新人バンドのファースト・アルバムで、この様な完成度の高いソングライティングとサウンドを僕はいまだかつて聴いたことがない。まさしく一聴して耳を奪われてしまった。
ウワノソラは関西在住の現役大学生からなる、平均年齢23.5歳という若さながら才能溢れる前途有望なポップ・バンドである。saigenjiを筆頭に流線形、あっぷるぱい、千尋、杉瀬陽子等良質なミュージシャンを多く送り出してきたハピネスレコードから7月23日にリリースされるこの『ウワノソラ』は、ポップス・ファン必聴のアルバムなのだ。そのスタイルを分かり易く表現すると、シュガー・ベイブの『SONGS』(1975年)と荒井由実(以降ユーミン)の『MISSLIM』(1974年)を融合させた世界観を非常にナチュラルに展開しているというべきだろうか。
近年では筆者が絶賛しているLampの『ゆめ』(2014年)、流線形の『TOKYO SNIPER』(2006年)や『ナチュラル・ウーマン』(比屋定篤子とのコラボ・2009年)を心より愛するシティポップ・ファンも間違いなくハマるだろう。
1ヶ月程前からラフミックス、マスタリング音源を続けて聴いているが、こうして一足先に紹介する機会を得られたことは極めて幸運である。
ウワノソラのバンド・メンバーは、ヴォーカルとコーラスのいえもとめぐみ、ソングライティングとアレンジを担当するギタリスト兼コーラスの桶田知道、角谷博栄の男女3人から構成され、特にプロデュースからストリングス・アレンジ、エンジニアリングまでをこなす角谷が全体のイニシアティブを握っていると思われる。
メンバー構成からはLampを彷彿させるが、いえもとの存在感溢れるヴォーカルを二人のソングライターが各々演出するという役割分担がされているのがウワノソラの特徴で、このアルバムを聴く限り桶田と角谷のソングライティングの決定的な違いは聴き分けられない。バーサタイルに曲を書き分けられるセンスは両人とも持ち合わせているので後半の曲解説で触れてみたい。
今回のレコーディングに参加した主なセッション・ミュージシャンにも触れよう。「恋するドレス」他2曲でベースをプレイしているのは、今やKIRINJIのメンバーとなった名手・千ヶ崎学、また今年3月末に活動を休止したNatural Recordsの越智祐介は、千ヶ崎と同じ3曲で巧みなドラミングを披露している。ハピネスレコード関連からHARCOなど多くのセッションに参加しているシーナアキコは5曲でフェンダー・ローズを担当しており、5月にソロ・アルバムを紹介したばかりのヤマカミヒトミもここでは3曲でサックス、2曲でフルートで参加と引っ張りだこだ。
以上のミュージシャンのセッションは都心近郊にあるスタジオ・ハピネスでレコーディングされており、エンジニアは同スタジオの主である平野栄二が担っている。ベーシック・レコーディングはウワノソラの拠点である関西のCollege and Room403でも行われ、角谷自らエンジニアを担当し地元で活動するミュージシャンが集められてセッションを行ったようだ。
そしてアルバム全体のミックスダウンとマスタリングは、信頼厚い平野の確かな耳により、きめ細かい音像に仕上がっている。
では肝心の収録曲の解説を始めたい。
アルバム冒頭を飾るのは16ビートのギター・カッティングとパーカッション、クラヴィネットの刻みがリズム隊のコンビネーションに絶妙に絡んでグルーヴィに展開する角谷作の「風色メトロに乗って」。リズムに呼応する跳ねるホーン・セクションと流暢なストリングスのコントラストも効果的でアレンジ・センスも申し分ない。また幼さが残る、いえもとの無垢なヴォーカルが歌詞の世界観にマッチしていて引き込まれてしまう。
続く桶田作の「摩天楼」は、前曲がアイズレー・ブラザーズ風グルーヴだったのに対し、デオダートの「Super Strut」に通じるシェイクでプレイされる。コード進行に引き寄せられる様にハモンドオルガンのオブリガートやソロが、アル・クーパーの「Jolie」(『Naked Songs』収録・1973年)からの引用で思わず唸ってしまった。ここでのいえもとのヴォーカルはユーミン風のフラット気味でクールに迫っており、曲毎にそのスタイルを変えられるのはヴォーカリストとしての器の大きさだろう。
角谷作の「さよなら麦わら帽子」はヤマカミのアルト・サックスをフューチャーしたジャズ・ピープルが好みそうな曲調であり、ジョー・ザヴィヌル風のシンセ・ソロは関西を中心に活動する宮脇翔平によるものだ。なるほどサビはウェザー・リポートの「Black Market」(1975年)風のスケール感覚で納得させられる。後半のコーラス・アレンジも効果的で曲構成もよく考え抜かれている。
一転してクールダウンしてくれるのは桶田作の「マーガレット」で、短編の純愛ストーリーを音数少ないアレンジで聴かせる。「海を見ていた午後」(『MISSLIM』収録)にも通じる、ソーダ水の泡の様に儚く消えていく世界観に涙する。千ヶ崎と越智によるリズム隊の手堅いプレイが曲を演出しているのはさすがだ。
タイトルからスタンリー・キューブリックへのオマージュとおぼしき角谷作の「現金に体を張れ」は、歌詞の内容とは裏腹にシュガー・ベイブの「SUGAR」(『SONGS』収録)を思わせるラテンのリズムで軽快に展開する。シーナがプレイするフェンダー・ローズのリズム・キープがこの曲の肝になっていて、角谷自身によるギター・ソロも完全にラテン・フュージョンの風で、後半の泣きのフレーズはサンタナ~高中正義を彷彿してしまった。ここでのいえもとのヴォーカル・スタイルは「CHINESE SOUP」(『COBALT HOUR』収録・1975年)におけるユーミンのそれで、終始表情の変化の面白さを感じさせる。
ヤマカミのフルートをフューチャーしたブラジリアン・フュージョン・テイストの角谷作の「海辺のふたり」は、近年のLampサウンドにも通じるが歌詞の世界観はからっと乾いているのがウワノソラ的といえる。ここでもシーナのフェンダー・ローズと角谷のギターが活躍している。
ラストとなる角谷作の「恋するドレス」は、千ヶ崎と越智の最良のプレイが発揮されたリズム・セクションと、フィラデルフィア・ソウル風のホーン&ストリングスのアレンジで完成度が高い。コーダのアルト・ソロはヤマカミによるプレイでかなりフリーにブロウしている。
曲の所々に山下達郎の「永遠のFULL MOON」(『MOONGLOW』収録・1979年)やユーミンの「Destiny」(『悲しいほどお天気』収録・1975年)のテイストを感じるが、無理なく自分たちのスタイルとして消化しているのは素晴らしいことだ。
若き新人バンドのファースト・アルバムとしては極めてクオリティが高く、次回作への期待がハードルを高くしないかと心配するほど聴き応えがあり、個人的にも今年2014年のベスト・アルバムに入るであろうと確信している。
最後に筆者のレビューを読んで、少なからず興味を持った読者は入手して聴いて欲しいと思うばかり。いや聴くべきアルバムであると保証するので必ず入手すべきだね。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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