The Pen Friend Clubは、『中村メイ子をかき鳴らせ!!!』で知られる漫画家の平川雄一により2012年に結成された。同年8月の初ライヴ以降、精力的にライヴ/レコーディングを行う。
13年、14年に発表した自主制作EP2作では、ビーチ・ボーイズやトレイドウィンズ、ザ・ロネッツからブルース&テリーのカバー曲とオリジナル曲を収録し、ポップス・マニア達の激賞を受けて完売させた。因みに平川氏は『THE DIG Special Edition ビーチ・ボーイズ』(シンコー・ミュージック刊・12年)に描き下ろしの漫画を寄稿するなどBB5マニアとしても知られている。
そして4月16日には、上記2枚の自主制作EPにボーナス・トラックを加え、リマスタリングした正式盤をファースト・フルアルバムとしてリリースする。ジャケット・デザインも『All Summer Long』(64年)を彷彿させる拘り振りでマニア心を擽られてしまう。
ここではリリース間近で多忙な中時間を割いてくれた、平川氏へのテキスト・インタビューをおおくりする。
ウチ(以下U):先ずは平川さんがフィレス・レーベルやビーチ・ボーイズの楽曲など、60年代のポップスのファンになった切っ掛けをお聞かせ下さい。
平川(以下H)元々、高校の頃は重度のビートルズファンだったんです。今でも好きですが当時はかなりのビートルズ至上主義者でした。
ビーチ・ボーイズに関しては元々「どこかで一度は聴いたことのある有名曲」というものが好きだったので、オールディーズのスタンダードナンバーとして「サーフィンUSA」を好んでいました。
そのうち「サージェントに影響を与えたアルバム」というので「ペットサウンズ」を知るんですね。
それで聴いてみたら、殆どの方と同じように聴こえ方、印象がフワフワしているんです。
全体的にメロディ、コーラスはいいなと。「素敵じゃないか」「スループジョンB」はキャッチーなので聴けるんですが、他の曲の「聴き方」がまだわからなかったんです。(後に「Don't Talk」で開眼したクチです。)
最初からは深みにはハマらなかったんですが、その時はビートルズを理解したいという気持ちのほうが強かったので何回も「ペットサウンズ」を聴きました。
そのうち徐々に好きになっていって、他のアルバムも聴いていきました。その当時はペットサウンズ以降~69年あたりのアルバムをそれなりに好んで聴いていました。
あるとき、ビーチ・ボーイズのドキュメンタリー映画「An American Band」を観たんですがその中のブライアン・ウィルソンによる「Surf's Up」のピアノ弾き語りのシーンで完全にやられました。
この人は完全にレノン・マッカートニー以上だと思ったんです。
「グッドヴァイブレーションズBOX」収録の「Surf's Up」ピアノ弾き語りVer.ではあまりの素晴らしさに泣いてしまいました。
同時期、99年のブライアン・ウィルソンの初のソロ来日公演を見に行って本当に感動して、心の底から好きになりました。あの時以来、僕の中で別格扱いとなり、興味の対象はビートルズからビーチ・ボーイズに変わりました。
それ以降はブライアン・ウィルソン、ビーチ・ボーイズを理解したいようになったのでフィル・スペクター関連作や60'sアメリカン・ポップス等その周辺のものも聴いていくようになりました。
U: 『サージェント・ペパーズ』に影響を与えたという理由から『ペットサウンズ』を聴いて、その素晴らしさにはまってビーチボーイズ・ファンになった拘り派のミュージシャンの方は多そうですが、「Don't Talk」で開眼したというのがいいエピソードですね。よろしければ開眼された理由をお聞かせ下さい。
また平川さんがビーチボーイズ~ブライアン・ウィルソンの最大の魅力を挙げるとしたら?
H:「Don't Talk」は、アルバムを普通に聴いていたら急に「ワーッ」と来たんです(笑)。
最初の印象は「暗い」でした。曲の最初からして暗い。そして美しい。
このサウンドは本当に特殊だと思います。やったことないですがドラッグ的な気持ちよさがあると思います。電車の中で聴いていてちょっとトリップしてしまって数駅乗り過ごした経験もあります。
この曲が好きになってから自分の中での『ペットサウンズ』の聴き方がわかりました。
ちなみに今回のアルバム『Sound Of~』収録の「Don't Run Away」のマンドリンのピッキングトレモロは、当初は意識していなかったのですが結果的に「Don't Talk」のような雰囲気が出せたような気がして一人で喜んでおります(笑)。
「ビーチボーイズ~ブライアン・ウィルソンの最大の魅力」・・・・それは「曲がいい」ところだと思います。
U:今回ビーチ・ボーイズの曲でカバーしたのは、「When I Grow Up (To Be A Man)」と「Darlin'」ですが、選曲された理由は?
