2013年9月22日日曜日

☆Jimmy Webb:『Still Within The Sound Of My Voice』(Entertainment One/EOM-CD-2395)☆The Paley Brothers:『The Complete Recordings』(Real Gone Music/RGM0182)

20139月にリリースされたこの2枚のCDを紹介したのは、どちらもブライアン・ウィルソンが参加したアルバムだからである。『The Beach Boys Complete Revised Edition』出版以降のアルバムであり、もちろん未掲載なので、コアなビーチ・ボーイズ・ファンにとってはマスト・バイ・アイテムであろう。

 まずは前者のジミー・ウェッブの新作から。ジミー・ウェッブはご存じのとおり、グレン・キャンベルの19679年の「By The Time I Get To Phoenix」「Wichita Lineman」「Galveston」の奇跡の傑作大ヒット3曲やフィフス・ディメンションの「Up Up And Away」をはじめ60年後半の活躍はまさに神がかり、特に1967年のフィフス・ディメンションのアルバム『The Magic Garden』は、ジミーの書いた曲の全て、それも曲間のつなぎまで全てが傑作のまさに神の所業ともいえるアルバムだった。しかしその後は冴えがなくなり、多くのソロも出しているが、メロディは綺麗でもキャッチーなものが少なく、個人的には70年代以降のジミー・ウェッブ作品には興味がなくなっていた。このアルバムは新作だが、何しろ尊敬されているミュージシャンなので、クロスビー&ナッシュ、アメリカ、アート・ガーファンクル、カーリー・サイモン、ジョー・コッカーなど全14曲の全てに著名なゲストが参加しており、ブライアンは「Macarthur Park」でバック・コーラスに参加している。アコスティックギターとピアノ中心にしっとりと歌うジミーのバッキングに、ブライアンとすぐに分かるファルセットを使った高音域のハーモニーがピッタリと溶け合い、極上の仕上がりになっている。アルバムのハイライトの仕上がりだ。その他もアンプラグドのバッキングでアメリカがコーラスを担当した「Rider From Nowhere」など、美しいメロディをしっとりと歌い上げる曲が並び秋の夜長に聴くのにピッタリだ。
 次に後者だがグループ名は聞いたことはないだろうが、アンディ・ペイリーのグループだと言えば、ビーチ・ボーイズ・ファンなら誰でも興味を持つだろう。1995年から96年にかけてブライアンはアンディと多くの曲を共作し、レコーディングをした。ただ、このワークスはまとめてリリースされることがなく、ブライアン2004年のソロ・アルバムの『Gettin' In Over My Head』に4曲収録され、ウィルソンズのアルバムやオムニバスの『Pulp Surfin'』に1曲ずつ、ビーチ・ボーイズがコーラスで参加した「You're Still A Mystery」は先日紹介した『Made In California』にようやく収録されたばかり。しかしアンディがビーチ・ボーイズ・ファンにとっての最重要人物であることは間違いないところだ。ミュージシャンでありプロデューサーであるアンディの音楽歴は長く1969年に活動を始め、1976年には兄弟でペイリー・ブラザースを結成した。その後はマドンナやジェリー・リー・ルイスのレコーディングに参加するなど裏方で活躍、ブライアンとのコラボもその一環だった。ブライアンが参加したのは1979年に録音された未発表曲の「Boomerang」。(アルバムのライナーにはBackground Vocalistsとしてブライアンの名前がクレジットされているだけだが、ネット上で調べるとこの曲に参加と記されている)キャッチーでポップな曲だが、バッキングにも工夫を凝らしたポップなハーモニーが施されていてブライアンの色を感じさせてくれる佳曲である。アルバム全体もポップで、アンディ・ペイリーの才能が確かなものであったことが分かるだろう。(佐野邦彦)
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2013年9月20日金曜日

☆Kinks:『Muswell Hillbillies(Deluxe Edition)』(UM/UICY75872/3)

