久しぶりの更新です。はじめに佐野の近況を書こうと思いますが、現在は東京から電車で3時間ほどの距離にある群馬大学病院に入院中です。退院の予定はまったく未定。この病院でしかできない治療法がありその順番を待っていたのですが、昨年除去した脊髄の腫瘍が再発し、緊急入院し2度手術しましたが、下半身は麻痺状態になりました。今まで沖縄離島レポートなど旅行好きなので多くの旅行記をこのWeb VANDAに掲載しましたが、今後は不可能ですね。リハビリが進み、車椅子の生活が送れるようになれば、外へ出ることも可能ですが、今までの生活とは激変します。現時点では、もともとの病気の治療も別の方法に変えざるをえず、それは一生続くので、家族のサポートを受けながら、治療とリハビリに励むしかありません。今はインターネットでCDやDVD、本など購入できるので、Web VANDAなどの活動は続けていきますが、しばらくは病院での更新になるので手元に資料がなく、比較しながらの紹介ができないので精度が落ちるのはご勘弁ください。この珍しい組み合わせのライブは1972年3月26日にサンフランシスコのウィンターランドで行われたチャリティである。C&Nでのアルバム発売直前で、そこにニールが参加した形だ。生ギターとピアノだけの完全なアコースティック・セットで楽しめる。全15曲収録されているが冒頭の8曲はC&Nのみ。お待ちかねのニールが登場するのはその後だ。グラハム・ナッシュが書いた名曲「Immigration
Man」「Teach
Your Children」「Military Madness」「Chicago」をCN&Yで歌ってくれるのは感激!特にCS&Nで録音したため、ニールはレコーディングに参加していなかった「Teach Your Children」ではっきりとニールのハーモニーのヴォーカルが聴こえるのでこれは特におすすめ。そのあとはニールのソロ曲で「Harvest」「Only
Love Can Break Your Heart」「Heart Of Gold」「The Needle And The Damage Done」の4曲披露してくれるが、観客の反応がひときわ大きく、ニールの人気のほどが伝わる。この中でCN&Yのハーモニーが楽しめるのが「Only
Love Can Break Your Heart」。『After The Gold Rush』のオリジナルにもなかったハーモニーがついていたり、特にハーモニーパートはC&Nならではの広がりのあるハーモニーになっていてさすが!の一言。この曲も大おすすめ。ただこのCD、エンディングをすぐに絞ったり、C&Nでは編集されて短くなっているヴァージョンもあるのだけはいただけない。(佐野)
2013年8月27日火曜日
2013年8月25日日曜日
Frankie Valli:『Closeup』『Our Day Will Come』『Valli』『Lady Puts The Right Out』(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-15057,15058,15059,15060)
今回リイシューされたのはヴァリのソロ・アルバムの最高傑作との誉れ高い『Closeup』(75年)をはじめ、『Our Day Will Come』(75年)、『Valli』(76年)、『Lady Puts The Right Out』(77年)と、一時期は中古市場で高値になっていたアルバムばかりなので喜々として紹介したい。
前回の『Frankie Valli Solo』のレビューに続き、今回は70年代中期ヴァリがフィリップス~モータウンを経てプライベイト・ストック・レコード移籍後にリリースした代表的な4作品である。
ファンならご存じの通り、ヴァリは『Frankie Valli Solo』の後『Timeless』(68年)、フォー・シージンズ作品とソロ名義作品を半々に収録した『Half & Half』(69年)を古巣のフィリップスに残し、72年にグループと共にソロとしてモータウンに移籍する。モータウンではソロ作品2曲を収録したフォー・シージンズ名義の『Chameleon』(72年)をリリースするが不発に終わり、短期とはいえ彼らの不遇時代と呼ばれ、後に『Inside You』(75年)という変則的な編集盤もリリースされている。
74年にプライベイト・ストック・レコード移籍後シングル「My Eyes Adored You」をリリースし、見事全米1位の大ヒットとなる。ソングライティングを盟友ボブ・クリューとケニー・ノーラン、アレンジをチャーリー・カレロが手掛けたこのバラードは正に完璧な仕上がりで、フランキー・ヴァリの第二期黄金期に相応しい曲となった。