曲への思い入れとバンドで演奏し易かったからでしょうか?
H:どちらも大好きな曲です。いずれも1st、2nd EPに収録しましたが、アップテンポ且つキャッチーで、その筋の人が聞いたらピクっと反応するような曲が欲しかったのでその二つを選びました。他にビーチ・ボーイズ曲のレパートリーは「Please Let Me Wonder」「Fun Fun Fun」「The Monkey's Uncle」があるのですが次回作以降にレコーディングしたいと思っています。
U:ではバンドについての質問に移りますが、The Pen Friend Clubの結成に至った経緯を。
結成初期に平川さん以外のメンバーが女性だったのも気になります。またご自分の音楽的趣向をメンバーに啓蒙したんでしょうか?
H:最初期の短期間ですが男性サックス奏者、男性ドラマーがいたんです。メインボーカルは僕でした。その他は第一期パーカッショニストのJeni、そして今現在も在籍しているベースの西岡利恵がいました。
最初は現在の「60年代中期ウェストコーストロック」というコンセプトとは全く違っていまして、ガレージや50'sロックンロール的なものを演奏していました。といっても明確なヴィジョンはなく、お遊び的なバンドというつもりで、いろいろ適当でごちゃ混ぜでした。Kravin A'sの曲とかロイヤルティーンズの「Short Shorts」とかフィル・スペクターの「Dr. Kaplan's Office」なんかもやっていたりしました。
その編成では一度もライヴはやっておらず、スタジオ止まりでした。
早い段階でサックスとドラマーの男性2名が抜けたので第一期ドラマーのあいこさんを迎えました。同時期にあいこさんのメインのガールズバンドでオルガンを弾いていた初代オルガン奏者のぼたんさんも誘い、その時点で男性は僕だけでその他が女性という編成になっていました。サックスが抜けた段階で現在のコンセプトにシフトしていきました。「サックスをフィーチャーしたインストありのバンド」という形態でなく普通の歌ものバンドになり、かつ僕がリーダーなので自ずと僕の一番好きな「60年代中期ウェストコーストロック」の趣味が色濃く反映されていったのです。
そのときから「New york's A Lonely Town」や「Darlin'」、「Don't Run Away」をやっていましたが、いかんせん僕のC級のメインボーカルですので、そのまま人前で演奏するのはキツい状態でした。僕が別に在籍しているフォークロックバンドのメンバーであり、アップル&ペアーズ、CHARLIE & THE HOT WHEELSの岡田純さんをメンバーに迎えようとスタジオ入りしたこともありましたが都合が合わずお流れになりました。
そこで今回のアルバムの解説を書いていただいた島村文彦さんを通じて第一期ヴォーカルの夕暮コウを迎えました。その2年ほど前に夕暮さんのソロライブを一度観ておりヴォーカルをしてもらうならこの人だと思ったのです。
その時、夕暮さんとは2回しか面識がなく、交流も殆どない状態だったのですがそこをあえて加入してもらったのは、ペンフレンドクラブを「まともに聴けるバンド」にしたかったからに他なりません。あいこさんとぼたんさんが加入した時点で、自分の中でスタジオのみのお遊び的なバンドという認識ではなくなっていました。
夕暮さんが加入してから「これは自分の一番やりたかったことが実現できる。人前でやっても恥ずかしくない。」と確信が持てました。それから初ライヴまでそう時間はかかりませんでした。
音楽性について僕がメンバーに啓蒙したわけではなく、ただそれぞれの「曲」として演奏してもらっていました。
それぞれのメンバーも、いちプレイヤーとしてそれぞれの曲に対応していたのだと思います。
ここはどうしてもこう演奏して欲しい、という箇所は注文をつけました。みんなよく応えてくれたと思っています。
U:今回のアルバムのレコーディングは第1期メンバーの方によるもので、ヴォーカルの夕暮さん、パーカッションのJeniさん、ドラムのあいこさん、オルガン&コーラスのぼたんさん在籍時のものなんですね。皆さん、なかなか演奏能力も確かだと思います。これらのメンバーさん達と別れるのは辛かったのでは?
