セカンド・アルバム『フルカラー』を10月16日にリリースするblue marbleのインタビューを前編に続きお送りする。
今回はアルバムの主な収録曲のソングライティングについて、作編曲のショック太郎と作詞を担当したヴォーカルの武井麻里子の両氏にディープな質問をしている。
8月初頭にこのアルバムのマスタリング音源を入手した際、特に「未明☆戦争」は一聴してその完成度の高さに魅了されてしまった。このインタビューを読んで興味を持った方は是非入手して聴いて欲しい。
ウチタカヒデ(以下U):リード・トラックの「未明☆戦争」は詞曲共に完成度が高いですが、この曲のイメージは曲作りの時点で持っていて、武井さんが作詞する際に何かアドバイスをしましたか?
【未明☆戦争】
ショック太郎(以下S):特に何もアドバイスしていなかったのですが、作っているときは「真夜中から夜が明けていくイメージの曲」だったので、出来上がった詞を読んで、まさに思っていた通りの内容だったのでびっくりしました。今回、すべての歌詞に関して、彼女に一切手直しは要求してないです。そのくらい素晴らしい歌詞ばかりでした。曲のタイトルを変えてくれ、というのは一部ありましたが。U:成る程、シンクロニシティってことですね。この曲はドラム、ベース、キーボードのスリー・リズムを基本としてアコースティック・ギターの刻みが目立たない程度に入っているシンプルな構造ですが、アタックが効いたストリングスのアレンジが絶妙ですね。これはミックスを担当した佐藤さんのセンスに寄るところも大きいですか?
S:アレンジしているときは意識していませんが、最終的に音の空間が生きたミックスになっていて、やはり佐藤さんで正解だったと思っています。今回のアルバムのドラムも生っぽいバンドらしさを意識したので打ち込みでも一切ループとか使わずに一音一音ベロシティ(音の強弱)を変えて執念で細かくプログラミングしました。
U:「びろうどロマン」はこれからの季節にピッタリくるスティーヴィー・ワンダー風シャッフルで個人的にもかなり好きです。こういうテンポとリズムを一人多重録音でキープするのは、結構大変だったんじゃないですか?
S:いや、むしろバンドでやったときの方が大変でした。1人だと自分リズムっていうのがだいたい決まってるので、楽器がヘタクソでも音のタイミングは妙にあったりするのですよ。スティーヴィーは意識してませんでしたが、70年代の彼の多重録音作品は大好きなので、無意識に影響はあるかもしれません。
U:「" INTROIT "」のヴァースは「空、緑」の変奏曲的じゃないかな。メロディはCLASSICS IVの「Spooky」にも通じる洒落たモッズ感なんだけど、プログレ的様式美へと展開するのがショックさんらしいね。この曲から「boy MEETS girl」への流れはアルバムのハイライトだと思うんですよ。
その「boy MEETS girl」もよく聴くとピーター・ガブリエルがリーダーだった頃のジェネシスというか、イントロ無しで始まるパートのメロディ・センスがピーターっぽいんだよね。ギター・ソロのブレイクのドラム・ロールはフィル・コリンズ、その後の展開がザッパの『One Size Fits All』か!と(笑)、やはりショックさんの作る曲とサウンドにはカタルスを感じられずにはいられないですね。
S:ありがとうございます。実は先に作ったのが「" INTROIT "」の方で、そこから「空、緑」が子供のように生まれたんです。CLASSICS Ⅳも好きなバンドですが、作ってるときはそういうことは全然意識してませんね。アレンジの段階ではいろんなバンドを参考にすることはありますが、曲を作るときは、なるべく何も考えずに自然と沸いてきたメロディに身を任せるようにしてます。今回いろんな方からザッパとかジェネシスとかいわれたりしますが、そこは自分が10代の頃に衝撃を受けたアーティストなので、なんというか逃れらないハードルになってますね。
U:それまでに蓄積された音楽的素養が無意識に作曲する時に出てくるんでしょうね。ジャンルの隔てなく幅広くジャンルを聴いているショックさんらしいですよ。僕が指摘した以外で本作の収録曲でのネタ晴らしがあれば教えて下さい。
S:言うんですか、それ(笑)たとえば「" INTROIT "」の最初の部分はキャラヴァンの「Nine Feet Underground」にそっくりですけどね。自分で意識して似せたのは、そのくらいです。他の曲は自然に出てきたものを作っただけなので「もし何かに似ていたらすみません」という感じです(笑)
U:武井さんへですが、特に作詞についてのアイディアや注意を払った点はどのようなことでしょうか?
先ずは「未明☆戦争」についてお聞かせ下さい。
武井麻里子(以下M):「未明☆戦争」はファースト・インプレッションで「ちょっと昔のアニメ曲のよう」って思いました。なのでわたしの中の「ちょっと昔のアニメのEDの映像」を先に頭に想い描きながら、それに合った詞を書きました。たとえばサビ前の『折角かぞえた羊に 降るときめき』の所は画面の端に少女がすわりこんでいてその上をたくさんの星が横切るアニメーションが浮かんだので、それに合うことばを探ったりなど。
U:ショックさんにも聞きましたが、この曲が詞曲共に完成度が高いのは、お二人のイメージがシンクロニシティで結びついたからだと思います。"ちょっと昔のアニメ"というキーワードが、レーベル・メイトのフレネシや相対性理論のキッチュな不思議系の感覚にも通じますが、詞の世界観として意識しましたか?
