Love On A Shoestring」など聴きどころが多い。
 やはりチェイターの魅力はメロディアスなバラードにあるため両作品とも聴いて欲しいが、強いて選ぶとなると『Love on a Shoestring』になるので予算に合わせて入手して欲しい。
(テキスト:ウチタカヒデ







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