まずはなんといっても『Yesterday And Today』である。どっちのジャケットで紙ジャケ化されるのかと話題になっていたが、ケースを開けるとトランク・カバー。ああ、やっぱり回収ものじゃなくて流通した方なのかと思ってビニールからジャケを取り出すと、トランク・カバーはオマケのシールで、紙ジャケ自体はブッチャー・カバーで作られていた。やっぱりこうこなくっちゃ。このアルバムの価値はまず「I'm Only Sleeping」のアメリカ盤のモノラルが聴けること。しかし冒頭に書いたようにUSステレオ・ヴァージョンはただのUKステレオ・ヴァージョンだったので、大変残念な結果に終わった。イギリス盤及びアメリカ盤のモノラル&ステレオは、あの特徴的な逆回転ギターの挿入箇所が4つとも違う。ポイントは3か所でA:「running everywhere at such a speed till they find thrers' no need」とB:「taking my time,lying there and staring at the ceiling」及び間奏である。イギリス盤のステレオのAは「till they」以外は入っていてBは無し、モノラルは「till they find」以外入ってBは「lying」の後から入る。『Yesterday And Today』のモノラルは、Aは入らずBは「taking my」の後から入り、『Yesterday And Today』のApple以降ステレオは、Aは「they」以外入っていて、Bは入っていない。さらにこのUSステレオのみ間奏のSEが一拍遅れて入る。USステレオ・ヴァージョンが未CD化で終わってしまったのはあまりに残念だ。あとは「Doctor Robert」のモノラルは、曲のエンディングのコードまではっきり聴こえる。イギリス盤『Revolver』のモノラルはもっとフェイドアウトしていくのでここまではっきりとは聴こえない。USモノラルは終わった後ジョンの「Ok Fab」という声が聴こえるとあるが、ここではまったく入っていない。アナログの『Yesterday And Today』では何かノイズのようなものがかすかに入っていたが「OK Fab」なんて言葉はヴォリュームを最大にしても聴こえなかったため、CD化に際してノイズを除去したというべきだろう。「We Can Work It Out」と「Day Tripper」のステレオはミキシングが違い、前者はハーモニウムが真ん中から登場し新鮮、後者は冒頭のギターリフが左から登場するのでこれは価値がある。なお、このキャピトルの節操のなさを凝縮した『Yesterday And Today』は選曲が『Help』『Rubber Soul』『Revolver』からとメチャクチャだが、「What's Goes On」と「Yesterday」のモノラルは、ちゃんとイギリス盤『Help』と同じ仕様になっていた。これを含め、以下のイギリス盤モノラル&ステレオの違いは、Web VANDAの『On Air Live At The BBC Volume2』でThe Beatles Collecting Guideとしてまとめたのでそちらをご覧いただきたい。
『A Hard Day's Night(Original Motion Picture Sound Track)』はアメリカ盤『Help!』と同じくサウンド・トラックになっているため、ビートルズではない、ジョージ・マーティン・オーケストラのインストルメンタルが4曲入っているのが、逆に目玉かもしれない。特に映画でも最も印象的なシーンに流れる「Ringo's Theme(This Boy)」は、哀調があっていい。ビートルズの音源的には『Something New』と同じで、「And I Love Her」のモノラルはand I love her以外のヴォーカルがポールのシングル・トラック、「I'll Cry Instead」のモノラルは1コーラス多く20秒長いヴァージョンである。このアルバムのステレオLPはビートルズの演奏した曲が全て疑似ステレオというとんでもない代物だったので、CD化の際になぜか「I'll Cry Instead」だけ前述のモノで残して他はトゥルー・ステレオに差し替えてある。
アメリカ盤『Revolver』は曲数が少ないだけで、モノラルとステレオの違いは、イギリス盤と同じ。3曲少ないだけのリイシューする価値が最も乏しい代物だ。
『The Beatles' Story』はステレオ(モノラルも存在しているが内容的に2イン1の価値なし)で、音楽的には「The Beatles Look At Life」というコーナーで40秒、64年のハリウッドボウルでの「Twist And Shout」のライブが収録されている。このアルバムのみ単品発売がないため、コンプリートを目指す人はボックスを購入しないといけない。
そして『The Beatles' Second Album』だ。このアルバムのステレオLPは全体的にエコーがかけられていて、後述の「I Feel Fine」や「She's A Woman」のような極端なものではないが、非常に特徴的なものだった。ただしステレオが存在しない「She Loves You」と「I'll Get You」と、「You Can't Do That」は疑似ステレオで、『The Capitol Albums Vol.1』ではそのままCD化されていた。疑似ステレオは使わないという方針だと、この3曲のみエコーが取れてしまうので、本ボックスでは「She Loves You」と「I'll Get You」はモノラル、他は通常のトゥルー・ステレオに差し替えられた。よってこのアルバムにより『The Capitol Albums Vol.1』を手離すことができない。
そして『Beatles '65』は、モノラル盤、ステレオ盤とも「I Feel Fine」と「She's A Woman」に驚くほど深いエコーがかけられていて、言ってみればキワモノだった。しかしこの2曲のステレオは疑似ステレオだったので、今回のCD化では通常のステレオに差し替えられた。私は疑似ステレオを評価しないので、これでいいといえばいいが、『The Capitol Albums Vol.1』ではエコーがメチャクチャかかった疑似ステレオをそのままCD化していたので、歴史的価値として保存しておかないといけないだろう。
『Something New』のモノラルは前述の『A Hard Day's Night(Original Motion Picture Sound Track)』で紹介した「I'll Cry Instead」と「And I Love Her」以外に、「When I Get Home」がサビの「till I walk」のwalkを延ばして歌っていて、イギリス盤と違う。また「Anytime At All」が、間奏の1分30秒から46秒までのピアノが遅く入ってくる。なお最後の「Komm,Gib Mir Deine Hand」は2009年ミックスに変更されている。
『Rubber Soul』のステレオのみ「The Word」のジョンのヴォーカルが全てダブル・トラックでイギリス盤と違う。そして驚いたことに「I'm Looking Through You」はイントロのギターを2回間違えるがそのまま入っていた。『Rubber Soul』のモノでは、「Michelle」のこのヴァージョンが、一番フェイドアウトが長い。といってもステレオより2秒弱程度。ちなみに一番短いのはイギリス盤『Rubber Soul』のモノ。『The Capitol Albums Vol.2』は当時のミックスを使っているため曲中の咳やノイズなど残っていたので、細部までこだわる人はこちらも残すべき。なお『Help』の「Help」のモノラルは、ステレオをモノラルにしただけだったが、本ボックスではモノラルであるシングル・ヴァージョンに差し替えられるなど、「偽モノ」も一掃している。(佐野邦彦)
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