アルバム『Closeup』は全編に渡ってこの「My Eyes Adored You」に象徴される落ち着いた大人のためのロックというサウンドで、収録曲8曲を4曲毎に分けクリューのプロデュースによるニューヨーク録音、フォー・シージンズ同僚のボブ・ゴーディオのプロデュースによるハリウッド録音になっている。
この変則的なレコーディング・プロダクションの経緯は、クリューとゴーディオの確執だと言われているが、アルバムのカラーを決定づけているのはカレロによるスコアであり、リック・マロッタとゴードン・エドワーズ、ジム・ケルトナーにチャック・レイニー等々東西のファースト・コール・ミュージシャンが多く参加しているのもこのアルバムの完成度を高めている理由だろう。
また本作では10分半の大作「Swearin' To God」も忘れてはいけない。ジェリー・フリードマンのギターとパティ・オースティンのバックアップ・ヴォーカルをフューチャーし、カレロのオーケストレーションは同時期彼が手掛けていた『Dr Buzzards Original Savannah Band』(76年)のそれを彷彿させる。この曲はシングル・カットされて全米6位のヒットとなった。
同じく75年の『Our Day Will Come』は、これまでのフォー・シージンズ関係者であるクリューとゴーディオにカレロすら関わっていないアルバムで、プロデュースを元トーケンズのハンク・メドレスとアレンジャーのデイヴ・アペルが手掛けている。
タイトル曲はルビー&ロマンティックスのヒット曲として知られるが、ここでのアレンジはフィリー・ソウルのそれであり、アルバム全体的に前作よりソウル・ミュージックのエッセンスがやや濃くなっているのが特徴だろう。この曲ではアラン・シュワルツバーグのドラミングとボブ・バビットのベース・ラインのコンビネーションが素晴らしい。
「How'd I Know That Love Would Slip Away」や「Heart Be Still」に至っては完全にブルーアイド・ソウル~AORのサウンドであり、当時のボズ・スキャッグスやネッド・ドヒニー等を彷彿させるのでそちらの愛好家にもお勧めである。レフト・バンクの66年のヒットである「Walk Away Renee」も「Our Day Will Come」同様に完全にモデル・チェンジしたアレンジで意表を突くがやや消化不良である。
続く76年の『Valli』ではボブ・ゴーディオが復帰して単独でプロデュースしており、当時のフォー・シージンズのメンバー全員もアレンジャーやミュージシャンとして参加している。
前作で醸し出していたブルーアイド・ソウル感はここでも引きずっており、ボズの「We're All Alone」をカバーしているが、リズム・セクションを身内で固めてしまったのが仇となり、しなやかでバネのある演奏はこのアルバムでは聴けない。そんな中で筆者的には、ジーン・ペイジがアレンジし、レイ・パーカーJrとリー・リトナーがギターで参加した2曲の内「Where Were You (When I Needed You)」は評価したい。前出の二人に加え右チャンネルにはデヴィッド・T・ウォーカーらしきギターも聴けるので、アレンジの構築という意味では考え抜かれているのだろう。
そして77年の『Lady Puts The Right Out』であるが、『Closeup』と共に70年代のフランキー・ヴァリを語る上で欠かせないアルバムである。実質的なプロデュースとアレンジをチャーリー・カレロに委ねたことで全編に渡って統一感があり、AORの本来の意味であるアルバム・オリエンテッド・ロックという名に相応しい名作と言えるだろう。
取り上げられた楽曲もフォー・シージンズやヴァリのソロ作への実績も多いサンディ・リンツァー&デニー・ランドルに加え、エリック・カルメンやポール・アンカ、アルバート・ハモンド&キャロル・ベイヤー・セイガーに偉大なるバリー・マン&シンシア・ワイル等々の作品と正攻法で挑んでいる。これらは既出曲のカバーもあるのだが、ヴァリのヴォーカルの存在感とそれを引き立てるカレロによる緻密なアレンジの構築力で原曲をもかすませる程だ。
参加ミュージシャンにはスタッフのゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッド、リチャード・ティーに、ニューヨークではファースト・コールのギタリストであるデヴィッド・スピノザやジョン・トロペイ、またヴァリのセッションでは『Our Day Will Come』にも参加していた名ドラマーのアラン・シュワルツバーグ等々と精鋭が勢揃いしている。故に悪い訳がないのだ。