またよろしければ、現メンバーへと収まった経緯を。
H:脱退した4人の素晴らしいメンバーと一緒に出来て良かったと思っています。初期ペンフレンドクラブを支えてくれた重要なプレイヤー達です。
そして第一期メンバーの集大成と言えるこのアルバムを出すことができて本当に良かったです。別れの際は動揺もありました。ただ幸運なことにかなり早い段階で第二期メンバーが集まったのでそれ以降は新体制での活動への準備に集中しだしました。
新メンバーの向井はるか、中川ユミ、祥雲貴行はいずれも身近にいる友達です。他のバンドや他に音楽活動、表現活動をしている人達で構成した第一期との違いはそこです。
ドラマーの祥雲貴行は複数のバンドでドラムを叩いていますが、オルガンのヨーコの高校の同級生でもあり、僕も西岡利恵も昔から知る人物でした。なので声をかけやすかったというのもありますが、確かな演奏能力あっての起用でした。
ヴォーカルの向井はるかは西岡利恵の長年の友達で、二人で「チーズ研究会」や「映画研究会」等をしていたようです。あと向井は西岡と昔からガレージバンドをやっていたようですが、そちらはあまり活動はしておらず、今回のペンフレンドクラブ加入からが本格的なバンド活動だということです。一緒にカラオケに行った時、彼女の歌うアニソンを聴いて、この人に歌ってもらいたいと思いました。
パーカッション、グロッケンの中川ユミは元々ペンフレンドクラブのファンです。ほぼ全てのLiveに足を運ぶほどで、一番「Liveの勝手を分かっている」人物でもありました。あと手先が器用なのとゲームの「リズム天国」が非常に得意、ということで、パーカッション、グロッケン役でいけるのでは、と誘った次第です。あと「楽しんでやってくれそう」というのも起用の大きな理由です。
Please Let Me Wonder / The Beach Boys Cover
U:今回これまで自主製作盤として発表していたEP2枚の音源にボーナス・トラックを加えリマスタリングしフル・アルバムとしてリリースされる訳ですが、選曲が絶妙です。
完全に平川さんの趣味ですか?
H:はい、そのとおりです。
U:選曲もさることながら各曲のアレンジングもマニア心をくすぐられます。
例えばほぼ全ての曲でのドラミングからフィルのパターンまでがハル・ブレインを意識した演奏だったり、ブルース&テリーの「Don't Run Away」のカバーでは、この曲をオマージュしたとされる山下達郎氏の「Only With You」(『Big Wave』収録・84年)でのグロッケンのオブリガード・ラインが聴けたりと、初めて耳にした時から興奮を抑えられませんでした。
今回インタビューしたいと思ったのも、そんな愛情溢れるクリエイティヴ精神への敬意の現れなんです。
H:ありがとうございます。
山下達郎さんの「Only With You」のあのフレーズは繊細で可愛らしく、とても印象的ですよね。これは使わない手はない、と思いました(笑)。「Don't Run Away」のカバーで、そのオマージュ作の「Only With You」のフレーズを使用する、という構造が気に入っています。
ちなみに「New york's A Lonely Town」はトレイドウィンズの原曲から知ったのではなく、山下達郎さんの「Tokyo's A Lonely Town」が初めての出会いでした。初めて聴いたとき「なんちゅうええ曲や!」と驚愕しました。
ペンフレンドクラブは基本「New york's A Lonely Townをやるためのバンド」なんです。
あの曲が全ての基本になっています。あの1965年を絵に描いたような感じ。山下達郎さんの「Tokyo's A Lonely Town」にはとても感謝していています(カバーを提案した大瀧詠一さんにも)。「Don't Run Away」で「Only With You」のあのフレーズを使ったのは山下達郎さんへのトリビュートという気持ちもあります。なのであのフレーズの件をウチさんに気付いてもらえて良かったです。誰もこのことに突っ込んでくれないので・・・・(笑)。
U:オリジナルの2曲についてはオマージュ色が強いですが、この2曲のソングライティングのポイントについてこっそり教えて下さい。
H:オリジナル「I Sing A Song For You」はブライアン・ウィルソンの「Spirit Of Rock'n'Roll」。
「I Fell In Love」は「Wouldn't It Be Nice」を意識しました。作曲はまずコード進行を作ります。自分の中で忘れられないような気持ちいいコード進行ができたらそれに合わせてメロディを作ります。まだオリジナル曲が少ないのでもっと増やしたいですね。がんばります。
