ソフトサイケ系ガール・グループのHoney Ltd.(以降ハニー・リミテッド)が68年にリリースした唯一のアルバム『Honey Ltd.』(LHI-12002)がこの度世界初のCDリイシューされた。
オリジナル・マスター・テープからのリマスターと5曲のボーナス・トラックを加えており、音質とアーカイブ共に信用がおけるので紹介したい。
このアルバム『Honey Ltd.』は、ナンシー・シナトラを手掛けヒットさせたリー・ヘイゼルウッドによるプロデュース作品であったが、その先進的なサウンドゆえにヒットには至らず、後年幻のアルバムとしてオリジナ・アナログ盤が高値(一説では$2000以上とも言われている)で取引されていた。
そもそもハニー・リミテッドはローラ・クリーマーを中心に、マーシャ・ティマー、ジョアンとアレックスのスリウィン姉妹の4人からなるデトロイト出身のグループである。地元のウェイン州立大学の構内カフェで歌を披露していた延長で67年にMama Catsなるグループを結成し、同じミシガン州出身のロック系シンガー・ソングライターのボブ・シーガーとステージで共演したという。その後68年にロスのサンセット大通りにあったリー・ヘイゼルウッド・インダストーリー(通称LHI)でオーディションを受け、ヘイゼルウッドのアイディアでハニー・リミテッドと改名してデビューし、68年に2枚のシングルと本アルバム、69年に2枚のシングルをリリースする。
69年の3月末にはアレックスは恋仲だったJ.D.サウザーとの結婚(その後72年に離婚)により脱退し、残ったメンバーはEve(イヴ)とグループ名を変えアーシーなカントリーロック系グループとして活動を続けた。
ではアルバムの内容に話を戻そう、ヘイゼルウッドが手掛けたナンシーの諸作と同様にレコーディングにはレッキング・クルーの面々が参加し巧みな演奏を随所で聴かせる。シングル・リリースもされた「Louie, Louie」(LHI-1216 68年)のみアレンジとキーボードを担当したジャック・ニッチェの招きでライ・クーダーが参加しているが、彼らしい骨太のスライド・ギターを披露している。
因みに同時期ストーンズにライを紹介したのもニッチェと言われている。
その「Louie, Louie」のカバー以外の7曲はメンバーであるローラのオリジナルで、内3曲がマーシャとの共作であるのもこのアルバムの魅力の一つだろう。
『Pet Sounds』(66年)で要のティンパニをプレイしていた、ゲイリー・コールマンによるヴィブラフォンのアクセントに導かれて始まる冒頭の「The Warrior」から漂うサイケデリックなムードは堪らない。
続く「No, You Are」の複雑な展開ではジム・ゴードンが本領を発揮したドラミングが聴ける。ファースト・シングル「Tomorrow Your Heart」(LHI-1208 68年)のカップリングの「Come Down」ではキャロル・ケイのベース・プレイに舌を巻く。
そして多くのソフトロック・ファンが異口同音にベスト・トラックと語る「Silk N' Honey」が、このアルバムのハイライトであることに筆者も異論はない。ジャズ・ピープルが多用するクローズド・ヴォイシング系のハーモニー(後のMPSレーベルのThe Third Waveにも通じる)やレズリー・スピーカーを通してモジュレーションを効かせたコーラスなど彼女達の魅力を余すことなく聴ける。
またこの曲、長年ベースはキャロル・ケイのプレイと思っていたが、今回掲載されたクレジットを見ると、多くのジャズ・セッションから『Pet Sounds』にも参加していたチャック・バーグホファーだった。いずれにしても絶妙なタイミングで繰り出すフレーズはこの曲の要になっている。
ボーナス・トラックについても触れよう。アルバム未収録のサード・シングルで、69年にスリー・ドッグ・ナイトがヒットさせるローラ・ニーロの「Eli's Coming」(『Eli and the Thirteenth Confession』収録 68年)のカバー(LHI-3 69年)はマイク・ポストのプロデュース&アレンジだ。ポストは米テレビ放送音楽界の担い手で同時期にはメイソン・ウィリアムズの『THE MASON WILLIAMS PHONOGRAPH RECORDS』(68年)等も手掛けている。
続くフォース・シングルの「Silver Threads And Golden Needles」(LHI-12 69年)もポストが手掛け、ここではジミー・ウェッブ・スタイルのアレンジが聴ける。
ボーナス・トラックの内3曲は未発表曲で、「I'm So Glad」は69年のポストとの同一セッションでのアウトテイク曲だろう。コーダのパートでのストリングスが美しい。「Love, the Devil」と「Not for Me」は共に68年のセッションでのバッキング・トラックのみのアウトテイクだが、後者はニッチェが主導した「Louie, Louie」と同日のレコーディングで、ここでもライのスライド・ギターが光っている。
繰り返しになるが今回のCDリイシューは、オリジナル・マスター・テープからのリマスターというポイントは元より、彼女達ハニー・リミテッドがLHIに残した音源をコンプリートしているという点でも買いである。32ページに渡るブックレットには当時を回想したメンバーのインタビューと貴重なショット(近影までも!)を掲載していて読み応えがある。
尚アナログ盤も同時リリースされているので、興味のある人はそちらもチェックしよう。
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