冒頭のエリック・カルメン作「I Need You」は、後にカルメンがプロデュースしたユークリッド・ビーチ・バンドも取り上げるラズベリーズ時代の未発表のバラード曲で、ここでは壮大なオーケストレーションとゴスペル・フィールのコーラスに、リチャード・ティーのピアノが美しく響く。
熱心な音楽ファンはご存じの通り、カレロのワークスには山下達郎の『CIRCUS TOWN』(76年A面のみ)が知られるが、そのサウンドを彷彿させるのが「Native New Yorker」であり、本作のベスト・トラックと言えるだろう。この曲は作者のサンディ・リンツァー&デニー・ランドルが同年に手掛けたオデッセイがカレロのアレンジで取り上げているので、聴き比べするのも面白いだろう。
ここではガッド&エドワーズと思しきリズム隊の完璧なコンビネーションに、ギタリストは4人程参加しているだろうか、ヴィニー・ベルやトロペイらしきフレーズが聴ける。また達郎の「WINDY LADY」で素晴らしいアルト・ソロを聴かせていたマンハッタン・ジャズ・クインテットのジョージ・ヤングのプレイもフューチャーしている。
今回のリイシューは1枚1200円と良心的価格なのでポップス・ファンとしては全て揃えるのも一興であるが、強いて言えば『Closeup』と『Lady Puts The Right Out』だけは入手して聴いて欲しい。特に前者は60年代のアメリカン・ポップスと70年代のブルーアイド・ソウル~AORのミッシングリンクを垣間見られる重要作である。
(テキスト:ウチタカヒデ)
2013年8月16日金曜日
Frankie Valli:『Frankie Valli Solo』(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-27825)
9月の初来日公演に合わせたかの如く、フォー・シージンズのリード・シンガーとして有名なフランキー・ヴァリのソロ・アルバムが今月続々とデジタル・リマスターでリイシューされた。
驚くことにどのアルバムも国内でのCDリイシューは初というから、権利関係の問題があるにせよ日本での過小評価振りには嘆かわしいばかりだ。ともあれワーナーミュージック・ジャパンの【MASTERS OF POP BEST COLLECTION 1000】シリーズからは、記念すべきファースト・ソロアルバム『Frankie Valli Solo』(67年)がリイシューされたので紹介しよう。
フォー・シージンズについては弊誌VANDA監修の『Soft Rock A to Z』の諸シリーズで紹介されてきたので詳しくはそちらを一読頂きたいが、西海岸のビーチ・ボーイズに東海岸のフォー・シージンズといった具合に60年代のアメリカン・ポップスを二分した最重要グループであることはご存じの通りである。
65年リード・シンガーのフランキー・ヴァリは、同僚のボブ・ゴーディオと5人目のメンバーと言えるソグライター兼プロデューサーのボブ・クリューのアイディアでグループと平行してソロ活動を開始させ、ファースト・シングル「The Sun Ain't Gonna Shine (Anymore)」を同年8月にリリースする。この曲は翌年3月にウォーカー・ブラザーズがカバーしてヒットさせた。
67年5月には5作目のシングル「Can't Take My Eyes Off You」が全米2位の大ヒットとなり、ヴァリのソロ活動を成功へと導いた。クリューとゴーディオによるこの曲はその後多くのシングル・カバー・ヴァージョンを生み、各時代でヒットさせた希有な曲でもある。
68年のアンディ・ウィリアムスをはじめ、82年のボーイズ・タウン・ギャング、98年のローリン・ヒル(The Fugeesからソロに転向直後)が一般的に知られるが、アルバム収録カバーとしては英国シンガーのエンゲルベルト・フンパーディンクからブラジルの国民的歌手だったエリス・レジーナ等々国境を越えて未曾有に取り上げられているので、20世紀のポピュラー・ソング・ベストの上位に入るのではないだろうか。
また筆者が欠かさずチェックしているBS-TBSの音楽番組『SONG TO SOUL』で昨年この曲が取り上げられた際、作者の一人でアレンジも手掛けた(アーティー・シュロックと共同)ボブ・ゴーディオはホーンのヴォイシングや構築方法に、スタン・ケントン楽団で活躍したアレンジャーのピート・ルゴロ(ジューン・クリスティやフォー・フレッシュメン等を手掛けていた)の影響を受けていると語っており、単なるポップスではない奥深いサウンドを目指していたことを物語っていて嬉しくなったものだ。