ステレオ&モノのカップリングで我々キンクス・ファンを狂喜させてくれた「Deluxe Edition」シリーズだが、2年前の『Arthur...』を最後に『Lola...』とこの『Muswell Hillbillies』の予約注文だけしてずっと販売延期になっていた。そうして2年後の20139月に『Lola...』はすっ飛ばし、1971年のこの名盤の方が先にリリースされた。『Arthur...』がモノの最後だったので、ここから先は未発表トラックで「Deluxe Edition」を作らないといけないため色々と手間取っていたのだろう。
2枚組のこのCD、ディスク1はもちろんオリジナル・アルバム丸ごと。60年代のキンクスとは一変した、カントリーやブルース、ジャズを織り込み、アメリカ音楽をテーマにしながらレイ・デービスならではのイギリス流のシニカルな視点で、70年代のキンクスのスタートの幕開けとなる超傑作となった。このアルバムを気に入らない人はキンクス・ファンを名乗る資格もなく、知らない人などいないとして内容は省略する。ディスク2はレア・トラック集だが、この中で当時未発表だった「Mountain Woman」と「Kentucky Moon」は1998年版『Muswell Hillbillies』のボーナストラックに収められたもの。「Muswell Hillbilly」と「20th Century Man」の1976Remixは『The Kinks's Greatest Celluloid Heroes』に収録。「Acute Schizophrenia Paranoia Blues」「Holiday」「Skin And Bone」のBBC Version2012年の5枚組CD+DVD1枚版と、2001年のCD2枚組版の2つのBBC音源集に収められていたものだ。これも紹介は割愛。するとこのDeluxe Editionでの初登場音源はこれから紹介する6曲となる。まず完全な未発表曲「Lavender Lane」。この曲のAメロはなぜか完璧な「Waterloo Sunset」で、ホーンが入りサウンドはアルバムに合わせているがこれじゃボツだろう。「Nobody's FoolDemo)」はいかにもレイらしい厭世的な内容の歌のピアノとギターをバッキングにしたデモ。「Have A Cuppa TeaAlternate Version)」は歌いだしのドンドン鳴っているバスドラなどなく出だしが違う。「Uncle Son(Alternate Version)」は、原曲は歌いだしからハモるが、こちらはソロでレイの低い低音で歌われていく。「20th Century Man(Alternate Instrumental Take)」はあのクールな原曲のサウンドに比べて出だしのアレンジがかなり違い、サビが冒頭直後に組まれていたような印象を受ける。「Queenie(Instrumental Backing Track)」はリフの入ったロック色が強いバッキングトラックで、歌が入ったらカッコいい曲に仕上がっていただろう。次回はすっ飛ばされた名盤『Lola...』のDeluxe Editionを切望する。(佐野邦彦)
Muswell Hillbillies: Deluxe Edition

2013年9月18日水曜日

杉瀬陽子:『遠雷』(Happiness Records/HRCD-050)

 

大阪在住の女性シンガー・ソングライター杉瀬陽子が2年振りとなるフル・アルバムを9月20日リリースする。 キャリア2作目となる本作では、レコーディング・メンバーにHICKSVILLEのギタリスト中森泰弘や細野晴臣のバックバンドに参加するベーシスト伊賀航など手練のミュージシャン達を迎え、そのリラックスしたサウンドが70年代のシンガー・ソングライター・サウンドを彷彿させる好盤となったので紹介したい。 杉瀬陽子は奈良県の出身で現在は大阪府在住、音楽活動も関西を中心にピアノの弾き語りやバンド・スタイルでライヴを展開している。2010年には広沢タダシの『雷鳴』、12年には奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の『桜富士山』の各々のアルバム・レコーディングにゲスト・ヴォーカルとして参加し、bonobosのドラマー辻凡人のソロ・プロジェクトであるShleepsにもゲスト・メンバーとして渚音楽祭を始めとする多くのライヴ・イベントにも出演するなどその活動の幅を広げている。 11年6月には待望のファースト・フルアルバム『音画』を全国リリースし、その世界観に魅了されたファンを増やし続けて現在に至る。 そして本作『遠雷』であるが、前作に比べ格段に熟成させたバンド・サウンドにより彼女の魅力を大きく引き出している。やはり中森や伊賀を起用した狙いは的確だったと言えよう。また流線形や最近ではMISOLAに参加する名ドラマー、北山ゆう子の参加も見逃せない。この三人の演奏と杉瀬の相性は初合わせとは思えないほど抜群である。 アルバムは中森の円熟したスライド・ギターと伊賀の重く安定したウッドベースの対比が素晴らしい「N.Y」から幕を開ける。抜けるような青空と広大な大地が目に浮かぶサウンドだ。 続く「夜行列車にて」は軽快なアコースティック・スイング・スタイルの曲で、ノスタルジックな詩世界を無垢な歌声で描く。中森のマンドリンや北山のドラムのブラシさばきは唯々さすがである。 シンプルにアコースティック・ギターとバンドネオンのバッキングだけの「ゆうげ うたげ」は、奇妙礼太郎がゲスト・ヴォーカルで参加して素朴な雰囲気をさらに高めている。

