2013年8月4日日曜日

中塚武 with イガバンBB:『Big Band Back Beat』(Delicatessen Recordings/P.S.C./UVCA-3018)


 今年2月に3年振りのソロ・アルバム『Lyrics』をリリースしたばかりの中塚武が、ビックバンド、イガバンBBとタッグを組んだ『Big Band Back Beat』を7月24日にリリースした。
 ソロ活動を開始して10年目となる今年は彼にとってアニバーサル・イヤーであり、本アルバムに掛ける意気込みは計り知れないものがある。
全編その審美眼によって選び抜かれたカヴァー曲の数々は、ポップス・ファンやVANDA読者を大いに唸らせるものなので紹介したい。

 中塚武は98年にQYPTHONEのリーダーとして、ドイツのコンピレーション・アルバムに楽曲提供をして音楽活動をデビューさせた。ジャンルを超えたそのサウンドは国内外で評価を得て海外ツアーも成功させた。
04年にソロ・アルバム『JOY』をリリースしシンガー・ソングライターとして活動を開始、平行してCM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラックの制作等のクリエイターとしても活躍しており、メディアを通して彼の曲を耳にしない日はないかも知れない。これまでに5枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしている。
 そして本作『Big Band Back Beat』である、多岐に渡るカヴァー曲を中塚サウンドというべきサウンドで構築しているのだが、コ・プロデューサーとしてリズム・プログラミングからギター・プレイまで担当しているQYPTHONEの盟友である石垣健太郎と、ホーン・アレンジで中塚とコラボレートしているイガバンBBのリーダー兼トロンボーン奏者、五十嵐誠の二人の貢献度は極めて大きい。そのイガバンBBは総勢13人のホーン奏者からなるビッグ・バンドで、各メンバーのプレイヤーとしての技量も高く、本作でも全ての曲でその巧みなソロが聴けるのだ。

 では主な収録曲を紹介していこう。64年マンチェスターで結成されたモッズ・ジャズ・バンド、ザ・ペドラーズの「Just A Pretty Song」(『Three in a Cell』(68年)収録)。オルガン・ボッサを基調としたグルーヴィーな原曲のリズム感覚をラテン・ビッグ・バンド・アレンジにアダブトさせて、重厚なサウンドに発展させている。歌物としてもナンシー・エイムスの『Latin Pulse』(66年)に通じる素晴らしさだ。



 渋谷系の文脈からデビューしたというイメージがある彼なのだが、実は熱烈な桑田佳祐及びサザンオールスターズの熱烈なファンということで、ここではKUWATA BANDの 「スキップ・ビート」(86年)を取り上げている。スティーヴィーの「Superstition」(72年)風の原曲のリフを活かしつつ、ホーンの生演奏がスインギーに展開していく。五十嵐誠のトロンボーン・ソロも必聴である。
 アルバム中最も原曲のイメージをいい意味で裏切っていて換骨奪胎なアレンジを施しているのが、ビートルズ「Across The Universe」(『Let It Be』(70年)収録)だろう。共に石垣によるアコースティック・ギターのボッサの刻みとジャミング・ファンク系の変拍子のドラム・プログラミングに、5管のホーンが絡むといったもの。このサウンドの雰囲気に合わせた中塚のヴォーカルの存在感も聴き逃せない。
 またトッド・ラングレンの隠れた名曲「Be Nice To Me」(『Runt. The Ballad of Todd Rundgren』(71年)収録)を取り上げているのも、彼ならではの審美眼による選曲ではないだろうか。ここではまるでクインシー・ジョーンズが手掛けたルイ・ジョーダンのバラード曲かと思わせる程素晴らしいムードがある。筆者的には本アルバムのベスト・トラックに挙げたい。
 そしてソフトロック・ファンやVANDA読者が喜びそうなのが、NOVOの「白い森」(73年)のカヴァーだろう。同曲が持つブラジリアン・バイヨンのグルーヴから、ここでのアレンジは一転してスイング・ジャズをベースにした多幸感溢れるビッグ・バンド・サウンドで、アルバムを締めくくるに相応しいトラックとなっている。
 他にもワイルド・チェリー「Play That Funky Music」(『Wild Cherry』(76年)収録)やギル・スコット・ヘロン「It's Your World」(『It's Your World』(76年)収録)、アンリ・サルヴァドール「Carnaby Street」(67年)等音楽通を唸らせる選曲で聴き所は多い。
(ウチタカヒデ)



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