アルバムの方に話を戻そう、収録曲は上記の代表的な2曲の他、「(You're Gonna) Hurt Yourself」、「You're Ready Now」、「The Proud One」とカップリングの「Ivy」の2~4作目と、「Can't Take My Eyes Off You」のカップリング曲「The Trouble With Me」のシングル曲、ロジャース=ハート作のスタンダード・ナンバーの「My Funny Valentine」、映画『Calamity Jane』(53年)挿入歌でドリス・デイが歌った「Secret Love」等、当時ティーンエイジャー向けポップスを多く取り上げていたフォー・シージンズとは異なる、ヴォーカル・オリエンテッドな方向を目指したと思われる。
これも収録曲10曲中7曲を手掛けたクリューとゴーディオが意図したもので、本作のアレンジを分け合っているチーム・フォー・シージンズと言えるチャーリー・カレロをはじめ、アーティー・シュロックやハーブ・バーンスタイン等の仕事にも現れているのだ。
クリューの独創的なアレンジが光る「My Funny Valentine」は意表を突くマリアッチなホーンの展開が面白い。「Ivy」はフォー・シージンズの「Working My Way Back To You」や「Let's Hang On!」、クリューと共に「Opus 17 (Don't You Worry 'Bout Me)」を手掛けているサンディ・リンツァーとデニー・ランドルの作品で、その「Opus 17」のアレンジャーであるハーブ・バーンスタインのスコアがいたく美しい。
フォー・シージンズのセッションの常連であるバディ・サルツマンの巧みなドラミングがアルバムの随所で聴けるのも本作の魅力である。
驚くことにどのアルバムも国内でのCDリイシューは初というから、権利関係の問題があるにせよ日本での過小評価振りには嘆かわしいばかりだ。ともあれワーナーミュージック・ジャパンの【MASTERS OF POP BEST COLLECTION 1000】シリーズからは、記念すべきファースト・ソロアルバム『Frankie Valli Solo』(67年)がリイシューされたので紹介しよう。
フォー・シージンズについては弊誌VANDA監修の『Soft Rock A to Z』の諸シリーズで紹介されてきたので詳しくはそちらを一読頂きたいが、西海岸のビーチ・ボーイズに東海岸のフォー・シージンズといった具合に60年代のアメリカン・ポップスを二分した最重要グループであることはご存じの通りである。
65年リード・シンガーのフランキー・ヴァリは、同僚のボブ・ゴーディオと5人目のメンバーと言えるソグライター兼プロデューサーのボブ・クリューのアイディアでグループと平行してソロ活動を開始させ、ファースト・シングル「The Sun Ain't Gonna Shine (Anymore)」を同年8月にリリースする。この曲は翌年3月にウォーカー・ブラザーズがカバーしてヒットさせた。
67年5月には5作目のシングル「Can't Take My Eyes Off You」が全米2位の大ヒットとなり、ヴァリのソロ活動を成功へと導いた。クリューとゴーディオによるこの曲はその後多くのシングル・カバー・ヴァージョンを生み、各時代でヒットさせた希有な曲でもある。
68年のアンディ・ウィリアムスをはじめ、82年のボーイズ・タウン・ギャング、98年のローリン・ヒル(The Fugeesからソロに転向直後)が一般的に知られるが、アルバム収録カバーとしては英国シンガーのエンゲルベルト・フンパーディンクからブラジルの国民的歌手だったエリス・レジーナ等々国境を越えて未曾有に取り上げられているので、20世紀のポピュラー・ソング・ベストの上位に入るのではないだろうか。
また筆者が欠かさずチェックしているBS-TBSの音楽番組『SONG TO SOUL』で昨年この曲が取り上げられた際、作者の一人でアレンジも手掛けた(アーティー・シュロックと共同)ボブ・ゴーディオはホーンのヴォイシングや構築方法に、スタン・ケントン楽団で活躍したアレンジャーのピート・ルゴロ(ジューン・クリスティやフォー・フレッシュメン等を手掛けていた)の影響を受けていると語っており、単なるポップスではない奥深いサウンドを目指していたことを物語っていて嬉しくなったものだ。