   

レゲエのリズムで演奏される「クジャク」のサウンドもセンスが際立っており、ひたすらグルーヴしていくリズム・セクションとホーン(2管か?)の効果的なアレンジに呼応するかの様に、杉瀬のヴォーカルも徐々に熱を帯びて最高のヴォーカル・パフォーマンスを聴かせてくれる。 そしてこのアルバムのハイライトと言えるのがタイトル曲「遠雷」だろう。筆者は一聴して、その放たれるエヴァー・グリーン感にやられてしまい、もう昔から耳にしているかと錯覚してしまったほどだ。荒井由実の『ひこうき雲』や吉田美奈子の『扉の冬』を愛聴するポップス・ファンであれば絶対に聴くべき曲である。中森のレイジーなギターのフレージングなんて、まるで荒井の「卒業写真」での鈴木茂のプレイを彷彿させて鳥肌が
立ってしまった。

   

印象的なジャケットにも触れておこう、一枚の絵の中でアンリ・ルソーと横尾忠則が出会ったような深くインパクトのあるイラストレーションは、京都造形芸術大学出身のアーティスト西祐佳里が手掛けたものである。
(ウチタカヒデ)

2013年9月6日金曜日

☆Glen Campbell:『Here I Am-The Early Years』(Music Digital/CD6849)

VANDA30号のグレン・キャンベル特集は、初めにお断りを入れさせてもらったように、全てを聴いて書いた記事ではない。特に初期の音源はCD化(2012年時点)されていなかったので、1961年から66年までの大半のシングルと4枚のアルバムは未聴のままだった。まあ売れない時代の曲なので、抜けたところで本質は外していないだろうと思っていたものの、この時代のCDが出ればすぐに購入して聴いてみようと思っていた。このアルバムの前に『The Astounding 12-String Guitar Of Glen Campbell』がCD化され聴いたが、グレンのギターソロすらほとんどないチャチなインスト・アルバムで速攻で処分。次作もCD化されていたがどう見ても同系統の内容なので購入せず。その中、デビュー・シングルから9曲の初期シングル曲が入った本作が出たのでこれは問答無用で入手した。25曲入りながらシングル曲を除くと残りの14曲はいったい...と調べてみると、ファースト・ソロ・アルバムで1962年リリースの『Big Bluegrass Special12曲が全て収録されていた。これはお得用。

このファースト・ソロの内容はギター、バンジョーをバッキングにドブロ風のギターも入るまさにカントリー・アルバムで、内容は悪くない。全曲歌入りでやはりこれでないと。そしてシングルはキャピトルからの63年のセカンド・ソロ『Too Late To Worry,Too Blue To Cry』からは4曲収められた。61年のデビュー・シングル「Death Valley」は意外にも哀調漂うナンバーでカントリー色は薄く、グレンの美声が生かされていた。同年のCrestレコードからの4枚目のシングル「Turn Around,Look At Me」は全米62位にランクされグレンの最初のヒット曲となったが、ストリングスが入った甘いロッカ・バラードでカントリー・シンガーとして売り出していなかったようだ。5枚目のシングル「The Miracle Of Love」はさらにパンチが効いたバラードでヒットはしなかったが、グレンの声の良さを引き出した仕上がりだった。6枚目のシングル「Too Late To Worry,Too Blue To Cry」は穏やかなスローバラードで全米76位と2枚目のスマッシュ・ヒットとなった。7枚目のシングル「Long Black Limousine」がややカントリー・タッチか。63年の9枚目のシングル「Divorce Me COD」は演奏・歌ともカントリー。その後67年からグレンの快進撃が始まるのだが、その時は一聴してカントリーと思える曲は少なく、もっと幅広い音楽性を持ったポピュラー・シンガーとして大きく成長していくのであるなおB面曲では「Brenda」が可愛らしいアメリカン・ポップスでなかなかの拾い物。(佐野)



