今年初頭に紹介したLampの『ゆめ』に参加して八面六臂の活躍を見せていた、若干24歳のクリエイターの北園みなみが10月22日に初のソロ・ミニアルバムをリリースする。
12年の夏に突如Sound Cloudにアップされたブリリアントな音源で、先物買いの音楽通の間では密かな話題になっていたというが、筆者が知ったのが昨年暮れで、その直後前出のLampのニューアルバムに参加するとの情報で一際気になる存在となっていた。
その『ゆめ』での貢献度は言うまでもなく、Lampサウンドのパレットに新たな絵の具を足して見事なまでに仕上げてしまった。彼がアレンジしたストリングスやホーン・セクションのトラックだけを聴いてみたいほどの構築力を感じたのだ。
さて本作『promenade』であるが、アレンジャー、マルチ・プレイヤーとして表舞台に飛び出してきた彼が、シンガー・ソングライター(以下SSW)として自己完結した初の作品集として、期待を超える完成度で数えきれない程リピートしてしまった。
とにかく多くの音楽ファンは聴くべきで、本年度のベスト・アルバムの1枚であるであることは間違いないと断言するので紹介しょう。
『ゆめ』を聴いた読者ならお分かりの通り彼に関しては、曲や演奏力など高い音楽的技術を持つ裏方指向のクリエイターというイメージを持ったかも知れない。しかし本作ではSSWとして自らの歌声を全面的に出してアピールしたことで、表現者としてのアイデンティティーを改めて見出したのではないだろうか。
大正末期~昭和に活躍したモダニズム詩人で、写真家、イラストレーター、デザイナーと多彩な芸術家としても知られる北園克衛から影響を受け、ペンネームの苗字にまでしてしまったという彼であるが、ジャケットに使われた19世紀初頭のフランス人画家アンリ・ルソーの『セーブル橋の眺め』と共にシュールレアリズムなこのアルバムの世界観を表しているといえよう。
レコーディング・メンバーであるが、マルチ・プレイヤーたる北園本人はベースの他ギター、鍵盤類の上物一式を担当し、ドラムには元Polarisのメンバーでハナレグミや安藤裕子、コトリンゴ等々のサポートとして活躍している坂田学が選ばれている。Lamp人脈からは永井祐介と榊原香保里がコーラス、Minuanoを主宰する尾方伯郎がパーカッションで参加しており、ブラスセクションの武嶋聡チーム、橋本歩ストリングカルテットも『ゆめ』のセッションからの流れだろう。また女性SSWのマイカ・ルブテや同じく新鋭の井上水晶がコーラスで参加しているのも注目に値する。
では収録曲を解説していこう。冒頭のリードトラックとなる「ソフトポップ」は、70年代にデイヴ・グルーシンが手掛けたサウンド・トラックを彷彿させるスリリングなジャズ系のヴォイシングを持つオーケストレーションのイントロ・パートから引き込まれてしまう。北園の饒舌なベース・ラインと坂田のタイトなドラミングのコンビネーションは抜群で、ハードに展開していくこの曲を支えている。ギターやエレピのソロ・パートにおいても北園のプレイヤーとしての潜在的能力が色濃く出ていて、力強いパッセージと数々のフレーズには舌を巻いてしまう。
またシンガーとしては所謂ソングライター系の線の細いヴォーカルとは異なり、高音のブルージーな声質で、ミックスによって更にシャープに処理されていて非常に聴き易い。
この圧倒的な1曲を聴いて直ぐにLampの染谷氏に「まるで洋楽だ」とメールしてしまった程だ。
続く「電話越しに」はアナログ・シンセとFM音源系のエレピの音が絶妙にマッチしたニュー・ソウル系AORで、ラリー・カールトン風のギター・ソロ、突然変異的ペンタトニックと呼ぶべきシンセ・フレーズなど聴きどころは多い。榊原との掛け合いのパートも効果的で、淡い詞のストーリーからLampの「今夜も君にテレフォンコール」を彷彿させる。
一転してウォーミーにスイングしていく「Vitamin」では、北園とゲストのマイカ・ルブテのヴォーカルのコントラストがいい。曲調はケニー・ランキン、リズム・アレンジにはドナルド・フェイゲンのヴァージョンの「Ruby Baby」(ドリフターズのカバー)に通じるものがあり、スムースジャズ・ファンにもお勧めしたい。
2分50秒とアルバム中最も短い「プラスティック民謡」は、土着的な旋律のバックで、オリエンタルなスケールを奏でる木管セクションと様々なパターンのコーラスが交差し、変拍子で目まぐるしく展開するユニークな曲だ。よく聴くとバリトン・サックスとベースがユニゾンするパートや、尾方のプレイと思しきスルドやカラカラ、サンバホイッスルのブラジリアン・パーカッションが使われていたりとアレンジや楽器編成のアイディアが素晴らしい。この曲のコーダから続けざまに「ざくろ」のイントロのホーン・フレーズがはじまる心地よさは何より例えがたい瞬間だ。
アルバムのハイライトというべき「ざくろ」はデモ・ヴァージョンの時点で北園作品の中で真っ先に惹かれた曲だった。資料によると2度目のアレンジとのことで、楽器を整理してヴォーカルをより全面に出していると思う。8分刻みのピアノと飾り気のない歌声、マイナー・キーの旋律は普遍的というしかない。
全体を通し、ソングライティングとアレンジの独創性、各種楽器群の卓越したプレイを聴いて、「非の打ち所がない」とはこのアルバムのためにある様なものだと感じた。ルソーには恐れ多いが、このジャケットの絵画にさえ音ありきで風格を感じてしまった程だ。
今年のベスト・アルバムというレベルを超えて、今後このシーンの指標となりうる作品と言えるのではないだろうか。このレビューで興味を持った読者は是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)
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