アルバムの方に話を戻そう、収録曲は上記の代表的な2曲の他、「(You're Gonna) Hurt Yourself」、「You're Ready Now」、「The Proud One」とカップリングの「Ivy」の2~4作目と、「Can't Take My Eyes Off You」のカップリング曲「The Trouble With Me」のシングル曲、ロジャース=ハート作のスタンダード・ナンバーの「My Funny Valentine」、映画『Calamity Jane』(53年)挿入歌でドリス・デイが歌った「Secret Love」等、当時ティーンエイジャー向けポップスを多く取り上げていたフォー・シージンズとは異なる、ヴォーカル・オリエンテッドな方向を目指したと思われる。
これも収録曲10曲中7曲を手掛けたクリューとゴーディオが意図したもので、本作のアレンジを分け合っているチーム・フォー・シージンズと言えるチャーリー・カレロをはじめ、アーティー・シュロックやハーブ・バーンスタイン等の仕事にも現れているのだ。
クリューの独創的なアレンジが光る「My Funny Valentine」は意表を突くマリアッチなホーンの展開が面白い。「Ivy」はフォー・シージンズの「Working My Way Back To You」や「Let's Hang On!」、クリューと共に「Opus 17 (Don't You Worry 'Bout Me)」を手掛けているサンディ・リンツァーとデニー・ランドルの作品で、その「Opus 17」のアレンジャーであるハーブ・バーンスタインのスコアがいたく美しい。
フォー・シージンズのセッションの常連であるバディ・サルツマンの巧みなドラミングがアルバムの随所で聴けるのも本作の魅力である。
2013年8月11日日曜日
KGM:『リトルファーブル』(Music Life Lab/Happiness Records/HRBD-018)
仙台在住のシンガーソングライターKGMがサード・アルバム『リトルファーブル』を8月7日にリリースした。
セカンド・アルバム『CARAMELISE』(09年)のリリースから約4年を経て完成させたこのアルバムには、息子の誕生や東日本大震災等様々なエピソードをモチーフにした楽曲が収録されており、聴く人の心をつかんで離さないサムシングがあるので紹介したい。
KGMは08年にファースト・アルバム『Life Music』でデビューし、翌09年には自らレーベルLife Music Lab.を設立し、現在もロングセラーを続けているセカンド・アルバム『CARAMELISE(カラメリゼ)』をリリースしている。
仙台在住ながら全国のカフェやバー、野外フェス等様々なイベントに出演するなどアクティヴにライヴ活動をしているのも彼の魅力なのだ。
ではこの収録曲を紹介していこう。
冒頭の「ドーナツ」はリズム・セクションと弦楽六重奏をバックに素朴に歌い込まれた、生まれてきた息子に捧げるナンバーである。弦が入ることによって70年代前半のキャロル・キングやジェームス・テイラーの匂いもする。続く「リトルファーブル」はサウンド的にはウォルター・ベッカーがプロデュースした『Flying Cowboys』(89年)の頃のリッキー・リー・ジョーンズを彷彿させ、Pedal Steelがアクセントになったリラックスした雰囲気がいい。コーラスにはKGMとの共同プロデュースでデビューした女性シンガー・ソングライターの千尋が参加している様だ。
吉田拓郎の「結婚しようよ」にインスパイアされたという「TEN」は、軽快なカントリー・ウエスタン調のアレンジが楽しいが、元々レゲエ・シーンで活動していた彼がここまで自らのスタイルを転換させたのは凄い。
前作にも収められていた「遥かなる(Back in the Days)」のリアレンジ・ヴァージョンは歌唱、演奏共に完成度が高く、長く聴き続かれるクラシックになりうる楽曲である。筆者的にもこのアルバムのベスト・トラックとして挙げたい。
「あれから」と「HOPE STREET」は、共に東日本大震災後の人生観について吐露している曲であり、ホームタウンが震災に遭ってしまったという重いテーマではあるが、直向きに生きていこうとする人生賛歌でもある。後者ではシーナアキコのハモンド・オルガンと松崎和訓のアルトサックス・ソロのプレイが出色である。
アルバムを通して感じたのは、やはり彼のヴォーカルの存在感が際立っていることだ。小坂忠を彷彿させるそのブルージーな声質は、ブルーアイドソウル系のサウンドにマッチするはずなので、是非『ほうろう』(75年)の様な傑作を作り上げて欲しい。
(ウチタカヒデ)
2013年8月4日日曜日