 

2013年9月4日水曜日

☆Moody Blues:『Timeless Flight』(Universal/534248-2)CD+DVD




ムーディー・ブルースのCD11枚、DVD6枚というとてつもないボックス・セットがリリースされた。ただし、私のような第1期黄金期というべきか1967年の『Days Of Future Passed』から1972年の『Seventh Sojourn』までをこよなく愛するファンにとっては、活動休止後、特に1978年の『Octave』からの第2期黄金時代以降の作品には興味がなく、その部分をカットすると初登場音源のBlue JaysCD1枚、初ディスク化の初期映像のDVD1枚だけが欲しくて大枚はたいてこのボックス・セットを入手した次第。
CD13までがデビューから第1期黄金期+ジャスティン・ヘイワード+ジョン・ロッジのBlue Jays、レイ・トーマス、グレアム・エッジ、マイク・ピンダーの197576年にリリースされたソロからの抜粋で、珍しい音源はない。ディスク45は第2期以降の音源。ディスク6は第1期だが『Caught Live+5』のスタジオ部分がないライブ部分のみの収録で既発。価値があるのはディスク7でジャスティン+ジョンのBlue Jaysの未発表ライブが13曲収録された。ランカスター大学で197512月に録音された音源で音質は非常に良い。13曲中ムーディー・ブルースが8曲、Blue Jay5曲なので我々ムーディーズのファンにはとても聴きやすい内容だ。アルバムもそうだったがムーディー・ブルースの中核の曲を書いたこの2人のソングライターだが、やはりジャスティン優先は厳然としてあり、このライブもジャスティンの曲が9曲、ジョンの曲が3曲、共作が1曲である。キーボードは入っているが、マイク・ピンダーの幽玄のメロトロンではないのでプログレッシヴ色は薄い。しかし曲が「Tuesday Afternoon」「Isn't Life Strange」「New Horizon」「Emily's Song」「Nights In White Satin」「Question」など、歌もアレンジも同じ、これで悪いわけがない。
ディスク8~11は第2期以降のライブである。DVD1枚目は価値が高く、1968年「Colour Me Pop」出演の7曲をはじめ10曲の第1期黄金時代のプロモ・ライブ(口パク)が楽しめる。「Colour Me Pop」の7曲は全て『In Search Of The Lost Chord』からの曲で、メンバーはみなスーツ姿、ネクタイやスカーフでとてもジェントルな雰囲気、でもムーディーズはこの姿がよく似合う。特に気品溢れる王子様、ジャスティンはラフな格好よりフォーマルな方が似合う気がする。最後の「Om」ではジャスティンがシタールを弾いたり、ジョンがコントラバスを弾いたり、グレアムがコンガなどいつもと違う姿が楽しめる。まあYou Tubeでお馴染みの映像なのだがDVD化されたのは初めてだ。その意味でさらに光るのがルルの番組1970年「It's Lulu」でのジャスティンの名曲「Question」である。これもみな口パクだが、ムーディー・ブルース全盛の姿を見られて嬉しい。気品があるよね。「Beat Club」出演時の「Nights In White Satin」や「I'm Just Singer(In A Rock And Roll Band)」のプロモは既にLDなどでお馴染みの映像だ。後者はちゃんとカラー版を収録。You Tubeでは白黒ライブの「Have You Heard-The Voyage」などが見られるのでコンプリートにして欲しかったが...DVD21970年のパリのTV主演時の口パクライブで「Candle Of Life」「Gypsy」など選曲は最高だが、これは既に『Lost Performance』のタイトルでDVD化された既発作品。万が一未見の人がいたら絶対見るべき映像である。DVD3は第2期以降のライブである。DVD4~6は第1期の『In Search Of The Lost Chord』を除く6枚のアルバムの5.1サラウンド盤だが、家にその環境がないので現在、個人的には不要。選曲が少ないのでボーナス・トラック付のオリジナル・アルバムはすべて必要だし、1970年のワイト島のライブ、BBC音源も入らず、100枚以上のブックレットがあるにしてもコストパフォーマンスはずいぶん高く付いたボックス・セットだった。(佐野邦彦)


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