M:フレネシさんや相対性理論は、いちアーティストとして個人的にもとてもフェイバリットで、好きなのですが、意識したかというと、していないですね。とにかくblue marbleをやるにあたって、あまり誰にも何にも似ていないものをやりたい。というか、そうじゃなきゃだめかも。と思っていたので本当ににまっさらな所から、自分の言葉が出ていくように意識しました。
U:「空が喚く」や「あんのうん」についてはどうでしたか?
M:「空が喚く」は、「こ、恋!」「すてきだ!」という、わたし記録的最大風速!な感情を押し花のように封印した曲です。恋しているときの謎の全能感や、一転ちいさな棘に参ってしまったりする「あの感じ」をなるべく、閉じ込めたいと思いました。好きな人の側にいる時、ちっちゃい葉のしずくに光が反射してるだけで美しく息も出来ないよ、っていう空気感をがんばって思い出した渾身の作です。
「あんのうん」はラヴソングなのですが、好きになる殿方が機械に強い人が多いので、ずっと側にいるPCや機材がうらやましくなる時があってなので旧式のポンコツロボのような気持ちになって、詞中のワード選びをしました。ポンコツなので他の女子からのメールを勝手にゴミ箱フォルダに入れてしまったりします。ラヴソングに「機械のキモチ」という1つのテーマを設けることでキュッと小さくまとまった曲にしたいと思い、書きました。
U:この2曲は等身大のラヴソングという感じがしますが、以前所属されていたCITY LAKE MIRAIで作っていた曲もこういうタイプでしたか?
この感覚はこれまでのblue marbleではなかった世界観ですね。
M:いえ、CLMではコンポーザーの男子がだいたいすべての曲と詞を手がけていたので、もっとリアルから離れた、空想のなかの女子、が歌っているような曲のイメージだったように思います。blue marbleではある意味で生々しい、乙女心も歌っているので、そういった部分が1stとはまったく違う魅せ所ではないかと。たまたま耳にした女の子が、「こういう感覚、あるなあ。」なんて思ってくれたりなどしたら、冥利に尽きます。
U:では「flowers」については?
M:「flowers」は阿仁谷ユイジさんの「テンペスト」という女性しか存在しない、男性の淘汰された世界が舞台の漫画があるのですがあまりに完璧で倒錯していて、美しく歪んだ世界だったので勝手に挿入歌の気分で書きました。ちょっと壮絶な感じが合う曲だな、と感じたのもあり。1つの作品にインスパイアされて書いた詞なので確固たるイメージを踏み台にふさわしい言葉をトーナメントしていくような感じで、書いていきました。
U:バラードの曲調にパズルの様にはまった詞だったので、そんな世界を綴っていたとは思いもしませんでした(笑)。こういった曲調に詞を乗せるのはビート系の曲に比べて難しいとは思いますが、紆余曲折はありましたか?
M:そうですね、すべての曲で紆余曲折はありましたが、この曲はおっしゃる通り特に難しかったです。詞のイメージの全体が一枚の画のように感じられて思考が無になって自動筆記状態になると、早いのですがそうスイッチするまでがとても辛かったです。blue marbleの曲はメロが変わっているものが多いので「ああ、この言葉も合わない!ムキー」って常になってました(笑)。
アルバム全体を通して作詞については、自己満足で終わらぬよう、なるべく独創的でかつ誰かの心に届く強さを持った言葉になるよう気をつけました。わたしの言葉なんだけども、わたしにしか分からないわたしが分かればいい、にならないよう1番注意を払いました。
U:ポピュラー・ミュージックを作る上で結構大切なことだと思います。欧米に比べて日本の音楽リスナーは、曲より詞に拘る傾向が強いですから言葉選びって重要ですね。その点、武井さんはクリアしていると思いますよ。
M:どうでしょうか...わたしの敬愛する作詞家さん、松本隆さんや草野マサムネさん椎名林檎さんなどは、本当に訳のわからないことを言っていたとしても、人をひっぱりこむ説得力や理屈じゃない善さみたいな所があるので、わたしの詞は、まだまだひとりごとだなあって思います。
U:印象的なアルバム・ジャケットについても聞かせて下さい。イラストレーションは前作『ヴァレリー』と同じ本間藍氏が担当されていますが、そもそもショックさんが依頼された経緯と、本作のコンセプトについて事前に打ち合わせたことはどんなことでしたか?
S:渋谷の「青い部屋」というライブハウスに出たとき本間さんの絵が使われたチラシがあったのですね。もう見た瞬間に一目惚れでしたよ。本間さんとはアルバムを作る前に事前に打ち合わせするのではなく、彼女が既に描いた新作の中からセレクトしたものをジャケにするという感じです。「ヴァレリー」も「フルカラー」も、そうでした。
U:では最後のこのアルバムのアピールをお願いします。
【アルバム・ダイジェスト】
S:この時代にお金を払ってCDを買うということが、いかにハードルが高いかということは自分自身もよくわかっております。でも、そのリスナーの期待にこたえられるように、とにかく全身全霊で作りました。自分にとっても一生モノといえる名刺代わりのアルバムが出来上がって、本当に今は嬉しいです。とにかく一度は爆音で聴いて欲しいですね。後は、どんなシチュエーションで聴いていただいても結構楽しめるアルバムだと思います。バンド編成でライヴもやっているので、是非ホームページなどでチェックして下さいませ。
(ウチタカヒデ)
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