日本が誇るボサノバ・シンガーである小野リサのバンド・メンバーとして国内外のツアーに参加する傍ら、由紀さおりや久保田利伸などの大物アーティストから、saigenjiや流線形など独自の世界観を持った拘り派のミュージシャンまでボーダーレスにサポートする、女性サックス・プレイヤーのヤマカミヒトミが初のソロ・アルバムをリリースしたので紹介したい。
ヤマカミヒトミは立教大学在学中にジャンプ・ブルース・バンドの世田谷ジャンボリーに参加したのを皮切りに、カセットコンロスのメンバーとなった後もマルチ・リード奏者(アルト・サックス、ソプラノ・サックス、フルート、メロディオン)として、アン・サリーやsaigenji、ハナレグミ、おおはた雄一、湯川潮音、流線形等々数多くのミュージシャンのレコーディング・セッションやライヴをサポートしてきた、言わば百戦錬磨の女性プレイヤーである。
05年より小野リサ・バンドのレギュラー・メンバーとして、海外の著名ジャズ・ミュージシャン達が出演する音楽フェスでも演奏しているのでその腕前については説明不要であろう。
またカセットコンロスから離れた後、ピアニスト兼作曲家の宮嶋みぎわとのhitme&miggyで『音には色がある』(07年)、BE THE VOICEの和田純子、モダーン今夜の永山マキ、前出の宮嶋みぎわとの女性4人でのLynn名義で『GIRL TALK』(08年)を各々リリースしており、その活動は多岐に渡る。
そんなヤマカミにとって初のソロ・アルバムである本作『Withness』は、これまでのセッションで培ってきた演奏経験を元にジャズからブラジリアン・ミュージックをボーダーレスに展開した、非常に心地よい全編インストゥルメンタル・アルバムで、オリジナル4曲、カバー曲2曲から構成されている。
サウンド・プロデューサーにはギタリストの平岡雄一郎を迎え、アルバム全編で巧みなギター・プレイを披露しており、パーカッションは名手の石川智が参加している。
では主な曲を解説しよう。冒頭の「The wedding」は、南アフリカ共和国出身のピアニスト、アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)の最高作の一つに挙げられる名バラードで、ここでは元曲が持つ崇高な美しさを活かしつつ、6/8拍子にリズム・アダプトされおり、石川の複数のパーカッションが効果的に曲を演出している。この1曲だけでアルバムのよさを感じ取れる、そんな演奏である。
続くオリジナルの「A Rainbow After The Rain」はソプラノ・サックスがリードを取り、ユニゾンしているピアノもヤマカミ自身が弾いている。この静かに包まれる音空間は、ウェイン・ショーターの『Native Dancer』(74年)にも通じる心地よさで、窓辺から雨上がりの空を見上げたくなる。
2曲目のオリジナル「New Green Days」は、ブラジル北東部の沿岸地域で発達したリズム"ココ"で演奏され、ヤマカミは主旋律のピッコロとアルト・サックス、伴奏のメロディオンを担当している。全編で聴ける石川のパンデイロ、平岡のギター・ソロも聴き逃せない。
やはりアルバムを通して聴いて残るのは、例えようのない心地よさであり、アルバム・タイトルの"Withness"という言葉が象徴している。