中塚武 with イガバンBB:『Big Band Back Beat』(Delicatessen Recordings/P.S.C./UVCA-3018)
ソロ活動を開始して10年目となる今年は彼にとってアニバーサル・イヤーであり、本アルバムに掛ける意気込みは計り知れないものがある。
全編その審美眼によって選び抜かれたカヴァー曲の数々は、ポップス・ファンやVANDA読者を大いに唸らせるものなので紹介したい。
中塚武は98年にQYPTHONEのリーダーとして、ドイツのコンピレーション・アルバムに楽曲提供をして音楽活動をデビューさせた。ジャンルを超えたそのサウンドは国内外で評価を得て海外ツアーも成功させた。
04年にソロ・アルバム『JOY』をリリースしシンガー・ソングライターとして活動を開始、平行してCM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラックの制作等のクリエイターとしても活躍しており、メディアを通して彼の曲を耳にしない日はないかも知れない。これまでに5枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしている。
そして本作『Big Band Back Beat』である、多岐に渡るカヴァー曲を中塚サウンドというべきサウンドで構築しているのだが、コ・プロデューサーとしてリズム・プログラミングからギター・プレイまで担当しているQYPTHONEの盟友である石垣健太郎と、ホーン・アレンジで中塚とコラボレートしているイガバンBBのリーダー兼トロンボーン奏者、五十嵐誠の二人の貢献度は極めて大きい。そのイガバンBBは総勢13人のホーン奏者からなるビッグ・バンドで、各メンバーのプレイヤーとしての技量も高く、本作でも全ての曲でその巧みなソロが聴けるのだ。
では主な収録曲を紹介していこう。64年マンチェスターで結成されたモッズ・ジャズ・バンド、ザ・ペドラーズの「Just A Pretty Song」(『Three in a Cell』(68年)収録)。オルガン・ボッサを基調としたグルーヴィーな原曲のリズム感覚をラテン・ビッグ・バンド・アレンジにアダブトさせて、重厚なサウンドに発展させている。歌物としてもナンシー・エイムスの『Latin Pulse』(66年)に通じる素晴らしさだ。
渋谷系の文脈からデビューしたというイメージがある彼なのだが、実は熱烈な桑田佳祐及びサザンオールスターズの熱烈なファンということで、ここではKUWATA BANDの 「スキップ・ビート」(86年)を取り上げている。スティーヴィーの「Superstition」(72年)風の原曲のリフを活かしつつ、ホーンの生演奏がスインギーに展開していく。五十嵐誠のトロンボーン・ソロも必聴である。
アルバム中最も原曲のイメージをいい意味で裏切っていて換骨奪胎なアレンジを施しているのが、ビートルズ「Across The Universe」(『Let It Be』(70年)収録)だろう。共に石垣によるアコースティック・ギターのボッサの刻みとジャミング・ファンク系の変拍子のドラム・プログラミングに、5管のホーンが絡むといったもの。このサウンドの雰囲気に合わせた中塚のヴォーカルの存在感も聴き逃せない。
またトッド・ラングレンの隠れた名曲「Be Nice To Me」(『Runt. The Ballad of Todd Rundgren』(71年)収録)を取り上げているのも、彼ならではの審美眼による選曲ではないだろうか。ここではまるでクインシー・ジョーンズが手掛けたルイ・ジョーダンのバラード曲かと思わせる程素晴らしいムードがある。筆者的には本アルバムのベスト・トラックに挙げたい。
そしてソフトロック・ファンやVANDA読者が喜びそうなのが、NOVOの「白い森」(73年)のカヴァーだろう。同曲が持つブラジリアン・バイヨンのグルーヴから、ここでのアレンジは一転してスイング・ジャズをベースにした多幸感溢れるビッグ・バンド・サウンドで、アルバムを締めくくるに相応しいトラックとなっている。
他にもワイルド・チェリー「Play That Funky Music」(『Wild Cherry』(76年)収録)やギル・スコット・ヘロン「It's Your World」(『It's Your World』(76年)収録)、アンリ・サルヴァドール「Carnaby Street」(67年)等音楽通を唸らせる選曲で聴き所は多い。
(ウチタカヒデ)
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