ゾンビーズは魅力的なグループだ。ロッド・アージェントとクリス・ホワイトの書くメロディには心の琴線に触れる哀調があり、コリン・ブランストーンのハスキーなリード・ヴォーカルに色気があり(この色気はクラシックIVのデニス・ヨストと双璧)、さらにジャズタッチのキーボードの間奏にお洒落さもあって、日本人は特にひきつけられてしまう。しかしフーのような緻密さやダイナミズム、キンクスのような卓抜したセンス、スモール・フェイセスのような暴力的までの迫力はなく、ゾンビーズのサウンドはどこかスカスカだ。テクニカルなグループではない。しかしメロディとサウンドにおけるセンスの良さ、特に2枚しかなかったが最後のアルバム『Odessey And Oracle』の洗練された飛びぬけた美しさ、解散後に出る予定で未発表のまま終わった『R.I.P』収録曲のキャッチーは、60年代のイギリスが生んだ宝物のひとつとして長く語り継ぐべきアルバムだろう。そのソンビーズの全曲はBig Beatの『Zombie Heaven』でまとめられている。これで十分といえば十分だが、我々60年代のロック・ファンは、モノラル盤とステレオ盤の両方を持っていたいもの。ステレオとモノに関しては、ビートルズやフーなどまったく別のテイクを使っている場合もあるので、聴き逃す訳にはいかない。現在、ステレオとモノラルでCD化されているのはビートルズ、ビーチ・ボーイズ、キンクス、フー、スモール・フェイセス、ホリーズといった超一流の大御所グループばかりで、作品数の少ないゾンビーズがその流れに加わっているのはいかにマニアックな人気があるか分かる。(ただしなぜかローリング・ストーンズはステレオ&モノラル化の企画がない。フィル・スペクターでは個人的にはロネッツやクリスマス・アルバムはステレオ盤の方が好きなのだが、これはモノの帝王として意地でも出さないのかな。他ではアソシエイションとモンキーズのステレオ&モノラル化が実現しただけである。)ゾンビーズのステレオだがDecca時代はBig Beatの『The Decca Stereo Anthology』、モノラルはRepertoireの『Begin Here(The
Complete Decca Mono Recordings』、そしてCBS時代は『Odessey And Oracle』の単体CDはステレオ&モノの2イン1が基本となっているので、これだけで十分だと思っていた。しかしマニアックなことでは定評があるドイツのRepertoireは、ゾンビーズで先行されているイギリスの雄、Big
Beatに負けてはならじと、オリジナル・ステレオの全てと疑似ステレオまで入れたDecca時代のステレオ・アンソロジーを出してきた。このディスクは4枚構成で、81トラック入り。ディスク1はCD時代より前にステレオでリリースされたオリジナル・ステレオ音源を集めたもの。この中には1966年のフランス盤EPで登場したHey Hey Hey!のカウンター・コーラスのない「Is
This The Dream」が収録され、1993年の日本盤のボックス・セット『Time Of The Season Complete Studio Recordings』(Century)以来の登場となった。こちらのヴァージョンの方がカッコいい。「Kind Of Girl(UK Version)」と「Kinda
Of Girl(US Version)」(スペルが違う)も別テイクとあったが、顕著な違いは感じられなかった。そしてディスク2は疑似ステレオだ。最近、スモール・フェイセスでもボーナストラックに疑似ステレオを入れたものが出ているが、こんなものをCD化する価値などないと思っているが皆さんはどうだろうか。ディスク3とディスク4は2002年のBig Beatの『The Decca Stereo Anthology』と同じもの(ただしBig Beat盤のボーナストラック4曲は入らず)で、2002年に作られたステレオ・リミックスである。(佐野邦彦)
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