2014年7月27日日曜日

Peggy Lipton:『Complete Ode Recordings』(Real Gone Music/RGM-0261)

 


 昨年10月に韓国Beatball盤を原盤として国内リイシューされたのが記憶に新しいペギー・リプトンの『Peggy Lipton』(68年)が、今月米Real Gone Musicによりアルバム未収録のシングル4曲と未発表音源4曲の計8曲を追加し、『Complete Ode Recordings』として新装リイシューされた。
 昨年のレビュー時に筆者が熱望していたことが、こうも早くも叶うとは驚くばかり。
特にWebVANDA読者であれば必聴ともいうべき、ビーチ・ボーイズの「I Just Wasn't Made for These Times」(『PET SOUNDS』収録/66年)の未発表カバーを聴き逃してはいけない。
 今回はボーナス・トラックを中心に紹介していきたい。

 本アルバムの主となる『Peggy Lipton』は、キャロル・キングと当時の夫でベーシストのチャールズ・ラーキーとギタリストのダニー・コーチマーを配したザ・シティの『Now That Everything's Been Said』(69年)の前年にルー・アドラーのプロデュースでリリースされている。
 アルバム収録曲はそのキングやローラ・ニーロのカバー曲とリプトン自身のオリジナルの計11曲が収録され、ハル・ブレインがヘッドアレンジを仕切ったレッキング・クルー参加曲と、前出のシティとドラマーのジム・ゴードンの参加した曲に分かれるが、恐らくキング作のカバー曲を後者が演奏していると思われる。

 アルバム収録曲については昨年のレビューを参照してもらって、繰り返しになるが本レビューではボーナス・トラックを紹介する。
 セカンド・シングルの「Red Clay County Line」と「Just a Little Lovin' (Early in the Morning)」(Ode ZS7 118/69年)は、ジミー・ウェッブ作のA面とバリー・マン&シンシア・ワイルによるB面という強力なソングライティングで構成されており、特にウェッブ自身がアレンジした「Red Clay County Line」は、ラニー・ネクテルらしきタッチのピアノやマイク・デイジーと思われる巧みなギター・プレイなど聴きどころは多い。この曲は同年The Fortunesも取り上げている。
 「Lu」(Ode ZS7 124/69年C/W 「Let Me Pass By」)はローラ・ニーロ作で、サビへの転回は彼女の「Save The Country」にも通じる曲調でソウル・ミュージックからの影響が垣間見られる。ここでのアレンジはジーン・ペイジが担当し、演奏陣も当時彼がOdeで手掛けていたメリー・クレイトンの『Gimme Shelter』(70年)に参加したデイヴィッド・T・ウォーカーらしきギターが聴ける。とするとドラムはポール・ハンフリーでピアノはジョー・サンプルだろうか。
 「Wear Your Love Like Heaven」(Ode OD-66001・70年C/W 「Honey Won't Let Me」)はリプトンのラスト・シングルで、ドノヴァンの『Wear Your Love Like Heaven』(67年)からタイトル曲をカバーしている。アレンジャーのクレジットが不明だがレッキング・クルーの演奏と思われるので、アルバム本編と同じマーティー・ペイチかも知れない。



 未発表曲はアルバム収録からオミットされた曲と思しき4曲であるが、「I Know Where I'm Going」はリプトンのオリジナル、「Wanting Things」はバカラック=デイヴィッド作でミュージカル『Promises, Promises』(68年)よりカバーされており、アストラッド・ジルベルトのヴァージョンでも知られる。さすがに後者は楽曲の素晴らしさとリプトンのアンニュイな歌声がマッチしていい仕上がりだ。印象的なハープシコードはネクテルだろう。
 そしてブライアン・ウィルソンとトニー・アッシャー作による「I Just Wasn't Made for These Times」のカバーであるが、オリジナルの幽玄な音像に近付かせようとした努力は聴き取れるが、曲構成が唯一無二なためアレンジのバリエーションも狭められ、二番煎じになってしまったことは否めない。がしかし、無数にカバーされている「God Only Knows」ではなく、この曲を選曲した鋭い審美眼こそが評価に値すべきではないだろうか。オリジナル・ヴァージョン同様にレッキング・クルーによる演奏と、コーラスはブロッサムズだが、複雑なハーモニーなどは悪くはないので、ソフトロック・ファンは聴くことを強くお薦めする。
 未発表曲のラストはレーベル・メイトであるシティの「Now That Everything's Been Said」のカバーで、前回のレビューでも紹介したが、当時リプトンが主演していたTVドラマ『モッズ特捜隊』(68~73年)の劇中で、ハル・ブレインとロジャー・ニコルス&スモール・サークル・オブ・フレンズのマレイ・マクレオドらをバックに歌っているシーンがあり、4年程前にYouTubeで発見した貴重映像なので削除される前に是非ご覧になって頂きたい。
 今回収録された未発表ヴァージョンではピアノがキング、ベースはラーキーと考えるのが妥当だが、ドラムはゴードンではなくブレインでオルガンはネクテルと思われる。

 この『Complete Ode Recordings』によってリプトンのOdeでの音源がコンプリートで発掘されたことは非常に意義があり、ポップス及びソフトロック研究家にとっていい資料になったであろう。
 また同時にレアであるという理由だけでアルバム単位のリイシューを安易にしてしまう傾向にも警鐘を鳴らせたのかも知れない。今回のReal Gone Musicの快挙といえる企画や昨年のLight In The Attic RecordsによるHoney Ltd.の『Complete LHI Recordings』等、当時リリースした本国ゆえにレコーディングやリリース・データの細やかな調査と、権利関係の交渉が運び易かったのだろうが、今後日本国内や韓国のリイシュー・レーベルも頑張って欲しいと思った次第だ。

(テキスト:ウチタカヒデ










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