U:「I Sing A Song For You」がブライアンの「Spirit Of Rock'n'Roll」とは曲の構成やサビのリフレンあたりですかね。しかし幻の2ndとされる『Sweet Insanity』収録曲という拘りが平川さんらしいです(笑)。
個人的には「I Fell In Love」の「Wouldn't It Be Nice」を意識したイントロからやられました。またBパートからサビは、ジェリー・ロス~ジョー・レンゼッティが手掛けたキースの「There's Always Tomorrow」を彷彿させて好きにならずにいられませんでした。
VANDA読者をはじめ全てのソフトロック・ファンに聴いて欲しいですよ。
H:VANDA読者の皆様の御眼鏡に適うと嬉しいです。
『Sweet Insanity』収録の「Don't Let Her Know She's An Angel」はいつかペンフレンドクラブでやりたいなあと思っています。
U:今後のライヴやリリース・イベントの予定を。
H:4月20日(日)に「Sound Of The Pen Friend Club」のレコ発が新宿JAMであります。
その他のスケジュールは以下です。
4/29(火,祝)高円寺Showboat
5/5(月祝)難波メレ
6/14(土)吉祥寺 伊千兵衞
7/13(日)高円寺グリーンアップル
詳細は公式ブログにてご確認ください。
U:では最後にこのアルバム『Sound Of The Pen Friend Club』をアピールして下さい。
H:今回は既発売のEP盤の曲をすべて収録し、1st EPのものに関してはミックスを変えてあります。具体的には音圧調整、ノイズ取りなどを行いました。
2nd EP収録の4曲に関してはボーナス・トラックにアカペラ、純カラオケが収録されています。自分としてはそれを一番聴いて欲しいですね。自主盤EPでは聴けないものなので。
あとステレオの「Don't Run Away」のアレンジとミックスが気に入っています。
「When I Grow Up(To Be A Man)」の6弦エレキのバッキングも満足しています。純カラでご確認ください。アートワークもすべて僕がデザインしました。これらも気に入っています。
このジャケットにピンと来た方も来ない方も是非ともよろしくお願いします。
(インタビュー設問作成:ウチタカヒデ)
【4月19日追記】
ウチさんの記事&インタビューでPFCの魅力の全てが語られていますので、私(佐野)の方で、思いついたことを、脈絡なく書かせていただきます。
このCDで最もいい出来だと思ったのが冒頭の「Do I Love You」ですね。ヴォーカルがまずいい。ヴェロニカを彷彿としましたね。そしてハーモニーが絶妙。バッキングとのバランスが最もとれているんじゃないでしょうか。ロネッツでも、「Be My Baby」とか「Baby I Love You」ではなく、この曲を持ってくるところが渋いです。
「Don't Run Away」。選曲しただけでもう二重丸です。この曲には思い出があるんですね。Bruce & Terryのシングル6枚の存在を知ったのは33年前ですが、何しろビーチ・ボーイズすら過去の遺物扱いの時ですから、ブルース・ジョンストンのワークスなんて追っかけているのはその当時は日本で木崎義二さんと山下達郎さん、フォーエヴァーレコードの藤本昌吾さん(当時)と私くらいでした。
その中で最も早く「Don't Run Away」のシングルを入手したのは藤本さん。さっそく録音してフォーエヴァーの店内で流していたら達郎さんが店に来て、何この曲?と質問、Bruce & Terryと返事するとすぐ売ってくれと。その時、藤本さんは手に入れたばかりで「売らへんよ」と返事したんで、じゃあそのテープ頂戴ってことであげたそうです。その後、そのシングルは私に売ってくれた(藤本さんが言ってましたが、「コレクターは商売やっちゃあかん。結局売ってしまうんや」って)んですが、そのあと『Big Wave』の中に「Only With You」が。やったな、達郎さん。この事が分かる人なんて日本で片手くらいしかいないよな。と、当時、よく顔を合わせていた達郎ファンのとり・みきさんのところへ「Don't Run Away」をテープに録音してさっそく聴いてもらいました。「同じだー」なんて当然、盛り上がり、その模様はとりさんがその名も「Don't Run Away」のタイトルでマンガの中に書いちゃいました。
ウルトラマニアックなネタだったんですが、それから30年後にこういうカバーまで出てくるなんて、ホント、隔世の感がありますね。ちなみにそのマンガは「だまって俺についてこい」(青林堂)で読めます。
さらに思い出の続きが。その後、1990年のVANDA3号で山下達郎さんのインタビューをやった時のことです。ちょうど『Melodies』のリリースの時で、その日の最後、4つ目にセッティングされ、達郎ファンのとり・みきさんと一緒に行き、はじめはアルバムのことを聞いたんですが、案の定、どこのメディアでも同じ受け答えでした。当然それは想定済み。すぐにビーチ・ボーイズなど趣味の音楽の話から振りはじめ、映画の話とか大いに盛り上がって、予定を大幅にオーバーしてお開きになりました。
