blue marbleが2010年の『ヴァレリー』以来、待望のセカンド・アルバム『フルカラー』を10月16日にリリースする。
blue marbleは音楽大学出身のとんCHANとショック太郎が05年に結成したポップ・ユニットで、筆者が監修、共同プロデュースしたインディーズ・コンピレーション・アルバム『Easy Living Vol.1』(06年)に参加した縁もあり、前作では同じくこのコンピに参加した女性アーティストのフレネシとの対談レビューというかたちで紹介している。
本作『フルカラー』では新たなヴォーカリストとして武井麻里子を迎え、前作までのオオノマサエとはカラーが違った表現力でblue marbleの新境地に大きく貢献している。
ここではリーダーのショック太郎と武井の両氏に本作について聞いてみた。
ウチタカヒデ(以下U):先ずは新ヴォーカリスト、武井麻里子さん参加の経緯を聞かせて下さい。
ショック太郎(以下S):ちょうど3年前のことです。前作『ヴァレリー』出した直後ぐらいかな。まりさん(武井麻里子)が以前やっていたバンド「CITY LAKE MIRAI」を、たまたまmy spaceで見つけたのがすべてのきっかけです。何百というバンドを流し聴きしていたのですが、一発でそのバンドの音楽とまりさんの歌声の虜になりまして。そのバンドは直後に解散してしまいましたが、その後しばらくしてtwitterを通じて彼女とはお知り合いになることができまして。「是非今度、blue marbleのアルバムで歌ってくれませんか」とお願いしました。音楽的に「ヴァレリー」よりも、もっとポップに弾けたいという気持ちがありまして、そんな意味でもピッタリの歌声でした。ついでに作詞もお願いしたら、それも予想以上にすごく良くて。
これはもうセカンド・アルバムは全曲作詞も彼女にお願いするしかない、と確信しました。というわけで、とんCHANとショック太郎の2人組のソングライターユニットから、武井麻里子をメンバーに加えた3人組のバンドとして今回再スタートしたのです。
U:次に武井さんへですが、blue marbleの第一印象と参加にあたっての意気込みを聞かせて下さい。
武井麻里子(以下M):blue marbleの音や姿勢に対する第一印象は「孤高」という感じでした。どこか、違う惑星の出来事がラジオで聴こえてきたような日常生活とずれたところで鳴っている音楽という風で。なので自分が歌うというイメージはまったく無かったです。オオノマサエさんの声がとても強烈だったこともあり「blue marble」という完成された、孤高のパッケージという印象だったので自分がそこに関わっていくとは思いませんでした。
セカンドに参加させていただくことになりまず思ったことですが、blue marbleの良いところは、浮世とちょっと隔絶されているようで聴く人を決して置いて行かないやさしい姿勢だとわたしは思っていて、そういったところは大切にしたまま、よりポップで、また、リアルな感情に迫ったものにしたいと思いました。
すごく幸せなことに、今回詞も書かせていただいたので、敢えて前作の主人公でもあった「オオノさんの歌」は意識せず、武井麻里子の人格をなるべく正直に投影できるよう、はずかしい気持ちは封印しました。「ぼくも裸になったんだから、きみも脱いでくれ」って感じで、聴いた人が裸の気分になれるようなものになっていたら良いです。
U:"「blue marble」という完成された、孤高のパッケージ"という表現は言い当てていると思いますが、武井さんが作詞とヴォーカリストで参加したことで、新たなblue marbleの方向性を決めたような感じもしますが、最終的に完成したアルバムを聴いてその様な自負はありますか?
M:はい。今回歌詞も書かせていただいて...。言葉というのはもしかしたら歌以上にその人物のカラーが浮きあがってくる所ではないかと思うので、そういった意味では、遠慮なく武井麻里子のカラーを出させていただいたな、と感じています。見栄えだけじゃない本性みたいなところを剥き出せた、という部分では自負があります。自分のなかでは「boy MEETS girl」が1番、元来のblue marbleのカラーと私のカラーがうまく均等に混ざったもののような気がしています。
U:レコーディングの期間はどの位掛かりましたか?またその中でのエピソードがあれば聞かせて下さい。
S:断片的ではありますが約1年かかりました。今回はアレンジも演奏も自分ひとりだけでコツコツと自宅で作りましたが、歌だけはミックスをお願いしていた佐藤清喜さん(microstar)の自宅スタジオで収録しました。え~と、特に面白いエピソードはないです。って、これじゃマズイですかね(笑)でも音楽作るのって本当にプラモデルを作るような地味な作業の積み重ねでしかないですよ。バンドの一発録音みたいなレコーディングなら、また面白い話しもあるのでしょうが。最終的なマスタリングが終わった瞬間だけは本当に嬉しいのですが、後はひたすら時間と忍耐と睡魔との勝負という感じです。
U:では今回のアルバムは、先に何だかのコンセプトの青写真がありましたか?
あるいは収録曲をソングライティング、レコーディングしていく過程で固まっていったという感じですか?