余談ですが、自分が行ったコンサートで、達郎さんがMCで「みなさんよく知らないと思いますが、VANDAというミニコミがあるんですが、そこに掲載されたインタビューは今まで受けたインタビュー中で最高の内容なんで是非読んでください」と言ってくれ、とても嬉しかったことを今でも覚えています。自分でも数あるインタビューの中で、ベストだと思ってますね。
話をインタビューに戻します。
終わり際に達郎さんが「佐野さん、Bruce & Terryの「Don't Run Away」のシングル持ってる?持ってたら非売品の「9 Minutes Of Tatsu Yamashita」と交換しない?」と一言。「9 Minutes...」は確か披露宴の引き出物で配ったディスクとか(今はCDのボーナストラックに入ってますね)で、非常にレアだったんですが、これも藤本さんから入手していたんで「すみません。「9 Minutes」持ってるんで」と断ると、「え?どこで手に入れたの?」ととても驚いて、かつ残念がっていたのを思い出しました。
この時点まだ入手出来てなかったんですね。というのも1991年のレココレの「今年のこの1枚」で「10年待ったぜ。」と「Don't Run Away」のシングルを紹介していましたから。達郎さんは、「Only With You」は「オマージュだ」って言ってましたね。
ちなみにPFCのグロッケン、ウチさんの記述とおりオブリで大活躍です。
「New York's A Lonely Town」、いいカバーです。元のRed BirdのTradewindsのヴァージョンではなく、この曲はなんといってもDave Edmundsが録音して結局未発表で終わってしまった(後に「Pebbles Vol.4」で登場)「London's A Lonely Town」があまりにスマートでカッコよく、これにみんな惚れたんですね。ブートのコンピLPに入っていたんで(オン・ステージ・ヤマノでタグ付きで売ってましたよ。流石!)それをみんな聴いていました。達郎さんの「Tokyo's A Lonely Town」も明らかに「London's...」のヴァージョンのカバーですからね。Dave Edmundsは後にSwan Songでのシングルで「New York's A Lonely Town」で新録音してリリースしていますが、「London's...」の方がずっと上。達郎さんは、他にも「I Do」や「Guess I'm Dumb」をカバーしたり、ホント、マニア泣かせのカバーをしてくれました。もっとやってくれないかなー。
「When I Grow Up」、大好きな曲ですが、日本人のカバーは初でしょう。ビーチ・ボーイズのカバーはハードルが高いのですが、よくぞやってくれました。あえていえばオルガンよりやはりハープシコードの方がいいこと、ハーモニーをもっと厚くして欲しかったなということでしょうか。ビーチ・ボーイズは中音域とバス・ヴォイスがキモでして、これがうまくできない。ただビーチ・ボーイズ以上のハーモニーなんてないんですから、気にしなくていいですね。
「Darlin'」もいいカバーです。ビーチ・ボーイズのスタジオヴァージョンでも、ライブヴァージョンでもなく、印象的には達郎ヴァージョン(サウンドイメージです。展開とかまったく違いますが)ですね。余談ですが私は『Live In London』のヴァージョンが圧倒的に好きだなー。あの「Ladies And Gentlemen...」のMCからやってみたいですね(笑)
オリジナルの「I Sing A Song For You」と「I Fell In Love」ですが、後者が個人的な好み。ウチさんが書いたとおり、Bパートからサビの展開ですよ。あれでやられます。いい曲が書けるんですから、あとはベース・ラインに工夫をもたせて、オルガンよりピアノの音質でバックを組めばもっとよくなると思います。
カバーでは他に「Please Let Me Wonder」、「Fun Fun Fun」、「The Monkey's Uncle(やりますなー)」があるなんてこれは聴きのがせない。
インタビューでは次には「Don't Let Her Know She's An Angel」をやりたいなんて、まさに自分の好みそのもの。平川さんとは完全にシンパシーが合うって分かりました。そうですよね、『Getting' In Over My Head』のヴァージョンなんて全然ダメ。やっぱり『Sweet Insanity』のヴァージョンの解放されていく美しさがないと。次作に期待しています。
(佐野邦彦)