S:一番最初にまりさんから詞をいただいた「boy MEETS girl」の時点でコンセプトを固めました。「ヴァレリー」は歌の主人公を、どこか遠い国に住んでいる少女のようなイメージで歌詞を統一したのですが、今回のまりさんの詞は身近に暮らしている少年少女というイメージでした。なので最終的に「街の中で音楽が鳴っている」というのを想定してサウンド作りをしましたね。
U:特に新たに加わった武井さんの存在を活かすために、これまでのblue marbleサウンドを発展させることに拘った点などはありましたか?
S:前作にはなかったハードさというか、ロックっぽさが今回のアルバムで強調されたかもしれません。その方がまりさんの声が生きてくるのです。前回よりギター率が高いアレンジも、そのせいですね。彼女の声はサウンドがロックでも、こちらに響いてくる声なので。女性でロックが歌えて、なおかつキュートさも兼ね備えた声はなかなかなくて、そこが彼女をヴォーカルに選んだ理由でもあります。とんCHANも自分もルーツとしてロック体験は大きくて、その部分を素直に自分の音楽にどんどん取り入れることができたのは、何より嬉しいですね。
U:また主にショックさんの一人多重録音ということで確かに地味な作業ですね。でもその積み重ねの賜物ということでしょう。
因みに「未明☆戦争」のベース・プレイは他の曲との違いを感じましたが、この演奏は外部ミュージシャンですか?
S:この曲のベースのみ、古くからのバンド仲間であるベーシストの古川史朗さんに弾いていただきました。基本的なラインは自分が考えましたが、それを実際のベースで弾けるとなると彼しかいなかったのです。素晴らしいグルーヴです。
U:新たにヴォーカリストが変わったということは重要ポイントなのですが、武井さんの歌入れの際ショックさんが特にディレクションをしたことはありましたか?
S:シリアスな曲だと大人っぽく歌う傾向があったので、なるべく「中学生が初めてその曲を歌っているように」と注文しました。ちょっと慣れてないというか、声が揺らいでいるような不安定さの方を、わざとOKテイクにしたりもしました。むしろそっちの方が「味」だったりして、そういうのが自分は好きなんです。
【注:今年6月に開催したイベントのプロモーション動画】
S:はい。確かにフランス・ギャルに近いのかも。彼女は低音になるときのラ行の発音とか不思議な発声なんですよね。本人は無意識らしいのですが。
U:個人的に一番知りたい曲作りとアレンジについてですがアイディアや拘った点は?
S:曲作りの部分では、それほど前作と変わっていません。やはりコード進行には拘っています。ただ意図的に変なコードを使うのではなく、いかに変なコードでも普通っぽく聴こえさせるか、を意識しました。アレンジに関しては、前作より極力シンプルにバンドっぽくしたつもりです。レコーディングのスタート当初は「こんなにシンプルでいいのだろうか?」という不安も実は少しあったのです。でも佐藤さんのミックスが素晴らしくて不安も一気に解消されましたね。microstarのあのメジャー感あふれる音作りが大好きだったので、ファンとしても嬉しかったです。とにかく今回は30年40年経っても古くならないようなシンプルでオーソドックスなバンドサウンドにしたかったのです。
更に「" INTROIT "」という長い曲ではギリギリなところでプログレ的な様式美も追求しました。単なる曲の寄せ集めのアルバムではなく、かつてのプログレの名盤のように、全体でひとつのストーリーになるように曲調やアレンジなどを調整したのです。今後、音楽の世界でアルバムという概念がどこまで生き延びるのかはわかりませんが、そのフォーマットに影響された世代としては、アルバムという作品をアーティスト活動の集大成にするために最後まで踏ん張りたいという気持ちがあります。
U:作曲に関しては今回のアルバムのために書き下ろした感じですか?あるいはいくつかは曲のストックはあったのですか、それは一部のパートやフレーズなども含めてですが。
S:その全部ですね。レコーディング直前で書いた曲もあれば、ボクがとんCHANと出会う前から彼女が作っていた曲を再利用していたりとか。「flowers」や「空が喚く」なんかは、まったく別の歌詞とアレンジでヴァレリー以前にオオノさんが歌っているデモがあります。逆に「boy MEETS girl」なんかはまりさんをヴォーカルにすると決めた瞬間にメロディが沸いてきました。
U:基本的にアルバム全体的にソングライティングは曲先で、デモを武井さんに渡して作詞してもらうという感じですか?
S:そうですね。完全に曲が先行です。
U:またアレンジについては極力シンプルにバンドっぽくとのことですが、ライヴでの再現性を考慮しているということでしょうか?
それによって今後blue marbleのライヴ活動が頻繁になるという期待も感じさせますが。
S:ライヴ演奏できるようなアレンジは意識しています。今後ライヴ活動が頻繁になるかどうかはわかりませんが、自分たちで作った音楽をお客さんの前でもきちんと再現できるバンドになるという最低限のマナーは守ろうと思っています。
~blue marble 『フルカラー』 リリース・インタビュー後編へ続く~
(ウチタカヒデ)
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